Shironetsu Blog

@shironetsuのブログ

「昏き星、遠い月」公演前の

 アイドルマスター ミリオンライブ!5周年おめでとうごさいます。

 "THE IDOLM@STER MILLION THEATER GENERATION 05 夜想令嬢 -GRAC&E NOCTURNE-"の発売日は明日2月28日。イベント終了から1か月と少し。長かった。「合言葉はスタートアップ!」、「Princess Be Ambitious!!」・MS06CD発売、田中琴葉さんの〈資料運び〉解放、「虹色letters」等この間に色々あった。
 フラゲの前に、前回の記事の後に考えたこと見たことなどを書き残しておく。CDのドラマパートで全ての答えが明確になるとは限らないものの、イベントストーリー+フルサイズしかない今*1想像していることのいくつかはきっと無に帰してしまうはずなので……。

前の記事の要点

shironetsu.hatenadiary.com
 追記部分以外はフル尺公開前のもの。「愛し子」を重視しない考察。永吉さんに頼まれてプロデューサーが死体役になるという一見ギャグっぽい場面が挟まれることで、不良ふたりを瞬殺したクリスティーナの強さから注意が逸らされるという仕掛けをいま一度味わってほしい……。この点に限らず全体的に叙述トリック的な面白みがあるのが良い。練習を眺めているプロデューサーとしての視点は本来筋書きを一番理解しているはずなので。
 前の記事の読みは「故意に言及しないこと」はあっても嘘は含まれないと考えている点でかなり素直。おおよそ次の推測が骨子。

  • クリスティーナがエレオノーラをヴァンパイアに変えた。クリスティーナの言う「罪」はこのこと。
  • クリスティーナは自分が生んだエレオノーラという怪物(同族を「淘汰」の名のもとに殺している)を討つためスラム街に潜伏していた。
  • エドガーによるアレクサンドラへの説得が功を奏し窮地を脱すると、彼女にエレオノーラの秘密を暴露することで殺害を教唆して遂に「罪」を清算した。

 
 クリスティーナとエレオノーラの関係はストーリー中で言及がないため諸々の描写から推察するしかない。はっきりしているのは「クリスティーナはエレオノーラの正体をアレクサンドラに教えた」ということだけ。エレオノーラの側がクリスティーナのことを知っているかどうかさえ明確ではない。そういった色々の断片的な要素がうまく整合する仮説として選んだのが「クリスティーナがエレオノーラをヴァンパイアに変えた」だった。今に至るまで特に反証も思いついていない(エレオノーラ側の感情が若干弱いかなという気はするが)。


「愛し子」

 イベント終了後先行配信された「昏き星、遠い月」フルバージョン。そのラストの「愛し子」を踏まえると先の説は、しかしなんとも弱い。

ねえ……とても愛していたわ……本当よ?……私の愛し子……。

 百瀬莉緒ーーーー!!!!!!!!昨日公開されたメインコミュ第17話見ましたか?……普段はあんな感じの気さくなお姉さんなのに……こんな息も絶え絶えの「悪女」が最期に思った誰にも届かない愛を迫真の演技で……
 さて。「愛し子」という語はストーリーコミュ中でも口にしている。ただしアレクサンドラの妹ノエルに対して。

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 「まるで私の愛し子」という表現、これだけを聞いても実の娘ではないノエルに向ける言葉として不自然なところはないが、上の台詞を聞いた後では「本当の愛し子」がいる可能性を考慮に入れざるを得ない。 そのうえこういう話があった(コメントくれた方もありがとうございます)

マリア・エレオノーラ・フォン・ブランデンブルク - Wikipedia
クリスティーナ (スウェーデン女王) - Wikipedia
>1636年、マリアは娘クリスティーナを監禁したが、のちにマリアは反逆の疑いをかけられてデンマークへ亡命し、王族としての特権を剥奪され、事実上スウェーデンから追放された。1643年にブランデンブルクへ渡った。
>マリアは1648年に再びスウェーデンへ戻ったが、クリスティーナとの親子関係が修復することは二度となかった。

Leonora Christina Ulfeldt - Wikipedia
 ほぼ同時代の17世紀中ごろににデンマークでもレオノーラ・クリスティーナ・ウルフェルト*2も20余年に渡る幽閉生活をコペンハーゲン城の「青い塔」で送っている。母子関係が原因ではないけど。


 もちろん実在していた人物から名前を取っているのだとしても境遇を直接なぞっているはずはない。しかしこれを見ると、エレオノーラはクリスティーナの実子・監禁・逃亡・親子間の確執……などと想像を膨らませずにはいられない。

 そう思いながら再度ストーリーコミュを見ると、ヴァンパイアになったノエルを眠らせる香をエレオノーラが持っていた理由も違ってくる。元はクリスティーナを眠らせるために使っていた? 他のいくつかの要素も併せて次の説が立てられる。

 エレオノーラは実の子であるクリスティーナを香で眠らせながら長年監禁していた。しかしあるときクリスティーナは目覚め、逃亡して自由の身となった。ヴァンパイアとしての生を苦痛そのものと考えるエレオノーラは、クリスティーナの行方を捜し死をもって安らぎを与えようとする。
 数年後、配下のアレクサンドラはクリスティーナを探し当てるが、「エレオノーラの正体はヴァンパイアである」という秘密のみを携えて帰ってくる。秘密を知っているのはただひとりだったはず。「愛し子」クリスティーナは自らの正体を、ヴァンパイアを憎むアレクサンドラに教えた。アレクサンドラを通じて届いた、生きる決意と離別のメッセージ。母としての役割の終焉。我が子が死を拒んだ一方で、死を受け入れたエレオノーラはアレクサンドラに嘘の動機(弱いヴァンパイアの淘汰と王国の建設)を話しながら自分を殺すように仕向けた。アレクサンドラの一振りでエレオノーラは致命傷を負い、薄れゆく意識の中で思う。「ねえ……とても愛していたわ……本当よ?……私の愛し子……」

 エレオノーラが死を受け入れたと考える理由のひとつは、強力なはずの彼女が実戦経験に乏しいはずのアレクサンドラに抵抗しているように見えないから。しかしヴァンパイアはそもそも不死であるはず。この点から疑うこともできる。


エレオノーラの正体

 ヴァンパイアになると「二度と死ねなくなる」とはクリスティーナの台詞として歌詞にも含まれている。一方で血液を摂取しなければ死んでしまうともエドガーには話している。単純に考えれば寿命が無いかあるいは人間よりはるかに長い、つまり自死を選ぶ以外に死ぬ方法がないということだろう。だからエレオノーラが殺されてしまったことが直接ヴァンパイアであることを疑うべき理由にはならない。
 ……とはいえエレオノーラが実はヴァンパイアでないという可能性には一考の余地がある。何せアレクサンドラとエレオノーラの会話以外にそうと分かる描写がない。そのうえアレクサンドラはヴァンパイアを見分けることができないと来ている。

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(アレクサンドラがクリスティーナ・エドガーと出会った場面)

 そうなると死に際のエレオノーラの言葉の嘘をついていたと考えるべき部分が増える。大筋は上のままで、エレオノーラが人間であるとの説に基づくとこうなる;

 クリスティーナは母が全てを背負ってくれるだろうと確信して、実際には人間であるエレオノーラの正体がヴァンパイアであるとの嘘の秘密をアレクサンドラに教えた。我が子を愛するエレオノーラはアレクサンドラの言葉に合わせて自分がヴァンパイアを探す理由を偽った。同時に、アレクサンドラの父母を殺してノエルをヴァンパイアに変えたのは自分であるとも――実際にあの日屋敷を襲ったのはクリスティーナだったのに。真実は自分の死と共に葬られ、過去から切り離されたクリスティーナは自由になる。

 母子の心の読み合いが異常に高度になって良い。捩じれきった愛の形。ノエルをヴァンパイアに変えたことがクリスティーナの「罪」であるとの考えを以前は否定していたが、この説では少なくともそのひとつとして復活しうる。……まあちょっと無理がある感は否めない。
 

クリスティーナの罪

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 クリスティーナの罪。結局何なのか? この解釈によって可能性はもっと分岐しうる。事実としてエドガーと旅に出ることができない理由であった「罪」、クリスティーナにとってあの街に縛り付けていた軛であったわけだが、どのように縛り付けていたのか?

  • 「クリスティーナがエレオノーラをヴァンパイアに変えた」説……エレオノーラをヴァンパイアに変えたこと。彼女を討つための使命を果たすまで街を離れられない。
  • 「母エレオノーラが死を与えることで子クリスティーナを救おうとした」説……母から逃げたこと?命を狙われている以上エドガーを巻き添えにはできない。
  • 「エレオノーラは人間である」説……アレクサンドラ一家を襲ったこと?同上。

 瀕死のエドガーにここで死ぬかヴァンパイアになるか選択を迫る場面で苦しんでいることからは、人間を食糧とするしかないヴァンパイアとしての生そのものを罪だと考えているようにも見える。もしくは人間を殺さずにヴァンパイアに変えてしまうことか。考え始めるとどれもそれなりに魅力があって決定打となる証拠に欠ける。

 「罪」がどのような形で解消されたのであろうと(あるいは解消されたわけではないのだとしても)ヴァンパイアとしての空虚で孤独な生を送っていたクリスティーナがエドガーとの出会いによって変化したのは確か。

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 この「少し変わった形のボーイ・ミーツ・ガール」の背景に何があるのか、間もなく始まる本公演:CDのドラマパートでどこまで明かされるか楽しみ。

www.lantis.jp

*1:先日2曲目の"Everlasting"が誤って配信されて取り逃されるということがありましたね。勢いで購入してしまったが結局聞いていない。

*2:ポール・アンダーソンによるハードSF『タウ・ゼロ』Tau Zeroの宇宙船Leonora Christineの由来らしい。エンジンが故障して故郷との相対速度が光速に近づいていくこの宇宙船の中に乗員たちは閉じ込められ、宇宙が年老いていく様子を目の当たりにする。読んで。