Shironetsu Blog

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6次対称群指標表手作り体験記

はじめに

定理:対称群の自己同型群

{n\geq 3}に対して*1,

{\begin{align}
{\rm Aut}({\frak S}_n)\cong \left\{\begin{array}{cc}
{\frak S}_n&(n\neq6)\\
{\frak S}_6\rtimes{ \mathbb Z}/2{\mathbb Z}&(n=6)
\end{array}\right.
\end{align}}

6次の対称群{\frak{S}_6}は異常な性質を有している. 対称群の中で唯一外部自己同型写像が存在するのである(自分はこの事実を次の講義ノートで知った. 物理数学III (2017) )

引用を含む引用になるが,

このような例外的な同型対応が,交代群 {A_6} のところに集中して現れていること

{
A_6\cong L_2(9)\cong S_4(2)'\cong M_{10}'
}

は注目すべきことである。この群は,この性質故に(小さい群であることももちろんあるだろうが),様々な場面で出くわすものである。{A_6} を見るたびに,鈴木通夫先生の「群論」[1]の一節({{\rm Aut}\cong A_6\neq S_6} を受けて)

この例外が有限群論に及ぼす影響は非常に大きく,単純群論をとても困難なものにしている大きな理由の一つである

を思い出すものである。例外的な自己同型があるため,{A_6} を指数2で含む群として,

{S_6,\ PGL(2,9),\ M_{10}}

という3つが存在しうるのである。

らしい[2]. なお「このような例外的な同型対応」はその前段で述べられている, 異なる系列の有限単純群間の同型対応を指している.

 念のため注意しておくと, この引用を除いて本記事中では対称群と交代群には{\frak{S},\frak{A}}(フラクトゥールのSとA)を当てる. 後々の記号の衝突を避けるため.

 さて, 本記事ではこの{\frak{S}_6}の既約ユニタリ表現を求めることを目的にしている.

 対称群の既約表現の理論は非常によく整えられており, 既約指標も表現行列もそれを求めてしまう一般的な方法が存在する[3,4]. しかしちょっと味気ない. できれば既約表現それぞれの個性を感じたい.

 とはいえ道標はあったほうが良いので指標表は先に載せてしまおう. 一般論を知らなくても, 簡単に求められる5次元既約表現の直積表現の分解(既約指標の直交性を利用しながら. 対称群の指標は一般に整数に限られることも利用できる)から他の既約表現の指標も出てくる.

{\begin{align}
\begin{array}{|c|ccccccccccc|}\hline
{\mbox 共役類}|C|&\lbrack1^6\rbrack&\lbrack1^33\rbrack&\lbrack3^2\rbrack&\lbrack1^22^2\rbrack&
\lbrack15\rbrack&\lbrack24\rbrack&\lbrack1^42\rbrack&\lbrack2^3\rbrack&\lbrack1^24\rbrack&
\lbrack123\rbrack&\lbrack6\rbrack\\ \hline
{|C|}&
1&40&40&45&144&90&15&15&90&120&120\\ \hline
{\bf 1}&
1&1&1&1&1&1&1&1&1&1&1\\
{\bf 1}'&
1&1&1&1&1&1&-1&-1&-1&-1&-1\\
{\bf 5}{\rm I}&
5&2&-1&1&0&-1&3&-1&1&0&-1
\\
{\bf 5}{\rm I}'&
5&2&-1&1&0&-1&-3&1&-1&0&1\\
{\bf 5}{\rm I\hspace{-.1em}I}&
5&-1&2&1&0&-1&-1&3&1&-1&0\\
{\bf 5}{\rm I\hspace{-.1em}I}'&
5&-1&2&1&0&-1&1&-3&-1&1&0\\
{\bf 9}&
9&0&0&1&-1&1&3&3&-1&0&0\\
{\bf 9}'&
9&0&0&1&-1&1&-3&-3&1&0&0\\
{\bf 10}&
10&1&1&-2&0&0&2&-2&0&-1&1\\
{\bf 10}'&
10&1&1&-2&0&0&-2&2&0&1&-1\\
{\bf 16}&
16&-2&-2&0&1&0&0&0&0&0&0 \\ \hline
\end{array}
\end{align}}

 各既約表現は次元のボールド体と付加的な記号(I,II,プライム)によって区別する.

 {\frak{S}_6}に関する基本的な事実. 6の分割は11通り.

{\begin{align}
\lbrack 1,1,1,1,1,1\rbrack,\lbrack1,1,1,1,2\rbrack,\lbrack1,1,1,3\rbrack,\lbrack1,1,2,2\rbrack,\lbrack1,1,4\rbrack,\lbrack1,2,3\rbrack,\lbrack2,2,2\rbrack,\lbrack1,5\rbrack,\lbrack2,4\rbrack,\lbrack3,3\rbrack,
\end{align}}

それぞれ

{\begin{align}
\lbrack 1^6\rbrack,\lbrack1^42\rbrack,\lbrack1^33\rbrack,\lbrack1^22^2\rbrack,\lbrack1^24\rbrack,\lbrack123\rbrack,\lbrack2^3\rbrack,\lbrack15\rbrack,\lbrack24\rbrack,\lbrack3^2\rbrack,
\end{align}}

と略記. 各分割に置換の型が対応し, 同時に共役類にも対応するのでこれらを同じ記号で表す.

 既約表現は共役類の数に等しく11個. 各共役類の大きさ, 符号は表に書かれている通り. ヤング図形についてはほとんど触れないが, 既約表現の次元は対応する分割のヤング図形の標準盤の数に等しいことを述べておく[3,5].

 ここから各既約表現を見ていく.

6次対称群のユニタリ既約表現

1表現

 自明な表現. 恒等表現.

1'表現

 符号表現. 正規部分群{\frak{A}_6}による{\{1,-1\}}への準同型写像.

 他に正規部分群は存在しないため, 2つの1次元表現を除いて他の既約表現はすべて忠実(シューアの補題). {\frak{S}_n}の生成元:隣接互換{s_i=(i,i+1)\ (1\leq i \leq n-1)}の関係

{\begin{align}
s_i^2&=1\\
s_is_{i+1}s_i&=s_{i+1}s_{i}s_{i+1}\ \ \ (1\leq i \leq n-2)\\
s_is_j&=s_js_i\ \ \ (|i-j|\geq 2)
\end{align}}

が成立するように生成元の行き先を決めれば表現も決まる. 他の共役類の代表元も計算して指標の既約性をチェックすればよい.

5I表現

 {(1,1,1,1,1,1)}の直交補空間に対する{6\times 6}置換行列の作用. {n}次対称群に対していつでも同じ方法で{(n-1)}次元既約表現が得られる. 指標は

{\sigma \in\frak{S}_n=\left\{\sigma\mid \sigma :\{1,2,\cdots, n\}\rightarrow\{1,2,\cdots,n\}\right\}}

の(固定点の数)-1. より簡潔には, {A_n}型ルート系のワイル群が{\frak{S}_{n+1}}になることから {n}次元ユークリッド空間の鏡映群として実現される表現と言える.

f:id:shironetsu:20180701165209p:plain:w300
{A_5}のコクセター図形.

{A_5}の単純ルートは5次元ユークリッド空間中に

{\begin{gather}
\alpha_1=\left(1,0,0,0,0\right),\ \ \ 
\alpha_2=\left(-\frac{1}{2},\frac{\sqrt{3}}{2},0,0,0\right),\ \ \ 
\alpha_3=\left(0,-\sqrt{\frac{1}{3}},\sqrt{\frac{2}{3}},0,0\right)\\
\alpha_4=\left(0,0,-\sqrt{\frac{3}{8}},\sqrt{\frac{5}{8}},0\right),\ \ \ 
\alpha_5=\left(0,0,0,-\sqrt{\frac{2}{5}},\sqrt{\frac{3}{5}}\right)
\end{gather}}

と取れるが,

{
R_i : x\mapsto x-2(\alpha_i,x)\alpha_i
}

と定めると{s_i\mapsto R_i}が忠実な表現になる.

5I'表現

{\rho_{{\bf 5}{\rm I}'} : \sigma\mapsto {\rm sgn}(\sigma)\rho_{{\bf 5}{\rm I}}(\sigma)}

つまり{{\bf 5}{\rm I}}表現の奇置換を{(-1)}倍した表現. 同様の方法でいつも既約表現が得られるが, これはヤング図形の転置に対応している.

5II表現

{\begin{align}
\begin{array}{|c|ccccccccccc|}\hline
{\mbox 共役類}|C|&\lbrack1^6\rbrack&\lbrack1^33\rbrack&\lbrack3^2\rbrack&\lbrack1^22^2\rbrack&
\lbrack15\rbrack&\lbrack24\rbrack&\lbrack1^42\rbrack&\lbrack2^3\rbrack&\lbrack1^24\rbrack&
\lbrack123\rbrack&\lbrack6\rbrack\\ \hline
{\bf 5}{\rm I}&
5&2&-1&1&0&-1&3&-1&1&0&-1\\
{\bf 5}{\rm I\hspace{-.1em}I}&
5&-1&2&1&0&-1&-1&3&1&-1&0\\ \hline
\end{array}
\end{align}}

 指標表を見ると, {{\bf 5}{\rm I}}表現の指標を入れ替えたものになっている. 察しの通り, {{\bf 5}{\rm I}}表現と外部自己同型写像の合成によって構成できる. すなわち,

{\begin{gather}
\rho_{{\bf 5}{\rm I\!I}} : 
\sigma \mapsto \rho_{{\bf 5}{\rm I}}(\varphi(\sigma))\\
\varphi \in {\rm Aut}(\frak{S}_6)\backslash {\rm Inn}(\frak{S}_6)
\end{gather}}

6次対称群の外部自己同型写像

 さて, 上で概略だけ述べたこの外部自己同型写像について詳しく見る.
結論を書いてしまうと, 生成元たちを次のように移せばこれが外部同型写像のひとつになっている.

{\begin{align}
(12)&\mapsto (12)(34)(56)\\
(23)&\mapsto (15)(23)(46)\\
(34)&\mapsto (12)(36)(45)\\
(45)&\mapsto (14)(23)(56)\\
(56)&\mapsto (12)(35)(46)
\end{align}}

存在さえ知っていれば「発見」するのは割と簡単で, 上にあげた隣接互換の関係式を満たすようにうまく互換を組み合わせてやればよい.

他の外部自己同型写像はこれと共役による作用の合成のみ. ゆえに外部自己同型群は

{
{\rm Out}({\frak S}_6)=\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}
}

対称群において内部自己同型写像は置換の型を変えないが, 外部自己同型写像は置換の型を変える. この入れ替わりが起こるのは以下の3組.

{
\lbrack1^42\rbrack\leftrightarrow\lbrack2^3\rbrack,\ \ \ 
\lbrack123\rbrack\leftrightarrow\lbrack6\rbrack,\ \ \ 
\lbrack1^33\rbrack\leftrightarrow\lbrack3^2\rbrack
}

他の置換の型は変わらない. 指標表を見ると確かにそうなっている.

 これで指標表を書く方法は得たことになるがもう少し.
 {\frak{S}_n\ (n\neq6)}に外部自己同型写像が存在しない理由はそれほど難しくなく,生成元を含む互換{\lbrack 1^{n-2}2\rbrack}型の置換と, 同じく位数2の互換でない置換{\lbrack1^{n-2k}2^k\rbrack(2\leq k\leq \lfloor n/2\rfloor )}との数が一致することがないため.より詳しくは次の解説を参照.

ノート:6次対称群S6 の外部自己同型写像.
http://www2u.biglobe.ne.jp/~nuida/m/doc/OutS6_ja.pdf

 6次対称群に外部自己同型写像が存在する「理由」となると非常に深く, 色々と解説がある. 先にあげた物理数学III講義ノートに加えて, John Baezによる次の解説が参考になる.

"Some Thoughts on the Number 6"
http://math.ucr.edu/home/baez/six.html

 ここにも登場する正20面体とGreg Egan.
 前半の要点を大雑把に説明する.

  • 正20面体の中心を通る対角線が6本.

1,2,3,4,5,6

  • 異なる2つの対角線の対duadが15個.

(1,2),(1,3),...,(5,6)

  • 互いに重複する対角線を含まないduadの3つ組 synthemeが15個.

(1,2)(3,4)(5,6), (1,2)(3,5)(4,6),...(1,6)(4,5)(2,3)

  • 互いに重複するduadを含まないsynthemeの5つ組synthmatic totalが6個.

A:\{(1,2)(3,4)(5,6),(1,3)(2,5)(4,6),(1,4)(2,6)(3,5),(1,5)(2,4)(3,6),(1,6)(2,3)(4,5)\},
B:\{(1,2)(3,4)(5,6),(1,3)(2,6)(4,5),(1,4)(2,5)(3,6),(1,5)(2,3)(4,6),(1,6)(2,4)(3,5)\},
C:.., D:..., E:..., F:...
対角線1,2,3,4,5,6の置換はsynthematic total A,B,C,D,E,Fの置換も引き起こすが,
A→1,B→2,C→3,D→4,E→5,F→6の同一視で外部自己同型写像になる.

 3つのduadの張る平面が直交するsynthemeのうちの5つ:true crossが正20面体の回転に伴って置換されることは, 正20面体が5次対称群の正規部分群に同型になることの自然な説明にもなる.

 あとで利用しない(できなかった)のでここで触れておくと, 例外的な同型{\mathfrak{S}_6\cong Sp(4,\mathbb{F}_2)}(有限体{\mathbb{F}_2}上の4×4シンプレクティック行列のなす群)も, {\mathbb{F}_2}上のベクトルとduadたちの同一視によって説明されている.

 「理由」の説明を突き詰めるのはなかなか難しいが, 正20面体や{E_8}という例外的な構造を成立させている「何か」が姿を変えて有限群論にも現れているように感じられて面白い.

5II'表現

{{\bf 5}{\rm I\!I}}表現と符号表現の積.

9表現

{\begin{align}
\begin{array}{|c|ccccccccccc|}\hline
{\mbox 共役類}|C|&\lbrack1^6\rbrack&\lbrack1^33\rbrack&\lbrack3^2\rbrack&\lbrack1^22^2\rbrack&
\lbrack15\rbrack&\lbrack24\rbrack&\lbrack1^42\rbrack&\lbrack2^3\rbrack&\lbrack1^24\rbrack&
\lbrack123\rbrack&\lbrack6\rbrack\\ \hline
{|C|}&
1&40&40&45&144&90&15&15&90&120&120\\ \hline
{\bf 9}&
9&0&0&1&-1&1&3&3&-1&0&0\\ \hline
\end{array}
\end{align}}

 指標表を見ると全て(-1)以上の整数になっている. 1を加えれば自然数. {\frak{S}_{10}}の9次元表現に埋め込めるのではないかと期待できて実際そうなっている. 自分がこれに気付いたのも指標表の観察からだった.

 その前に

{{\frak A}_6\cong PSL(2,\mathbb{F}_9)}

の同型に言及しておこう.{\mathbb{F}_9}上の正則2×2行列は{\mathbb{F}_9}上の10個の射影直線に置換として作用するが, これらを定数倍の違いを除いて同一視すると6次交代群と同型になる. 実は6次対称群も10次対称群に埋め込むことができる.
生成元たちを次のように移せば単射準同型写像になる.

{\begin{align}\\
\frak{S}_6&\hookrightarrow\frak{S}_{10}\\
(12)&\mapsto(12)(34)(56)\\
(23)&\mapsto(17)(38)(59)\\
(34)&\mapsto(14)(23)(9\,10)\\
(45)&\mapsto(15)(26)(79)\\
(56)&\mapsto(13)(24)(78)
\end{align}}

これによって共役類は次のように移る

{\begin{align}
\lbrack1^6\rbrack&\rightarrow\lbrack1^{10}\rbrack\\
\lbrack1^33\rbrack,\lbrack3^2\rbrack&\rightarrow\lbrack13^3\rbrack\\
\lbrack1^22^2\rbrack&\rightarrow\lbrack1^22^4\rbrack\\
\lbrack15\rbrack&\rightarrow\lbrack5^2\rbrack\\
\lbrack24\rbrack&\rightarrow\lbrack1^2 4^2\rbrack\\
\lbrack1^42\rbrack,\lbrack2^3\rbrack&\rightarrow\lbrack1^42^3\rbrack\\
\lbrack1^24\rbrack&\rightarrow\lbrack24^2\rbrack\\
\lbrack123\rbrack,\lbrack6\rbrack&\rightarrow\lbrack 136\rbrack\\ %?
\end{align}}

確かに固定点-1が指標になっている. 外部自己同型で移り合う共役類が同じ共役類に移っていることに注意.

 この事実に関してはこれ以上の解説を加えることができない. 一般に対称群{{\frak S}_n}

  • {k}点の固定化部分群として{{\frak S}_{n-k}}
  • 大きさ{d}の共役類への作用で{{\frak S}_d}

埋め込めるが, そうでない非自明な埋め込み(embedding)が存在することがある. {{\frak S}_6}の1点の固定化部分群に外部自己同型を合成すると{{\frak S}_5\hookrightarrow{\frak S}_6}の非自明な埋め込みになるのもそう. こういった事実に関する統一的な理論を自分は知らない.

9'表現

{{\bf 9}}表現と符号表現の積.

10表現

{10=5\cdot4/2}. {{\bf 5}{\rm I}}表現の反対称テンソル積である.

{\begin{align}
\rho_{\bf 10}:\sigma\in{\frak S}_6\mapsto \wedge^2\rho_{{\bf 5}{\rm I}}(\sigma)
\end{align}}

一般に反対称表現の指標は

{\begin{align}
\chi_{\wedge^2 \rho}(\sigma)=\frac{1}{2}\left(\chi_{\rho}(\sigma)^2-\chi_{\rho}(\sigma^2)\right)
\end{align}}

から求められる. 表現行列を具体的に構成するなら, 5×5反対称行列に対して{A_5}鏡映群の行列を共役によって作用させるとよい. 内積{(A,B)=-{\rm Tr}(A^TB)}によって定めれば直交変換になっている.

10'表現

{{\bf 10}'}表現と符号表現の積. あるいは{10=5\cdot4/2}. {{\bf 5}{\rm I\!I}}表現の反対称テンソル積である. 9次元表現とは異なり,外部自己同型写像との合成で非同値な既約表現になる.

16表現

 「体験記」なので正直に書くと, これを構成する方法がなかなか思いつかなかった. そのせいで最初に6次対称群の表現をテーマに記事を書こうと思い始めてからずいぶん時間がかかってしまった.

 この既約表現を含む直積表現をつくるのは簡単. {{\bf 5}{\rm I}}表現と{{\bf 5}{\rm I\!I}}表現のテンソル積は{{\bf 9}'}表現と{{\bf 16}}表現の直和になっている.

 また, 次の事実が分かる.

 {{\frak S}_6}の既約表現の{{\frak A}_6}への制限は{{\frak A}_6}の表現になるが, {{\bf 16}}表現のみが完全可約(他は既約)であり, 2つの8次元既約表現に分岐する. 指標表は以下.

{\begin{align} \begin{array}{|c|ccccccc|} \hline
C&\lbrack 1^6\rbrack&\lbrack 1^33\rbrack&\lbrack 3^2\rbrack&
\lbrack 1^22^2\rbrack&\lbrack 24\rbrack&\lbrack 15\rbrack_1&\lbrack 15\rbrack_2
\\ \hline  |C|&1&40&40&
45& 90&72&72
\\ \hline
{\bf 8}{\rm I}&8&-1&-1&0&0&\phi&-\phi^{-1}\\
{\bf 8}{\rm I\!I}&8&-1&-1&0&0&-\phi^{-1}&\phi\\ \hline
\end{array}\\
\phi=(1+\sqrt{5})/2
\end{align}}

共役類の{\lbrack15\rbrack_1,\lbrack15\rbrack_2}はそれぞれ代表元として{(12345),(13524)}をもつ.これらは{\frak{S}_6}の元として奇置換の共役による作用によって移り合うが, {\frak{A}_6}においてはこれは外部自己同型写像である

 この6次交代群の8次元既約表現(どちらでも)を用いた誘導表現が6次対称群の16次元表現になる...ということは分かるが具体的に構成できていない.

 しかし{\phi}が出てくることといい8次元になることといいいかにも意味深ではないか.これに幾何学的な意味づけを何とか与えたいところである.

 ところで{{\mathfrak A}_6}にはValentiner群という3重被覆が存在して3次元複素既約表現を持つ.
Valentiner group - Wikipedia
{{\mathfrak A}_5}が複素射影平面{\mathbb{C}P^1}に作用するように, このValentiner群によって{{\mathfrak A}_6}{\mathbb{C}P^2}に作用する.

 これを利用したいところだが,いったんあきらめて次のように16次元表現を作る.

クリフォード代数

 基底を

{\begin{gather}
1,e_1,e_2,\cdots,e_n,e_1e_2,e_1e_2,\cdots e_{n-1}e_n,\cdots,e_1e_2\cdots e_n
\end{gather}}

とする{2^n}次元{\mathbb{R}}ベクトル空間に積が

{\begin{align}
e_i^2&=-1\\
e_ie_j&=-e_je_i\ \ \ (i\neq j)
\end{align}}

によって定められている. クリフォード代数である. {e_1,e_2,\cdots e_n}の張る{n}次元空間をユークリッド空間と同一視すると, 内積

{\begin{align}
(x,y)=-\frac{1}{2}(xy+yx)\ \ \ (x,y\in\mathbb{R}^n)
\end{align}}

と表せる. {\alpha\in{\mathbb R}^n\ \ \ |\alpha|=1}に直交する超平面に関する鏡映は

{\begin{align}
R(\alpha):x\mapsto x-2(\alpha,x)\alpha=-\alpha x\alpha^{-1}
\end{align}}

これにより,{n=5}のとき生成元に対して単純ルート(具体的には{{\bf 5}}表現の構成に使ったものと同じ)によって

{\begin{align}
s_i\mapsto -R(\alpha_i):x\mapsto \alpha_i x\alpha_i^{-1}\ \ \ (i=1,2,3,4,5)
\end{align}}

と対応付けると,{{\bf 5}'}表現と同値になる.

 ところで, クリフォード代数上で

{\alpha_i\ \ \ (i=1,2,3,4,5)}

は積によって群を生成する. これを{2.{\frak S}_6}とする. {2.{\frak S}_6}は中心{Z=\{1,-1\}}で割ると{\frak{S}_6}と同型.{2.{\frak S}_6/Z\cong \frak{S}_6}. この準同型写像{f}による{\sigma\in{\frak S}_6}の逆像は全て

{\begin{align}
f^{-1}(\sigma)=\{g,-g\}\ \ \ g\in 2.{\frak S}_6
\end{align}}

の形をしている. {\varphi\in{\rm Aut}({\frak S}_6)\backslash{\rm Inn}({\frak S}_6)}を介して

{f^{-1}\left(\varphi(f\{g,-g\})\right)=\{g',-g'\}}

となったとき, うまく{\pm g}{\pm g'}を1対1対応させることで{2.{\frak S}_6}の自己同型写像になるかというとそうはならない. しかし生成元に対して

{\{\beta_k,-\beta_k\}=f^{-1}\left(\varphi(f\{\alpha_k,-\alpha_k\})\right)}

であるとき, {\pm \alpha_k}{\pm \sqrt{-1}\beta_k}を対応させると(なぜか)同型な群ができる. {\pm \sqrt{-1}\beta_k}は(虚数係数であるため)もはやもとのクリフォード代数の元ではないが, {e_1e_2e_3e_4e_5}は全ての元と可換かつ2乗すると{-1}になるので{\sqrt{-1}}と等価なのでこれと同一視すればよい.

 これを行列で表現する. パウリ行列は

{\begin{align}
\sigma_1=\begin{pmatrix}
0&1\\
1&0
\end{pmatrix},\ \ \ 
\sigma_2=\begin{pmatrix}
0&-\sqrt{-1}\\
\sqrt{-1}&0
\end{pmatrix},\ \ \ 
\sigma_3=\begin{pmatrix}
1&0\\
0&-1
\end{pmatrix}
\end{align}}

これを使うと

{\begin{align}
e_1&\mapsto \sqrt{-1}\,\sigma_1\otimes{\bf 1}_2\\
e_2&\mapsto \sqrt{-1}\,\sigma_2\otimes\sigma_1\\
e_3&\mapsto \sqrt{-1}\,\sigma_2\otimes\sigma_2\\
e_4&\mapsto \sqrt{-1}\,\sigma_2\otimes\sigma_3\\
e_5&\mapsto \sqrt{-1}\,\sigma_3\otimes{\bf 1}_2\\
\end{align}}

からクリフォード代数の忠実な表現ができる. 4次元複素表現である. ここで{2.{\frak S}_6}の生成元に対してたとえば

{\begin{align}
\psi: \alpha_1&\mapsto -\sqrt{-1}\,\alpha_1\alpha_3\alpha_5\\
\alpha_2&\mapsto\sqrt{-1}\,\alpha_1\alpha_2\alpha_4\alpha_1\alpha_3\alpha_5\alpha_2\alpha_4\alpha_1\\
\alpha_3&\mapsto\sqrt{-1}\,\alpha_1\alpha_3\alpha_4\alpha_3\alpha_5\alpha_4\alpha_3\\
\alpha_4&\mapsto\sqrt{-1}\,\alpha_5\alpha_3\alpha_2\alpha_3\alpha_1\alpha_2\alpha_3\\
\alpha_5&\mapsto-\sqrt{-1}\,\alpha_1\alpha_4\alpha_3\alpha_5\alpha_4
\end{align}}

とすると{2.{\frak S}_6\cong \psi(2.{\frak S}_6)}になる. そして,

{\begin{align}
\rho_{\bf 16}:s_i\mapsto \alpha_i\otimes\psi(\alpha_i)\ \ \ (i=1,2,3,4,5)
\end{align}}

とすると, これが所望の16次元ユニタリ既約表現になっている. 不思議なことに.

 この事実を使った指標表の計算は完全に数式処理ソフトに頼った.確かに16次元表現の指標表を再現する.

 正直構成法としてあまり理想的ではないが,16という数の由来について多少なりとも自然な意味づけを与えられているとは思う. {16=4^2}. しかし射影表現についてはもっと知る必要があることを感じている.

まとめ

本記事では6次対称群の既約表現すべての構成法を与えた. 指標表を見るだけでもこの群の性質が色々と見えてきて面白い. 無限系列の低次の常として7次対称群や8次対称群にも例外的な同型があったりするのでいずれそれも調べたい.

追記(7/8)

ヴァレンティナー群から6次交代群の8次元表現をつくる方法が分かった. 次の記事を参照.

shironetsu.hatenadiary.com

リファレンス

[1]鈴木通夫『群論 上』(岩波書店, 1977年)
[2]北詰正顕「散在型単純群の周辺」http://mathsoc.jp/section/algebra/algsymp_past/algsymp08_files/kitazume.pdf
[3]岩堀長慶『対称群と一般線形群の表現論』(岩波書店, 1978年)
[4]犬井鉄郎, 田辺行人, 小野寺嘉考『応用群論 -群表現と物理学- (増補版)』(裳華房, 1980年)
[5]堀田良之『加群十話 -代数学入門-』(朝倉書店, 1988年)
[6]ATLAS: Alternating group A6, Linear group L2(9), Symplectic group S4(2)', Mathieu group M10'
[7]http://web.mat.bham.ac.uk/atlas/html/A6.html

*1:7/8追記. うっかり忘れていた. n=2ではもちろん自己同型群は自明な群.