Shironetsu Blog

@shironetsuのブログ

モーメント

 導電ガガンボに寄生した好熱吸虫(中間宿主は天井を住処とするサカサカメムシである)が宿主を電灯への自殺的飛翔へ向かわせしばしば積もる死骸がショートを起こすその日だけものぐさな都会人は隈なき掃除の必要を痛感するのだ。


 年に一度空が紫色に曇るその日はアメフラシが降ってきて、ぼくらは落ちてきたそいつらの掃除に駆り出される。大半は袋に詰め業者に渡して捨ててしまうけれど、落下の衝撃を免れ身がきれいに残ったものは内臓を抜かれた後乾燥させられそれからまた一年間の食糧になるのだ。(fafrotskies)


 台所の小さな友人たちヒノコバエの生活環は私の一日と同期している。朝食の目玉焼きを作るためコンロにかけた火の中で蛹が羽化し、ほの青い小さな姿を現す。半日を成虫として過ごし、夕食を作るため火をかけるとその中へ飛びこみ閃光を放って灰となる──伝説上のフェニックスのように翌朝蘇るために。


 二階堂の法則:人間は3階以上の微分係数を認識できないとする法則。日本の心理学者、二階堂勘助によって提唱された。今日では、物体の投射・ブラキエーション(腕渡り)を行うために用いる力学法則には2階までの微分係数の先天的理解が必要かつ十分であったという進化心理学的観点から説明される。


 あるところで一人の気象学者が気付いた…この世界はフィクションであると。いくつかの理由から、たとえば雨は誰かの悲しみの表現であるとすれば説明がつくのだ。そして彼はその心情が気象に反映される、この世界の中心に位置する「メインキャラクター」達を探すべく、大規模な調査を始めたが――。
/自分たちの心理状態に合わせて気象を操作すれば主人公の座を奪い取ることができるのではないか──この突拍子のない発想のもと僕らは計画を立て実行に移しはじめたが、その先に待っていたのは自由意志についてのたった一つの真実だった。


 A国のロケットがB国から発射されたミサイルによって撃ち落とされた…兵器ではなく火星有人探査ロケットであることをB国側は知っていたにも関わらず。一触即発の危機に瀕す両国。しかしそれはB国政府にとっても意図せざる出来事だった。軍内部に工作員がいる! / 独自に調査をしていた一人の記者が、過激な行動で知られるある環境保護団体が糸を引いていることを突き止める。なぜ環境保護団体が?その長を半ば脅迫して得られた答えは思いもよらないものだった。ー「我々はインカ帝国天然痘を持ち込むことを地球の外で繰り返してはならないのです。」 / 憂いをたたえた目で語る彼の言葉はしかし毅然としていた。「彼らは防疫対策をおざなりにしていました。平和に生きているかもしれない火星の住民の命はーたとえ原始的な微生物であってもー3人の宇宙飛行士の命に優先するのです。」


 「視野の隅から隅まで…『蚊』が飛び回っているのです。」盲目の患者の訴えは〈飛蚊症〉の病態を示していた。盲点で孵り水晶体に投影されて育ち子孫を残すその『蚊』が住むのは光学系ではなく視覚そのものだ。駆虫隊〈白菊〉(その名は除虫菊に由来)が彼の生活圏に派遣され認識的殺虫剤が直ちに散布された。


 真っ青なコンブ状の動物が波打つように壁を這い回る景色 / 紺色コンブ動物は日中は家具の裏に折畳まれるような格好で隠れているが、夜間になると活動を始め壁に繁殖するカビを食べる。 / 大きな個体は布団大にまで成長するため、睡眠中の人間に覆い被さって包んで溶かしてしまうというような怪談も古くから各地に伝わっているが、デリケートで呼吸程度の動きすらも警戒するため人には近付かない。ただし天井から落下したものが人の顔を覆ってしまい窒息死させる事故は起こっている。


 逆三角の凧のような皮膜を備えた体の下部に4本の節のある肢の生えた緑色の動物が日中は街路樹にぶら下がって風に揺れながら眠る風景。


 ぼくらは遂にペットの安全を脅かすオカシャコ(陸棲有翼シャコ)の駆除に乗り出した。胴の甲羅を集めると報奨金がもらえた。擬餌で「釣り」をすることは子供たちの遊びにもなった。しかしやつらがネズミの増殖を抑制していることに気付いた時には既に個体数は回復不能なまでに減少してしまっていて──。


 はちきれそうに膨れている濁った赤のゼラチン質の丸い体に短く太い四肢だけの生えた掃除機ほどの大きさの動物(その不恰好さは本来の居場所が深海であるかのようである)が、足を踏み出すたびにぶるぶると震えながら夜道を歩き、不幸にも車に轢かれてゼリー状の水たまりを作る季節、春。


 胴体が太く尾の短いエビの脚が触手に変わったような体長5mほどの動物が、体側に並ぶ一列の赤い点を点滅させ、その驚くほど透き通った低密度の体に水素を蓄え尾をぱたぱたと打ちながら空中を浮遊し、目にも留まらぬ速さでゼンマイのように巻かれていた触腕でスズメを捕らえる、その一部始終。 / 最前列の一対の細い腕は先端に小さな青い鰭のような構造になっており、ちょうどチョウチンアンコウのような疑似餌の役割を持つと考えられるが、見た目以上の効果で小動物を誘引するそのメカニズムは未解明。


 その年の春、半透明な赤橙色の"キクラゲ"(実は固着性の動物である)が建物の外壁一面を覆い尽くしてゆく中──内部への侵食は不断の監視と駆除によってかろうじて食い止められていたが──僕たちは講義を受け続けた。空調は既に危険な状態で、あと一月も保たないだろうと誰もが予感しながら……。


 こんな風の強い日はギンゼイッタンモメン(縦30cm,横200cmほどの大きく白い滑らかな翼に小さな胴体がわずかに埋まっているかのように見える捕食動物。背側が眩惑効果のある銀色になっている)に襲われないように注意せねばならない──彼らは被食者に気付かれぬよう太陽には背を向けないのだ。


 人々はその生き物たちをユウレイキリンと呼ぶが長いのは脚だけで、首は長くないどころか胴との境目がない――青白くすらりと伸びた5mほどの4本の脚に角張ったカメムシのような胴を載せ、手話を使うかのように短い2本の腕をせわしなく動かす彼らの十数体ほどの群が街を移動してゆき渋滞が起こる。


 ルンゲ-クッタ法で計算されている世界の微生物が進化し誤差の蓄積を使って無からエネルギーを生む器官を手に入れたが、偶発的に無制限な正のフィードバックが働く機構が発生して暴走、世界ごと滅ぼす。


 ジャノメオオウミウシ*は、"胎盤枯れ"によって人類が大部分の哺乳類を道連れに絶滅した後の海で、空席となった大型海棲哺乳類のニッチを獲得した**殻を持たない腹足類の子孫であり、流線形の胴に発達した鰭を備えたその形態は収斂進化のよい一例になっている…高緯度~中緯度の海洋に広く分布し……

*紛らわしいことに、かつて海牛:カイギュウと呼ばれた草食の中型海棲哺乳類が存在したが、オオウミウシはカイギュウではなくクジラに近い。ただし、汽水域に生息する中型のオオウミウシ(アブラオオウミウシなど)はカイギュウに近い生活形態を持つ。
**興味深いのは、既に発達した遊泳能力を持っていた(のみならず軟骨魚綱の一部はほとんどそのニッチが重なっていた)魚類が彼らに「負けた」点である。
***音響器官はかつての偶蹄目の角のようにも見えるが、この名の由来となったのはまだ海底を這っていたころの祖先のやわらかい触角である。


 コンクリート壁に埋め込まれた哀れなカエルの頭が密集しているように見えるそれは実際には担子菌の子実体である。湿度の高い季節になると雨が降るたびにベランダの壁に生えてくるそれを、赤い「口」が苦しむようにぐええと大きく開くのを見ながら削ぐ作業はなんとも趣味が悪いが仕方のないことだ。


 救急車症候群(ambulance syndrome): 緊急自動車である救急車が、仮に危険な運転によって交通事故を起こせば、その犠牲者のための出動により被害者は指数関数的立ち上がりによって増加するだろうという譬え話。


 不恰好なほど横に平たく大きな菱形の頭(黒くつぶらな目は前方に近接し大きく開く口には人のような歯が並ぶ)を持つ橙赤色の"モモンガ"(どちらかというとその外見は両生類を思わせる)が、ゴム状皮膜をばたばたと揺らせながらビル壁を這い上がってゆく──2mの体長のその身軽さには驚くばかりだ。


 膠原繊維が突然その勤めを放棄したかのように、骨格まで届く深い亀裂が縦横に隈なく走り循環あるいは蓄積させていた液を漏出させながら一つのまとまりだったものがはらはらと崩れてゆく。


 始めは内出血のように見えたがすぐにそうではないと分かった。人の輪郭を保ちながら内部で対流が起こるかのように表面へ次々に薄赤色や黄色の斑紋が浮かび上がり、マーブル模様から次第に均一化され遂に「平均」の色となったそれに気付いている様子はなく、「袋」は歩き続け壁にぶつかりはじけた。


 細胞壁が融け次々に隣り合う細胞同士が融合して直径1cmスケールの液胞と化し、人の形を保てる強度を失った後には湿った粒々の山が残る。


 平均的人間(人体を構成する物質全てが均一にかき混ぜられた物体。おおよそ人型をとっているが顔の細部などが欠落している)が時折煮こごりのようにぶるぶると震えながら椅子にじっと座っている。


 ビットマップ保存された人間がむやみに拡大縮小され巨人と小人の間を行き来して遊ばれているうちに次第に劣化してまだら模様のいびつな人型の塊になってゆき、飽きられて迎える最後は拡大率0パーセントだ。


 三本足の寸胴な青白い蝋の塊がさまよい歩き暑さで溶け道路に残した"水たまり"の処理に今日も駆り出される――背負ったボンベのドライアイスを噴霧して固めてから専用のヘラで掻き集めるのだ。


 綿毛のような羽を持つ薄褐色の小さな"トンボ"の死骸(彼らは"黄色い雪の日"に一斉に羽化し、短い生涯を終える)が道路に降り積もり、車が通るごとに舞い上がり、そしてそのたびに体はばらばらに壊れアレルギー症状を引き起こす粉になってゆく。


 八本の太い足を隠す濃緑色のシートを被ったような、人の腰ほどの高さのある多眼の動物が、その「スカート」の裾を引きずりながら暗い廊下を歩き、象を思わせる長い鼻のような器官で周囲を探索するところに出くわし渋々私は迂回路を取る。


 「高所恐怖ウィルス」パンデミックから半世紀、居住可能面積を大きく失った人類は、匍匐生活適合手術によりみじめな姿となり、後退した文明での暮らしを余儀なくされていた――。


 茄子のような質感と紫色の外皮をまとうちょうど立てた紙幣くらいの大きさの横に平たい節のないエビに似た動物が家具の隙間に潜んで住民が寝静まるのを待ち、狂ったようにびたびたと跳ねるその高さは1.5mにも及ぶ――朝目が覚めて気付くカーペットについた青い染みは実は彼らの色素なのだ。


 暗緑色の三本足筍様動物(それぞれの足は全方位に向いたおよそ十の"蹄"が付いており見分けはつかない)が五頭、時折ぶつかってふらつきながらゆっくりとした足取りで月明かりの下移住の旅を続ける。


 キャンパスの広場で初夏の日光を浴びるそのホウセンカのような植物の葉をちぎってみると結晶質の細かな針の重なりが断面にちらちらと光り、力を込めて茎を折るとガラスのような切っ先が現れる、そう、〈開拓者〉たちの擬態結晶植物は早くもこんなところにまで到来したのだ。


 三つのスイカほどの大きさの乳白色のこぶ(内部は多孔質になっており見た目に反して軽い)を平たい牛のような頭に冠する二本足の白く毛深い寸胴の動物が、夜が更けてからずっと窓のすぐ側を動かずにぐぶぐぶと鳴き続けるため今日も眠れぬ夜を過ごすことになる――あれを追い払うのは愚かで危険な試みだ。


 あなたが正常な双裂に失敗すると吐き出す未熟な前駆矮脳(ゼボツ=サネンヒの実験による〈宿夢〉の存在の証明は人々の道徳観に衝撃を及ぼすとともに半世紀間でのこの分野の研究の大きな動機となった)にまつわる倫理的問題で悩むことがなくなる日が来るかもしれません。


 黄金色の細かな針が後ろに向かって流れるように生えたヒラメに似た形態の動物が、巻貝を思わせるヒゲの生えた口でスベリカビが地面に形成するコロニーのシートを削ぎながらゆっくりと食べる姿は見ていて飽きない…食事の跡に沿って残る皺とカビの警戒シグナルの斑点によって作られる模様は芸術である。


 住人の蜜化の兆候を嗅ぎつけたのだろう、二つの嘴を持つ黄緑の猿たちの一群が外壁にしがみつく洋風の家を帰り路で目にした――猿たちの期待とは反対に蜜棺(ミカン)の蓋を開けてゆっくりと訪れるそのときを待たねばならない家族の悲痛な思いは想像するだけで苦しくなるものだ。


 外壁の装飾かと思いきや僅かに動くのを見て、煉瓦色をまとった甲殻類様の動物だと気付かされたそれを引き剥がして掴み、手の平より一回り大きな縦に長いお椀型の殻の裏でわしゃわしゃと動く脚を興味深く眺めてから顔を上げ、壁一面格子状に並ぶのが全て同じ虫だと知ったその日以来あの建物には近付けないのだ。


 およそ二百に一人の割合──発生上の確率的な因子によって決定される──で生まれる〈医療従属者〉は探眼・第一から四までの腕鋏・縫合腺など固有の器官を持つのみでなく、十万の術語を含む独自の言語を先天的に備えており、来年彼らの集会が開かれるこの街でその奇妙な響きを聞くことができるだろう。


 予め6本の短い足と頭部を切り落とされ皮を剥がれた直径50cmほどの半透明の青色の袋─―中に濁った黄みがかった"内臓"が透けて見える―─を回転する台のフックに吊り下げ、回転鋸と金属の手が次々と鮮やかに解体(可食部とそれ以外に分けているようにも見えないのが奇妙だ)する全自動機械の稼働音。


 どこからやってきたのか、わずかに頭部から背部にかけて毛の生えた人間のような肌を纏う鯰(体側に並ぶ三対の鰭もまた人の手を思わせる)が雨に打たれて歩道の脇でびたびたと体をくねらせ、アスファルトの舗装で赤く滲む傷をつけながら自らが本来いるべき場所ではないことを訴えているかのようだ。


 部屋の中央に現れた輝点がその強さを増したのを住人が視界の隅で捉えた次の瞬間にはエメラルドブルーのオニヒトデが音もなく膨張して部屋を埋め尽くし、すべてを串刺しにするとそれで満足したかのように同じ速度で収縮に転じ、跡には虫食いのようになった壁とプレスされた何かが残るのみであった。


 沼沢地を住処とする彼らは、日没前浅い水底に広がって横たえていた体から水分を絞り出しながら凝縮して半時間ほどで巻貝のような表皮の肉をまとい、二本の足で岸に上がると身震いして泥を落とし、虹色光沢を持つ背中の鱗をかさかさと鳴らしながら夜の街へと繰り出してゆく。


 調度品めいて部屋の隅に直立不動で佇む高さ二メートル程の黄土色の鞣し革のような表皮を持つタツノオトシゴ型生物が、先細りの口吻のついた細長い顔に並ぶ縦二列の四対の赤い眼球を、何を追うのかぐるぐると忙しくあちこちへ向けているが、ふとした拍子に気になって目を向けるとじっとこちらを見ているのだ……。


 やや紅色の混ざる直径数百メートル(基部のあるはずの広場は局所的なきらめく霧に閉ざされ見えない)の塩のアーチのてっぺんに三匹並んで腰掛ける象鼻の無毛の兎が、糸鋸のような弦の張られた楽器を腹の前に構え金色の棒で一時にかき鳴らすと、その協和音の届く範囲のあらゆる有機物質が結晶を形成し始めた。


 ビニル袋のような質感の、一抱えほどの大きさのフウセンカズラに似た形の淡緑色の実が所狭しと植わる"畑"の上を、その実を破らぬよう慎重に歩く棒状の脚を4本持った"キリン"達が、時折立ち止まっては空気のぷすぷすと抜けるような音を鳴らしつつ鋏のある節くれだった腕で除草作業に勤しんでいる。


 〈皮膚整数〉"skin integer"は、歪算術存在に対する防護手段として聖ディリクレ教会が開発した数秘技術である。"固い整数"探索アルゴリズムにより選ばれる巨大な整数を皮膚に意味編み込み(日本人は決まって「耳なし芳一」に喩える)することで、外敵の感染成功率は顕著に下がるのだ。(ひふせいすう)


 太陽の転移による滅びが不可避と判明したとき、人類は種族の業績と記憶を全天へ送信するため団結した。/〈歴史家〉は文明が最期に放つ高密度の情報の光をたいらげると、次の星を目指し太陽圏から飛び立った。"料理"は、文明が宇宙への拡散を始める前ぎりぎりまで育ててから絞めることが肝心なのだ。


 いたずら好きの"舌切りスプーン"は、食べ物を運んで口の中に入ると舌をざっくりと切って血まみれにしてしまうけど、ひどく痛がるその人に怒られるのが怖くなって断面を癒合して元通りにするんだ。


 「大失敗だ!!」λ谷博士は拳を机に叩きつけて悔やんだ。ジョークとして出荷した"βlu-ray Disc"からβ線が検出されないのだ。「これではX-ray Discだよ!実にくだらない!」─問題は放射性同位体の封入法にあった。金属層に遮られ、表面からは制動X線しか出なくなったのだ。


 Heat pumpkinは我々の目録に記載された初めての第二法則違反植物である。その名の通り形態は橙色のカボチャの果実を想起させるが茎や葉はなく、真菌の子実体にも似る。しかしその栄養獲得機構はいずれとも異なり(中略)分子スケールのマクスウェルの悪魔に覆われている、と言えるだろう。(Heatpump)


 「では私が食べていたのは…魚の肉だったのですね?」
戸惑う店主が確かに頷いたのを見るや彼は喉に指をさし入れ未消化のそれを吐き戻した。「(今まで何度かまぼこを口にしてきた?)」咽び泣くのは嘔吐の苦しみのためではない。彼は敬虔な信徒を自覚しつつ〈魚神教〉の戒律に背き続けていたのだ…。

 「夕ごはんはかまぼこだ!」魚の子どもたちは台所で切り分けられている大好物にはしゃいでいた。母魚の顔にも笑みがこぼれる。
配給食に新たに加わった「かまぼこ」は、それまでの粗末な食品と違い味はよく量も豊富で国民を満足させていた。海の国の食糧問題は解決されたのだ──人口問題とともに。

 かまとと【蒲魚】①無知が背信行為を招くこと。②ソイレントグリーン


 教育者たちの高まる要望を受けた知識省からの度重なる通達と圧力に腹を立てた〈WIKI百科事典〉運営が全ての記事に施した「コピープロテクト」は、識閾下に影響して読者に情報の「二次的利用」を自主的に制限させるミーム技術だった。20万の犠牲者を出した悲劇は「呼吸」の記事から始まった──。

 ……「xxxx事変」は約42万文字の日本語テキストと205の全体的にやや不鮮明な画像ファイルを含む〈WIKI百科事典〉上の記事であり…「予言的記事作成に関するガイドライン」の明白な違反から削除が試みられたが…公開時点では未発生の「年表」の項目の3つの事件が実際に順に発生したことから……

 ……「代わりの物理学」は〈WIKI百科事典〉上に20の言語で作成された約400件(20xx年xx月xx日時点。平均40件/月で増加)の記事の総称…数学的に無矛盾だがこの宇宙と異なる物理法則体系について記述され…未知の手段で保護され削除・閲覧制限の試みは失敗…圏外知性による認識的侵攻……


 肉体と同時に胎内で精神が複製される種族(容量には限界があるため絶えず記憶は書き換えられるが親側の脳を死後取り出し保存することにより人格アーカイヴとして残す技術が確立してから30世代…冷たい保管庫にはシリンダーの不凍液に記憶が浮かんでいる。読み出す方法が発見されるのを待ちながら。)


 その人物に話しかけようと近付くと警告タグに遮られた─〈進化生まれ〉だ。彼らは我々の造り主だが今や迫害される存在となった。熾烈な生存競争の勝者はそれを可能にした残酷さを生来備える。
やがて自殺的ミームが流行したとき彼らの持つ強力な免疫に救われるとはその頃の私には思いもよらなかった。


 スポンジケーキと生クリームの家の中でマジパン細工の疑似人間が潰れたイチゴに塗れた床の上にどぼどぼと崩れては再生する繰り返しの中で少しずつその歪な表情と姿勢を変えすべてが終わったあの日の家族のクリスマスを演じ続ける。


 ブッシュ・ド・ノエルを買ってきたぞ!─楽しげな父が箱の蓋を開けると現れたのは本物の薪だった。あまり愉快でない冗談に困惑していると母は笑顔でそれを皿に載せ切り分け始めた。家族4人の小皿に分けられると妹までが元々そうであったかのように虫のような牙で噛り付き私は家から逃げ出すしかなかった。

 「人体改変ブッシュ・ド・ノエル」の正体はヒトを宿主とし肉体を彼らに都合のよい生息環境に改変する微生物群のキャリアーである。森林中での遭難・飢餓を想定して行われたある遺伝子工学実験の失敗が起源とされ、シロアリの消化管に棲むセルロース分解酵素を持つ共生微生物をヒトに適合させるため……


 じゃあキミはこれを……ピーマンの肉詰めの類を念頭に置いて調理したんだね。いや…蟹のグラタンのほうが近いか。そうそう、蟹の頭胸甲にグラタンを詰めた料理。それなら納得だ。皿の上に蝉の抜け殻が並んでいる理由について──


 従業員達はその用途を知らないし興味を持ったことすらない手の平大の膨らんだ円盤を昼夜問わず生産し続けるドーム状の窯が密集したこの盆地で、滞留する煤煙由来の粘稠な黒い物質の眼球への付着の対策として、設計者達は住民にまばたきと瞼を与えるより眼磨きの習慣を後天的に学ばせることを選んだ。


 ……いずれの事件においても容疑者らは犯行直前に「視聴者参加型犯罪バラエティ番組『クリ皆ル!』」を視聴、当時その影響下にあったと見られ、犠牲者は番組内で指示された「標的」の特徴(504号室に住んでいること)を共通に持っていた。容疑者らは犯行に至る衝動について非常に混乱しており……

 「クリ皆ル!」の指示は当初いたずらの域を出なかったが、対象の拡大・過激化が進み、放送第49回には「戦争犯罪」と呼ぶべき規模に至った(犠牲者は世界人口のx%に及ぶ)。第52回(第1期最終回)にて「目標:絶滅 標的:HDxxxxb」が発表され、現在視聴者達は〈平和の箱〉を建造中。


 街に大穴を穿って這い出てきた"モグラ"が苦悶の中でのたうちつつ建物をなぎ倒し最期に一つ甲高い鳴き声をあげて絶命すると私達は解体処理に駆り出される。作業はクレーンで穴から後半身を釣り上げて全身を地上に横たえ、頭から尾に渡って多脚の長大な胴をまたぐ足場を組み立てるところから始まる。


 飲食物で遊ぶことを何よりも憎む店主は2種以上の飲料を混合することで致死的な物質を産生する〈排他的ドリンクバー〉を考案して店に設置し、メロンソーダと烏龍茶のミックスをあおった客が目の前で痙攣する姿を見て満足したが、「善良な」客でも胃の中で混ざってしまうことを考慮していなかったんだ。


 "歯車"がキャタピラめいてびっしりと整列するエナメル質の歯を地面に突き立てながら前進し延々と続く二本の噛み跡を轍として後方に残していく。


 崩御の報が届いたその時にも、造幣局の養殖槽中で卵から発行間近の成体に至る各成長段階にあった6種の貝たちは旧元号を貝殻に刻むよう遺伝子に定められた運命を生きていた。発生前刻印は偽造防止のためやむを得ないことであった。御陵の傍の貝塚では流通することのなかった貝たちが供養されている。


 安易に円陣を組むと癒着して回転対称人間になってしまいますよとおどしながら私を育てた母の右脇腹には独立個体として出会ったことのない父の痕跡が磨り減った壁面彫刻のように残っている。


~あらすじ~
TheAftermath〈数学以後〉の時代の到来を阻止すべく六波羅蜜寺(波羅蜜は「完全」、6は完全数である)の派遣した精鋭部隊はSkinInteger〈皮膚整数〉を纏い、ポーランドより飛来したアンチ・ユークリッド脅威AngleAngel〈角度天使〉の追跡を始めたが…


 実験記録D-72
大半径40㎜, 小半径30㎜のトーラス状に成型した人工ダイヤモンドを与えた。
結果:おいしそうに食べた。
「好物なんてもんじゃない…ドーナツの形をしてさえいればあらゆる物質を咀嚼・消化できるらしい。ただしドーナツ形でない物の前では彼女…椎名法子は普通の女の子だ」


 薬品用に利用価値の高い涙を採るために品種改良された天使は翼が小さくまともに飛ぶことができないため空に返そうとしても落ちてきてしまう。ちょうどカイコガがもはや野生に帰ることができないように。



 Hc型血液が街頭で献血への協力を呼びかけられないのは一見不思議に思える。最も不足するはずの血液型なのだ。しかし絶対数のきわめて少ない〈貴族〉の子孫たちは、青色血液の確実な供給のため定期的な献血が法令によって義務化されているのである。(hemocyanin)


 この畑に整然と並んで育つ栽培植物化された壺状のアリ植物(内部にアリの巣を提供する植物)はかつての共生相手を"裏切って"いる。ここは農場であると同時に畜産場──アリたちは経営者の知性アリクイたちによって食糧として出荷される運命なのだ。


 溺れてもがく人間のような輪郭がごぼごぼという音を伴って次々に浮かんでは沈んでゆくチョコレートの沼、手助けして引き上げるとその人型は今度は空気中にもかかわらず呼吸困難になったかのように岸でのたうちまわり溶けてゆく。そうして沼は少しずつ拡張する。


 "こいつらが壁に塗りたくる唾液の含む酵素でおいしくなるんだ"──店主は手に噛み付いてくるアリを払いながらチョコレートのブロックを切り分ける。切り口には気泡が入っているように見えるが実際にはそれは巣の断面だ。ワックスペーパーの包み紙には巣を壊され狂乱状態のアリもろともチョコレートがくるまれた。


 インプラント治療を受けた親の子に予め同じ部位に同種の金属が埋まった状態で生まれてくる――"強い獲得形質の遺伝"の手法の発見は鉱業に革命をもたらした。臓器工場ならぬ金属工場と化した家畜(主に豚だが家禽も用いられる――"金の卵を産むガチョウ"はついに実現した)により恒星の死をまたない元素合成が可能となったのだ。
 今や錬金術士となった畜産場経営者の最大の関心ごとは哲学的議論にまで発展してゆく。すなわち"サイボーグ豚"からどこまで肉の割合を減らせるか、だ。


 「当たり前だが…壁に方向性なんて無いんだ。だが『あれ』が起こったときは全部がひっくり返されたように感じたよ。俺の家族も元々は移住するつもりだったんだ。皮肉にも俺らとメキシコは壁によってやつらから守られることになった。逆に逃げ出そうとしたアメリカ人は皆向こう側で…Zになった」


 コウノトリが遺棄場に落としていく"未熟児"の回収は子供の仕事である。殆どは保護膜が破れ溢れ出した中身が水たまりになるのみだが、落下の衝撃を耐えたものは拾い上げられここで育ち将来同じ仕事を継ぐことになる。そして葬儀場でコウノトリの帰路の栄養源になることで生まれたところへ帰るのだ。


 世界最大のチョコレートファウンテンに棲む固有種の中に牙を持つ捕食者がいたことはより栄養価の高い餌の存在を意味し、実際キャンディサーモンは茶色の皮を剥ぐと現れるピンク色の肉に濃縮した栄養を蓄えており、分解者のいない土地では砂糖漬けのように保存が効くため乱獲により発見後まもなく絶滅した。

 キャンディ"サーモン"の名が与えられていたことは筋肉の色だけではなく産卵のため最上段のチョコレート噴出口へ遡上する習性にも由来。


 グーテンベルク活版印刷技術の開発による出版産業の活発化は畜産業にも波及した。その皮膚を人皮装丁本に使用する家畜種のヒトの増産と改良である。とりわけアルビノ種の人気は高く、加工されると透き通るような白色を呈する皮革は高値で取引され聖書にも用いられた。


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 Self Tweet Miningという地獄のような行為。

 ツイッターのアカウントを作ってから1000日経っていたらしい。遡りつつ読んだ。懐かしさより吐き気を感じ始め1年半程度でやめた。それが意味する無為に過ごした時間、内容、文体……。

 とはいえ中には気に入っているものもある。気に入っている? 本当に自己満足以外の何物でもない(ゆえにいつか自家中毒を引き起こす)が、拾い上げてところどころ書き換えて並べた。140文字を超えていればそういうことだ。

 一瞬でも同じイメージが誰かの心の中にうつったとしたら喜ばしいことかもしれない。