Shironetsu Blog

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劇中劇としての「屋根裏の道化師」

 ミリオンライブTB03「ラスト・アクトレス」ドラマパート「屋根裏の道化師」の考察記事。

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リリース情報|アイドルマスター ミリオンライブ! THE IDOLM@STER MILLION LIVE! | Lantis web site

 「劇中劇としての『屋根裏の道化師』」……もちろんちょっと気取って付けた記事タイトルだが、きちんと意味がある。ダブルミーニングになるのだ。

 「屋根裏の道化師」という作品はふたつ存在する。ひとつは田中琴葉たちアイドルの出演する映画として。この場合には劇(ミリオンライブ)中劇(屋根裏の道化師)。もうひとつはコレットたち劇団員がミリオン座で演じる演劇作品として。こちらは劇(屋根裏の道化師)中劇(屋根裏の道化師)。更にこの作品は「実話」を基にしているため事態はさらに複雑になる。ややこしい。区別するために前者を映画「屋根裏の道化師」、後者を舞台「屋根裏の道化師」と呼ぼう。

 さて、この虚構と現実が多重の層をなす構成こそがこの作品をサスペンスたらしめているのだ、というのがこの記事で言いたいことになる。

 以下結末にまで触れる。


 最初に劇場のプロデューサーを、次に自主を促したマドリーンを、3人目には自分のやり方を理解しなかったモニカを手にかけた犯人は新ヒロイン:コレットだった。最初の動機は愛する人を殺した道化師の心情を理解するため。「大切な人を殺してみるしかなかった」。コレットはお芝居に真実を求めた結果最初の凶行に及んだ。続く2つの殺人は自分の犯行の隠蔽と劇の成功が目的。

 演じる役のことを理解するため、フィクションの中のキャラクターと一体化するため同じことをする。ここで思い出すのがひとつ前のTB02「三姉妹カフェ」。

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 最上静香は二葉を演じるためふわとろオムライスの、望月杏奈は三奈を演じるためシフォンケーキの作り方を習得しようとする。本人が作れなくても作品は成立するけれど、細部を追求するための努力の向け方として(やや過剰なものの)誤ってはいない。

 フィクションの登場人物になりきるために同じことをする――発想は同じなのだ。しかし空猫珈琲店の世界であれば微笑ましかったこのやり方が、屋根裏の道化師では狂気になる。そこにこの作品の妙があると思う。

 さらにこのコレットを演じているのが田中琴葉なのも凄い。彼女は何より真面目で努力家だ。

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そして演劇経験者でもある(TB選挙で新ヒロイン役に圧倒的票数を獲得した理由のひとつ)。

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 非常に悪い方向に考えると、演劇に真摯に取り組む結果として殺人に及ぶ危うさが一番よく似合う。ふっと役の向こう側に行ってしまいそうなそんな危うさ。対照的に芝居と現実を切り分けるという考え方を持っていたのがモニカで、役者としての周防桃子の姿勢にも通じる。シンシア・ミルズ・ウォーカーにもそれぞれ馬場このみ・真壁瑞希・白石紬それぞれの特性が反映されているのは言うまでもない。コレット-田中琴葉の場合にはそれが真実を追い求め、役に取り組む姿勢だった。

 ところで舞台「屋根裏の道化師」に出演した名前のあるキャラクターは実はコレットだけだ。シンシア・ミルズ支配人・ウォーカー君・リリー警部はもちろん、マドリーン・モニカも公演前に死んでいる(そしておそらく元々脇役でもない)。コレット-田中琴葉だけが舞台「屋根裏の道化師」を演じるという深みに入り込んでいる。多層の虚実を貫く役を演じる田中琴葉の演技はしかし、ごく自然体に感じられる。男性役のミルズ・ウォーカー、子供らしさを一切見せないモニカ対して、コレットの声はほとんどいつもの舞台上の田中琴葉と言って通じる(もちろん抑揚はいくらか違うけれど……)。持ち歌「ホントウノワタシ」「シルエット」のことを思い出しながら。

 ……というのはちょっと悪趣味で考えすぎかもしれないけれど、やはりこのコレット田中琴葉だからこそできる役だし、真面目で努力家、演劇の魅力を知っている彼女自身の魅力を凄まじくよく引き出しているように思う。他の出演者も含め、投票で決まった配役でありながらミリオンライブの劇中劇としてあまりに巧妙に組み立てられている。

 改めて見ると「劇場サスペンス[新ヒロイン]田中琴葉」カード獲得で開放されるこの台詞は重要な示唆をしていたのだと分かる。彼女の真面目さは現実と虚構を混ざり合わせてしまうかもしれない。

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「昨日は寝る前に、台本の読み込みをしていました。役柄が自分に近いと、すこし感情移入しやすいです。」
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「でも、それが思い込みになることもあるので、気を付けなくちゃ・・・え? 真面目だなって・・・も、もう!」

 さて、我々は舞台「屋根裏の道化師」を知らない。しかし実在の殺人犯の模倣犯として自らを仕立て上げたミルズ、「この役の最期まで」演じきったコレットはともに自ら命を絶った。もしかすると「屋根裏の道化師」も最期は……。

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 ひとつはっきりしない謎が残っていた。映画「屋根裏の道化師」クランクイン前、田中琴葉の提案で個人練習を増やすことになる。彼女の理由は周囲と馴染めない新人女優を演じるためで、プロデューサー含めほかの5人も理解を示す。

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 ドラマCDを聴く前、何かこれが大きな鍵を握るような気がしていたけれど、聴いた後になった今でもあまり良い解釈が見つけられていない。

話が逸れた。まとめるとこういうことになる。コレットの狂気は「アイドルマスターミリオンライブ!田中琴葉」というキャラクターのその人格を載せたからこそより一層際立った。これまでのTA、MTGシリーズを超えて「劇中劇」という虚実が複雑に絡み合うフォーマットをアクロバティックに利用した作品、それがこの「屋根裏の道化師」なのではないだろうか。

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 直接関係ない話。そういえば、グリー時代のホラーイベント「悪夢…呪われた人形の館」では演じた役との入れ替わりを示唆する描写があり凝っているのでぜひ見よう。「演じる」とは「憑かれる」ことなのだ。
greemas.doorblog.jp

ミリシタでもホラーイベントやってほしい…。

追記

 この作品をミステリーとして見ると推理要素には物足りなさがある。(あくまで「劇場サスペンス」だという声もあるが、例えばゲーム内オフィシャルブログで「ミステリーサスペンス映画」の語も使われている。)何より思わせぶりにウォーカー君が手に取る鏡写しの4と3が書かれたカード。犯人は日本語で「よみがえり」と読めるこの暗号を、殺人犯「屋根裏の道化師」の復活を予感させることで捜査の攪乱を目論んだ――というのが彼の推理。ところが日本語を読める者は他におらず、おそらく母を日本人に持つことが明らかになるコレットが犯人に挙がる。あまりにもお粗末で不可解だ。ウォーカー君に素性を調べられない限り暗号の意味がそもそも気付かれることさえあり得なかった(というかその意味が理解されるまでもなく劇場の人々は「屋根裏の道化師」を連想していた)。

 しかし上で考えたように少しメタに寄って考えると、不穏な可能性に気付く。ひょっとすると、コレットは劇中で交わされる会話が日本語ではないという暗黙の設定を共有できていなかったのではないか? 彼女は現実と虚構の間を不安定に漂う存在。「よみがえり」の暗号を仕込んだとき、そこにいたのはもしかすると……作品世界に迷い込んだ田中琴葉だったのではないか? そう考えるとそもそも最初の犠牲者が世界観に似つかわしくない「プロデューサー」というのもなかなか意味深長。

 「屋根裏の道化師」は死んでコレットを介して蘇った。舞台から身を投げたコレットが蘇るとすれば……?