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PSL(2,7)指標表手作り体験記(2)――ファノ平面・GL(3,2)・四元数・正8面体

 過去ふたつの記事の続き.
小さな非可換単純群 - PSL(2,p) - Shironetsu Blog
PSL(2,7)指標表手作り体験記(1) 3,3,8次元既約表現 - Shironetsu Blog

イントロ――ファノ平面


 John Baezによる八元数の解説から[1].

 射影幾何は, ルネッサンス期の画家たちによる遠近法の研究に期限を持つ, 歴史ある分野だ. 平行な線たち――たとえば線路のような――は「無限遠点」で交わるかのように見える. 視点を変えると距離や角度は変わるが, 点は点のまま, 直線は直線のまま変わらない. この事実は, 点の集合, 直線の集合, そして点は直線の上に「のる」ことを基礎とした, 次に挙げる公理を満たした, ユークリッド平面幾何学の修正につながる :

  • 異なる2点について, 両方をのせているただ1つの直線が存在する.
  • 異なる2直線について, 両方にのるただ1つの点が存在する.
  • ある4つの点が存在して, どの3つをとっても同じ直線にのっていない.
  • ある4つの直線が存在して, どの3つをとっても同じ点をのせていない.

 これらの公理を満たす構造を射影平面と呼ぶ. この定義の魅力のひとつは, その「自己双対性」にある : 「点」と「直線」を, 「のる」と「のせる」を入れ替えても変わらないということだ.

引用終わり.

 射影平面は有限集合上にも定義される. そして最小の射影平面が, 次の図で表されるファノ平面である.

f:id:shironetsu:20190312213850p:plain:w400

 1から7までの「点」が線分, および円周上にそれぞれ3つずつ載っている. ここでいう線分と円周が抽象的な意味での「直線」である. これを集合のことばで記述すると次のようになる:

 7点集合P=\{1,2,3,4,5,6,7\}に対して,「点」を3つずつ含む部分集合;「直線」が7つ存在する.
\begin{align}
a &: \{2,4,6\}\\
b &: \{1,4,5\}\\
c &: \{3,4,7\}\\
d &: \{1,2,3\}\\
e &: \{2,5,7\}\\
f &: \{1,6,7\}\\
g &: \{3,5,6\}
\end{align}
これらの直線たちの集合をL=\{a,b,c,d,e,f,g\}とする.

 これが射影平面の公理を満たしていることを見よう.

  • 2点1,2は直線dにのみともに含まれる.
  • 2直線a,bは点4のみを共有する.
  • P\backslash a = \{1,3,5,7\}は, 「どの3つをとっても同じ直線にのっていない」4点の例である.
  • L\backslash \{b,d,f\} = \{a,c,e,g\}は, 「どの3つをとっても同じ点をのせていない」4直線の例である.

証明にはなっていないが, うまくいっていそうなことはこれでだいたい分かる.

 ちなみに7の平方剰余である\{1,2,4\}に, 7を法としてそれぞれ1ずつ加えていくことでもファノ平面は得られる(ラベル付けは異なる).
\begin{align}
\begin{array}{c}
\{1,2,4\}\\
\{2,3,5\}\\
\{3,4,6\}\\
\{0,4,5\}\\
\{1,5,6\}\\
\{0,2,6\}\\
\{0,1,3\}
\end{array}
\end{align}
(では上の図で採用したラベル付けはどうすれば得られるかというと, この後分かる.)

 ファノ平面の自己同型群がPSL(2,7)と同型になるという驚くべき事実が本記事の主題である.


ファノ平面の自己同型群とは

 まず「ファノ平面の自己同型群」とは何か. 暗黙の裡に7点集合Pに対して置換としてはたらく群であることは仮定されている. その中でも, 「直線」の集合Lを変えないものの全体に「ファノ平面の自己同型群」としての資格が与えられる.
 たとえば,\sigma = (12) (置換の巡回記法を使う)はどうか. 「直線」たちがどう変化するか見よう. 置換は「点」のそれぞれに作用するとして,

 \begin{align}
     \sigma(a) &= \{1,4,6\}\not\in L\\
     \sigma(b) &= \{2,4,5\}\not\in L\\
     \sigma(c) &= c\\
     \sigma(d) &= d\\
     \sigma(e) &= \{1,5,6\}\not\in L\\
     \sigma(f) &= \{2,6,7\}\not\in L\\
     \sigma(g) &= g
 \end{align}

LL自身に移らないためこれはだめ.
 では\tau = (12)(56)ではどうか.

\begin{align}
     \tau(a) &= \{1,4,5\} = b\\
     \tau(b) &= \{2,4,6\} = a\\
     \tau(c) &= \{3,4,7\} = c\\
     \tau(d) &= \{2,1,3\} = d\\
     \tau(e) &= \{1,6,7\} = f\\
     \tau(f) &= \{2,5,7\} = e\\
     \tau(g) &= \{3,6,5\} = g.
 \end{align}

今度はうまくいった. \tauLへの作用としては(a\,b)(e\,f)であることも分かった.

 しかし生のままの集合はいかにも扱いにくい. 求められる「構造」が集合と分離して記述されているところが厄介. 何か, 集合に対して構造が自然にコードされるような方法があると嬉しい.


2元体で考える

 そこで役に立つのが2元体\mathbb{F}_2である. 2元体上の3次元ベクトル空間\,(\mathbb{F}_2)^3にはファノ平面の構造が備わっているのである.
 まず\,(\mathbb{F}_2)^3の非零ベクトルは,
\begin{gather}
{\bf 1} = \left(\!\begin{array}{c}
0 \\
0 \\
1
\end{array}\!\right),\
{\bf 2} = \left(\!\begin{array}{c}
0 \\
1 \\
0
\end{array}\!\right),\
{\bf 3} = \left(\!\begin{array}{c}
0 \\
1 \\
1
\end{array}\!\right),\
{\bf 4} = \left(\!\begin{array}{c}
1 \\
0 \\
0
\end{array}\!\right),\\
{\bf 5} = \left(\!\begin{array}{c}
1 \\
0 \\
1
\end{array}\!\right),\
{\bf 6} = \left(\!\begin{array}{c}
1 \\
1 \\
0
\end{array}\!\right),\
{\bf 7} = \left(\!\begin{array}{c}
1 \\
1 \\
1
\end{array}\!\right)
\end{gather}
2^3-1=7つ. xyzの順に並べて2進法で読むとそれぞれの数に対応するようになっている.
これらが「点」である. では「直線」は何かというと, \,(\mathbb{F}_2)^3に含まれる2次元部分空間から零ベクトルを除いた部分集合である. \,(\mathbb{F}_2)^3の要素を\,(x,y,z)^Tで表すと, そのような部分集合は次の7つ.
\begin{align}
\begin{array}{ccc}
a = \{010,100,110\} = \{\bf{2,4,6}\}\ :&z = 0\\
b = \{001,100,101\} = \{\bf{1,4,5}\}\ :&y = 0\\
c = \{011,100,111\} = \{\bf{3,4,7}\}\ :&y+z = 0\\
d = \{001,010,011\} = \{{\bf 1,2,3}\}\ :&x = 0\\
e = \{010,101,111\} = \{{\bf 2,5,7}\}\ :&x+z = 0\\
f = \{001,110,111\} = \{{\bf 1,6,7}\}\ :&x+y = 0\\
g = \{011,101,110\} = \{{\bf 3,5,6}\}\ :&x+y+z=0
\end{array}
\end{align}
 \,(\mathbb{F}_2)^3に舞台を移すことの利点は次の事実にある:

 Pの置換がこのファノ平面の自己同型写像であるとき, それは 正則線形変換でなくてはならない.

 これを説明する. 勝手な異なる2つの「点」 u,v\in Pに対して,

\begin{align}
    \ell = \{u,v,u+v\}
\end{align}

は「直線」でありLに含まれる. \sigmaがファノ平面の自己同型写像であるとき,

\begin{align}
    \sigma(\ell) = \{\sigma(u),\sigma(v),\sigma(u+v)\}
\end{align}

はまた「直線」でなくてはならないため,

\begin{align}
    \sigma(u)+\sigma(v) = \sigma(u+v)
\end{align}

が成り立っている. 零ベクトルは零ベクトルに移るものと決めてやると, これは正則線形変換であることを意味する*1. 逆に正則線形変換ならファノ平面の自己同型写像となることも同じように分かる. 従って, \,(\mathbb{F}_2)^3の中にあるファノ平面の自己同型群は正則変換の全体, すなわち一般線形群GL(3,2)なのである. GLはGeneral Linear, 3は次元, 2は2元体の2.

 この群に含まれる3×3行列を数えよう.

 1行目と2行目にはPから異なる2つのベクトルu,vを取る. 3行目にはu,v,u+v以外のベクトルをPから取る. 従ってその数は,
\begin{gather}
7\cdot 6 \cdot(7-3) = 168. \\
\therefore |GL(3,2)| = 168.
\end{gather}
 ファノ平面の自己同型群がGL(3,2)であることは分かった. ではPSL(2,7)がファノ平面の自己同型群であるとはどういうことか. これは
\begin{align}
PSL(2,7)\cong GL(3,2)
\end{align}
という同型対応が成り立つということに他ならない[2,3].


PSL(2,7)

 しかし思い出してほしい. PSL(2,7)は7元体上の射影直線P^1(\mathbb{F}_7)に対して作用するのだった.
\begin{align}
P^1(\mathbb{F}_7) = \{0,1,2,3,4,5,6,\infty\}
\end{align}
 点の数は0から6に無限遠点をくわえて8つである. 7つではない. ところがPSL(2,7)は7次交代群の部分群なのである.
\begin{align}
PSL(2,7)\subset Alt(7)
\end{align}
 7点に対する置換としてはたらくことができるということ. 実はこれはかなり例外的な現象であって, 素数pについて, 次の事実が知られている[4,5].
\begin{align}
PSL(2,p)\left\{
\begin{array}{cc}
\cong Sym(3) & p=2\\
\cong Alt(4) & p=3\\
\cong Alt(5) & p=5\\
\subsetneq Alt(p) & p=7,11\\
\not\subset Alt(p) & p\geq 13
\end{array}
\right.
\end{align}
13以上の素数pに対して, PSL(2,p)p点に対して非自明な置換として作用できないということ. これはガロアの最後の手紙に書かれていたことであった[6,7].

p=5,7,11のときこういう現象が起きることは次の事実からきている.
\begin{align}
\mathcal{T} &\subset PSL(2,5),\ \ |PSL(2,5):\mathcal{T}| = 5\\
\mathcal{O} &\subset PSL(2,7) ,\ \ |PSL(2,7):\mathcal{O}| = 7\\
\mathcal{I} &\subset PSL(2,11),\ \ |PSL(2,11):\mathcal{I}| = 11
\end{align}
\mathcal{T,O,I}はそれぞれ正4面体群, 正8面体群, 正20面体群. これら指数pの「例外的に大きな」部分群に対する共役による作用が, p点の置換になるのである.

 一方, p\geq 13の場合には指数p以下の部分群はそれ自身以外には存在しないためこういうことが起こらない.

 では, 正多面体群が含まれるのはなぜか. そのよい説明は四元数を利用することで与えられる.


有限体係数の四元数

 \mathbb{F}_p\ (p:\mbox{奇素数})上の2次正方行列は,\mathbb{F}_p係数の四元数と同一視できる. つまり次の性質を満たす都合の良い基底\langle{\bf 1,i,j,k}\rangleが存在する.
\begin{gather}
{\bf i}^2 = {\bf j}^2 = {\bf k}^2 = -{\bf 1}\\
{\bf i}{\bf j} = -{\bf j}{\bf i} = {\bf k},\ \
{\bf j}{\bf k} = -{\bf k}{\bf j} = {\bf i},\ \
{\bf k}{\bf i} = -{\bf i}{\bf k} = {\bf j}.
\end{gather}
{\bf 1}単位行列. これらは具体的に次のようにとることができる.

――\mathbb{F}_p上――
\begin{align}
{\bf i} =
\begin{pmatrix}
\beta & \alpha\\
\alpha & -\beta
\end{pmatrix},\
{\bf j} =
\begin{pmatrix}
0 & -1\\
1 & 0
\end{pmatrix},\
{\bf k} =
\begin{pmatrix}
\alpha & -\beta\\
-\beta & -\alpha
\end{pmatrix}.
\end{align}
ただし, \alpha^2+\beta^2 = -1, \alpha\neq \beta.
 p\equiv 1\mod 4なら-1が平方剰余であるため\beta=0にとることができる. p\equiv -1\mod 4の場合でもこのような\alpha,\betaは必ず存在する. 基底をこのようにとると,
\begin{align}
M = t\,{\bf 1} + x\,{\bf i} + y\,{\bf j} + z\,{\bf k}
\end{align}
に対して,
\begin{gather}
\det(M) = t^2+x^2+y^2+z^2\\
M^{-1} = \frac{1}{\det(M)} (t\,{\bf 1} - x\,{\bf i} - y\,{\bf j} - z\,{\bf k})
\end{gather}
等が成り立ちとても嬉しい.

 ここで\mathbb{C}上の場合を思い出そう. ここから\mathbb{C}

――\mathbb{C}上――
\begin{align}
{\bf i} =
\begin{pmatrix}
0 & -\sqrt{-1}\\
-\sqrt{-1} & 0
\end{pmatrix},\
{\bf j} =
\begin{pmatrix}
0 & -1\\
1 & 0
\end{pmatrix},\
{\bf k} =
\begin{pmatrix}
-\sqrt{-1} & 0\\
0 & -\sqrt{-1}
\end{pmatrix}.
\end{align}
とすると,
\begin{align}
SU(2)=\{t\,{\bf 1} + x\,{\bf i} + y\,{\bf j} + z\,{\bf k}\mid t^2+x^2+y^2+z^2=1,\ t,x,y,z\in\mathbb{R}\}
\end{align}
であった. そしてこの中に2項正多面体群が含まれる. 2項正20面体群について述べた以下の記事参照.

球面調和関数で正20面体をつくる(4) - 2項正20面体群とマッカイ対応 - Shironetsu Blog

 いまは正8面体だけに注目する. 基底\langle{\bf 1,i,j,k}\rangleに対して,次の48=2\cdot24本のベクトルが2項正8面体群\widetilde{O}をなすのだった.
\begin{gather}
(\pm 1,0,0,0),\ (0,\pm 1,0,0),\ (0,0,\pm 1,0),\ (0,0,0,\pm 1),\\
(\pm\sqrt{\frac{1}{2}},\pm\sqrt{\frac{1}{2}},0,0),\
(\pm\sqrt{\frac{1}{2}},0,\pm\sqrt{\frac{1}{2}},0),\
(\pm\sqrt{\frac{1}{2}},0,0,\pm\sqrt{\frac{1}{2}}),\\
(0,\pm\sqrt{\frac{1}{2}},\pm\sqrt{\frac{1}{2}},0),\
(0,0,\pm\sqrt{\frac{1}{2}},\pm\sqrt{\frac{1}{2}},0),\
(0,\pm\sqrt{\frac{1}{2}},0,\pm\sqrt{\frac{1}{2}}),\\
(\pm\frac{1}{2},\pm\frac{1}{2},\pm\frac{1}{2},\pm\frac{1}{2}).
\end{gather}
これらのうち-1倍で移り合うものを同一視すれば正8面体群になる.

 ここまで\mathbb{C}↑.

 p=7の場合に絞って\mathbb{F}_7の場合に戻ろう. 2^2+3^2=-1から\alpha=2,\beta=3をとることができるので,
\begin{align}
{\bf i} =
\begin{pmatrix}
3 & 2\\
2 & -3
\end{pmatrix},\
{\bf j} =
\begin{pmatrix}
0 & -1\\
1 & 0
\end{pmatrix},\
{\bf k} =
\begin{pmatrix}
2 & -3\\
-3 & -2
\end{pmatrix}.
\end{align}
を基底に取ればよい. \mathbb{F}_7においては\pm\sqrt{1/2} = \pm 2 であったことに注意すると, 次の組み合わせで2項正8面体群がSL(2,7)内に作られる.
\begin{gather}
(\pm 1,0,0,0),\ (0,\pm 1,0,0),\ (0,0,\pm 1,0),\ (0,0,0,\pm 1),\\
(\pm 2,\pm 2,0,0),\ (\pm 2,0,\pm 2,0),\ (\pm 2,0,0,\pm 2),\\
(0,\pm 2,\pm 2,0),\ (0,\pm 2,0,\pm 2),
(0,0,\pm 2,\pm 2),\\
(\pm 3,\pm 3,\pm 3,\pm 3)
\end{gather}
中心で割ると, つまりプラスマイナスを同一視すると正8面体群になる. これがPSL(2,7)の部分群として存在する正8面体群である.

  • PSL(2,7)は正8面体群を部分群に持つ.
  • この部分群は位数24, 指数168/24=7である.
  • PSL(2,7)単純群,7は素数であるため共役部分群は7つある.
  • この正8面体群に同型な共役部分群たちの置換としてPSL(2,7)は7点に推移的に作用する.

 かくしてPSL(2,7)\subset Alt(7)が示された*2.


ファノ平面を探す

 しかしファノ平面はどこへ? 7点に推移的に作用することは分かったものの, 「ファノ平面の自己同型群」であることは出てこなかった. 射影平面の構造はどこに備わっているのか? 何が射影平面上の「直線」に対応するのだろう?

 ファノ平面を見つけ出すため, SL(2,7)の部分群として組み立てられた2項正8面体群に違う見方を与えてみよう.

 そもそも正8面体群とはなんであったか. 正8面体の対角線の自己同型写像となるような回転の全体である.

 SU(2)でそうであったように, SL(2,p)\langle{\bf i,j,k}\rangleの張る3次元部分空間Vに対して, 共役によって直交変換として作用する. Vはトレースレスの行列全体であるから, M\in SL(2,p)に対して,
\begin{gather}
A\in V \Rightarrow MAM^{-1} \in V.\\
\because {\rm tr}(MAM^{-1}) = {\rm tr}(A) = 0.
\end{gather}
また, V内積を,
\begin{gather}
(A,B) = -\frac{1}{2}{\rm tr}(AB) = xp+yq+zr,\\
A = x\,{\bf i}+y\,{\bf j}+z\,{\bf k},\
B = p\,{\bf i}+q\,{\bf j}+r\,{\bf k}.
\end{gather}
によって決めると,
\begin{align}
(MAM^{-1},MBM^{-1}) = -{\rm tr}(MAM^{-1}MBM^{-1}) = -{\rm tr}(AB) = (A,B).
\end{align}
よって共役による作用は直交変換である.

 この内積のもとで, \langle{\bf i,j,k}\rangleVの正規直交基底となる. そして, 「正8面体の3本の対角線」\{\pm{\bf i},\pm{\bf j},\pm{\bf k}\}の自己同型写像となるようなSL(2,7)の部分群が2項正8面体群である.

f:id:shironetsu:20190312220311p:plain:w400

 ではこの2項正8面体群に含まれないSL(2,7)の元による作用はどこへ行くのか? 共役による変換を
\begin{align}
{\bf i}' &= M{\bf i}M^{-1},\\
{\bf j}' &= M{\bf j}M^{-1},\\
{\bf k}' &= M{\bf k}M^{-1}
\end{align}
とすると,{\bf i}' ,{\bf j}' ,{\bf k}' は相変わらず四元数の規則を満たし, 順に正規直交基底をなす. 軌道-固定点定理から分かるように, もとの\{\pm{\bf i},\pm{\bf j},\pm{\bf k}\}を含めて7通りの「正8面体の3本の対角線」に移る.

 ここで順に次の観察を行おう.

問題1. Vは単位ベクトルをいくつ含むか?

答え:42本. x^2+y^2+z^2=1の解を数えればよい.
 42本……!
(x,y,z)(-x,-y,-z)を同一視すれば21組.0 このプラスマイナスを同一視した組を「対角線」と呼ぶことしよう.
21といえば7\cdot 6/2である. ひょっとするとプラスマイナスを同一視した単位ベクトルたちを, 7点集合の2点部分集合と対応付けられるかもしれない.

問題2. Vは「正8面体の3本の対角線」をいくつ含むか.

答え:14こ. 「対角線」はプラスマイナスのうち片方だけを書くことにして以下に列挙する.
\begin{align}
1 &: (1, 0, 0), (0, 1, 0), (0, 0, 1)\\
2 &: (2, 0, 5), (3, 2, 3), (3, 5, 3)\\
3 &: (2, 0, 2), (3, 2, 4), (3, 5, 4)\\
4 &: (0, 2, 2), (2, 3, 4), (2, 4, 3)\\
5 &: (0, 2, 5), (2, 3, 3), (2, 4, 4)\\
6 &: (2, 2, 0), (3, 4, 2), (3, 4, 5)\\
7 &: (2, 5, 0), (3, 3, 2), (3, 3, 5)\\
8 &: (2, 4, 3), (3, 4, 2), (3, 5, 3)\\
9 &: (0, 2, 2), (0, 2, 5), (1, 0, 0)\\
10 &: (2, 3, 4), (3, 2, 4), (3, 3, 5)\\
11 &: (0, 1, 0), (2, 0, 2), (2, 0, 5)\\
12 &: (2, 3, 3), (3, 2, 3), (3, 3, 2)\\
13 &: (0, 0, 1), (2, 2, 0), (2, 5, 0)\\
14 &: (2, 4, 4), (3, 4, 5), (3, 5, 4)
\end{align}
 この3つ組が決まればそのまま正8面体が作られるので, もう「正8面体の3本の対角線」をそのまま「正8面体」と呼んでしまおう. 「正8面体」は14個存在するのである. しかしSL(2,7)の作用で移り合った「正8面体」は7個なのであった. ちょうど半分. 「正8面体」たちをじっと睨むと, どの「対角線」もちょうど2つの「正8面体」に入っていることが分かる.

 この関係を図にまとめよう. 「対角線」を頂点に配した3角形を「正8面体」として……

f:id:shironetsu:20190312220519p:plain:w600

 このようになる. 上の番号8…14をa…fに置き換えた. 実は1…7がSL(2,7)の共役による作用で移り合う7個の「正8面体」なのである. 対してa…fもそれぞれ同じ作用で移り合う. 1…7とa…fは混ざらない.

 頂点:「対角線」どうしは直交すれば結ばれ, そうでなければ結ばれない, という関係があるためこのグラフ的性質は直交変換によって崩れない. 青の三角形(1…7)はちょうど3つの赤の三角形(a…f)とのみ接し, また赤の三角形はちょうど3つの青の三角形とのみ接する. 青の三角形を「点」, 赤の三角形を「直線」とみなせば, これはまさにファノ平面の性質だ.

 グラフとして取り出すと下図のようになる.

f:id:shironetsu:20190313161719p:plain:w600

 このグラフには5色定理の証明で有名な数学者Percy John Heawoodにちなんでヒーウッドグラフの名が付いている.

 Heawood graph - Wikipedia

 ただし今は2-彩色されている. 無色であれば自己同型群はPGL(2,7) だが, 彩色されることでその対称性は半分, PSL(2,7)になる.

 ようやく明らかになった. ファノ平面はここに入っていたのだ. 「対角線」は7点集合の2点ではなく, 「点」とそれをのせている「直線」のペア21個に対応するのである. 上の図の「対角線」は頂点を共有する2つの三角形, 「点」と「直線」から指定することができて, 次のようになる:
\begin{align}
\begin{array}{ccc}
1b : (1,0,0) &
1d : (0,1,0) &
1f : (0,0,1)\\
2a : (3,5,3) &
2d : (2,0,5) &
2e : (3,2,3)\\
3c : (3,2,4) &
3d : (2,0,2) &
3g : (3,5,4)\\
4a : (2,4,3) &
4b : (0,2,2) &
4c : (2,3,4)\\
5b : (0,2,5) &
5e : (2,3,3) &
5g : (2,4,4)\\
6a : (3,4,2) &
6f : (2,2,0) &
6g : (3,4,5)\\
7c : (3,3,5) &
7e : (3,3,2) &
7f : (2,5,0)
\end{array}
\end{align}
同じ数字, またはアルファベットの「対角線」3つを集めれば「正8面体」となり, 逆に「正8面体」は必ずそのような組み合わせから作られる.

 これを使うと, PSL(2,7)とファノ平面上の置換の生成元の対応は以下のように計算できる.
\begin{align}
\begin{bmatrix}
0&-1\\
1&0
\end{bmatrix}
&\mapsto (45)(67)=(a\,e)(c\,g)\\
\begin{bmatrix}
1&1\\
0&1
\end{bmatrix}
&\mapsto (1645372) = (a\,b\,g\,c\,e\,d\,f)\\
\begin{bmatrix}
3&0\\
0&5
\end{bmatrix}
&\mapsto (154)(267)=(a\,f\,e)(c\,d\,g)
\end{align}
共役類と置換の型の対応関係を見るためにもうひとつだけ.
\begin{align}
\begin{bmatrix}
3 & -1\\
1 & 0
\end{bmatrix}
&= \begin{bmatrix}
1&1\\
0&1
\end{bmatrix}^3
\begin{bmatrix}
0&-1\\
1&0
\end{bmatrix}\\
&\mapsto(1573)(24)=(b\,e\,c\,d)(f\,g)
\end{align}

 こうしてPSL(2,7)はファノ平面の自己同型群として7次交代群に埋め込まれた.


ふたたびGL(3,2)

 逆に, 7点に作用していたGL(3,2)を8点に推移的に作用させるにはどうすればよいか?これは以前の記事でやったことがヒントになる.

なぜ8次交代群は2元体上の4×4一般線形群と同型か - Shironetsu Blog

 28個の行列を8点集合の2点部分集合に対応させる, というアイデアは共通だがその構造はかなり異なっていて, 以下のようになる*3.

 GL(3,2)は対称行列を28個含む. この空間を,
\begin{align}
\mathcal{S} = \{X\in GL(3,2) \mid X^T = X\}
\end{align}
とする. GL(3,2)は,
\begin{gather}
\rho_A : X \mapsto AXA^T,\\
A\in GL(3,2),\ X\in \mathcal{S}
\end{gather}
によってXに作用し, これは推移的である.

\mathcal{S}は次のように表される部分集合をちょうど8個もつ.
\begin{align}
\{U,\ V,\ W,\ U+V,\ V+W,\ U+W,\ U+V+W\}
\end{align}
ファノ平面である. これらの「ファノ平面」に1から8まで番号を振ると, \mathcal{S}の元はちょうど2つのファノ平面に含まれるため, duad:8点集合の2点部分集合に対応付けられる. たとえば次の通り:
\begin{align}
12 &: \begin{pmatrix}
0&0&1\\
0&1&0\\
1&0&0
\end{pmatrix}
&
13 &: \begin{pmatrix}
1&1&1\\
1&0&1\\
1&1&0
\end{pmatrix}
&
14 &: \begin{pmatrix}
1&0&1\\
0&1&1\\
1&1&1
\end{pmatrix}
&
15 &: \begin{pmatrix}
0&1&0\\
1&1&0\\
0&0&1
\end{pmatrix}
\\
16 &: \begin{pmatrix}
0&1&1\\
1&0&0\\
1&0&1
\end{pmatrix}
&
17 &: \begin{pmatrix}
1&0&0\\
0&0&1\\
0&1&1
\end{pmatrix}
&
18 &: \begin{pmatrix}
1&1&0\\
1&1&1\\
0&1&0
\end{pmatrix}
&
23 &: \begin{pmatrix}
1&0&0\\
0&1&1\\
0&1&0
\end{pmatrix}
\\
24 &: \begin{pmatrix}
1&1&0\\
1&0&0\\
0&0&1
\end{pmatrix}
&
25 &: \begin{pmatrix}
0&1&1\\
1&0&1\\
1&1&1
\end{pmatrix}
&
26 &: \begin{pmatrix}
0&1&0\\
1&1&1\\
0&1&1
\end{pmatrix}
&
27 &: \begin{pmatrix}
1&1&1\\
1&1&0\\
1&0&1
\end{pmatrix}
\\
28 &: \begin{pmatrix}
1&0&1\\
0&0&1\\
1&1&0
\end{pmatrix}
&
34 &: \begin{pmatrix}
0&0&1\\
0&1&0\\
1&0&1
\end{pmatrix}
&
35 &: \begin{pmatrix}
1&1&0\\
1&1&1\\
0&1&1
\end{pmatrix}
&
36 &: \begin{pmatrix}
1&0&1\\
0&0&1\\
1&1&1
\end{pmatrix}
\\
37 &: \begin{pmatrix}
0&1&0\\
1&0&0\\
0&0&1
\end{pmatrix}
&
38 &: \begin{pmatrix}
0&1&1\\
1&1&0\\
1&0&0
\end{pmatrix}
&
45 &: \begin{pmatrix}
1&0&0\\
0&0&1\\
0&1&0
\end{pmatrix}
&
46 &: \begin{pmatrix}
1&1&1\\
1&1&0\\
1&0&0
\end{pmatrix}
\\
47 &: \begin{pmatrix}
0&1&1\\
1&1&1\\
1&1&0
\end{pmatrix}
&
48 &: \begin{pmatrix}
0&1&0\\
1&0&1\\
0&1&1
\end{pmatrix}
&
56 &: \begin{pmatrix}
0&0&1\\
0&1&1\\
1&1&0
\end{pmatrix}
&
57 &: \begin{pmatrix}
1&0&1\\
0&1&0\\
1&0&0
\end{pmatrix}
\\
58 &: \begin{pmatrix}
1&1&1\\
1&0&0\\
1&0&1
\end{pmatrix}
&
67 &: \begin{pmatrix}
1&1&0\\
1&0&1\\
0&1&0
\end{pmatrix}
&
68 &: \begin{pmatrix}
1&0&0\\
0&1&0\\
0&0&1
\end{pmatrix}
&
78 &: \begin{pmatrix}
0&0&1\\
0&1&1\\
1&1&1
\end{pmatrix}
\end{align}


指標表

 ここまで見てしまうと指標を計算するのは容易い. n次対称群のn-1次元既約表現に埋め込むと, 指標は\mbox{固定点の数}-1であったことに注意すると, 次のようになる:

\begin{align}
    \begin{array}{|c|c|c|c|c|c|c|} \hline
         \mbox{代表元} 
         & \displaystyle{\begin{bmatrix}
                         1&0\\
                         0&1
                         \end{bmatrix}}
        & \displaystyle{\begin{bmatrix}
                         0&-1\\
                         1&0
                         \end{bmatrix}}
         & \displaystyle{\begin{bmatrix}
                         1&-1\\
                         1&0
                         \end{bmatrix}}
         & \displaystyle{\begin{bmatrix}
                         1&1\\
                         0&1
                         \end{bmatrix}}
         & \displaystyle{\begin{bmatrix}
                         1&-1\\
                         0&1
                         \end{bmatrix}}
         & \displaystyle{\begin{bmatrix}
                         3&-1\\
                         1&0
                         \end{bmatrix}}
         \\ \hline
         \mbox{位数}
         & 1 & 2 & 3 & 7 & 7 & 4
         \\ \hline
         \sharp\mbox{共役類}
         & 1 & 21 & 56 & 24 & 24 & 42
         \\ \hline
         \mbox{置換の型}(Alt(7))
         & \lbrack 1^7\rbrack & \lbrack 1^3\,2^2\rbrack& \lbrack 1\,3^2 \rbrack& \lbrack 7 \rbrack& \lbrack 7 \rbrack& \lbrack 1\,2\,4\rbrack \\ \hline
         \mbox{指標(6次元)}
         & 6 & 2 & 0 & -1 & -1 & 0\\ \hline
         \mbox{置換の型}(Alt(8))
         & \lbrack 1^8\rbrack & \lbrack 2^4 \rbrack& \lbrack 1^2\,3^2 \rbrack& \lbrack 1\,7\rbrack & \lbrack 1\,7 \rbrack& \lbrack 4^2\rbrack\\ \hline
         \mbox{指標(7次元)}
         & 7 & -1 & 1 & 0 & 0 & -1\\ \hline
    \end{array}
\end{align}

6次元と7次元の既約表現の指標が得られた. 前回の分もまとめると, 指標表全体は次のようになる.

\begin{align}
    \begin{array}{|c|c|c|c|c|c|c|} \hline
         \mbox{代表元} 
         & \displaystyle{\begin{bmatrix}
                         1&0\\
                         0&1
                         \end{bmatrix}}
        & \displaystyle{\begin{bmatrix}
                         0&-1\\
                         1&0
                         \end{bmatrix}}
         & \displaystyle{\begin{bmatrix}
                         1&-1\\
                         1&0
                         \end{bmatrix}}
         & \displaystyle{\begin{bmatrix}
                         1&1\\
                         0&1
                         \end{bmatrix}}
         & \displaystyle{\begin{bmatrix}
                         1&-1\\
                         0&1
                         \end{bmatrix}}
         & \displaystyle{\begin{bmatrix}
                         3&-1\\
                         1&0
                         \end{bmatrix}}
         \\ \hline
         \mbox{位数}
         & 1 & 2 & 3 & 7 & 7 & 4
         \\ \hline
         \sharp\mbox{共役類}
         & 1 & 21 & 56 & 24 & 24 & 42
         \\ \hline
         {\bf 1}
         & 1 & 1 & 1 & 1 & 1 & 1 \\ \hline
         {\bf 3} 
         & 3 & -1 & 0 & \sigma & \overline{\sigma} & 1\\ \hline
         \overline{{\bf 3}}
         & 3 & -1 & 0 & \overline{\sigma} & \sigma & 1\\ \hline
         {\bf 6}
         & 6 & 2 & 0 & -1 & -1 & 0\\ \hline
         {\bf 7}
         & 7 & -1 & 1 & 0 & 0 & -1\\ \hline
         {\bf 8}
         & 8 & 0 & -1 & 1 & 1 & 0\\ \hline
    \end{array}\\
    \sigma = \frac{-1+\sqrt{-7}}{2}
\end{align}


まとめとこれから

「ファノ平面の自己同型群」としてGL(3,2), PSL(2,7)が7点集合にどのように作用するか調べた. 有限体上の2次正方行列に四元数の構造が入っていること, PSL(2,7)が正8面体群を部分群に持つことから, PSL(2,7)が作用するファノ平面を発見した.
 PSL(2,11)を調べるための指針は立った. これは正20面体群を部分群に持つ. それだけではなく, マシュー群M_{11},M_{12}がすぐそばにあり, 幾何学的にかなり奇妙な構造が見えてくる.
 ところで八元数の自己同型群であるG_2SU(3)を部分群として持っていて, SU(3)はファノ平面の自己同型群であるPSL(2,7)を部分群に持つ, という事実がちょっと気になっている. 何か深い意味はあるのかないのか.


リファレンス

[1] John Baez, "The Octonions" Chap.3 "Octonionic Projective Geometry", 2001
Octonionic Projective Geometry

[2]Brown, Ezra, and Nicholas Loehr. "Why is PSL (2, 7)≅ GL (3, 2)?.", 2009, The American Mathematical Monthly 116.8 : 727-732.
https://www.tandfonline.com/doi/pdf/10.4169/193009709X460859?casa_token=StnQGLFSFN4AAAAA:AaKyM_fKhplEnuXBFlODwnrVZhqafiogQZ5jWIMJGCBseL7WHxWRjS_-lbgJ3lKQ8OyOwoKXlE9Bmg
8元体上の変換としてPSL(2,7)からの準同型写像をエレガントに構成した論考.

[3] Philippe Caldero, and Jérôme Germoni. “Equilateral Triangles and the Fano Plane.” The American Mathematical Monthly, vol. 123, no. 8, 2016, pp. 789–801.
http://math.univ-lyon1.fr/~caldero/caldero-germoni.pdf
 後になって見つけたが本質的な部分で本記事とかなり似ている気がする. 複素平面とのアナロジーで有限体上に「正三角形」を考えられるという.
 シュタイナーシステム, Heawood graphからの観点も.

[4] Kostant, B., "The graph of the truncated icosahedron and the last letter of Galois." , 1995, Notices of the AMS, 42(9), 959-968.
https://www.ams.org/notices/199509/kostant.pdf

[5] 橋本義武 "クライン「正20面体と5次方程式」を読む", 2006
https://web.archive.org/web/20061002162030/http://math01.sci.osaka-cu.ac.jp/~hashimot/Klein.pdf

[6] Galois' last letter – neverendingbooks
http://www.neverendingbooks.org/galois-last-letter

[7] https://www.ias.ac.in/article/fulltext/reso/004/10/0093-0100

*1:2元体上ではスカラー倍は0か1しかないこと, 1+1=0となることに注意.

*2:単純群であるため奇置換は含まない.

*3:これを見つけるために次のようなことをした. まずGL(3,2)の位数21の部分群Hを見つける. Hによる作用でちょうど軌道が8つとなるような\mathcal{S}の元を見つける.