Shironetsu Blog

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リーチ格子にふれる

  • ウェイト12の保型形式
    • 保型形式
    • アイゼンシュタイン級数
    • 12次のアイゼンシュタイン級数
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    • qの2乗の項を消す?
  • リーチ格子
    • 拡張ゴレイ符号
    • リーチ格子をつくる
  • まとめと展望
  • リファレンス

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 前回の記事では, E_8-格子について調べる中で, 保型形式と格子との間の深いつながりを垣間見た. E_8-格子のノルムに対する数え上げ公式が, 格子の偶ユニモジュラー性というありがたい性質を持つことから導かれるのだった.

 今回の主役はリーチ格子 Leech latticeである.

 前回とは少し順序を変えて, ウェイト12の保型形式のもつ性質に注目することから始めよう.

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E8-格子にふれる

  • イントロ:E8-格子と約数関数
  • 格子
    • 定義
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    • 整格子・ユニモジュラー格子・偶格子・奇格子
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    • 定義
    • テータ関数の変換性
  • E8-格子
  • E8-格子のテータ関数
    • 偶ユニモジュラー性と保型性
    • テータ定数の3つ組
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イントロ:E8-格子と約数関数

 以前の記事でE_8 のルート系が2項正20面体群から得られることについて書いた.

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 その際, \(E_8\)-格子に含まれる, 「長さの2乗」=「ノルム」*1が \(2m\ (m\in\mathbb{N})\) の点の総数 \(N_{2m}\) が以下の式で与えられるという事実 [Conway]を引用した.

\begin{align}
     N_{2m} = 240\,\sigma_3(m),\ \ \ \sigma_k(m):=\sum_{d|m}d^k.
 \end{align}

 不思議だ. なぜここに数論的な関数が…? なぜ3乗…?などなど.

*1:以下「ノルム」はこの意味でしか用いない. つまり, 平方根をとることを考えない.

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正20面体からE8が生まれる

  • 2項正20面体群からE8へ
  • 240本のベクトルがE8のルート系に一致すること
  • もっとスマートに
  • まとめ
  • リファレンス

2項正20面体群からE8へ

 3次元ユークリッド空間の原点周りの回転は四元数で表せる. このことは本ブログで以前から, 特に正20面体に関係する問題を考えるためにたびたび利用してきた.

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 正20面体の(向きを変えない)対称変換は60個あり, 5次交代群と同型な正20面体群をなす. この60個に対応する四元数120個もまた積について閉じており, これを2項正20面体群 (binary icosahedral group)という. 2項正20面体を記号 \widetilde{{\mathcal I}} で表す.

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モーメント3

既知理論の分析から「設計者の思想とユーモアのセンスを理解した」と主張する宇宙のシミュレーション仮説の過激な信奉者の一派が、仮説の強力な証拠になりうる「イースター・エッグ」を起動するため、自然には起こりえない複雑な手順で粒子を衝突させる巨大な装置を作り上げたが…。

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〈世界の淵〉を遡上して力尽き浜辺に打ち上げられたリヴァイアサン(外海を原産地とする大型海獣の総称)は「寄生虫の宝箱」と呼ばれ、漂着イベントごとに膨大な数に及ぶ新種の命名に関しては宿主・寄生部位等を符号化した体系的な命名法が提唱されている。

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皇帝の命を受け発見された全ての恒星に固有の文字を制定する造文局は、単一の変光星ではなく連星系であることが判明した結果、廃字となる一つの文字と同時に新たに追加される二つを公表した。

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開戦の兆しが見えた頃、海中油田の所有者達は鯨油採取のために品種改良された鯨の増産体制に移るとともに、かれらをただ燃料源として利用するだけではなく兵器――生体魚雷――に転用する方法を化学者に求めたが、研究の成果はあらゆる生体に"着火"するための汎用的な技術――人間爆弾の原型――であった。

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人類を未知の世界に導く天体たち――グレッグ・イーガン"Perihelion Summer"&"The Slipway"

 今年2019年の前半、グレッグ・イーガンによる2つの中短編SFが続けて発表された。

 ひとつは、"Perihelion Summer"。Tor.comから4月16日に発売。

Perihelion Summer (English Edition)

Perihelion Summer (English Edition)

Perihelion Summer by Greg Egan | Tor.com Publishing

 もうひとつは、"The Slipway"。Analog誌7/8月号に掲載。

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/5118ALM9BuL._SX341_BO1,204,203,200_.jpg
Story Excerpt | Analog Science Fiction

 どちらも現代(特にオーストラリアを中心として)が舞台・人類が初めて遭遇する天体現象*1が描かれるという共通点を持ちながら、物語の趣はかなり異なっている。それぞれ内容を紹介する。

*1:Slipwayのほうは「天体」とは呼べないかもしれないが。

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「琴線に触れる」の語源を『列子』に求める説は正しい?

 「琴線に触れる」の元来の意味は「感動や共鳴を与えること」。ところが、「逆鱗に触れる」との混同が進んだ結果、「怒りを買うこと」という真逆に近い意味で使う人々が増えている…ということはしばしば話題になるし、SNSなどで実例を見つけるのも容易い。文化庁による調査も公表されている。

www.bunka.go.jp

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『三体』の三体問題について

 これは劉慈欣『三体』(早川書房)のネタバレがある記事。

 「三体問題は(解析的に)解けない」という事実は古典力学を学ぶとなんとなく知ることになり、その意味するところもなんとなく分かる。ほんの僅かしかない力学の「解ける」例に触れた後、それより少し複雑な対象を扱うと「解けない」問題のほうが普通だと信じられるようになる。その一番簡単で象徴的な例が三体問題。

 ところが、数学的に正確に「三体問題は解けない」の意味を説明しようとすると言葉に詰まる。「独立な第一積分が不足した非可積分系である」らしい。「不可能性」の数学的な定式化はだいたい難しい。

 しかし、「三体問題は解けない」が怪しい使われ方をしている場面に直面して、「そういう意味ではない」と言うくらいならもう少し簡単な仕事になる。『三体』の三体問題の記述にはところどころにそう指摘せずにはおれない怪しさがある。

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