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球面調和関数で正20面体をつくる(5) - クラインの不変式論

再びSU(2)

 {SU(2)}の扱いやすさの理由のひとつは, 2変数斉次多項式の張る線形空間が次数ごとに既約表現空間になっていて, 逆に既約表現はそれで尽くされるからだった.

 より正しく言うと, {\mathbb{C}}上の2変数多項式環{\mathbb{C}\lbrack z_1,z_2\rbrack}の元{f(z_1,z_2)}に対して,

{\begin{align}
D=\begin{pmatrix}a&-b^*\\ b&a^*\end{pmatrix}\in SU(2)
\end{align}}

の作用を

{\begin{align}
\rho(D)f(z_1,z_2)&=f((z_1,z_2)D)\\
&=f(az_1+bz_2,\ -b^*z_1+a^*z_2)
\end{align}}

 で定めると, {\rho}は表現になるが, {z_1,z_2}について{2j}次({j=0,\ 1/2,\ 1,\ 3/2,\cdots})の斉次多項式の全体が最高ウェイト{j}の既約表現空間になり, {SU(2)}の既約表現はそのいずれかに同値になるということ.

 正規直交基底を

{\begin{align}
e^{\,j}_m(z_1,z_2)=\frac{z_1^{j+m}z_2^{j-m}}{\sqrt{(j+m)!(j-m)!}}
\end{align}}

 と取ることでエルミート内積を定めると, 表現行列;ウィグナーのD行列はユニタリ行列になる.

 これにより正20面体群不変な球面上の関数を構成する問題が, 2変数多項式環上の2項正20面体群の不変式環を定める問題に還元される.


不変式

 少なくともシュワルツ Karl Hermann Amandus Schwarzは2項正20面体群の不変式を既に求めていたらしい[1]. まず正20面体の頂点, 面の重心, 辺の中点を単位球面上に投影する. 1次分数変換として実現される2項正20面体群の作用によって各々の全体は不変である. 次に立体射影によってリーマン球面, 複素射影直線{\mathbb{C}P^1}上の点にそれらを対応付ける. {\mathbb{C}P^1}上の斉次座標で表される多項式で, その複素平面上の点たちを零点にもつものは2項正20面体群の作用によって不変になる.

 クライン Felix Kleinが気付いたのは, 頂点に対応する不変式さえ直接求めれば残り2つは簡単に決められることだった[1].

 シュワルツ・クラインと同じようにリーマン球面の斉次座標の多項式として議論してもよいが, 我々はスピノルを知っているのでその形式で考えることにする. 本質的には全く同じ.

SU(2)スピノ

 まず{SU(2)}の単位スピノルは,

{\begin{align}
{\boldsymbol \psi}=\begin{pmatrix}\psi_1\\\psi_2\end{pmatrix}\\  |\psi_1|^2+|\psi_2|^2=1
\end{align}}

である. パウリ行列

{\begin{align}
\sigma_1=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix},\ \ \ 
\sigma_2=\begin{pmatrix}0&-i\\i&0\end{pmatrix},\ \ \ 
\sigma_3=\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}
\end{align}}

を用いて3つの実数

{
\begin{gather}
x_k(\boldsymbol{\psi})={\boldsymbol \psi}^\dagger \sigma_k {\boldsymbol \psi}\ \ \ (k=1,2,3)\\
x_1=\psi_1^*\psi_2+\psi_2^*\psi_1,\ \ \ 
x_2=-i\psi_1^*\psi_2+i\psi_2^*\psi_1,\ \ \ 
x_3=|\psi_1|^2-|\psi_2|^2
\end{gather}
}

を定めると,

{\begin{align}
x_k(D^{-1}\boldsymbol{\psi})&={\boldsymbol \psi}^\dagger D \sigma_k D^{-1}{\boldsymbol \psi}\\
&=\sum_{k'=1,2,3} O(D)_{kk'}\, x_{k'}(\boldsymbol{\psi})\\
O(D)&\in SO(3)
\end{align}}

によって{SU(2)\rightarrow SO(3)}準同型写像ができる. 再三利用している事実だがその対応関係は2:1.

 今具体形が欲しいのはスピノルのほう. {\boldsymbol{\psi}}は3つのパラメーターによって表せる:

{\begin{align}
\psi_1&=\cos\frac{\beta}{2}\exp\left(-i\frac{\alpha+\gamma}{2}\right)\\
\psi_2&=\sin\frac{\beta}{2}\exp\left(i\frac{\alpha-\gamma}{2}\right)
\end{align}}

 一方, 単位球面上の点{(x_1,x_2,x_3)\in \mathbb{S}^2}

{\begin{align}
x_1&=\cos\alpha\sin\beta\\
x_2&=\sin\alpha\sin\beta\\
x_3&=\cos\beta
\end{align}}

{\gamma}によらない. 単位スピノ{\boldsymbol{\psi}}の全体に対する{U(1)}の作用の剰余類が{\boldsymbol{x}}と一対一に対応, つまり「位相の差を除いて一対一」である.

 代表元として{\gamma=-\alpha}とおいたものを取る. 依然符号の不定性が残るが, {x_k(\boldsymbol{\psi})}の逆像の代表元を次のようにとることにする.

{\begin{align}
\psi_1(\boldsymbol{x})&=\sqrt{\frac{1+x_3}{2}}\\
\psi_2(\boldsymbol{x})&=\frac{x_1+ix_2}{\sqrt{2(1+x_3)}}
\end{align}}

ただし{x_3=-1}のときは{\psi_1=0,\psi_1=1}と定める.

正20面体の12個の頂点

 正20面体の12個の頂点は次のようにとることができる.

{\begin{align}
p_{k\pm}&=\pm\frac{1}{\sqrt{5}}\left(-2\cos\frac{2k\pi}{5},\ -2\sin\frac{2k\pi}{5},\ 1\right)\ \ \ (k=0,1,2,3,4)\\
p_{5\pm}&=(0,0,\pm 1)
\end{align}}

 これらを集合{P}とする. 注意:最初の記事の取り方とは異なり, 2つの頂点がz軸上に来るようになっている.

 対応する単位スピノルは,

{
\begin{gather}
\psi_1(p_{k+})=\sqrt{\frac{\phi}{\sqrt{5}}}\ ,\ \ 
\psi_2(p_{k+})=-\sqrt{\frac{\phi^{-1}}{\sqrt{5}}}\ \zeta^k\\
\psi_1(p_{k-})=\sqrt{\frac{\phi^{-1}}{\sqrt{5}}}\ ,\ \ 
\psi_2(p_{k-})=\sqrt{\frac{\phi}{\sqrt{5}}}\ \zeta^k\\
\psi_1(p_{5+})=1,\ \ \ \psi_1(p_{5+})=0\\
\psi_1(p_{5-})=0,\ \ \ \psi_1(p_{5-})=1\\
\end{gather}
}

 ただし,{\zeta=\exp\left(\frac{2k\pi i}{5}\right),\ \phi=(1+\sqrt{5})/2}

 ここに,{\boldsymbol{z}=(z_1,z_2)}を横ベクトルとして多項式

{\begin{align}
V({\boldsymbol z})=\sqrt{5^5}\prod_{p\in P}{\boldsymbol z}{\boldsymbol \psi}(p)
\end{align}}

 を定める. 2項正20面体群{\widetilde{\mathcal{I}}}を, {O(\widetilde{\mathcal{I}})}{P}上の同型写像になるようにとる. ここでは明示的に与えないが, 記事(4)での具体形とはユニタリ同値になる. このとき, {D\in \widetilde{\mathcal{I}} \subset SU(2)}の作用によって,

{\begin{align}
\rho(D)V({\boldsymbol z})
&=V({\boldsymbol z}D)\\
&=\sqrt{5^5}\prod_{p\in P}{\boldsymbol z}D{\boldsymbol \psi}(p)\\
&=\sqrt{5^5}\prod_{p\in P}{\boldsymbol z}{\boldsymbol \psi}(O(D)^{-1}p)\\
&=c\,V({\boldsymbol z})\ \ \ |c|=1
\end{align}}

と, 絶対値1の複素数倍を除いて不変. 2項正20面体群の1次元表現が恒等表現しか存在しないことから, この因子は実際には1でなくてはならない. 結局,

{\begin{align}
V({\boldsymbol z})&=z_1z_2\prod_{k=0}^4
(z_1-\phi^{-1}\zeta^k z_2)(z_1+\phi\zeta^k z_2)\\
&=z_1z_2 (z_1^5-\phi^{-5}z_2^5)(z_1^5+\phi^5z_2^5)\\
&=z_1z_2\left(z_1^{10}+11z_1^5z_2^5-z_2^{10}\right)
\end{align}}

が2項正20面体群の作用による不変式になる. {SU(2)}の表現としては最高ウェイト6の表現空間に属する.

ヘッシアンとヤコビアン

 他の不変式を求める. 2変数関数{f(z_1,z_2)}に対するヘッシアン(Hessian)は

{\begin{align}
H\lbrack f\rbrack=\begin{vmatrix}
\displaystyle{\frac{\partial^2 f}{\partial z_1^2}} & \displaystyle{\frac{\partial^2 f}{\partial z_1\partial z_2}} \\ 
\displaystyle{\frac{\partial^2 f}{\partial z_1\partial z_2}}  & \displaystyle{\frac{\partial^2 f}{\partial z_2^2}} 
\end{vmatrix}
\end{align}}

2つの2変数関数{f,g}に対するヤコビアン(Jacobian)は

{\begin{align}
J\lbrack f,g\rbrack=\begin{vmatrix}
\displaystyle{\frac{\partial f}{\partial z_1}} 
& \displaystyle{\frac{\partial f}{\partial z_2}} \\
\displaystyle{\frac{\partial g}{\partial z_1}} 
& \displaystyle{\frac{\partial g}{\partial z_2}}
\end{vmatrix}
\end{align}}

である. 2×2行列の2変数関数への作用を

{
\begin{gather}
T_Af({\boldsymbol z})=f({\boldsymbol z}A)\\
A\in M(2,\mathbb{C})
\end{gather}
}

で定めると,

{\begin{align}
H\lbrack T_Af\rbrack&=|A|^2T_AH\lbrack f\rbrack\\
J\lbrack T_Af,T_Ag\rbrack &=|A|T_AJ\lbrack f,g\rbrack
\end{align}}

が成り立つ. すなわち, {f,g}{A}で不変かつ{|A|=1}ならヤコビアンとヘッシアンも不変.

 まず,{V}のヘッシアンから

{\begin{align}
F({\boldsymbol z})&=\frac{-1}{121}H\lbrack V({\boldsymbol z})\rbrack\\
&=z_1^{20}-228z_1^{15}z_2^{5}+494z_1^{10}z_2^{10}+228z_1^{5}z_2^{15}+z_2^{20}
\end{align}}

{\widetilde{\mathcal{I}}}不変式として得る. {V}を構成した時と同様の手続きで, 面に対応するスピノルを取っても同じ式になる. {SU(2)}の最高ウェイト10の表現に属す.

次に,{V,F}ヤコビアンから

{\begin{align}
E({\boldsymbol z})&=\frac{-1}{20}J\lbrack V({\boldsymbol z}),F({\boldsymbol z})\rbrack\\ &=
z_1^{30}+522z_1^{25}z_2^5-10005z_1^{20}z_2^{10}-10005z_1^{10}z_2^{20}-522z_1^5z_2^{25}+z_2^{30}
\end{align}}

を得る. これは辺の中点をとった式に等しい. {SU(2)}の最高ウェイト15の表現に属す.

 なお, {V,F,E}{z_1}の最高次の係数が{1}になるように調整した.

クライン特異点

 実はこれらの間には

{\begin{align}
1728V^5+F^3-E^2=0
\end{align}}

なる関係がある(1728が出てきた......). 計算すると確かめられるが, ちょっと手計算では厳しい. 根の重複度に関する考察からこのような線形関係が成り立たなくてはならないことが示される[1][2].

 ここにまた{E_8}との関係が生じる. V,F,Eの3複素変数がこのような代数関係を満たすとき, {\mathbb{C}^3}空間内の原点に唯一つ持つ特異点はクライン特異点となっており, 特異点の最小解消を与えるグラフが{E_8}型のディンキン図に同型になる[3].

 他の正多面体群・巡回群についても同様に不変式環と特異点解消の間に関係があり, ADE分類が現れている.

 {\widetilde{\mathcal{I}}}不変式環はこの3つ{V,F,E}によって生成される. 既に行った指標に関する考察から示唆されていたことだった.


正20面体群の恒等表現基底

 {V,F,E}{SU(2)}表現空間の元と見て正規化する. 上で定義した正規直交基底{e^j_m}を用いて

{\begin{align}
\widetilde{V}&=\frac{V}{2^4\cdot 3^2\cdot 5^2\cdot\sqrt{11}}\\
&=\frac{\sqrt{7}}{5}(e^{6}_5-e^{6}_{-5})+\frac{\sqrt{11}}{5}e^6_0\\
\widetilde{F}&=\frac{F}{2^9\cdot3^4\cdot5^4\cdot7\cdot\sqrt{3\cdot13\cdot19}}\\
&=\frac{1}{5^2\cdot\sqrt{3}}\left(
\sqrt{11\cdot17}(e^{10}_{10}+e^{10}_{-10})-\sqrt{3\cdot11\cdot19}(e^{10}_{5}-e^{10}_{-5})+\sqrt{13\cdot19}e^{10}_0
\right)\\
\widetilde{E}&=\frac{E}{2^{14}\cdot3^7\cdot5^6\cdot7\cdot\sqrt{7\cdot11\cdot13\cdot17\cdot19\cdot23\cdot29}}\\
&=\frac{1}{2\cdot5^2\cdot\sqrt{5}}
\left(\sqrt{7\cdot11\cdot13}(e^{15}_{15}+e^{15}_{-15})+\sqrt{2\cdot3\cdot11\cdot29}(e^{15}_{10}-e^{15}_{-10})-\sqrt{5\cdot23\cdot29}(e^{15}_5+e^{15}_{-5})
\right)
\end{align}}

がその3つである.

 こうして不変式に関する考察から以前の結果が再現された. {e^j_m}を球面調和関数{Y^j_m}で置き換えると球面上の正20面体群対称な関数が得られる.

30次の場合

 ようやく30次の正20面体群対称な関数を計算する準備ができた. この次数では初めて独立な2つの独立な基底が現れる.

 明示的には書かないが, {V^5}を正規化したベクトル{\widetilde{A}}{E^2}を正規化したベクトル{\widetilde{B}}内積

{\begin{align}
\big\langle\widetilde{A}, \widetilde{B}\big\rangle=\frac{11828893\sqrt{11\cdot 23 \cdot29}}{\sqrt{71\cdot 233\cdot 467\cdot 4793\cdot 280485761}}
\end{align}}

有理数平方根になる「現象」が起こる. 他の2つの内積はこうはならない.

 これによって{\widetilde{A}}に直交する

{\begin{align}
C=\widetilde{B}-\big\langle\widetilde{A}, \widetilde{B}\big\rangle \widetilde{A}
\end{align}}

を得て, それを正規化した{\widetilde{C}}とあわせた2つが30次の正規直交基底になる.

{
\begin{gather}
X=\frac{1}{\sqrt{N_X}}\sum_{k=0}^{6} \pm \sqrt{M^{5k}_X}\
 \left(e^{30}_{5k}+(-1)^ke^{30}_{-5k}\right) \\
N_X, M^{5k}_X\in \mathbb{N},\ \ \ X=\widetilde{A},\widetilde{C}
\end{gather}
}

と表せることを用いて{N_X,M_X^{5k}}を表にする. ただし根号の前に付ける符号を{M}の項に書いている.

{\begin{align}
N_{\tilde{A}}&=5^{10}\cdot71\cdot233\cdot4793\\
N_{\tilde{C}}&=2^2\cdot3\cdot5^{14}\cdot71\cdot233\cdot4793
\end{align}}


{
\renewcommand{\arraystretch}{1.5}
\begin{align}
\begin{array}{|c|c|c|}\hline
k & M^{5k}_{\tilde{A}} & M^{5k}_{\tilde{C}} \\ \hline
0&3^2 \cdot 11 \cdot 13 \cdot 23 \cdot 29 \cdot 12251^2 
& 2^6 \cdot 17 \cdot 19 \cdot 31 \cdot 37 \cdot 41 \cdot 43 \cdot 47 \cdot 53 \cdot 59\\ \hline
1&2^2 \cdot 3 \cdot 5^2 \cdot 17 \cdot 23 \cdot 31 \cdot 4639^2 
& - 2^2 \cdot 3^3 \cdot 11 \cdot 13 \cdot 19 \cdot 29 \cdot 37 \cdot 41 \cdot 43 \cdot 47 \cdot 53 \cdot 59\\ \hline
2&2^6 \cdot 5 \cdot 7 \cdot 11 \cdot 13 \cdot 17^3 \cdot 19 \cdot 31 \cdot 37 
& 3^4 \cdot 5 \cdot 7 \cdot 23 \cdot 29 \cdot 41^3 \cdot 43 \cdot 47 \cdot 53 \cdot 59\\ \hline
3&3 \cdot 5 \cdot 13 \cdot 31 \cdot 37 \cdot 41 \cdot 43 \cdot 241^2 
& - 2^8 \cdot 3 \cdot 5 \cdot 11 \cdot 17 \cdot 19 \cdot 23 \cdot 29 \cdot 31^2 \cdot 47 \cdot 53 \cdot 59\\ \hline
4&2^3 \cdot 5^2 \cdot 7 \cdot 11 \cdot 23 \cdot 31 \cdot 37 \cdot 41 \cdot 43 \cdot 47 
&2 \cdot 3^2 \cdot 7 \cdot 13 \cdot 17 \cdot 19 \cdot 29 \cdot 53 \cdot 59 \cdot 2161^2\\ \hline
5&2 \cdot 3 \cdot 13 \cdot 17 \cdot 23 \cdot 31 \cdot 37 \cdot 41 \cdot 43 \cdot 47 \cdot 53 
&-2^3 \cdot 3 \cdot 11 \cdot 19 \cdot 29 \cdot 59 \cdot 101^2 \cdot 151^2\\ \hline
6&0
& 7 \cdot 11 \cdot 71^2 \cdot 233^2 \cdot 4793^2 \\ \hline
\end{array}
\end{align}}

f:id:shironetsu:20180331233204p:plain:w450
左が{\widetilde{A}}, 右が{\widetilde{C}}.

これらを重ね合わせて単振動・回転させるとこのようになる.
f:id:shironetsu:20180401104133g:plain:w400

 ついでに59次({\mathcal{I}}不変な基底がただ1つしか存在しない最高次の表現)ではこうなる.
f:id:shironetsu:20180402123857p:plain:w400
 係数はここには載せないが, 分子の約数が2と5のみの既約分数の平方根からなる.

課題

  • 既に述べたことだが, 正規化したときの係数の因数の少なさが非自明. とくに30次まで分母が因数を2,3,5しか含まないのは何故か?
  • 30次以上の全ての場合でこのように有理数平方根のみを係数に持つ正規直交基底を取ることは可能か?

 正20面体群にまつわる数学的対象たちの深遠さにくらべるといかにも些末な問題にも見えるが, こういうところにも何か隠れているかもしれない.


リファレンス

[1]F.クライン,『クライン:19世紀の数学』(彌永昌吉 監修), 共立出版, 1995年
[2]F.クライン,『正20面体と5次方程式』(関口次郎, 前田博信訳), 丸善出版, 2012年
 (もっと早くこの本を読むべきだった.)
[3]松澤淳一,『特異点とルート系』, 朝倉書店, 2002年

球面調和関数で正20面体をつくる(4) - 2項正20面体群とマッカイ対応

2項正20面体群

 関連書をいくつか読む中で, この前まで「2重正20面体群」と呼んでいたものには「2項正20面体群」binary icosahedral groupという広く通用する名称があることが分かった. 記号についてはそれほど固く定まっているわけではないものの, 正20面体群をカリグラフィーの{\mathcal{I}}, 2項正20面体群はチルダをつけて{\widetilde{\mathcal{I}}}とする表記を見て[1], 都合が良いのでこの記事からそうすることにする(単なるIはフォントの都合で潰れがちという難がある).

{\widetilde{\mathcal{I}}/\{1,-1\}\cong \mathcal{I}}

 ついでにいわゆる黄金数{(1+\sqrt{5})/2}もこれまでは{\tau}で表していたが, ここからは{\phi}で表すことにする. 余計な記号の変更は本来避けるべきだが. (統一のためそのうち過去記事のほうを変更する)

自然表現

 はじめに正20面体群の指標表を作ったが, 2項正20面体群についてはまだだった. これを調べよう.

 まず, 自然表現(あるいは定義表現)は{SU(2)\rightarrow SO(3)}準同型写像から, {SO(3)}の有限部分群である正20面体群の逆像が{SU(2)}のなかに成す2×2行列の集合からなる. パウリ行列を

{\begin{align}
\sigma_1=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix},\ \ \ 
\sigma_2=\begin{pmatrix}0&-i\\i&0\end{pmatrix},\ \ \ 
\sigma_3=\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}
\end{align}}

で表す. 単位四元数のなす群{Sp(1)}{SU(2)}の同型によって

{\begin{align}
{\boldsymbol i}=\frac{1}{i}\sigma_1,\ \ \ 
{\boldsymbol j}=\frac{1}{i}\sigma_2,\ \ \ 
{\boldsymbol k}=\frac{1}{i}\sigma_3
\end{align}}


のように2×2行列と四元数を同一視し, {(\alpha, \beta, \gamma, \delta)}によって四元数{\alpha + \beta {\boldsymbol i}+ \gamma {\boldsymbol j}+\delta{\boldsymbol k}}を表すと, 2項正20面体群の定義表現の1つは次のようになる:

{(\pm1,\ 0,\ 0,\ 0)}の成分を巡回置換した元8個.
{(\pm1/2,\ \pm1/2,\ \pm1/2,\ \pm1/2)} の形の元16個
{(0,\ \pm1/2,\ \phi/2,\ \phi^{-1}/2)}の成分を偶置換で入れ替えた元96個

 なお, これらを4次元ユークリッド空間中の点の座標と見ると, 600-cell(600胞体?)の頂点になっている.

共役類

 この120個の元がどのように共役類に分かれるか見る. 既に正20面体群に関する考察から, 同じ共役類に入るためには実部の絶対値が等しいことが必要だと分かっている. 2項正20面体群では, 実部が等しい元同士が共役類をなす. このことは, 共役による作用の安定化群が中心化群であること・2つの四元数が積について可換になるための必要十分条件が一方の虚部がもう一方の虚部の定数倍であること を用いて共役類のサイズを調べることで示される.

 各共役類を列挙する. 代表元には次の記号を割り当てる. 3列目の"回転角"は, SO(3)への準同型写像による像の回転角を表す.
{\begin{align}
\begin{array}{|c|c|c|}\hline
\mbox{代表元} & \mbox{サイズ} &\mbox{回転角}\\ \hline
e=(1,\,0,\,0,\,0) & 1 & 0\\ \hline   -e=-(1,\,0,\,0,\,0) & 1 & 0\\ \hline
a=(0,\,1/2,\,\phi/2,\,\phi^{-1}/2) & 30 & \pi \\ \hline
b=(1/2,\,1/2,\,1/2,\,1/2) & 20 & 2\pi/3 \\ \hline -b=-(1/2,\,1/2,\,1/2,\,1/2) & 20 & 2\pi/3 \\ \hline
c=(\phi/2,\, \phi^{-1}/2,\,0,\,1/2) & 12 & 2\pi/5 \\ \hline  -c=-(\phi/2,\, \phi^{-1}/2,\,0,\,1/2) & 12 & 2\pi/5 \\ \hline
d=(\phi^{-1}/2,\,\phi/2,\,1/2,\, 0) & 12 & 4\pi/5 \\ \hline  -d=-(\phi^{-1}/2,\,\phi/2,\,1/2,\, 0) & 12 & 4\pi/5 \\ \hline
\end{array}
\end{align}}

 共役類は9個. 従って同値でない既約表現も9個. そのうち5つは中心{\{1,-1\}}による剰余群: 正20面体群の表現として得ている. 他の4つのうち1つは自然表現. 残る3つの既約表現の次元の2乗和は{60-2^2=56}だが, そのような自然数はただ1組(2,4,6)しか存在しない.

指標表

 前の記事までは既約表現に対していちいちアルファベットを割り当てていたが, あまり合理的ではないので, 物理でよくやるように表現の次元及び同じ次元の表現を区別する添え字によって既約表現を表すことにする.

 正20面体群の表現として得られた指標表から, 2項正20面体群の指標表の一部は次のようになる.
{\begin{align}

\begin{array}{|c|c|c|c|c|c|c|c|c|c|} \hline
 \mbox{既約表現} \backslash \mbox {代表元(サイズ)}&\phantom{-}e(1) & -e(1) & \phantom{-}a(30) & \phantom{-}b(20) & -b(20) & \phantom{-}c(15) & -c(15) & d(15) & -d(15)\\ \hline
{\boldsymbol 1} & 1& 1& 1& 1& 1& 1& 1& 1& 1 \\ \hline
{\boldsymbol 3}_1 & 3 & 3 &-1 & 0 & 0 & \phi & \phi& -\phi^{-1}& -\phi^{-1}\\ \hline
{\boldsymbol 3}_2 & 3 & 3 & -1 & 0 & 0 & -\phi^{-1}& -\phi^{-1}& \phi & \phi\\ \hline
{\boldsymbol 4}_1 & 4 & 4 & 0 & 1 & 1 & -1 & -1 & -1 & -1\\ \hline
{\boldsymbol 5}    & 5 & 5 & 1 & -1 & -1 & 0 & 0 & 0 & 0\\ \hline
\end{array}
\end{align}}

2つの3次元表現のうち, {\boldsymbol{3}_1}{SO(3)}部分群として自然に得られる表現.

 自然表現{\boldsymbol{2}_1}の指標表は上で得られた具体形から直ちに得られる(四元数実部の2倍がSU(2)の元としてのトレースになる).
{\begin{align}
\begin{array}{|c|c|c|c|c|c|c|c|c|c|} \hline
\mbox{既約表現} \backslash \mbox {代表元(サイズ)} & \phantom{-}e(1) & -e(1) & \phantom{-}a(30) & \phantom{-}b(20) & -b(20) & \phantom{-}c(15) & -c(15) & d(15) & -d(15)\\ \hline
{\boldsymbol 2}_1 & 2 & -2 &  0 & 1 & -1 & \phi & -\phi & \phi^{-1} & -\phi^{-1}\\ \hline
\end{array}
\end{align}}

 残る{\boldsymbol{2}_2, \boldsymbol{4}_2, \boldsymbol{6}}表現の指標表は, {\boldsymbol{2}_1}表現と正20面体群の表現だけから得られる. というのも,
{\begin{align}
\boldsymbol{2}_1\otimes \boldsymbol{3}_1 
&= \boldsymbol{2}_1 \oplus \boldsymbol{4}_2\\
\boldsymbol{2}_1\otimes \boldsymbol{3}_2
&= \boldsymbol{6}\\
\boldsymbol{2}_1\otimes \boldsymbol{4}_1
&= \boldsymbol{6} \oplus \boldsymbol{2}_2
\end{align}}

と直積表現が直和分解されるため. (上から順に計算すれば, 都合よく既知の表現から残り3つの表現が得られる.)

 こうして指標表の残りの部分が得られる.

{\begin{align}
\begin{array}{|c|c|c|c|c|c|c|c|c|c|} \hline
\mbox{既約表現} \backslash \mbox {代表元(サイズ)}
 & \phantom{-}e(1) & -e(1) & \phantom{-}a(30) & \phantom{-}b(20) & -b(20) & \phantom{-}c(15) & -c(15) & d(15) & -d(15)\\ \hline
{\boldsymbol 2}_2 & 2 & -2 & 0 & 1 & -1 & -\phi^{-1} & \phi^{-1} & -\phi & \phi \\ \hline
{\boldsymbol 4}_2 & 4 & -4 & 0 & -1 & 1 & 1 & -1 & -1 & 1\\ \hline
{\boldsymbol 6} & 6 & -6 & 0 & 0 & 0 & -1 & 1 & 1 & -1 \\ \hline
\end{array}
\end{align}}

 上で既に得たものも含め, 自然表現と他の既約表現との直積表現がどう既約分解されるか調べる. 計算すると

\begin{gather}
\boldsymbol{2}_1\otimes \boldsymbol{1}= \boldsymbol{2}_1,\ \ \
\boldsymbol{2}_1\otimes \boldsymbol{2}_1 = \boldsymbol{1} \oplus \boldsymbol{3}_1,\ \ \
\boldsymbol{2}_1\otimes \boldsymbol{2}_2 = \boldsymbol{4}_1\\
\boldsymbol{2}_1\otimes \boldsymbol{3}_1 = \boldsymbol{2}_1 \oplus \boldsymbol{4}_2,\ \ \
\boldsymbol{2}_1\otimes \boldsymbol{3}_2= \boldsymbol{6},\ \ \
\boldsymbol{2}_1\otimes \boldsymbol{4}_1= \boldsymbol{2}_2 \oplus \boldsymbol{6}\\
\boldsymbol{2}_1\otimes \boldsymbol{4}_2 = \boldsymbol{3}_1 \oplus \boldsymbol{5},\ \ \
\boldsymbol{2}_1\otimes \boldsymbol{5}= \boldsymbol{4}_2 \oplus \boldsymbol{6},\ \ \
\boldsymbol{2}_1\otimes \boldsymbol{6}= \boldsymbol{3}_2 \oplus \boldsymbol{4}_1 \oplus \boldsymbol{5}
\end{gather}

これらをまとめて
{\begin{align}
{\boldsymbol 2}_1\otimes {\boldsymbol \mu} = \bigoplus_{\boldsymbol \nu} N_{\boldsymbol{\mu}\boldsymbol{\nu}} {\boldsymbol \nu}
\end{align}}

と表す({\boldsymbol{\nu}}は全ての既約表現に渡る)と, 重複度{N_{\boldsymbol{\mu}\boldsymbol{\nu}}}は次の表のようになる.

{\begin{align}
\begin{array}{|c|c|c|c|c|c|c|c|c|c|}\hline
\boldsymbol{\mu}\backslash \boldsymbol{\nu}
&\boldsymbol{2}_2 & \boldsymbol{3}_2 & \boldsymbol{4}_1
&\boldsymbol{6} & \boldsymbol{5} &\boldsymbol{4}_2 
&\boldsymbol{3}_1 & \boldsymbol{2}_1 & \boldsymbol{1}\\ \hline
\boldsymbol{2}_2&0&0&1&0&0&0&0&0&0 \\ \hline
\boldsymbol{3}_2&0&0&0&1&0&0&0&0&0 \\ \hline
\boldsymbol{4}_1&1&0&0&1&0&0&0&0&0\\ \hline
\boldsymbol{6}&0&1&1&0&1&0&0&0&0 \\ \hline
\boldsymbol{5}&0&0&0&1&0&1&0&0&0 \\ \hline
\boldsymbol{4}_2&0&0&0&0&1&0&1&0&0\\ \hline
\boldsymbol{3}_1&0&0&0&0&0&1&0&1&0\\ \hline
\boldsymbol{2}_1&0&0&0&0&0&0&1&0&1\\ \hline
\boldsymbol{1}&0&0&0&0&0&0&0&1&0\\ \hline
\end{array}
\end{align}}

 全ての成分が0か1, 対角成分が0の対称行列になっているため, 単純グラフの隣接行列とみなせる. 各既約表現を頂点として次のグラフが描かれる.

f:id:shironetsu:20180331140126p:plain:w400

 なんてことだ……{E_8}の拡大ディンキン図が出てきた……。

 隣接行列から(単純)グラフを作るルールは「頂点どうしを結ぶ辺が存在すれば1, しなければ0」である. 一方カルタン行列とディンキン図の関係は, A, D, E型の場合(simply-laced)の場合に限れば「カルタン行列の成分が-1なら1本線で結ばれ, 0なら結ばれない」だった. また, 隣接行列の対角成分は全て0, カルタン行列の対角成分は全て2だから, {C_{\boldsymbol{\mu}\boldsymbol{\nu}}=2\delta_{\boldsymbol{\mu}\boldsymbol{\nu}}-N_{\boldsymbol{\mu}\boldsymbol{\nu}}}がちょうど{E_8}の拡大カルタン行列になる({\delta}クロネッカーのデルタ).

{\begin{align}
C=\begin{pmatrix}
2&0&-1&0&0&0&0&0&0 \\  0&2&0&-1&0&0&0&0&0 \\ -1&0&2&-1&0&0&0&0&0\\ 
0&-1&-1&2&-1&0&0&0&0 \\ 0&0&0&-1&2&-1&0&0&0 \\ 0&0&0&0&-1&2&-1&0&0\\
0&0&0&0&0&-1&2&-1&0\\ 0&0&0&0&0&0&-1&2&-1\\ 0&0&0&0&0&0&0&-1&2
\end{pmatrix}
\end{align}}

群の元{g\in\widetilde{\mathcal{I}}}の既約表現{\boldsymbol{\nu}}における指標を{\chi_{\boldsymbol{\nu}}(g)}で表すと
{\begin{align}
\sum_{\boldsymbol{\nu}}
C_{\boldsymbol{\mu}\boldsymbol{\nu}} \chi_{\boldsymbol \nu}(g)=\left(2-\chi_{\boldsymbol{2}_1}(g)\right)\chi_{\boldsymbol{\mu}}(g)
\end{align}}

となって, 群の共役類ごとに{\chi_{\boldsymbol{\nu}}(g)}が拡大カルタン行列の固有値{2-\chi_{\boldsymbol{2}_1}(g)}固有ベクトルになることを意味する.

 これこそがマッカイJohn McKayが最初に気付いたことで, マッカイ対応 McKay correspondenceの一例になっている.


マッカイ対応

 数学セミナーの記事[2]に, 松澤氏(『特異点とルート系』著者)がMcKay氏自身から語られたとする言葉が載っていた.

「あれは嵐の晩だった. その日ちょうど手に入った新しい数式処理ソフトを試すために{E_8}型拡大カルタン行列の固有ベクトルを計算することにしたのだ. すると, そこに2項正20面体群の指標表が現れたのだ.」

 マッカイ対応は他の正多面体群についても起こる.
 まず{SL(2,\mathbb{C})}の有限部分群は, {SO(3)}の有限部分群である巡回群{\mathcal{C}_n}・2面体群{\mathcal{D}_n}・正4面体群{\mathcal{T}}・正8面体群{\mathcal{O}}・正20面体群{\mathcal{I}}の逆像によって得られる,

偶数位数{n}巡回群 {\mathcal{C}_n(n:{\rm even})}
位数{4n}の2項2面体群 {\widetilde{\mathcal{D}_n}}
2項正4面体群(位数24) {\widetilde{\mathcal{T}}}
2項正8面体群 (位数48) {\widetilde{\mathcal{O}}}
2項正20面体群 (位数120) {\widetilde{\mathcal{I}}}

及びそこからは得られない

奇数位数{n}巡回群 {\mathcal{C}_n(n:{\rm odd})}

に限られる. これはクライン Felix Kleinが示したことであった.
 これらに対して上と同様の手続きで得られるグラフと拡大ディンキン図の型の間に, 次の関係がある.

{
\renewcommand{\arraystretch}{1.5}
\begin{align}
\begin{array}{|c|c|}\hline
群&\mbox{拡大ディンキン図}\\ \hline
\mathcal{C}_n & \widetilde{A}_{n-1}\\ \hline
\widetilde{\mathcal{D}_n} & \widetilde{D}_{n+2}\\ \hline
\widetilde{\mathcal{T}} & \widetilde{E}_6\\ \hline
\widetilde{\mathcal{O}} & \widetilde{E}_7\\ \hline
\widetilde{\mathcal{I}} & \widetilde{E}_8\\ \hline
\end{array}
\end{align}}

f:id:shironetsu:20180331140148p:plain:w400

f:id:shironetsu:20180331140203p:plain:w400

青丸:自明な表現は最高ルートの(-1)倍の頂点に対応し, これを除けば通常のディンキン図になる.

 何と表現するべきか, これはちょっと「過剰な」感じがあってひるむ. {SO(3)}の部分群である3つの正多面体群と, 3つのE型単純リー群の「例外性」がディンキン図を通して関係づけられてしまうとは. そもそも正多面体とコクセター-ディンキン図の間には鏡映群による関係があり, そこではたとえば正20面体の対称性は{H_3}であって{E_8}ではなかった.

 さて, 一連の記事の目標は正20面体対称性を持つ球面上の関数の構成であった. 実は特異点の問題を通してマッカイ対応, ADE分類に関係する(特異点の理論そのものは理解できていないけど…). 歴史はシュヴァルツやクラインによる不変式に関する考察にまで遡る.

(次の記事に続く)

リファレンス

[1]松澤淳一, 『特異点とルート系』, 朝倉書店, 2002年
[2]松澤淳一, 「空間の点群・結晶群と有限性 マッカイ対応と{SL_2, SL_3}の有限部分群」, 数学セミナー2012年9月号, pp.28-33
[3]F.クライン『正20面体と5次方程式』(関口次郎, 前田博信訳), 丸善出版, 2012年
[4]McKay graph - Wikipedia
[5]Binary icosahedral group - Wikipedia
[6]Special linear group:SL(2,5) - Groupprops
[7] ADE classification - Wikipedia

高坂海美呼称表手作り体験記

f:id:shironetsu:20180313184340j:plain:w400

 グリー版ミリオンライブ終了まで1週間を切った。悲しい。「思い出」にアクセスできる今しかできないことをやっておきたくて、高坂海美さんの他の人々に対する呼び名をまとめることにした。呼称表なんて太古から作られてきているものがインターネット上でいくらでも見られるけれど、ソースに直接あたることができるのはこの残されたわずかな期間だけ。自力でやってみたかった(ついでにスクショ作業の大変さを知っておきたかった)。下のほうに参考画像。

(五十音順。参考のため年齢を年上同い年(16歳)年下で付記)

名前 年齢 呼び名
秋月律子 19 律子さん
天海春香 17 春香さん
伊吹翼 14 バサバサ
エミリー 13
大神環 12
春日未来 14 みらいっち
我那覇響 16
菊池真 17 まこっちゃん
如月千早 16 千早さん
北上麗花 20 麗花
北沢志保 14 しほり
木下ひなた 14 ひなぴー(追記参照)
高坂海美 16 私(うみみ、うみみん)
桜守歌織 23
佐竹美奈子 18 美奈子先生(追記参照)
四条貴音 18 貴音さん
篠宮可憐 16 可憐
島原エレナ 17 えれなん
ジュリア 16 ジュリア
白石紬 17
周防桃子 11 ももちん
高槻やよい 14 やよちゃん
高山紗代子 17 さよちん
田中琴葉 18 琴葉
天空橋朋花 15 朋花様
徳川まつり 19 まつりん
所恵美 16 めぐみー
豊川風花 22 ふーちゃん
中谷育 10 育りん
永吉昴 15 すばるん
七尾百合子 15 ゆりりん
二階堂千鶴 21 ちづるん
野々原茜 16 茜っち
萩原雪歩 17 雪歩さん
箱崎星梨花 13 せりりん(BC)
馬場このみ 24 このみちゃん
福田のり子 18 のりさん
双海亜美 13 亜美
双海真美 13 真美
星井美希 15 ミキミキ
舞浜歩 19
真壁瑞希 17 みずきん
松田亜利沙 16 ありりん
三浦あずさ 21
水瀬伊織 15 いおりん
宮尾美也 17 美也・美也ちゃん
最上静香 14 モガミン
望月杏奈 14 もっちー
百瀬莉緒 23 莉緒ねぇ
矢吹可奈 14 かなりん
横山奈緒 17 なおー(ミリシタ)
ロコ 15 ロコロコ

 高坂さんの呼び方がかなり不規則なのは認識していたものの、改めて調べると本当に複雑。あだ名は本名に「りん」を付けるパターンだけではないし、本名で呼ぶ場合も「さん」「ちゃん」の付け方(または付けないか)が年齢の上下だけからは決まらない。高坂海美研究者はこの背後にある法則を見つけているのだろうか。

 印象的なところでは、豊川風花さんを「ふーちゃん」と呼んでいるのがかわいい。少し年上の親戚のお姉さんくらいの気持ちで接しているのを想像。馬場このみさんを「このみちゃん」と呼んでいるのも全く純粋な感覚からそうしていそうで良い。同じく大人組の二階堂千鶴さん・百瀬莉緒さんは「女子力」の手本として慕っているところがあってまた良い。
 
 意外だったのが箱崎星梨花さんの名前を呼んでいる場面が見つからなかったこと。Blooming Cloverではあんなに一緒にいるのに。他にエミリー・スチュアートさん、木下ひなたさん、佐竹美奈子さんの呼び名が分からない。三浦あずささんは「ミリオン女学園」で「あずさお姉さま」、「アイドルヒーローズ」で「あずささん」と呼んでいるが、素の状態での呼び名ははっきりしない。横山奈緒さんはミリシタのPBAコミュ第4話から(グリー版にもある?)。宮尾美也さんの呼び方には「美也」「美也ちゃん」で揺れがあった。

 桜守歌織さんと白石紬さんの呼び名はまだ分からない。中の人の上田麗奈さんと南早紀さんが事務所の先輩後輩ということで、白石紬さんとはMEG@TON VOICE!で小芝居みたいなことをやっていた気もするけど記録を残していないし特に台本の無い即興芸だったはず。「歌織先生」、「つむつむ」とか呼んでほしい。

 これをまとめている最中、ミリシタに高坂海美さん中心のメインコミュ18話「ひろがる気持ち☆」が追加された。ココロ☆エクササイズ。あの世界一かわいいファイティングポーズがたくさん見られる。

(3/14追記) 
アイドル呼称一覧 - ミリオンライブWiki
 ミリオンライブwiki呼称表佐竹美奈子さんは「美奈子先生」らしい。2015年の誕生日のやりとりから。
高坂海美 - ミリオンライブWiki
 これ以外の空欄箇所は自分が作成したものと同じ。最上静香さんの欄の「静香ちゃん」が気になる。

 木下ひなたさんについては@superfroggestさんから「木下ひなたwiki」の呼称一覧を教えていただいた。
呼称表 - 木下ひなたwiki
 「ひなぴー」らしい。亜美真美と同じ。ただしソースは3周年記念ドラマCD(BLOG│THE IDOLM@STER OFFICIAL WEB | バンダイナムコエンターテインメント公式サイト 応募者全員が貰えたそうだがその頃自分は初めてまもなかった…)だそうで、自力で確認ができない。

 エミリーさんについては未だ分からず。「えみりん」がしっくりくるけど案外「エミリー」そのままかも。バレエと日本舞踊という伝統舞踊を習っていた点での共通点があったりするのでそのうち絡んではくれそう。ミリシタでの属性も同じPrincessなのでそう遠くはないかも。

 とか言っていたらこんな会話があったことに気付いた。

f:id:shironetsu:20180318163137j:plain:w300

 プロデューサーの「苦手なダンスは?」という問いに対して「動きがゆっくりだから!私、落ち着いてるのって苦手だしね☆」とのこと(ネクストプロローグ編Lv2)
「バレエなら次のステップとか、姿勢を維持するのに集中しちゃってるけど…。ま、やってみたら違うかもしれないから、わからないけどねーっ。」

 それにしても「ふーちゃん」かぁ……「ふーちゃん」……ちょっと甘えのある感じがなんとも愛おしい……。ゲーム内の絡みが予想外に多かったが、LIVE THE@TER FORWAD(LTF) 03 Starlight Melody「MC03~その頃舞台裏では」にも会話がある。「永遠の花」を歌うにあたってまだ不安の残る豊川さんを「ふーちゃん、がんばってね!」と送り出す高坂さんの優しい声……。そしてミリシタTHE@TER BOOST!「超ビーチバレー」で新入生役高坂海美、キング役豊川風花として共演が決まっていることを思い出して動揺した。ミリシタで「ふーちゃん」を聞ける日も遠くない。
(3/14追記終わり)

(3/16追記) センパイが来てくれない。
 昨日のミリシタのアップデートで過去のホワイトボードが見られるようになったので眺めていたら、中谷育さんの誕生日のホワイトボードに高坂さんが書き込んでいたことを思い出した。

佐竹美奈子・中谷育(ミリシタ2017/12/16中谷育誕生日ホワイトボード)
f:id:shironetsu:20180316034703j:plain:w300

 自画像が可愛すぎる。それはともかくここでも佐竹美奈子さんのことを「美奈子先生」と呼んでいたので画像を追加。
 しかしこの「美奈子先生」呼びは背景にある色々があまりに魅力的ですね。厨房で手際よく料理を作る佐竹さんをキラキラした尊敬の眼差しで見ているんだろうな~とか。
(3/16追記終わり)

(3/30追記) 福田のり子さんお誕生日おめでとうございます。
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 むむ…「のり子さん」…これからミリシタでもまたあだ名で呼ぶ仲になるのかどうか。

と、この記事を見直していたら桜守歌織さんを「香織」と書いていて泡を吹いた(修正済)。いちばんやっちゃいけないやつだぞ。
(3/30追記終わり)

 以下ソース画像。

秋月律子(夢の国!?ショコラティエの大冒険)
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天海春香二階堂千鶴(期間限定☆アイドルカフェ)
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伊吹翼(Idol Master's Cup Evolution 6)
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大神環・周防桃子・中谷育(期間限定☆アイドルカフェ)
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春日未来・豊川風花(星の煌めき☆ Syarlight Melody!!)
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我那覇響Dead or Alive!ミリオンアドベンチャー
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菊池真(甘ふわ♪ショコラハウス)
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如月千早(Get to the top! サマースポーツフェス)
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北上麗花(戦慄!アイドル肝だめし病棟、
Rカード「美味しい休憩タイム 高坂海美」このカード好き)
f:id:shironetsu:20180313193653j:plain:w300
f:id:shironetsu:20180313204527j:plain:w300

北沢志保(大激闘!765プロ野球!)
f:id:shironetsu:20180313194412j:plain:w300

四条貴音(囚われ!アイドルプリズン)
f:id:shironetsu:20180313194527j:plain:w300

篠宮可憐・豊川風花(キャラバン編 思い出ショートストーリー)
f:id:shironetsu:20180313194635j:plain:w300

島原エレナ(もっと!輝け!アイドル強化合宿)
f:id:shironetsu:20180313194810j:plain:w300

ジュリア・舞浜歩(1stLIVE ENJOY H@RMONY!!)
f:id:shironetsu:20180313194907j:plain:w300

周防桃子(華麗!ジェントルレディライブ)
f:id:shironetsu:20180313203156p:plain:w900

高槻やよい(芸術!?バレンタインミュージアム
f:id:shironetsu:20180313195019j:plain:w300

高山紗代子(HRカード バーゲンの猛者 高坂海美
f:id:shironetsu:20180313195126j:plain:w300

田中琴葉(PSL編メインストーリー 灼熱少女(バーニングガール)第8話「団結、そして本番へ」)
f:id:shironetsu:20180313200032j:plain:w300

天空橋朋花・松田亜利沙(1stLIVE HAPPY PERFORM@NCE!!)
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徳川まつり・野々原茜(星の煌めき☆ Starlight Melody!!)
f:id:shironetsu:20180313200415p:plain:w600

所恵美(劇場)
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豊川風花(キャラバン編メインストーリー・永吉昴)
f:id:shironetsu:20180314043434j:plain:w300

(ミリオンシアターライブ編 Final)
f:id:shironetsu:20180314043516j:plain:w300

永吉昴(祝祭!クリスマスフェスタ)
f:id:shironetsu:20180313200745j:plain:w300

七尾百合子(はじける汗!アイドルビーチバレー大会)
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萩原雪歩(もっと!輝け!アイドル強化合宿)
f:id:shironetsu:20180313201305j:plain:w300

馬場このみ百瀬莉緒(祝祭!クリスマスフェスタ)
f:id:shironetsu:20180313201411j:plain:w300

福田のり子(Get to the top! サマースポーツフェス)
f:id:shironetsu:20180313201553j:plain:w300

双海亜美双海真美(期間限定☆アイドルカフェ)
f:id:shironetsu:20180313201659j:plain:w300

星井美希(秋を満喫!ミリオンオータムフェア)
f:id:shironetsu:20180313201839j:plain:w300

真壁瑞希(みんなで年越し!生っすか!?Revolution×50)
f:id:shironetsu:20180313201912j:plain:w300

水瀬伊織(夏到来!アイドル水上運動会)
f:id:shironetsu:20180313202043j:plain:w300

宮尾美也(上:キャラバン編 思い出ショートストーリー、下:3rdLIVE BELIEVE MY DRE@M!!)
f:id:shironetsu:20180313202858j:plain:w300
f:id:shironetsu:20180313202801p:plain:w600

最上静香・ロコ(営業ショートストーリー@青森)
f:id:shironetsu:20180313202144p:plain:w300

望月杏奈(夢の国!?ショコラティエの大冒険)
f:id:shironetsu:20180313202216p:plain:w300

矢吹可奈(招福!アイドル干支マラソン
f:id:shironetsu:20180313202307p:plain:w300

横山奈緒(ミリシタPST Princess Be Ambitious!!第4話「お姫さまたちの秘密」)
f:id:shironetsu:20180313202401p:plain:w400

ロコ(Precious Days! ミリオンシアターライブ Day3)
f:id:shironetsu:20180313203115p:plain:w300

「昏き星、遠い月」CDを聞いたあと

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 MTG05の「昏き星、遠い月」ドラマパートを聞きました。練習風景が描かれたイベントストーリー中で断片的に演じられた劇を補間する内容。台詞がより充実するとともに曖昧だった点のいくつかが解消された。ただしどういう理由か練習時との相違もあってやや慎重に読む必要がある。

コミュ6話視聴後の記事
shironetsu.hatenadiary.com

フラゲ前の記事
shironetsu.hatenadiary.com

 場面ごとに大雑把にメモ。

  • 『Prelude』

 最初のクリスティーナが語るバックに流れる音楽、エコーのかかった声が劇場を思わせて良い。エドガーが「すっかり寒くなってきた」と言っているので二人の出会いはそういう時季らしい。ついでにクリスティーナは日傘をさしている。
 そしてさっそくここでイベントストーリーとの相違が生じている。あちらではヴァンパイアに襲われた死体を見つけたエドガーが、路地裏に佇むクリスティーナに声をかけたことが二人の出会いのきっかけだった。一方こちらでは仕事を終えたエドガーが平凡な一日の終わりに見つけている。イベントストーリーではぼかされていたクリスティーナの狩りの様子も直接描かれずいぶん簡単になった。

  • 『再会、強襲』

 再びエドガーの前に姿を現すクリスティーナ。からかいからかわれる様子がかわいい。全体的に儚げな雰囲気をまとっていたイベントストーリーのクリスティーナにくらべてお茶目。
 後半ではアレクサンドラたち一家の暮らしていた屋敷が襲われたときのことが語られる。エレオノーラが犯人ではない可能性を考えたりもしたがさすがにそれはなさそうだ。そしてアレクサンドラは「不浄を祓う剣の使い手」だとエレオノーラの口から語られる。……悩ましい。
 エレオノーラ(と辺境伯)が屋敷を訪問したのは何のためだったか。香を携帯していたのだから誰かをヴァンパイアに変える準備は常にできていたのだろうけれど、予め目的としていたわけではないのかもしれない。「不浄を祓う剣の使い手」の噂を聞いて手元に置くために父母を殺し、偶然見つけたノエルをヴァンパイアに変えて人質に取った……といったあたりか。

  • 『大切なもの』

 クリスティーナがエドガーは女だと知ったきっかけが「偶然知ってしまった」になっている!イベントストーリーでは倒れたエドガーを家に連れ帰ったときに知ったことになっていた。そこで互いの秘密を打ち明け合って結びつきを強める……という意味があったはずだったが。クリスティーナが男だと触れられないことより、この違いのほうが重大かもしれない。エドガーの男装の理由(第2話の台詞「あんな場所じゃ、女は生きていけないから……」)についてもこちらでは特に語られない。
 二人が追剥ぎに襲われる場面が続く。永吉昴演じる不良に「ルカ」という名前が付いていて、エドガーと知り合いだったことが分かるやりとりがある。クリスティーナに締め付けられて苦しむ声の演技がとても良い。

  • 『誇り』

 前半はイベントストーリー第6話に含まれる内容とだいたい同じ。ただエドガーがアレクサンドラとナイフでやりあう場面が加わり、ミリシタのMVにより近くなっている。
 城に帰ったアレクサンドラが正体をさらしたエレオノーラに切りかかる場面。やはり油断というか、アレクサンドラはヴァンパイアになる道を選ぶと疑っていなかったことが死に繋がっている。切り付けられたときの当惑。「ああ……そう……アレクサンドラ……あなたは……。そうだったの?……知らなかったわ……。」この台詞は語られてない設定があるというよりは、自分がヴァンパイアになったときの迷いのない選択と比べているのだと考えたい。実際、姉妹がこれ以上の不幸を味わわないためにはアレクサンドラがヴァンパイアになるしかなかったはずで……。

  • 『ひかりさす』

 エレオノーラが人間だったときのことが初めて語られる。「この城は呪われている、ヴァンパイアがいる」と叫ぶ暴徒。その人間たちに殺された元夫と娘のアンジェラ。逃げ出した彼女の前に現れた一人のヴァンパイア(「彼」)。「復讐したいか?」と聞かれて迷うことなくヴァンパイアとして生きていくことを選ぶエレオノーラ。「虚ろな世界、壊してしまって…創り直すの」という歌詞の背景にあるのは彼女の深い絶望か。

  • 『Overture』

 preludeとovertureはどちらもだいたい「始まりの曲」の意味でいまひとつ違いが分からなかったが、インターネット上にはこの疑問に対する回答が無数に存在して、それによるとovertureはその後のオペラのあらすじのような内容を含む音楽である一方、preludeはもっと広く開幕に合わせて演奏される楽曲らしい。具体例を知らないので曖昧だけど。「昏き星、遠い月」がoverture的な楽曲ということになる?

overture : 序曲 - Wikipedia
prelude : 前奏曲 - Wikipedia

 エレオノーラが言ったようにノエルがヴァンパイアとして覚醒する凶兆を見せてこの物語の幕は下りる。こちらでははっきりとは言っていなかったが、アレクサンドラはノエルが人を襲うようになれば殺す決意を持って旅に出たはず。姉妹の旅はどこで終わるのだろう。


 考察。さて、イベントストーリーとの一番大きな相違点はクリスティーナが男であると直接的な言及がないことだろう。加えてクリスティーナの「罪」にも直接触れられていない。とはいえそれらの設定が消えてしまったと考えるともはや別作品、可能な限りどちらも採り入れる立場で*1
 「昏き星、遠い月」のラストに語られる「愛し子」を重視してCD購入以前に検討していた、クリスティーナがエレオノーラの実子であったりエレオノーラが人間であったりする可能性はもうほとんど消えたといっていい。新たに浮かんでくるのは娘のアンジェラが実は生き残っていてエドガーとして育った……といった可能性。
 「腐った世界」から逃げ出して理想郷を探すのがエドガー、壊して作り直そうとするのがエレオノーラ。エドガーの誘いに乗るのがクリスティーナ、エレオノーラの甘言を拒んだのがアレクサンドラ。「黒」側と「白」側(舞台衣装)にそういった対比はあるものの、エドガーとエレオノーラを血縁関係で結ぶべき理由としては薄い。やはりアンジェラは本当に幼くして死んでしまったと考えるのが妥当か。
 主要人物4人の関係については、今のところどの2人の間にも血縁関係を仮定することに合理的な理由はないと思う。

 しかしエレオノーラとクリスティーナの関係がなおも問題であることに変わりはない。エレオノーラの前に現れたのは男のヴァンパイアらしいので即座に「クリスティーナがエレオノーラをヴァンパイアに変えた」説の補強になると考えた。
 しかしエレオノーラが人間だったころの城にヴァンパイアがいるという噂が立ったのは何が原因だったか。その後に現れたヴァンパイアとの関係は?
 エレオノーラの正体をクリスティーナが知っている理由としてこれを採り続けるためには、同時に説明すべきことがちょっと多すぎる。

 点と点を無理やり繋いで新しく次の説を立てる。

 エレオノーラを見そめた男のヴァンパイアが民衆を扇動して彼女の城を襲わせる。「あの城にはヴァンパイアがいる。」愛する娘と夫を失いながら、命からがら逃げだしたエレオノーラの前にそのヴァンパイアが現れ、ヴァンパイアになって人間たちに復讐するという道を示す。「復讐したいか?」他の選択肢は考えられなかった。そうして一人のヴァンパイアが生まれる。

 時が経ち、あの日の悲劇がその男の仕組んだものだったと知ったエレオノーラは、彼を殺して復讐を果たすと同時に、全ての悪しきヴァンパイアを滅ぼすことを誓う。単身ヴァンパイアを殺しながら、更に力を蓄えるため軍を従える辺境伯に取り入る。そして噂に聞く「不浄を祓う剣の使い手」を側に置くためアレクサンドラ一家の屋敷を襲う。

 さらに月日が流れ、あるとき国王から辺境伯へヴァンパイア討滅の勅令が下る。辺境伯夫人エレオノーラは街に侵入したらしいヴァンパイアの捜索と退治をアレクサンドラに命じる。しかしそのヴァンパイア、クリスティーナの目的はエレオノーラに殺された同族たちのための復讐だった。二度目の接触でクリスティーナはアレクサンドラにエレオノーラの秘密を教える。クリスティーナが目論んだ通り、アレクサンドラはエレオノーラを殺す。

 エレオノーラにとって、アレクサンドラがヴァンパイアとして生きることを拒むなど予想もしていないことだった。ヴァンパイアになれば愛する妹と永遠に生きていくことができるのに。自分がかつてそうしたように。

 ……この説だとクリスティーナが男であってもなくても変わりがないかも。しかしエレオノーラの城がよりによって「ヴァンパイアがいる」という噂のために襲われた事件と、その直後にヴァンパイアが現れた理由の関係を無理なく繋ぐにはこれくらいしか考えられない。いっそクリスティーナが男であるという設定が生きているとしても他の何にも関係していない、と考えたほうが楽。
 隠された出来事があるとすれば、人間を憎むべき過去を持つエレオノーラが「ヴァンパイアの淘汰」に心血を注ぐようになったきっかけだろう。強いヴァンパイアを集めてやがて人間たちの世界を壊そうとしていた? 軍を従えたり(アレクサンドラは「辺境伯夫人の軍」という言葉を口にしている)、祓魔の騎士:アレクサンドラを獲得したのは「復讐」が原動力になっていることは間違いないと思う。しかし何に対して?


 難しい。まあ答えがすべて明白になってしまわず、語れる部分が残されているので良かった。たぶんまだ何か思いつくたびに追記していく。


 ……ところでちょうど一か月後の3月28日はMTG06"Cleasky"のCDの発売日。そのドラマパートは「昏き星、遠い月」より分量が多いという朗報がある(dareradi第89回の角元さんの発言)。オープニング曲としての「虹色letters」はこのストーリーによって完成するものであるはず。「未送信letter」と二人の手にある手紙の間を繋ぐ出来事とは……。バレンタインの生放送でも二人して「エモい」と言っていたドラマCD、「昏き星、遠い月」を聞いた後では更に期待が高まる。

www.youtube.com
あまりにもいい……二人の優しい声に切なげな笑顔、目を合わせるところとか「未送信letter」の手を繋いで歩くような振り付けとか……。


(3/3追記)
 製作者の意図がどうあれ、それが明らかにされない以上作品解釈に正解不正解は決められない(し相異なる解釈で楽しむべきだ)と思うけれど、イベントコミュとCDのボイスドラマはやはりある程度区別したほうがよさそうだという考えに傾きつつある。……端的に言うと、CDではクリスティーナが男だという設定は反映されていないのではないかと。多くの人にとっての困惑の種になっているのではないだろうか。

 この物語の登場人物たちそれぞれが秘密を抱えている、というのはストーリーの重要な要素だった。このことはイベント終了後に届いたメールでも千鶴さんが語っている。

 ところで、お気付きでして?
 『昏き星、遠い月』の登場人物達には、
 全員、秘密があったことに……。 

 クリスティーナは自分が男で、ヴァンパイアであること。そして「罪」。
 エドガーは自分が女であること。
 エレオノーラは自分がヴァンパイアであること(と過去?)。
 アレクサンドラは妹ノエルがヴァンパイアになったこと(それを妹に教えていないという秘密)。

 エドガーにとって、自分が女であることを知られるのは弱みを晒すようなことだった。それを本人の意図に反して知ってしまったかわりに、クリスティーナは自分が男であると明かした。しかしクリスティーナの秘密はそれひとつではない。もうひとつの秘密、自分がヴァンパイアであることはまだ隠していた。そして、自分がヴァンパイアの力を発揮する姿を見られたくなかったがためにエドガーは不良に襲われてしまう。

 イベントコミュでは互いの秘密を明かす場面は物語の進行上非常に重要だった。それに美しい。人間ひとりの生殺与奪を握るに十分な力をもつヴァンパイアの家で、性を偽ってまで強く生きようとする少女が介抱されている図。クリスティーナの住処でエドガーが目覚めて会話する場面、絶対に舞台で見たい……。

 一方CDではクリスティーナはエドガーが女であると「偶然知ってしまっ」ている。そう言われたあとのエドガーの反応もずいぶん軽い。CDとコミュは相補的で両方聞いて初めて全体像が分かるようになっている、という考えも否定しきれないとはいえ、そこまで慎重に組み立てているならこの重要なポイントを変えるのはちょっと変。そういった理由で、単に言及されていないのではなくCDのクリスティーナは男として設定されていないのではないかと疑ってしまう。

また追記
 (作り手の方々がニコ生やリスアニ!等でこの作品について語られるのを目にする機会が増えるにつれ、CDとゲームとで設定が異なると考える態度こそが不誠実に思われてくる)というか曲とシナリオ作りが同時に進行していたのは明らかなのでメタ的に見てもやはりクリスティーナは男だと考えたい。少なくとも秘密を明かすタイミングが異なっている点については別のルートが選ばれとみなせばいける。そういえばこの作品はそういう要素のあるゲームの作中作だった。アイドルマスターミリオンライブ!

*1:イベントストーリーだけをもとにして色々考えたように、このCDドラマだけを材料にして考察するのもありだと思うけど

「昏き星、遠い月」公演前の

 アイドルマスター ミリオンライブ!5周年おめでとうごさいます。

 "THE IDOLM@STER MILLION THEATER GENERATION 05 夜想令嬢 -GRAC&E NOCTURNE-"の発売日は明日2月28日。イベント終了から1か月と少し。長かった。「合言葉はスタートアップ!」、「Princess Be Ambitious!!」・MS06CD発売、田中琴葉さんの〈資料運び〉解放、「虹色letters」等この間に色々あった。
 フラゲの前に、前回の記事の後に考えたこと見たことなどを書き残しておく。CDのドラマパートで全ての答えが明確になるとは限らないものの、イベントストーリー+フルサイズしかない今*1想像していることのいくつかはきっと無に帰してしまうはずなので……。

前の記事の要点

shironetsu.hatenadiary.com
 追記部分以外はフル尺公開前のもの。「愛し子」を重視しない考察。永吉さんに頼まれてプロデューサーが死体役になるという一見ギャグっぽい場面が挟まれることで、不良ふたりを瞬殺したクリスティーナの強さから注意が逸らされるという仕掛けをいま一度味わってほしい……。この点に限らず全体的に叙述トリック的な面白みがあるのが良い。練習を眺めているプロデューサーとしての視点は本来筋書きを一番理解しているはずなので。
 前の記事の読みは「故意に言及しないこと」はあっても嘘は含まれないと考えている点でかなり素直。おおよそ次の推測が骨子。

  • クリスティーナがエレオノーラをヴァンパイアに変えた。クリスティーナの言う「罪」はこのこと。
  • クリスティーナは自分が生んだエレオノーラという怪物(同族を「淘汰」の名のもとに殺している)を討つためスラム街に潜伏していた。
  • エドガーによるアレクサンドラへの説得が功を奏し窮地を脱すると、彼女にエレオノーラの秘密を暴露することで殺害を教唆して遂に「罪」を清算した。

 
 クリスティーナとエレオノーラの関係はストーリー中で言及がないため諸々の描写から推察するしかない。はっきりしているのは「クリスティーナはエレオノーラの正体をアレクサンドラに教えた」ということだけ。エレオノーラの側がクリスティーナのことを知っているかどうかさえ明確ではない。そういった色々の断片的な要素がうまく整合する仮説として選んだのが「クリスティーナがエレオノーラをヴァンパイアに変えた」だった。今に至るまで特に反証も思いついていない(エレオノーラ側の感情が若干弱いかなという気はするが)。


「愛し子」

 イベント終了後先行配信された「昏き星、遠い月」フルバージョン。そのラストの「愛し子」を踏まえると先の説は、しかしなんとも弱い。

ねえ……とても愛していたわ……本当よ?……私の愛し子……。

 百瀬莉緒ーーーー!!!!!!!!昨日公開されたメインコミュ第17話見ましたか?……普段はあんな感じの気さくなお姉さんなのに……こんな息も絶え絶えの「悪女」が最期に思った誰にも届かない愛を迫真の演技で……
 さて。「愛し子」という語はストーリーコミュ中でも口にしている。ただしアレクサンドラの妹ノエルに対して。

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 「まるで私の愛し子」という表現、これだけを聞いても実の娘ではないノエルに向ける言葉として不自然なところはないが、上の台詞を聞いた後では「本当の愛し子」がいる可能性を考慮に入れざるを得ない。 そのうえこういう話があった(コメントくれた方もありがとうございます)

マリア・エレオノーラ・フォン・ブランデンブルク - Wikipedia
クリスティーナ (スウェーデン女王) - Wikipedia
>1636年、マリアは娘クリスティーナを監禁したが、のちにマリアは反逆の疑いをかけられてデンマークへ亡命し、王族としての特権を剥奪され、事実上スウェーデンから追放された。1643年にブランデンブルクへ渡った。
>マリアは1648年に再びスウェーデンへ戻ったが、クリスティーナとの親子関係が修復することは二度となかった。

Leonora Christina Ulfeldt - Wikipedia
 ほぼ同時代の17世紀中ごろににデンマークでもレオノーラ・クリスティーナ・ウルフェルト*2も20余年に渡る幽閉生活をコペンハーゲン城の「青い塔」で送っている。母子関係が原因ではないけど。


 もちろん実在していた人物から名前を取っているのだとしても境遇を直接なぞっているはずはない。しかしこれを見ると、エレオノーラはクリスティーナの実子・監禁・逃亡・親子間の確執……などと想像を膨らませずにはいられない。

 そう思いながら再度ストーリーコミュを見ると、ヴァンパイアになったノエルを眠らせる香をエレオノーラが持っていた理由も違ってくる。元はクリスティーナを眠らせるために使っていた? 他のいくつかの要素も併せて次の説が立てられる。

 エレオノーラは実の子であるクリスティーナを香で眠らせながら長年監禁していた。しかしあるときクリスティーナは目覚め、逃亡して自由の身となった。ヴァンパイアとしての生を苦痛そのものと考えるエレオノーラは、クリスティーナの行方を捜し死をもって安らぎを与えようとする。
 数年後、配下のアレクサンドラはクリスティーナを探し当てるが、「エレオノーラの正体はヴァンパイアである」という秘密のみを携えて帰ってくる。秘密を知っているのはただひとりだったはず。「愛し子」クリスティーナは自らの正体を、ヴァンパイアを憎むアレクサンドラに教えた。アレクサンドラを通じて届いた、生きる決意と離別のメッセージ。母としての役割の終焉。我が子が死を拒んだ一方で、死を受け入れたエレオノーラはアレクサンドラに嘘の動機(弱いヴァンパイアの淘汰と王国の建設)を話しながら自分を殺すように仕向けた。アレクサンドラの一振りでエレオノーラは致命傷を負い、薄れゆく意識の中で思う。「ねえ……とても愛していたわ……本当よ?……私の愛し子……」

 エレオノーラが死を受け入れたと考える理由のひとつは、強力なはずの彼女が実戦経験に乏しいはずのアレクサンドラに抵抗しているように見えないから。しかしヴァンパイアはそもそも不死であるはず。この点から疑うこともできる。


エレオノーラの正体

 ヴァンパイアになると「二度と死ねなくなる」とはクリスティーナの台詞として歌詞にも含まれている。一方で血液を摂取しなければ死んでしまうともエドガーには話している。単純に考えれば寿命が無いかあるいは人間よりはるかに長い、つまり自死を選ぶ以外に死ぬ方法がないということだろう。だからエレオノーラが殺されてしまったことが直接ヴァンパイアであることを疑うべき理由にはならない。
 ……とはいえエレオノーラが実はヴァンパイアでないという可能性には一考の余地がある。何せアレクサンドラとエレオノーラの会話以外にそうと分かる描写がない。そのうえアレクサンドラはヴァンパイアを見分けることができないと来ている。

f:id:shironetsu:20180227021732p:plain
(アレクサンドラがクリスティーナ・エドガーと出会った場面)

 そうなると死に際のエレオノーラの言葉の嘘をついていたと考えるべき部分が増える。大筋は上のままで、エレオノーラが人間であるとの説に基づくとこうなる;

 クリスティーナは母が全てを背負ってくれるだろうと確信して、実際には人間であるエレオノーラの正体がヴァンパイアであるとの嘘の秘密をアレクサンドラに教えた。我が子を愛するエレオノーラはアレクサンドラの言葉に合わせて自分がヴァンパイアを探す理由を偽った。同時に、アレクサンドラの父母を殺してノエルをヴァンパイアに変えたのは自分であるとも――実際にあの日屋敷を襲ったのはクリスティーナだったのに。真実は自分の死と共に葬られ、過去から切り離されたクリスティーナは自由になる。

 母子の心の読み合いが異常に高度になって良い。捩じれきった愛の形。ノエルをヴァンパイアに変えたことがクリスティーナの「罪」であるとの考えを以前は否定していたが、この説では少なくともそのひとつとして復活しうる。……まあちょっと無理がある感は否めない。
 

クリスティーナの罪

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 クリスティーナの罪。結局何なのか? この解釈によって可能性はもっと分岐しうる。事実としてエドガーと旅に出ることができない理由であった「罪」、クリスティーナにとってあの街に縛り付けていた軛であったわけだが、どのように縛り付けていたのか?

  • 「クリスティーナがエレオノーラをヴァンパイアに変えた」説……エレオノーラをヴァンパイアに変えたこと。彼女を討つための使命を果たすまで街を離れられない。
  • 「母エレオノーラが死を与えることで子クリスティーナを救おうとした」説……母から逃げたこと?命を狙われている以上エドガーを巻き添えにはできない。
  • 「エレオノーラは人間である」説……アレクサンドラ一家を襲ったこと?同上。

 瀕死のエドガーにここで死ぬかヴァンパイアになるか選択を迫る場面で苦しんでいることからは、人間を食糧とするしかないヴァンパイアとしての生そのものを罪だと考えているようにも見える。もしくは人間を殺さずにヴァンパイアに変えてしまうことか。考え始めるとどれもそれなりに魅力があって決定打となる証拠に欠ける。

 「罪」がどのような形で解消されたのであろうと(あるいは解消されたわけではないのだとしても)ヴァンパイアとしての空虚で孤独な生を送っていたクリスティーナがエドガーとの出会いによって変化したのは確か。

f:id:shironetsu:20180227021849p:plain

 この「少し変わった形のボーイ・ミーツ・ガール」の背景に何があるのか、間もなく始まる本公演:CDのドラマパートでどこまで明かされるか楽しみ。

www.lantis.jp

*1:先日2曲目の"Everlasting"が誤って配信されて取り逃されるということがありましたね。勢いで購入してしまったが結局聞いていない。

*2:ポール・アンダーソンによるハードSF『タウ・ゼロ』Tau Zeroの宇宙船Leonora Christineの由来らしい。エンジンが故障して故郷との相対速度が光速に近づいていくこの宇宙船の中に乗員たちは閉じ込められ、宇宙が年老いていく様子を目の当たりにする。読んで。

球面調和関数で正20面体をつくる(3) - l=28までの表

 球面調和関数でサッカーボールをつくる記事のつづき.
shironetsu.hatenadiary.com
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 改めて, 「{SO(3)}{\ell}次の既約表現({(2\ell+1)}次元表現)の, 正20面体群{I}への制限を既約分解したときの恒等表現{A}の基底」を存在すれば{| \ell A  \alpha\rangle}で表すことにする. {\alpha}は重複度に応じてつけるラベル. 一般に{|\ell A \alpha\rangle}

{ |\ell A\alpha\rangle = \sum_{m=-\ell}^\ell Q_{\ell m\alpha} |\ell m\rangle\\
Q_{\ell m\alpha}\in\mathbb{R},\ \ \ \sum_{m=-\ell}^\ell Q_{\ell  m\alpha}^2=1
}

で表せるが, 前回の記事でそうしたように{C_5}軸を{z}軸にとると{m\equiv 0\ {\rm mod}5}以外の係数はゼロになる. さらに{C_2}軸を{y}軸にとると,

{
Q_{\ell(-m)\alpha}=(-1)^{\ell+m}Q_{\ell m\alpha}
}

になる(従って{\ell}が奇数のとき{m=0}の係数はゼロ).

そして, 少なくとも{\ell<29}では(重複度は1なので{\alpha}は省く)

{
Q_{\ell m}=\pm \sqrt{\frac{c_{\ell m}}{N_\ell}}\\
N_\ell\in\mathbb{N},\ \ \ c_{\ell m}\in\mathbb{N}_0,\ \ \ {\rm gcd}(N_\ell, c_{\ell m})=1
}

と, 既約分数の平方根になる. それらをまとめたのが下表.

その値は次のようにして得た:

(1){\ell=15}同士の積表現が{\ell=2,4,8,14}の基底を含まないことから{|15A\rangle}が決定される.
(2)同時に{\ell=30}以下の偶数次数の表現が得られる.
(3){\ell=12,15}の積表現から{\ell=21,25,27}(奇数次数)の基底が得られる*1

{Q}の符号は{c}のほうにつけている. たとえば, {N}の表から{N_{10}=3\cdot5^4}で, {c}の表での{\ell=10,m=5}の欄に"{-3\cdot11\cdot19}"とあるから,

{
Q_{10,5}=-\sqrt{\frac{c_{10,5}}{N_{10}}}=-\sqrt{\frac{3\cdot11\cdot19}{3\cdot5^4}}=-\frac{\sqrt{209}}{25}
}
と読む.

{N_\ell}の表
{
\begin{array}{|c|c|c|c|c|c|c|c|c|}\hline
 \ell&0&6&10&12&15&16&18&20\\ \hline
N_\ell&1 &5^2&3\cdot5^4 &5^5 &2^2\cdot5^5&2^2\cdot3\cdot5^7&5^7&5^9\\ \hline
\end{array}
}
{
\begin{array}{|c|c|c|c|c|c|c|c|}\hline
 \ell&21&22&24&25&26&27&28\\ \hline
N_\ell &2\cdot5^7&2\cdot3\cdot5^{10}&5^{10}&2\cdot3\cdot5^{10} &2\cdot3\cdot5^{12} & 2^2\cdot3\cdot5^{10} & 2^2\cdot3\cdot5^{12}\\ \hline
\end{array}
}


{c_{\ell m}}の表
{
\begin{array}{|c|c|c|c|} \hline
\ell\backslash m & 0 & 5 & 10  \\ \hline
0 & 1 & 0 & 0 \\
6 & 11 & 7 & 0 \\
10 & 13\cdot19 & -3\cdot11\cdot19 & 11\cdot17 \\
12 & 3^2\cdot7\cdot17 & 2\cdot11\cdot13 & 3\cdot13\cdot19 \\
15 & 0 & -5\cdot23\cdot29 & 2\cdot3\cdot11\cdot29 \\
16 & 2^6\cdot5\cdot19\cdot31 & -3\cdot5\cdot13\cdot17\cdot31 & -2\cdot7\cdot17\cdot23\cdot31 \\
18 &5\cdot11\cdot17\cdot23 & 2^3\cdot3^2\cdot5\cdot19 & 3\cdot7\cdot11\cdot19 \\
20 & 5\cdot7\cdot23\cdot29 & -2\cdot11\cdot17\cdot19\cdot29 & 17\cdot19\cdot41^2 \\
21 & 0 & -29\cdot31\cdot41 & -2^2\cdot13\cdot41\\
22 & 2^2\cdot3\cdot5\cdot11\cdot19\cdot31\cdot37 & -7\cdot13\cdot23\cdot31\cdot37
    & -2\cdot7\cdot17\cdot23\cdot29\cdot37 \\
24 & 5\cdot7^2\cdot13\cdot23\cdot29 & 2^3\cdot3\cdot11\cdot59^2
    &  2\cdot19^3\cdot31  \\
25 & 0 & -7^2\cdot31\cdot37\cdot43& 2\cdot3\cdot7\cdot11\cdot19\cdot37\cdot43\\
26 & 2^2\cdot3^3\cdot13\cdot29\cdot31\cdot41 & -5\cdot7\cdot11\cdot23^3\cdot41
    & 2^7\cdot5\cdot7\cdot19\cdot23\cdot41 \\
27 & 0 &-17\cdot19\cdot37\cdot41\cdot47& -2\cdot41^3\cdot47\\
28 & 2^8\cdot3^2\cdot7\cdot31\cdot37\cdot43 & -5\cdot11\cdot13\cdot29\cdot37\cdot43
    & -2\cdot3\cdot5\cdot13\cdot17\cdot23\cdot29\cdot43 \\ \hline
\end{array}
}
{
\begin{array}{|c|c|c|c|} \hline
\ell\backslash m&15  & 20 & 25 \\ \hline
15 &7\cdot11\cdot13 & 0 & 0\\ 
16 & 3^2\cdot17\cdot23\cdot29 & 0 & 0\\
18 & 19\cdot29\cdot31 & 0 & 0 \\
20 & -2^3\cdot11\cdot19\cdot31& 11\cdot13\cdot31\cdot37 & 0\\ 
21 &3\cdot13\cdot17\cdot41 & 17\cdot19\cdot37 & 0\\
22 & -23\cdot29\cdot103^2 & 13\cdot19\cdot23\cdot29\cdot41 & 0 \\
24 & 2^2\cdot3^2\cdot11\cdot31\cdot37 & 31\cdot37\cdot41\cdot43 & 0\\
25  & -7^2\cdot43\cdot61^2 & 3^2\cdot7^2\cdot11\cdot41    & 2\cdot5\cdot11\cdot23\cdot41\cdot47 \\ 
26 & 3\cdot5\cdot23\cdot37\cdot139^2 & -5\cdot37\cdot43\cdot89^2 & 2\cdot7^2\cdot17\cdot37\cdot43\cdot47 \\
27    & 2\cdot3\cdot17\cdot19\cdot47 & 2^6\cdot17\cdot19\cdot23\cdot43 & 5\cdot7\cdot13\cdot19\cdot23\cdot43\\ 
28 & -2\cdot5\cdot23\cdot29^3\cdot41 & -2^3\cdot3^2\cdot5\cdot13\cdot29\cdot41\cdot47 & 7\cdot17\cdot29\cdot41\cdot47\cdot53 \\ \hline
\end{array}
}

 せっかくなので球面調和関数の重ね合わせとして視覚化しておく.
{\ell=25}
f:id:shironetsu:20180220215132g:plain:w500

{\ell=27}
f:id:shironetsu:20180220215222g:plain:w500

{\ell=28}
f:id:shironetsu:20180220215314g:plain:w500

 表を観察して気になること.
 まずこの範囲で{N_\ell}は2,3,5しか因数に持たない. 理由が分からない.
{c_\ell}の因数も小さい素数ばかり並んでいる. 今の構成法ではこれは自明ではない. 単に直和分解するだけなら, 3j記号の閉じた形を考えると大きな素数は出てこないが, 今は規格化も含んでいるため.つまり和が{N_\ell}である. たとえば,{\ell=24}の欄から
{
(5\cdot7^2\cdot13\cdot23\cdot29)+2\cdot(2^3\cdot3\cdot11\cdot59^2)\\
 +2\cdot(2\cdot19^3\cdot31)+2\cdot(2^2\cdot3^2\cdot11\cdot31\cdot37)+ 2\cdot(31\cdot37\cdot41\cdot43)=5^{10}
}
が分かる*2. 大げさかもしれないが数論的にはどう解釈すべきなのだろう.

 以前の記事で見た限り, {x,y,z}軸を{C_2}軸にとってもおそらく同じように係数は有理数平方根になり, 分母の因数は2を多く含むと予想される. {z}軸を{C_3}軸, {y}軸を{C_2}軸にとるとそれは{3}になるだろう(要検証).

 そして重複度が2以上になったときの基底の効率的な決定が分からない. 一応すでに{\ell=15}どうしの合成から{\ell=30}の基底のひとつが得られているが, 280485761という大きな素数が突然現れた. 直交する基底を自然に取り出す方法があってほしい.

 今の構成法は正20面体群対称な球面上の関数が積と和について閉じることを利用している. 積としての作用が球面調和関数を基底とする空間上の線形変換になり, 欠ける次数({\ell=1,2,3,4,5,7,\cdots,29)}がそれを特徴づけている.適切な解釈が分からない.

(2/21追記)
 せっかくなので{\ell=15}テンソル積から得られる{\ell=30}のA基底のひとつも書いておく. {\ell=30}ではA表現の重複度は2になるため, 最初の取り決めに従えば2つの空間を分けるラベルがいるがここでは無視する.

{N_{30}=5^{10}*467*280485761}
{
\begin{array}{|c|c|c|c|c|}  \hline
m & 0  & 5 & 10 & 15  \\ \hline
c_{30,m}
&13\cdot5323^2\cdot9377^2 
&-2^4\cdot3\cdot11\cdot17\cdot29\cdot31\cdot 5003^2
&5\cdot7\cdot13\cdot17\cdot19\cdot23\cdot29\cdot31\cdot37\cdot1429^2
&-3^5\cdot5\cdot11\cdot13\cdot23\cdot29^3\cdot31\cdot37\cdot41\cdot43
\\ \hline
\end{array}
}
{
\begin{array}{|c|c|c|c|} \hline
m&20 & 25 & 30\\ \hline
c_{30,m}
&2\cdot7\cdot29\cdot31\cdot37\cdot41\cdot43\cdot47\cdot1451^2
&2\cdot3^3\cdot11\cdot13\cdot17\cdot29\cdot31\cdot37\cdot41\cdot43\cdot47\cdot53
&7\cdot11\cdot13\cdot17\cdot19\cdot31\cdot37\cdot41\cdot43\cdot47\cdot53\cdot59\\ \hline
\end{array}
}

{\ell=30}球面調和関数
f:id:shironetsu:20180221013956g:plain:w500

もう一つの基底と重ね合わせて振動させたい.

f:id:shironetsu:20180220215353p:plain:w200

*1:なお, 同時に偶数次数も再度得られる. 球面調和関数であればパリティー奇と偶の積は奇でなければならないが, これはテンソル積なので問題ない. {\ell}が偶数のとき{O(3)}の忠実な表現にならないのが問題らしい, と思っている.

*2:2/21修正. 2乗和にしていた.

球面調和関数で正20面体をつくる(2) - 3j記号の非自明なゼロ

リベンジ

 前回, 球面調和関数の重ね合わせで{I}(正20面体群)対称性を持った関数をつくろうとしたとき取った戦略は, {SO(3)}既約表現の{I}への制限が含む恒等表現の基底への射影演算子を構成することだった. 実際に計算も行ったが, D行列の要素を位数60の群全体に渡って, さらに{(2\ell+1)\times(2\ell+1)}の要素全てを計算するという非常に迂遠な方法であった. しかもそれで得られる成分は簡潔. 正20面体に特徴的な数である{\tau=(1+\sqrt{5})/2}も消えてしまう. 何かもっと単純に計算する方法があるに違いない.
shironetsu.hatenadiary.com
 ずいぶん悩んだが, D行列成分を計算することなく係数を得るひとつの方法をようやく見つけた. John Baezによる解説がヒントになっている.

Quantum Mechanics and the Dodecahedronjohncarlosbaez.wordpress.com

 Baezは{I}不変な{x,y,z}多項式が,
- {P(x,y,z)=x^2+y^2+z^2}
- {Q(x,y,z)} : 正20面体の6本の対角線に平行なベクトルと{(x,y,z)}とのドット積の総乗(6次).
- {R(x,y,z)} : 正20面体の面心と中心を結ぶ独立なベクトル10本と{(x,y,z)}のドット積の総乗(10次)
- {S(x,y,z)} : 正20面体の中心と辺の中点を結ぶベクトル15本と{(x,y,z)}のドット積の総乗(15次)
 だけで書けることを示している. これと似たようなことが(あるいはひょっとすると本質的に同じことが){SO(3)}の表現の代数的な関係だけでできる.
 {\ell=1,2,3,4,5,7,8,9,11,13,14,17,19,23,29}には恒等表現が存在しなかったことが既約指標に関する考察から示されていたことを思い出しておこう.


理論

6次の場合

 まず簡単のため正20面体の{C_5}軸(5回対称軸)は{z}軸に一致すると仮定する(前回は{C_2}軸を{z}軸に取っていた).
f:id:shironetsu:20180216223534p:plain:w400
(非常にいい加減な絵だが)
するとこの正20面体と同じ対称性を持つベクトルは{m\equiv 0\ ({\rm mod}5)}に限られるため, {\ell=6}で正20面体群対称性を持つベクトルは次の形に書ける.

{ |\psi\rangle=a|65\rangle+b|60\rangle+c|6-5\rangle}

さらに{C_2}軸を{y}軸に取る. {y}軸回りの
1/2回転の表現行列は,

{
\mathcal{D}^{(\ell)}_{km}\left(\cos\frac{\pi}{2}+\sin\frac{\pi}{2}\ {\bf j}\right)=(-1)^{\ell+k}\delta_{k,-m}
}

であるから, 1/2回転で

{
a|65\rangle+b|60\rangle+c|6-5\rangle
\rightarrow -c|65\rangle+b|60\rangle-a|6-5\rangle
}

と変換する. これで不変であるためには{a=-c}が必要. 正20面体の姿勢には{x}軸に関する反転の自由度が残るが, 今のところこれだけの条件を課す.

 さて, テンソル積を

{
 |\ell_1m_1\rangle\otimes|\ell_2m_2\rangle\rightarrow |\ell_1\ell_2m_1m_2\rangle
}

で表記すると, 自分自身とのテンソル

{
 |\psi\rangle |\psi\rangle=a^2|6655\rangle
 +b^2|6600\rangle
 +c^2|66\!-\!5\!-\!5\rangle\\
 +ab(|6650\rangle+|6605\rangle)
 +bc(|660\!-\!5\rangle+|66\!-\!50\rangle)
 +ca(|66\!-\!55\rangle+|665\!-\!5\rangle)
}

もまた{I}対称性を持つ. ここで合成系の{m=0}成分に注目する. 一般には合成系は{0\leq \ell\leq 12}成分を持つ(ただし今は明らかに対称テンソルなので偶数だけ)が, 対称性からくる制限によって{\ell=2,4,8}は許されない. すなわち,

{
\langle 80|\left(b^2|6600\rangle+ca(|66\!-\!55\rangle+|665\!-\!5\rangle)\right)
 =\langle 40|\left(b^2|6600\rangle+ca(|66\!-\!55\rangle+|665\!-\!5\rangle)\right)\\
 =\langle 20|\left(b^2|6600\rangle+ca(|66\!-\!55\rangle+|665\!-\!5\rangle)\right)\\
 =0
}

驚くべきことにこれらは次のひとつの式に同値になる:

{
7b^2+11ca=0
}

3つの一見独立な式のこの同値性は, Clebsch-Gordan係数, あるいは3j記号の単純な性質から自明に従う結果ではない. むしろ{SO(3)}{I}を部分群に持つことによって生じる性質と考えるべきであるように思われる.

 また, 合成系の{\ell=6}成分に注目する.

{
\langle65|ab(|6650\rangle+|6605\rangle)
=-\frac{5\sqrt{11}\ ab}{\sqrt{17\cdot19}}\\
\langle 60|\left(b^2|6600\rangle+ca(|66\!-\!55\rangle+|665\!-\!5\rangle)\right)
=-\frac{20\,b^2}{\sqrt{11\cdot 17\cdot 19}}+\frac{5\sqrt{11}\ ca}{\sqrt{17\cdot19}}\\
\langle6\!-\!5|bc(|660\!-\!5\rangle+|66\!-\!50\rangle)
=-\frac{5\sqrt{11}\ bc}{\sqrt{17\cdot 19}}
}

これらの和が元の{|\psi\rangle}の定数倍でなくてはならないが, 実はその条件

{
(-11ab):(-4b^2+11ca):(-11bc)=a:b:c
}
も上の式に同値になる. さらに, 合成系の{|8,5\rangle}成分に着目する. この成分が現れるとすれば{ab}のかかる項のみで一見消えないように思える. しかし実は

{
\langle85|6650\rangle=\langle85|6605\rangle=(-1)^{6-6+5}\sqrt{2\cdot 8+1}
\begin{pmatrix}
6&6&8\\5&0&-5
\end{pmatrix}=0
}

なのである({|8\!-\!5\rangle}についても同様). これもまた3j記号の性質からは直ちには言えない(と思う). 結局,

{
a=-c,\ \ \ 7b^2+11ca=0
}

に加えて規格化条件{|a|^2+|b|^2+|c|^2=1}を課し, さらに位相(phase)の不定性を消すために{a}は正実数とすると,

{
a=-c=\frac{\sqrt{7}}{5},\ \ \ b=\pm\frac{\sqrt{11}}{5}
}

が得られる. {b}の符号の不定性は正20面体の姿勢の(座標の取り方の)不定性から来ているので,座標を決めれば

{
\frac{\sqrt{7}}{5}(|65\rangle-|6\!-\!5\rangle)+\frac{\sqrt{11}}{5}|60\rangle
}

が(指標に関する考察から存在性は言えていてかつ唯一なので){\ell=6}表現における恒等表現の基底ということになる.

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 Clebsch-Gordan係数を求めるにあたって数表ないしコンピューターの力さえ借りてしまえば(ちょっとの根気さえあれば手でも求められるが)あまりにもあっけない計算だった.


10次, 12次の基底を取り出す

 さて, 上のテンソル積で{\ell=10,12}成分は消えずに残されていた({\ell=0}は無視).それぞれ以下のような成分を含んでいる.

{\ell=10}
{
 -\frac{\sqrt{11}\,a^2}{\sqrt{23}}|10,10\rangle
 +\frac{\sqrt{3}\,\sqrt{7}\,\sqrt{19}\,ab}{\sqrt{17\cdot 23}}|10,5\rangle
 +\frac{49\,ca-126\,b^2}{\sqrt{13\cdot 17\cdot 19\cdot 23}}
 |10,0\rangle
 +\frac{\sqrt{3}\,\sqrt{7}\,\sqrt{19}\,bc}{\sqrt{17\cdot 23}}|10,\!-\!5\rangle
 -\frac{\sqrt{11}\,c^2}{\sqrt{23}}|10,\!-\!10\rangle
}

{\ell=12}
{
\frac{2\sqrt{3}\, a^2}{\sqrt{23}}|12,10\rangle
 +\frac{{{2}^{3/2} }\,\sqrt{7}\,ab}{\sqrt{19}\,\sqrt{23}}|12,5\rangle 
 +\frac{12\,ca+66\cdot 7\, b^2}{\sqrt{7}\,\sqrt{13}\,\sqrt{17}\,\sqrt{19}\,\sqrt{23}}|12,0\rangle
 +\frac{{{2}^{3/2}}\,\sqrt{7}\, bc}{\sqrt{19}\,\sqrt{23}}|12,\!-\!5\rangle
 +\frac{2\sqrt{3}\,c^2}{\sqrt{23}}|12,\!-\!10\rangle
}

規格化すると,

{\ell=10}
{
\frac{1}{5^2\sqrt{3}}\left(
\sqrt{11\cdot 17}(|10,10\rangle+|10,\!-\!10\rangle) +\sqrt{3\cdot 11\cdot 19}(-|10,5\rangle
   +|10,\!-\!5\rangle) +\sqrt{13\cdot 19} |10,0\rangle
\right)
}

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{\ell=12}
{
\frac{1}{5^{5/2}}\left(\sqrt{3\cdot13\cdot19}\,(|12,10\rangle+|12,\!-\!10\rangle)
  +\sqrt{2\cdot11\cdot13}\,(|12,5\rangle-|12,\!-\!5\rangle)
  +3\sqrt{7\cdot17}\,|12,0\rangle\right)
}

f:id:shironetsu:20180216224134g:plain:w500

が得られる. これらがまた{\ell=10,12}表現における恒等表現の基底になる.


15次の場合

 偶数次であれば{\ell=6}テンソル積を取ることで次々に求めていけそうだが, {\ell=15}表現はこの方法では現れない. 再び自分自身とのテンソル積を取る方法を採る.

 まず, {z}軸回りの5回対称性, {y}軸回りの2回対称性から,

{
 |\phi\rangle=s(|15,15\rangle+|15,\!-\!15\rangle)+t(|15,10\rangle-|15,\!-\!10\rangle)+u(|15,5\rangle+|15,\!-\!5\rangle)
}

の形に書ける. {|\ell=15, m=0\rangle$}成分は無い. 合成系の{|\ell=2,4,8,14,m=0\rangle}成分に注目すると, 上と同じ理由で

{
 \langle 2,0|(|\phi\rangle|\phi\rangle)=\langle 4,0|(|\phi\rangle|\phi\rangle)=\langle 8,0|(|\phi\rangle|\phi\rangle)=\langle 14,0|(|\phi\rangle|\phi\rangle)=0
}

でなくてはならない. これは次の式に同値になる.

{
s^2:t^2:u^2=(7\cdot 11\cdot 13):(2\cdot3\cdot11\cdot29):(5\cdot23\cdot29)
}

また, 合成系の{|\ell=8, 14,m=5\rangle}成分がゼロになることから,

{
(\sqrt{5\cdot23\cdot 29}\, s+\sqrt{7\cdot11\cdot13}\,u)=0
}

となる. これらが対称性から{s,t,u}に課される条件のすべてで, 規格化と位相の不定性を除く処理として{s}は正実数になるべく条件を加えると,

{
s=\frac{\sqrt{7\cdot11\cdot13}}{2\sqrt{5^5}},\ \ \ 
t=\pm \frac{\sqrt{2\cdot3\cdot11\cdot29}}{2\sqrt{5^5}},\ \ \ 
u=-\frac{\sqrt{5\cdot23\cdot29}}{2\sqrt{5^5}}
}

が得られる. 上と同じように{t}の正負の不定性は{x}軸の取り方に依存しているが, 今度は上で採用した符号の取り方と両立させる必要がある. そこで合成系の{|\ell=6,m=5\rangle}{|\ell=6,m=0\rangle}の係数の比をとると(やや込み入った計算ののち), {+}を取るべきだと分かる.まとめると,

{
 \frac{1}{2\cdot5^{5/2}}\left(\sqrt{7\cdot 11\cdot 13}\,(|15,15\rangle+|15,\!-\!15\rangle) +\sqrt{2\cdot3\cdot11\cdot29}\,(|15,10\rangle-|15,\!-\!10\rangle) -\sqrt{5\cdot 23\cdot 29}\,(|15,5\rangle+|15,\!-\!5\rangle)\right)
}

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{\ell=15}表現の{I}の恒等表現の基底として得られる. ただし{|\ell,m\rangle\rightarrow Y^\ell_m}によって球面調和関数に置き換えるとき 純虚になるので実関数にするには{i}倍する必要がある.

……と, {\ell=6}とは独立に求めたが, この導出過程を見ると{\ell=15}の場合を考察するだけで{\ell<30}のすべての偶数の恒等表現の基底が求められるはずだと期待できる(実際にやったわけではないが)


まとめ

 射影演算子を介すことなく{I}対称な基底を取り出すという一応の目標は達成したが, 疑問も多く残る.
 依然として係数の簡潔さに比べると計算がやや冗長に感じられる. たとえば規格化された係数の分母に5の冪が現れる理由が不明瞭.
 恒等表現のテンソル積がまた恒等表現の線形結合で書ける, という条件は変数の数に対して一見過剰に見える. CG係数, 3j記号の非自明な関係式が多く生じている.
 タイトルにも付けた通り,3j記号の非自明なゼロが現れるのがかなり面白い結果だと思う. このテーマ, 3j記号, 6j記号の非自明なゼロについては不定方程式の観点から書かれた以下のような論文があった.
Brudno, Simcha. "Nontrivial zeros of the Wigner (3‐j) and Racah (6‐j) coefficients. I. Linear solutions." Journal of mathematical physics 26.3 (1985): 434-435.
http://aip.scitation.org/doi/abs/10.1063/1.526628
Brudno, Simcha. "Nontrivial zeros of the Wigner (3 j) and Racah (6 j) coefficients. II. Some nonlinear solutions." Journal of mathematical physics 28.1 (1987): 124-127.
http://aip.scitation.org/doi/abs/10.1063/1.527792
 上にも書いたが{SO(3)}{I}を部分群に持つ事実から3j記号の色々な性質が導かれる? 今回は{C_5}軸をz軸に取ることで計算が簡単になったが, 座標に関する縛りを最小限にして進めれば関係式が色々得られるはず. 今後の課題.


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