Shironetsu Blog

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PSL(2,13)指標表手作り体験記(1)――G2の有限部分群

  • イントロ:G2の有限部分群
  • PSL(2,13):基本的性質と13次元既約表現
    • 共役類
    • 置換表現と13次元既約表現
  • 7次元既約表現とG2
    • 八元数
    • 例外型リー群 G2
    • 相似変換
    • 数値実験
  • 14次元既約表現と随伴表現
  • まとめ
  • リファレンス

イントロ:G2の有限部分群

 PSL(2,13)は例外型リー群\(G_2\)の有限部分群である.

 本記事はこの衝撃的な事実を確かめることを主目的とする.
 自分はこれを論文[1]で知った. そこでは複素化された\(G_2(\mathbb{C})\)の有限部分群を調べた論文[2]をもとに\(G_2\)の有限部分群が表にまとめられている.

\begin{align}
\begin{array}{|c|c|c|} \hline
\mbox{部分群}\,\Gamma \in G_2 & \mbox{タイプ} & |\Gamma| \\ \hline \hline
SU(2)\times SU(2), SU(3)\mbox{の有限部分群} & - & -\\ \hline
PSL(2,7) \cong GL(3,2) \cong \Sigma(168) \in SU(3) & {\rm I} & 168\\ \hline
PSL(2,7) \rtimes \mathbb{Z}_2^3 & {\rm I} & 1344 \\ \hline
PGL(2,7) & {\rm P} & 336\\ \hline
PSL(2,8) & {\rm P} & 504\\ \hline 
PSL(2,13) & {\rm P} & 1092\\ \hline
PU(3,3) \cong G_2(2)' & {\rm P} & 6048\\ \hline
G_2(2) & {\rm P} & 12096\\ \hline
\end{array}
\end{align}
表:\(G_2\)の有限部分群.

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PSL(2,11)指標表手作り体験記――Paley biplaneと正20面体

  • イントロ――ガロアの最後の手紙
  • PSL(2,11):基礎事項
  • 5次元既約表現
  • 10次元既約表現その1
    • Paley Biplane
    • アダマール行列
    • 2項正20面体群
    • 11元体上の正20面体たち
  • 10次元表現その2
  • 11次元表現
  • 12次元表現
  • 指標表
  • まとめとこれから
  • リファレンス

イントロ――ガロアの最後の手紙

 シュヴァリエへ宛てたガロアの最後の手紙[1]. モジュラー方程式との関係から彼が重要視し, 証明なしに与えた命題は現代的なことばで述べるとこうであった.
 
素数 p に対して, SL(2,p)p 点への忠実かつ推移的な作用を持つのは p=5,7,11 のときに限られる.
 
 それぞれ正4面体群, 正8面体群, 正20面体群を部分群としてもつことから起こるこの現象. ADE分類, McKay対応の「例外的な三つ組」がここにも現れる.
 本記事では PSL(2,7) について調べた前回の記事に引き続き, PSL(2,11)の既約指標を求めつつ, ここで起こっている現象の理解を目標とする.

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PSL(2,7)指標表手作り体験記(2)――ファノ平面・GL(3,2)・四元数・正8面体

  • イントロ――ファノ平面
  • ファノ平面の自己同型群とは
  • 2元体で考える
  • PSL(2,7)
  • 有限体係数の四元数
  • ファノ平面を探す
  • ふたたびGL(3,2)
  • 指標表
  • まとめとこれから
  • リファレンス

 過去ふたつの記事の続き.
小さな非可換単純群 - PSL(2,p) - Shironetsu Blog
PSL(2,7)指標表手作り体験記(1) 3,3,8次元既約表現 - Shironetsu Blog

イントロ――ファノ平面


 John Baezによる八元数の解説から[1].

 射影幾何は, ルネッサンス期の画家たちによる遠近法の研究に期限を持つ, 歴史ある分野だ. 平行な線たち――たとえば線路のような――は「無限遠点」で交わるかのように見える. 視点を変えると距離や角度は変わるが, 点は点のまま, 直線は直線のまま変わらない. この事実は, 点の集合, 直線の集合, そして点は直線の上に「のる」ことを基礎とした, 次に挙げる公理を満たした, ユークリッド平面幾何学の修正につながる :

  • 異なる2点について, 両方をのせているただ1つの直線が存在する.
  • 異なる2直線について, 両方にのるただ1つの点が存在する.
  • ある4つの点が存在して, どの3つをとっても同じ直線にのっていない.
  • ある4つの直線が存在して, どの3つをとっても同じ点をのせていない.

 これらの公理を満たす構造を射影平面と呼ぶ. この定義の魅力のひとつは, その「自己双対性」にある : 「点」と「直線」を, 「のる」と「のせる」を入れ替えても変わらないということだ.

引用終わり.

 射影平面は有限集合上にも定義される. そして最小の射影平面が, 次の図で表されるファノ平面である.

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PSL(2,7)指標表手作り体験記(1) 3,3,8次元既約表現

  • イントロ:ある行列と群
  • 3次元既約表現
    • 試み : C^3への作用
    • 群の表示
    • PSL(2,p)の生成元
    • 指標表
    • クラインの4次曲線
  • 8次元既約表現
  • 6,7次元既約表現
  • まとめ
  • リファレンス

イントロ:ある行列と群

問題:次の形の行列{A}が2乗すると単位行列になるための条件は何か?
\begin{align}
A =
\begin{pmatrix}
\lambda & \nu & \mu\\
\nu & \mu & \lambda\\
\mu & \lambda & \nu
\end{pmatrix} \in SL(3,\mathbb{C})
\end{align}

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デレステFascinateイベントコミュのタイトルはSF小説

 VelvetRose。黒埼ちとせと白雪千夜。 2019年2月26日に突如デレステの予告に登場しあらゆる話題を掻っ攫っていった2人。

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 驚きどころには尽きないが、自分はこれで敗北してしまった。
 イベントコミュのタイトルがSF小説のタイトルから採られているのだ。

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 サブタイトルにSF小説のタイトルを付けるやつに人類は勝てない……。
 それぞれの基となった小説を簡単にまとめる。原著は英語だがすべて邦訳がある*1

  • オープニング "Inherit the Stars"
  • 第1話 "Tonight We Steal the Stars"
  • 第2話 "Brightness falls…"
  • 第3話 "If the Stars Are Gods"
  • 第4話 "Moon is a Harsh Mistress"
  • 第5話 "Lights in the Sky Are Stars"
  • エンディングについて
  • エンディング "The End of Eternity"
  • 営業コミュ "The Door into Summer"

*1:原著の画像は初版を選んだ。邦訳はとくに拘らなかったが、だいたい文庫化された最新の版になっているはず。と言っても現在書店で手に入るのは『星を継ぐもの』・『月は無慈悲な夜の女王』・『天の光はすべて星』の3つで『輝くもの天より堕ち』はやや怪しい。『今宵われら星を奪う』・『もし星が神ならば』は古本でしか手に入らない。

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よい本 1

  • 畑将貴『右利きのヘビ仮説――追うヘビ、逃げるカタツムリの右と左の共進化』(東海大学出版会、2012年)
  • 千葉聡『歌うカタツムリ――進化とらせんの物語』(岩波書店、2017年)
  • 大場裕一『恐竜はホタルを見たか――発光生物が照らす進化の謎』(岩波書店、2016年)
  • 上村佳孝『昆虫の交尾は、味わい深い…。』(岩波書店、2017年)
  • 細川貴弘『カメムシの母が子に伝える共生細菌―必須相利共生の多様性と進化― 』(共立出版、2017年)
  • 青木重孝『兵隊を持ったアブラムシ』(丸善出版、2013年)
  • 太田悠造『海のクワガタ採集記―昆虫少年が海へ―』(裳華房、2017年)
  • 塚谷裕一『森を食べる植物――腐生植物の知られざる世界』(岩波書店、2016年)

最近読んだよい本たちの紹介。すべて生き物の本。

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コワレフスカヤのコマ・量子力学?

イントロダクション

 コマの運動はほとんど解析的には解けない*1. 「ほとんど」というのは「重力下で一点を固定されている」という条件の下では例外的に次の場合に解けるから.

 重心が固定点に一致しているとき.

 対称コマかつ慣性モーメントの対称軸上に重心が位置するとき.

 長らく解が知られているのはこの2つの場合だけだったが, 1889年になって3つ目の場合が見つかる. 発見者はロシアの数学者ソフィア・コワレフスカヤ Sofia Kovalevskaya. 現在「コワレフスカヤのコマ」として知られた次の特殊な条件を持つコマである[1].

 {I_X=I_Y=2I_Z}かつ重心が\(X\)軸上に位置するとき.

 彼女はオイラーラグランジュのコマの解が楕円関数によって表されることに着目し, 特異点解析の理論からこの特殊な場合に解ける可能性を見出した[2]. さらに彼女は実際にこの場合に特殊な第一積分("コワレフスカヤ積分")を発見し, 2変数のリーマンの\(\vartheta\)関数によって解を表すことに成功した[3,4].

 さて, 気になるのはコワレフスカヤのコマの量子力学バージョンである. 水素原子や調和振動子の例があり, 古典で特殊なことが起こるなら量子でも何かが起こると期待してしまう.

 ...しかし少し考えるとすぐに「変な縮退」が起こることはあまり期待できなくなる. というのも, 量子力学バージョンの自由な非対称コマ=オイラーのコマで自明な部分以外の縮退が解けてしまうというのはよく知られた事実だから*2.

 ともあれ, 他の何かは起こるかもしれない. まずは数値的にでも解いてみよう.

*1:「解析的」も「解ける」も可積分系の言葉で言い表すべきだが恥ずかしながらそれらの術語を正しく使える自信がない...

*2:量子化学の本で回転遷移について論じているものを見れば載っている.

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