Shironetsu Blog

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人類を未知の世界に導く天体たち――グレッグ・イーガン"Perihelion Summer"&"The Slipway"

 今年2019年の前半、グレッグ・イーガンによる2つの中短編SFが続けて発表された。

 ひとつは、"Perihelion Summer"。Tor.comから4月16日に発売。

Perihelion Summer (English Edition)

Perihelion Summer (English Edition)

Perihelion Summer by Greg Egan | Tor.com Publishing

 もうひとつは、"The Slipway"。Analog誌7/8月号に掲載。

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/5118ALM9BuL._SX341_BO1,204,203,200_.jpg
Story Excerpt | Analog Science Fiction

 どちらも現代(特にオーストラリアを中心として)が舞台・人類が初めて遭遇する天体現象*1が描かれるという共通点を持ちながら、物語の趣はかなり異なっている。それぞれ内容を紹介する。

*1:Slipwayのほうは「天体」とは呼べないかもしれないが。

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「琴線に触れる」の語源を『列子』に求める説は正しい?

 「琴線に触れる」の元来の意味は「感動や共鳴を与えること」。ところが、「逆鱗に触れる」との混同が進んだ結果、「怒りを買うこと」という真逆に近い意味で使う人々が増えている…ということはしばしば話題になるし、SNSなどで実例を見つけるのも容易い。文化庁による調査も公表されている。

www.bunka.go.jp

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『三体』の三体問題について

 これは劉慈欣『三体』(早川書房)のネタバレがある記事。

 「三体問題は(解析的に)解けない」という事実は古典力学を学ぶとなんとなく知ることになり、その意味するところもなんとなく分かる。ほんの僅かしかない力学の「解ける」例に触れた後、それより少し複雑な対象を扱うと「解けない」問題のほうが普通だと信じられるようになる。その一番簡単で象徴的な例が三体問題。

 ところが、数学的に正確に「三体問題は解けない」の意味を説明しようとすると言葉に詰まる。「独立な第一積分が不足した非可積分系である」らしい。「不可能性」の数学的な定式化はだいたい難しい。

 しかし、「三体問題は解けない」が怪しい使われ方をしている場面に直面して、「そういう意味ではない」と言うくらいならもう少し簡単な仕事になる。『三体』の三体問題の記述にはところどころにそう指摘せずにはおれない怪しさがある。

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直線の配置の数え上げ(1)―6本の直線が作る43通りの形

 ある数え上げの問題. 言葉で説明するよりちょっと観察してみるのが早い.

 4本の直線を引く. どの2本も平行ではなく, どの3本も同じ点で交わることはないとしよう.

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すると, どう引いても直線で囲まれた領域の「形」はいつも同じになる. 1つの4角形が隣り合う2つの辺で2つの3角形とつながった形.

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氷の塔を建てて隣の星へ――グレッグ・イーガン "Phoresis"

 昨年4月に刊行されたグレッグ・イーガンによるノヴェラPhoresis.

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https://subterraneanpress.com/phoresis

 コレクター向けに1000部限定でナンバリングされたハードカバー書籍として発売された本作は, 刊行後まもなくKindle電子書籍ストアでの取り扱いが始まり今では気軽に手に取れるようになっている. 発売から1年経ち, 新作Perihelion Summer(太陽系をブラックホールが通過するという何ともタイムリーな内容)の刊行も目前に迫っている. 以下ネタバレを大いに含む紹介.

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PSL(2,13)指標表手作り体験記(2)――PSL(2,q)の部分群

  • PSL(2,q)の部分群
  • PSL(2,13)の指標(続)
    • 14次元既約表現
    • 12次元既約表現
    • 指標表
  • まとめと課題
  • リファレンス

続き.
PSL(2,13)指標表手作り体験記(1)――G2の有限部分群 - Shironetsu Blog

PSL(2,q)の部分群

 ガロアシュヴァリエへ宛てた「最後の手紙」の中で述べた命題は現代的に解釈するとこうであった.

素数 \(p\) について, PSL(2,p) が \(p\) 点に推移的に作用するのは \(p=2,3,5,7,11\) の場合に限られる.

 ガロアが気付いていたのかどうかは不明だが, 実際にはこの定理はより一般の有限体に拡張できて, 9元体を加えて次のようになる.

素数冪 \(q\) について, 自明な作用を除いて \(PSL(2,q)\) が \(q\) 点以下に推移的に作用するのは \(q=2,3,5,7,9,11\) の場合に限られる.

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