Shironetsu Blog

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金属があることから

 先日の記事で
「これを記した筆者は重力理論の検証を兼ねた宇宙開発を目指している。しかしこの星には鉱物資源が無いため苦労することになるかもしれない。」
と書いた。
「作業仮説」スポイラー補足解説 - Shironetsu Blog

 当初はこのネタをもっと膨らませようと思っていた。
 人間の文明の成立にとって金属が必要不可欠であったことは言うまでもない。しかし、もし金属が使えない天体に知的生命が生まれたら?なかなかに絶望的であることは確か。高度な機械は作れない。医療を発達させられない。普通の方法ではコンピュータを作れない。そんな環境で宇宙進出は望めるだろうか?知性を強化させたり精神の電子化へ進む術はあるか?

 ところで、この宇宙の恒星は世代によって分けられる。大雑把には種族Iが我々の太陽を含む新しい星で、過去に存在した恒星による元素合成で重元素を含み、その惑星は地球のように(過去の超新星爆発などによって)色々な元素を持てる。種族IIは古い星で、軽い元素で構成される。*1

 種族IIの星は惑星を持ちにくいらしいが、この宇宙でも現実に重元素に乏しい天体は存在するためそういう問題は起こりうる(あるいは起こりえた)と思う。もっと身近に、カール・セーガン的ガス惑星生物*2が知性を持てたとして、彼らが自力で肉体に束縛された運命から逃れる術を手に入れられるだろうか。

 好ましい性質をもつ有機物の素材を合成する生物を品種改良で生み出すという生物工学的な手段や、自らの進化という気が遠くなる"優生学的"方法によっていくつかの問題を解決したり、長大な種族的計画を立てて金属が合成されるまで耐え忍んだり、SFとしてそういう可能性を考えるのは面白そう。

 話を戻すと、この話でそういうことに踏み込むのをあきらめたのは、重力的な振る舞いがこの宇宙と大きく異なる天体での元素合成や「第二世代以降」の天体の形成の問題を考えるための知識が全く無かったため(他の点についてはその知識が足りているのかというとそんなことはないが……)。『ディアスポラ』でも触れられていることだが多分ブラックホールだらけになる。そういうわけで金属の問題についてはあまり立ち入らないことにした。

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 こういうありえた可能性について考えるにつけ、人間原理的な「後付け」であるとはいえ、この宇宙とこの惑星が好ましい性質を持っていてよかった、とほっとする。

 知性が発現するだけでは足りない。金属が無ければその先に進めない。知能はあるのに金属が足りない、という悲劇的な状況に立たされることなく済んだことにありがたみを感じねば……。

 とここまで来ると人間にも何かしら「それ以上はどうしても先に進めなくなる」というような軛が別に存在しているのではないかと未知の可能性に不安にもなる。そういった「どうしようもない困難」に気付いてしまう日は来るだろうか。

*1:「第一世代星」である種族IIIというのもあるらしい。

*2:『コスモス』などで木星の気球型生物やそれを狩る生物の可能性が考案されている。アーサー・クラークの短編「メデューサとの出会い」はこのアイデアを受けたもの。『2010年宇宙の旅』では同様の生物がモノリスに見切りをつけられてしまい、エウロパ生物の繁栄のために、第二の太陽の中にくべられることになる。