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劇中劇としての「屋根裏の道化師」

ふたつの「屋根裏の道化師」

 ミリオンライブTB03「ラスト・アクトレス」ドラマパート「屋根裏の道化師」の考察記事。

https://www.lantis.jp/imas/img/TB03_H1.jpg
リリース情報|アイドルマスター ミリオンライブ! THE IDOLM@STER MILLION LIVE! | Lantis web site

 「劇中劇としての『屋根裏の道化師』」。ちょっと気取って付けた記事タイトルだが、きちんと意味がある。ダブルミーニングになるのだ。

 「屋根裏の道化師」という作品はふたつ存在する

 ひとつは田中琴葉たちアイドルの出演する映画として。この場合には、

  劇【ミリオンライブ】中劇【屋根裏の道化師】。

 もうひとつはコレットたち劇団員がミリオン座で演じる演劇作品として。こちらは

  劇【屋根裏の道化師】中劇【屋根裏の道化師】。

 更にこの作品はコレットたちの世界で過去に起こったとされる「実話」を基にしているため事態はさらに複雑になる。ややこしい。区別するために前者を映画「屋根裏の道化師」、後者を舞台「屋根裏の道化師」と呼ぼう。そして舞台「屋根裏の道化師」の基になった犯人を殺人鬼「屋根裏の道化師」としておく。

 この作品は「虚構」と「現実」がマトリョーシカ的に幾重にも重なり合っているのだ。そしてその構造こそがこの作品をサスペンスたらしめている。

 以下結末にまで触れる。

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なぜ8次交代群は2元体上の4×4一般線形群と同型か

  • イントロ──位数20160の単純群
  • 2元体上の4次一般線形群
  • 6次対称群と2元体上の4次シンプレクティック群
  • 対称行列
  • 28という数
  • 同型写像の例
  • まとめとこれから
  • リファレンス

イントロ──位数20160の単純群

定理(Artin,Tits)[1]
ふたつの有限単純群の位数が等しければ

(1) 同型

(2) B_n(\mathbb{F}_q)\ \mbox{&}\ C_n(\mathbb{F}_q)\ \ \ n\geq 3,q:\mbox{even}

(3) A_4(\mathbb{F}_2)\cong {\mathfrak A}_8\ \mbox{&}\ A_3(\mathbb{F}_4)

のいずれかの組でこれらは互いに排他的(つまり(2)と(3)は非同型な組).

 有限単純群の分類定理が絡むのでこの定理そのものについて語ることはとてもできないが, 例外的同型(exceptional isomorphism)を語るうえで非常に示唆的な定理だろう. 有限単純群ほとんど「位数が等しければ同型」なのである. その例外のうち(2)はLie型の単純群B,Cの組で無限系列. 一方(3)は「例外中の例外」でただひとつこの組しか存在しない.

 このうちA_3(\mathbb{F}_4)は4元体上の3次一般線形群PSL(3,\mathbb{F}_4)のことだがいまは見送る.

 今回注目するのは例外(3)の半分. A_4(\mathbb{F}_2)というのがこの記事でこれから見ていくGL(4,\mathbb{F}_2)で, {\mathfrak A}_8交代群である.

 位数20160のふたつの単純群は同型とは限らないが, 異なる無限系列─Lie型の単純群交代群に属するこのふたつは同型になるのである. いわばArtin-Titsの定理の例外の例外の例外ともいえるこの同型を調べていく.

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小さな非可換単純群 - PSL(2,p)

  • イントロ
  • 有限体上の特殊射影線形群 PSL(n,p)
    • 定義
    • ガロアの最期の手紙
    • PSL(2,p)の位数
    • 共役類を数える
    • 単純性
  • まとめとこれから

イントロ

2番目に/小さい非可換/単純群

 最小の非可換単純群は位数60の5次交代群だった. 正20面体の対称性でもあることから, 特に線形表現に現れる幾何学的な性質について以前調べた.

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 専ら6次対称群を見ていたので交代群固有の性質にはあまり注目していなかったが, 6次交代群の線形表現も調べた. この群は位数360でやはり単純群だが, 小さいほうからは3番目である.

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 では5次交代群と6次交代群の間にある2番目に小さい非可換単純群の位数はいくつかというと168で, この位数を持つ唯一の単純群

{PSL(2,7)\cong GL(3,2)}

である. 見た目の異なる2つの群が交わっている.

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ヴァレンティナー群と6次交代群の8次元表現

  • 正20面体群ミニマム
  • ヴァレンティナー群を見つける
  • 交代群の被覆群
  • SU(3)の有限部分群
  • 8次元表現
  • 6次対称群の16次元表現.
  • まとめとこれから
  • リファレンス

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つづき.

 ヴァレンティナー群(Valentiner group)の存在を知っていながら6次交代群の8次元既約表現の構成法がよくわからない, というのはさすがに鈍かった. {{\bf 3}\otimes\overline{\bf 3}={\bf 8}\oplus{\bf 1}}.

 初めに要点だけ説明する.

 正20面体群{{\mathcal I}\subset SO(3)}が複素射影平面{{\mathbb C}P^2}に作用すると考える. 射影変換をひとつ加えることで, 新たに生成される群が{PSL(3,\mathbb{C})}の部分群として有限になるようにできる. この群は6次交代群{{\frak A}_6}に同型になる. これを{SL(3,\mathbb{C})}に引き戻すと, {\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}}に同型な中心を持つ6次交代群の3重被覆になる. これがヴァレンティナー群{{\mathcal V}=3\cdot{\frak A}_6}である. {SU(3)}の部分群として得たヴァレンティナー群から, {SU(3)}の随伴表現の制限によって8次元表現を作る. これが{{\frak A}_6}の忠実な既約表現になる.

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6次対称群指標表手作り体験記

  • はじめに
  • 6次対称群のユニタリ既約表現
    • 1表現
    • 1'表現
    • 5I表現
    • 5I'表現
    • 5II表現
      • 6次対称群の外部自己同型写像
    • 5II'表現
    • 9表現
    • 9'表現
    • 10表現
    • 10'表現
    • 16表現
      • クリフォード代数
  • まとめ
  • 追記(7/8)
  • リファレンス

はじめに

定理:対称群の自己同型群

{n\geq 3}に対して*1,

{\begin{align}
{\rm Aut}({\frak S}_n)\cong \left\{\begin{array}{cc}
{\frak S}_n&(n\neq6)\\
{\frak S}_6\rtimes{ \mathbb Z}/2{\mathbb Z}&(n=6)
\end{array}\right.
\end{align}}

6次の対称群{\frak{S}_6}は異常な性質を有している. 対称群の中で唯一外部自己同型写像が存在するのである(自分はこの事実を次の講義ノートで知った. 物理数学III (2017) )

引用を含む引用になるが,

このような例外的な同型対応が,交代群 {A_6} のところに集中して現れていること

{
A_6\cong L_2(9)\cong S_4(2)'\cong M_{10}'
}

は注目すべきことである。この群は,この性質故に(小さい群であることももちろんあるだろうが),様々な場面で出くわすものである。{A_6} を見るたびに,鈴木通夫先生の「群論」[1]の一節({{\rm Aut}\cong A_6\neq S_6} を受けて)

この例外が有限群論に及ぼす影響は非常に大きく,単純群論をとても困難なものにしている大きな理由の一つである

を思い出すものである。例外的な自己同型があるため,{A_6} を指数2で含む群として,

{S_6,\ PGL(2,9),\ M_{10}}

という3つが存在しうるのである。

らしい[2]. なお「このような例外的な同型対応」はその前段で述べられている, 異なる系列の有限単純群間の同型対応を指している.

 念のため注意しておくと, この引用を除いて本記事中では対称群と交代群には{\frak{S},\frak{A}}(フラクトゥールのSとA)を当てる. 後々の記号の衝突を避けるため.

 さて, 本記事ではこの{\frak{S}_6}の既約ユニタリ表現を求めることを目的にしている.

 対称群の既約表現の理論は非常によく整えられており, 既約指標も表現行列もそれを求めてしまう一般的な方法が存在する[3,4]. しかしちょっと味気ない. できれば既約表現それぞれの個性を感じたい.

 とはいえ道標はあったほうが良いので指標表は先に載せてしまおう. 一般論を知らなくても, 簡単に求められる5次元既約表現の直積表現の分解(既約指標の直交性を利用しながら. 対称群の指標は一般に整数に限られることも利用できる)から他の既約表現の指標も出てくる.

{\begin{align}
\begin{array}{|c|ccccccccccc|}\hline
{\mbox 共役類}|C|&\lbrack1^6\rbrack&\lbrack1^33\rbrack&\lbrack3^2\rbrack&\lbrack1^22^2\rbrack&
\lbrack15\rbrack&\lbrack24\rbrack&\lbrack1^42\rbrack&\lbrack2^3\rbrack&\lbrack1^24\rbrack&
\lbrack123\rbrack&\lbrack6\rbrack\\ \hline
{|C|}&
1&40&40&45&144&90&15&15&90&120&120\\ \hline
{\bf 1}&
1&1&1&1&1&1&1&1&1&1&1\\
{\bf 1}'&
1&1&1&1&1&1&-1&-1&-1&-1&-1\\
{\bf 5}{\rm I}&
5&2&-1&1&0&-1&3&-1&1&0&-1
\\
{\bf 5}{\rm I}'&
5&2&-1&1&0&-1&-3&1&-1&0&1\\
{\bf 5}{\rm I\hspace{-.1em}I}&
5&-1&2&1&0&-1&-1&3&1&-1&0\\
{\bf 5}{\rm I\hspace{-.1em}I}'&
5&-1&2&1&0&-1&1&-3&-1&1&0\\
{\bf 9}&
9&0&0&1&-1&1&3&3&-1&0&0\\
{\bf 9}'&
9&0&0&1&-1&1&-3&-3&1&0&0\\
{\bf 10}&
10&1&1&-2&0&0&2&-2&0&-1&1\\
{\bf 10}'&
10&1&1&-2&0&0&-2&2&0&1&-1\\
{\bf 16}&
16&-2&-2&0&1&0&0&0&0&0&0 \\ \hline
\end{array}
\end{align}}

 各既約表現は次元のボールド体と付加的な記号(I,II,プライム)によって区別する.

 {\frak{S}_6}に関する基本的な事実. 6の分割は11通り.

{\begin{align}
\lbrack 1,1,1,1,1,1\rbrack,\lbrack1,1,1,1,2\rbrack,\lbrack1,1,1,3\rbrack,\lbrack1,1,2,2\rbrack,\lbrack1,1,4\rbrack,\lbrack1,2,3\rbrack,\lbrack2,2,2\rbrack,\lbrack1,5\rbrack,\lbrack2,4\rbrack,\lbrack3,3\rbrack,
\end{align}}

それぞれ

{\begin{align}
\lbrack 1^6\rbrack,\lbrack1^42\rbrack,\lbrack1^33\rbrack,\lbrack1^22^2\rbrack,\lbrack1^24\rbrack,\lbrack123\rbrack,\lbrack2^3\rbrack,\lbrack15\rbrack,\lbrack24\rbrack,\lbrack3^2\rbrack,
\end{align}}

と略記. 各分割に置換の型が対応し, 同時に共役類にも対応するのでこれらを同じ記号で表す.

 既約表現は共役類の数に等しく11個. 各共役類の大きさ, 符号は表に書かれている通り. ヤング図形についてはほとんど触れないが, 既約表現の次元は対応する分割のヤング図形の標準盤の数に等しいことを述べておく[3,5].

 ここから各既約表現を見ていく.

*1:7/8追記. うっかり忘れていた. n=2ではもちろん自己同型群は自明な群.

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球面調和関数で正20面体をつくる(5) - クラインの不変式論

  • 再びSU(2)
  • 不変式
  • 正20面体群の恒等表現基底
    • 30次の場合
  • 課題
  • リファレンス

再びSU(2)

 {SU(2)}の扱いやすさの理由のひとつは, 2変数斉次多項式の張る線形空間が次数ごとに既約表現空間になっていて, 逆に既約表現はそれで尽くされるからだった.

 より正しく言うと, {\mathbb{C}}上の2変数多項式環{\mathbb{C}\lbrack z_1,z_2\rbrack}の元{f(z_1,z_2)}に対して,

{\begin{align}
D=\begin{pmatrix}a&-b^*\\ b&a^*\end{pmatrix}\in SU(2)
\end{align}}

の作用を

{\begin{align}
\rho(D)f(z_1,z_2)&=f((z_1,z_2)D)\\
&=f(az_1+bz_2,\ -b^*z_1+a^*z_2)
\end{align}}

 で定めると, {\rho}は表現になるが, {z_1,z_2}について{2j}次({j=0,\ 1/2,\ 1,\ 3/2,\cdots})の斉次多項式の全体が最高ウェイト{j}の既約表現空間になり, {SU(2)}の既約表現はそのいずれかに同値になるということ.

 正規直交基底を

{\begin{align}
e^{\,j}_m(z_1,z_2)=\frac{z_1^{j+m}z_2^{j-m}}{\sqrt{(j+m)!(j-m)!}}
\end{align}}

 と取ることでエルミート内積を定めると, 表現行列;ウィグナーのD行列はユニタリ行列になる.

 これにより正20面体群不変な球面上の関数を構成する問題が, 2変数多項式環上の2項正20面体群の不変式環を定める問題に還元される.


不変式

 少なくともシュワルツ Karl Hermann Amandus Schwarzは2項正20面体群の不変式を既に求めていたらしい[1]. まず正20面体の頂点, 面の重心, 辺の中点を単位球面上に投影する. 1次分数変換として実現される2項正20面体群の作用によって各々の全体は不変である. 次に立体射影によってリーマン球面, 複素射影直線{\mathbb{C}P^1}上の点にそれらを対応付ける. {\mathbb{C}P^1}上の斉次座標で表される多項式で, その複素平面上の点たちを零点にもつものは2項正20面体群の作用によって不変になる.

 クライン Felix Kleinが気付いたのは, 頂点に対応する不変式さえ直接求めれば残り2つは簡単に決められることだった[1].

 シュワルツ・クラインと同じようにリーマン球面の斉次座標の多項式として議論してもよいが, 我々はスピノルを知っているのでその形式で考えることにする. 本質的には全く同じ.

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球面調和関数で正20面体をつくる(4) - 2項正20面体群とマッカイ対応

  • 2項正20面体群
    • 自然表現
    • 共役類
    • 指標表
  • マッカイ対応
  • リファレンス

2項正20面体群

 関連書をいくつか読む中で, この前まで「2重正20面体群」と呼んでいたものには「2項正20面体群」binary icosahedral groupという広く通用する名称があることが分かった. 記号についてはそれほど固く定まっているわけではないものの, 正20面体群をカリグラフィーの{\mathcal{I}}, 2項正20面体群はチルダをつけて{\widetilde{\mathcal{I}}}とする表記を見て[1], 都合が良いのでこの記事からそうすることにする(単なるIはフォントの都合で潰れがちという難がある).

{\widetilde{\mathcal{I}}/\{1,-1\}\cong \mathcal{I}}

 ついでにいわゆる黄金数{(1+\sqrt{5})/2}もこれまでは{\tau}で表していたが, ここからは{\phi}で表すことにする. 余計な記号の変更は本来避けるべきだが. (統一のためそのうち過去記事のほうを変更する)

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