ミリシタPST「昏き星、遠い月」のコミュを解きたい
昨日19日から開催されているミリシタのイベント「昏き星、遠い月」のメモ(考察)。ネタバレ注意。
現時点で公開されているエピソード(コミュ)を全話再生し終えたら、色々仕込まれた伏線に気づいて楽しくなってきた。妄想を多分に含む。
主眼となるのは天空橋朋花演じるクリスティーナは何者かという問い。一見エドガーがその眼差しを向けるようなはかない存在のように感じられるが、おそらく実際には吸血鬼らしくしたたかに動いている。とはいえエドガーへの愛に偽りはなく、そのねじれが味わい深い。
ミリラジMIDNIGHTで情報が公開された時点ではちょっと奇抜で楽しい試みくらいに考えていたが、読んでいくにつれ想像していた以上にハードに作りこまれているぞという確信を深める。曲とストーリーががっちりリンクしているのでフルサイズの公開も待ち遠しい。
エピソード順に追う。
第1話「夜のはじまり」
メインキャラクター4人の基本的な設定の確認。
「男装してる女の子」エドガー:所恵美
「まるで女の子のような男の子の吸血鬼」クリスティーナ:天空橋朋花
「騎士でヴァンパイアハンター」アレクサンドラ:二階堂千鶴
念のために書いておくと女性である(一般にアレクサンドラは女性名)。
「辺境伯夫人」「悪女」エレオノーラ:百瀬莉緒
この他にアレクサンドラの妹ノエルを水瀬伊織、クリスティーナとエドガーを襲う不良を永吉昴が演じる。
第2話「ボーイ・ミーツ・ガール」
- 路地裏の死体
エドガーへの反応を見るにまあクリスティーナの餌食になった犠牲者だろう。
(エドガー)「……って言うか、なんであんなとこにいたんだ、アンタ? 見たとこ、どっかのお嬢様だろ」
(クリスティーナ)「ええ、用事があったんです。……もう、その用は済みましたが……」
死体の近くにいたのは順当にクリスティーナがその犯人だから。もっとも、この段階ではクリスティーナの潔白の可能性は捨てきれないが、このあと裏付けとなる描写がいくつか出てくる。
- 倒れるエドガー
前後が分からない以上倒れた理由については何とも言えない(つまりクリスティーナが原因ではないかと疑うには根拠が弱い)。この場面の役割としては、エドガーが女性であることにクリスティーナが気付き逆に秘密も明かす流れにつなげるため、というだけで十分か*1。
- (エドガー)「あんな場所じゃ、女は生きていけないから……」
「女の子のような見た目の男の子」を天空橋さんに演じさせる、と聞くと「性癖……」とうなってしまう。が、日に焼けていない白い肌だとか華奢な体つきだとかいったいわゆる中性的な見た目という以上に女性的な服装をしているらしいことは後の台詞からも分かる。「見たとこ、どっかのお嬢様だろ」と言われる程度に煌びやかな服装。「女は生きていけない」ほど治安が悪いのに? 続く第4話でその理由が示唆される。
第3話「聖母とギャルの…」
第4話「緊張と波乱の第二幕!」
- (アレクサンドラ)「もし、ノエルが……妹が成長していれば……あれぐらいの少女だったのだろうか……」
人間がヴァンパイアに変化した時点で成長が止まるらしいことが分かる。オーソドックスなヴァンパイアルール。「あれぐらいの少女」が指すクリスティーナも実際には百以上の歳を重ねているはず。歌詞にある通りに。
ちなみに、後でヴァンパイアだと見抜かれたエドガーとクリスを前にしてアレクサンドラが「まだ子どもでは」と驚くのは本来不合理。実戦経験の少なさから油断が出たか。というか、「ヴァンパイアハンター」ということになっているが実際に狩ったことがあるのか疑問。
- 不良役永吉昴
クリスティーナの宝石とドレスを狙う不良。治安の悪い場所で宝飾品をわざわざ身に着けている……のは「獲物」を釣るためという実用的な理由もあるのだろう。エドガーとの出会いの夜もおそらく同じように。
ある意味ではエドガーと同じ理由ということ。しかし目的が真逆。
- (昴)「なぁ、P。この場面って、ふたりの不良がクリス達を襲うシーンだろ? オレだけじゃ死体が足りないから、Pも死体役になってよ!」
不良ふたりがいつの間にか死体になっている。ここ作中作であることをうまく生かしているなあと感心した。舞台上の場面としてはそのシーンを描くことなくどう進行したのかが分かる*2。
そしてこの死体ふたりはクリスティーナの仕業。
エドガーは気付いていないし思いもよらないのかもしれないが、クリスティーナは人を殺すことには躊躇いがないし、ナイフを持った不良2人を相手にできるほど強い。クリスティーナの犯行の証拠はこうして読み手に示されている。捕食者と被食者の関係。理想的なヴァンパイア。出会いの日の「用事」は狩りだったのだとここで確信が深められる。
しかし愛しのエドガーにはそれを知られてはならない……今のところは。出会ったあの日に気付かれなくて幸運だった。
- (クリスティーナ)「エドガー、選んでください。ここで死ぬか……。もう二度と死ねない身体になるか」
この世界でもヴァンパイアはヴァンパイアによって人間から変化させられて生まれるものらしい。ヴァンパイアも「元は人間」だとアレクサンドラも繰り返し口にしているし歌詞にもある。
ということが明らかになると同時に「誰が誰をヴァンパイアに変えたか」という問題が発生し、物語の鍵になる。
- (アレクサンドラ)「報告によると、近ごろ農場の鶏が襲われる被害が多発しているらしい……」
「近ごろ」はおそらくエドガーがヴァンパイアになってからのことで、その前は人が襲われていたのだろう。
- (クリスティーナ)「アナタが人を襲わないかぎり、私も、人の血を飲んだりはしません」
条件付き。エドガー、貴方が人の血を求めるなら、私も貴方のために……。
- (クリスティーナ)「……行けません。私には、罪があるから……。共に旅に出れば、アナタまで命を狙われるでしょう」
明らかに伏線。クリスティーナの罪? 最初に読んだときはノエルがヴァンパイアになった原因だからかと予想していたが、そうではないとすぐに判明する。
そして先取りすると最終的にクリスティーナはエドガーと共に旅に出ることになる。エドガーと一緒ならもう恐れることはないと信じたか、あるいは……罪がつぐなわれたか?
第5話「セクシーと芝居に近道なし」
千鶴さんのついている「嘘」が妙に重いものに思えてくる。そんなに深刻にならないで……。
考えてみればいつも美容に気をつかう莉緒さんに不老不死のヴァンパイアの役を演じさせるというのもうまい。
涙もろい恵美さんに純粋無垢なエドガー役をあてるのも良い。朋花様は言うまでもなく。全員適役!!!!
第6話「星と月へ」
- (クリスティーナ)「感謝します、アレクサンドラ。お礼に、あることをお教えしましょう」
- (エレオノーラ)「あら……人間ごときが、私の正体を見破るなんて。どうしてわかったの? 褒めてあげるわ、ウフフ」
アレクサンドラがエレオノーラの正体を知ったのはクリスティーナに教えられたからに他ならないが、クリスティーナが知っていた点には一考の余地がある。
ここまでの展開からはクリスティーナとエレオノーラの接点は見えていなかった。なぜここで突然?
いくらか論理の飛躍を含むものの、クリスティーナがエレオノーラをヴァンパイアに変えたのだとするとそれなりに筋が通る(そしてそれこそがクリスティーナの罪だというのが自説)。エレオノーラがクリスティーナによってヴァンパイアになる。力に執着するようになったエレオノーラが「弱い」ヴァンパイアを淘汰しはじめる。同族が次々と殺され孤独な存在になるとともにエレオノーラを生み出した罪を負うクリスティーナ(前日譚の想像が広がりますね)。
度々強調される「孤独」に深い意味があるとすればそういうことかもしれない。永遠の命を共に生きてゆけるエドガーがその孤独を癒してくれたのだ。
悪人のいない「約束の地」を目指すエドガーと、強いヴァンパイアだけが支配する世界を作ろうと目論むエレオノーラの理想主義的な面もどこか重ならないだろうか。もしかつてエレオノーラに永遠の命を与えたのがクリスティーナだとすれば、そういった部分を愛していたのかもしれない*3。
そしてアレクサンドラに「身内」の秘密をあえて暴露したのはエレオノーラを殺すように仕向けるため。決してただの「お礼」ではない。おそらくクリスティーナはエレオノーラと一対一で戦えるほどには強くないが、自分の敵でもあるヴァンパイアハンターを使役することはできない。しかし純粋なエドガーの説得によりアレクサンドラという武器を手に入れ遂に敵討ちの好機を得る。
命を狙われる危険がありながらこの土地から離れられなかったのはエレオノーラを殺さなくてはならなかったから。潜伏しながらその機会を窺っていた(少女を装っていたのにはそういった理由もあるかも)。そしてそれを成就し罪を清算したクリスティーナはエドガーと一緒に旅立つことになる。
……というあたりに思い至ったときぞっとすると同時に本気でストーリーを作っている……!と興奮した。一解釈に過ぎないけれど。まあ間違っていたとしても二次創作みたいなものだ。しかし少なくとも練習場面しか見ていないのにこういうふうに読ませる余地が与えられているのはすごい。というかむしろ観客としてではなく(本来物語を隅から隅まで理解しているはずの)製作者側の視点に立ちながら少しずつ物語の全体像が見えてくるという仕組みが楽しい。
この先開放されるコミュやCDで明かされる「昏き星、遠い月」の細部はもちろんのこと、続くイベントも楽しみですね。まずは今のイベントを走ろう。
ぼくはこの組み合わせ。
(1/27追記) 真壁瑞希さんお誕生日おめでとうございます。
イベントお疲れさまでした。フルサイズの先行配信は来ませんね……。
エピローグ「令嬢達の夜会は終わらない」では特にシナリオに関して新たに明らかになったことはなかったものの、イベントSR「夜想令嬢 天空橋朋花」に印象的な台詞があったので言及。
「あなたが選ぶなら、私も選びます。罪を重ねることでしか生きられないのであれば、その罪は、私が引き受けます。私から貴方に、この世ならざる生命を……。エドガー。生きて……。」
やはり「罪」とは人間にヴァンパイアとしての生命を与えることを指しているように見える。ただ「引き受ける」という表現に若干引っかかるところも。「罪を重ねることでしか生きられない」というと人間を食料とすることを言っているようにも聞こえるが、しかし行為そのものに罪悪感があるかというと(上にいくつか並べた描写から)疑問。
ところで不老不死ないし圧倒的な長命の存在とモータルな存在の間に発生する感情は良いものですね。歌の最初の部分で表現されているのは、「終焉(おわり)などは訪れないさ」と語りかけるエドガーと、「永遠なら知っていますわ、十年(ずっと)百年(ずっと)獨りでいたから」と返すクリスティーナの間の「永遠」の捉え方の違い。冷たく孤独な「永遠」を生きてきたクリスティーナは若く無垢なエドガーにも「永遠」を生きてゆかせるべきか苦悩したが、最終的には共に歩める喜びを分かち合えたというストーリー。
(1/27追記2)
日付の変わり目に上の追記部分を更新した直後に配信が来ていた。嬉しい。
「欲しいと願うことの罪 とても贖えない」「望まぬまま堕ちることも罪と呼ばねばならぬのだろうか」「虚ろな世界 壊してしまって 作り直すの」「ねえ、とても愛していたわ。本当よ……私の愛し子」
ミリシタサイズには含まれない意味深な言葉がたくさん入っていますね……。
(1/27追記3)
歌の最後のエレオノーラの「愛し子」ショックがあまりにも巨大。エレオノーラが逆にクリスティーナをヴァンパイアに変えた、くらいなら考えたものの実子という可能性は考慮すらしていなかった。「まるで愛し子」(6話)だけならエレオノーラに実子がいないとしてそう表現するのも分かるが、わざわざ歌の最後に持ってくる言葉がノエルに向けたものだとは考えにくい。「本当の愛し子」がいると思ったほうが自然(あくまで楽曲とシナリオが一対一に対応しているとして)。
何もわからない。
(3/1追記) ロコさんお誕生日おめでとうございます。
ぎりぎりCDが発売される前と、聞いた後に新たに記事を書いた。CDのドラマパートで「答え合わせ」ができたかというと……。
ボイスドラマではクリスティーナが男だと触れられていないことからゲームとCDは相補的な内容かと思いたいところだが、両方ともにある描写が結構違ったりするので独立したものと考えるのも一つの手かも?あまり美しくないけど。
「正解」をはっきりさせていないのはこうして楽しませるためでもあると思うので、ただもう人々の色々な解釈を見たい。あなたの最強の「昏き星、遠い月」解釈を読ませて……。
shironetsu.hatenadiary.com
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