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5+1次元Dirac方程式 - Spin(5,1)とSL(2,H)の同型から

「じゅうぶんなレプトン原子核内部にしっかりととどめられるようなエネルギー・レベルはすべて埋められ、最外部のレプトンが、原子核間にそれなりの距離を残したままふたつの原子を結合させられる分だけ突き出す。最初のふたつのレベルは完全に埋めなくてはなりませんが、それにはレプトン二十四個が必要です――だからあらゆる安定な分子は、慎重に配置された原子番号25かそれ以上の原子数個を必要とする。」

グレッグ・イーガンディアスポラ』p.386の改変. 数字を変えている. というのは以下の理由から. 「参考」にリンクを張っている「『ディアスポラ』5+1次元宇宙についての考察」では次のように指摘されている.

ところで、「ディアスポラ」の原子で最初の2つのレベルは完全に埋めるには、6つの軌道のひとつひとつを4つのスピン状態で埋めることになるので、レプトンは12個でなくて24個必要になるのではないでしょうか。

 『ディアスポラ』の元の文章で「レプトン十二個」となっているのが奇妙ということ. 原子核中のポテンシャルが等方調和振動子的なものになるなら*1, エネルギー準位について基底状態1つに第1励起状態5つの計6つの軌道がレプトンによって埋められるには, 5次元空間のスピン自由度4つをかけて24個が自然に思われるがその半分しかない. スピン自由度として2を乗じているか, 他の可能性か. Greg Egan's Homepageにはこれについての解説が見当たらない.

 偶然同型など知らずともスピン自由度が{2^{\lfloor 5/2\rfloor}=4}になるのはスピノル群を考えるとすぐに分かるものの, 以上イントロ.

f:id:shironetsu:20170831130919p:plain:w500

 Lie群の偶然同型からDirac方程式を構成するシリーズその5. SO(1,5). ディアスポラのマクロ球である. 既に前の記事で触れた通り, SO(1,5)の単位元との連結成分(本義Lorentz変換, {SO(1,5)_0}と表記)の二重被覆, Spin(1,5)に対して,次の同型が成り立つ.

{
Spin(1,5)\cong SL(2,\mathbb{H})
}

右辺はSpecial Linear group(2, H)... 2次四元数特殊線形群である. つまり行列式が1の2×2四元数行列...ということになるがこれを定義するにはいくつか準備が要る. 四元数の積の非可換性のために複素数と同じようには行列式を定義できないため.

 その前に. この同型, 発想は単純である. 1+3次元, すなわち我々の宇宙でベクトルは2次Hermite行列と対応付けられて, ノルムはその行列式になるのだった. 過去の記事を参照.
点付き・点なし - Shironetsu Blog

{
\begin{align}
\det \begin{pmatrix}
t+z & x-yi\\
x+yi & t-z
\end{pmatrix}=t^2-x^2-y^2-z^2
\end{align}
}

t,x,y,zは実数. これの非対角要素をなす複素数四元数に置き換えて"行列式"を計算してみるとちょうど1+5次元のノルムになる*2.

{
\begin{align}
"\det" \begin{pmatrix}
t+v & w-xi-yj-zk \\
w+xi+yj+zk & t-v
\end{pmatrix}&=(t+v)(t-v)-(w+xi+yj+zk)(w-xi-yj-zk)\\ &= t^2-v^2-w^2-x^2-y^2-z^2
\end{align}
}

良く定義できていないため引用符付きのdet. また, 座標変換に応じて1+3次元のベクトルXは

{
X\to MXM^\dagger
}

とSL(2,C)の行列Mによって変換されていた. 同様に1+5次元のベクトルはSL(2,H)の行列によって変換されることが期待される. 少なくとも, 四元数成分の行列を左からかけ, その行列を転置して各成分の共役をとったものを右からかける操作が「対角要素が実数, 非対角要素が互いに共役な四元数となる行列」の変換(6次元実ベクトル空間とみると線形変換)になっていることは確かめられる.

{
\begin{gather}
\begin{pmatrix}
a &b\\
c &d
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
u &\bar{q}\\
q &v
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
\bar{a} &\bar{c}\\
\bar{b} &\bar{d}
\end{pmatrix}=
\begin{pmatrix}
u' &\bar{q'}\\
q' &v'
\end{pmatrix}\\
u'=|a|^2u+|b|^2v+bq\bar{a}+a\bar{q}\bar{b},\ \ \ v'=|c|^2u+|d|^2v+dq\bar{c}+c\bar{q}\bar{d}\\
q'=c\bar{a}u+d\bar{b}v+dq\bar{a}+c\bar{q}\bar{b}\\
u,v,u',v'\in\mathbb{R},\ \ \ a,b,c,d,q,\bar{q}'\in\mathbb{H}
\end{gather}
}

問題はベクトル同士の内積をどう定めるか. 1+3次元の場合をヒントに

{
\begin{align}
\left\langle \begin{pmatrix}
u_1 &\bar{q_1}\\
q_1 &v_1
\end{pmatrix}, 
\begin{pmatrix}
u_2 &\bar{q_2}\\
q_2 &v_2
\end{pmatrix}\right\rangle &=\frac{1}{2}{\rm Tr}
\begin{pmatrix}
u_1 &\bar{q_1}\\
q_1 &v_1
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
v_2 &-\bar{q_2}\\ -q_2 &u_2
\end{pmatrix}\\
&=\frac{1}{2}(u_1v_2+v_1u_2-q_1\bar{q_2}-\bar{q}_1q_2)
\end{align}
}

としてしまえばよさそう(最終的に採用するのも最右辺の形に等しい)だが, トレースの可換性などが成り立たないから, 変換性を考えるにあたっては具合が悪い.


 ここで利用するのが, (自然数)n次四元数行列環と2n次複素行列環のある部分集合との間の環同型である. 以下の議論は, 小林俊行『Lie群とLie環 2』(岩波書店, 1999年)の第7章を参考にしており, 記号もほぼこれに準じている.

 その前に記号を整理しておく. この記事中では複素数の共役をアスタリスク"*", 四元数の共役を上付きのバー"{\bar{}}"によって表して区別することにする. 四元数環の部分環としての複素数環を1とiの張る部分空間としてその(四元数としての)共役をとるときにも*で表す.*が付いていればjとkの要素は0ということ.

 次の関係により四元数をふたつの複素数に分解できる.

{
\begin{align}
 w+xi+yj+zk&=w+xi+(y+zi)j\\
\mathbb{H}&=\mathbb{C}\oplus\mathbb{C}j
\end{align}
}

行列の場合も同様.

{
\begin{align}
M(n,\mathbb{H})=M(n,\mathbb{C})\oplus M(n,\mathbb{C})j
\end{align}
}

このように分解したとき, 積は

{
\begin{align}
(A_1+B_1j)(A_2+B_2j)&=A_1A_2+A_1B_2j+B_1jA_2+B_1jB_2j\\ &=(A_1A_2-B_1B_2^*)+(A_1B_2+B_1A_2^*)j\\
A_1,A_2,B_1,B_2&\in M(n,\mathbb{C})
\end{align}
}

と表せる. ここでM(2n,C)の部分環MJ(2n,C)を次のように定義する.

{
\begin{align}
MJ(2n,\mathbb{C})=\{
\begin{pmatrix}
A&-B\\
B^*&A^*
\end{pmatrix}
\in M(2n,\mathbb{C})| A,B\in M(n, \mathbb{C})\}
\end{align}
}

これが和と積について閉じていることは簡単に確かめられる(略).

M(n,H)とMJ(2n,C)の間の全単射写像{\eta}を次のように定義する.

{
\begin{gather}
\eta: A+Bj\in M(n,\mathbb{H}) \mapsto \begin{pmatrix}
A&-B\\
B^*&A^*
\end{pmatrix}\in MJ(2n,\mathbb{C})\\
A,B\in M(n,\mathbb{C}) 
\end{gather}
}

これが全単射であることは明らか. 著しい性質は, これが環の同型写像になっていることである. 和については明らかだから, 積について確かめる.

{
\begin{align}
\eta\lbrack A_1+B_1j\rbrack\eta\lbrack A_2+B_2j\rbrack
&=\begin{pmatrix}
A_1&-B_1\\
B_1^*&A_1^*
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
A_2&-B_2\\
B_2^*&A_2^*
\end{pmatrix}\\ &=
\begin{pmatrix}
A_1A_2-B_1B_2^*&-(A_1B_2+B_1A_2^*)\\
(A_1B_2+B_1A_2^*)^*&(A_1A_2-B_1B_2^*)^*
\end{pmatrix}\\ &=\eta\lbrack(A_1A_2-B_1B_2^*)+(A_1B_2+B_1A_2^*)j\rbrack\\ &=\eta\lbrack(A_1+B_1j)(A_2+B_2j)\rbrack
\end{align}
}

この関係により, 四元数行列が正則であることと対応する複素行列の行列式が非零であることとが同値になる. そして, MJ(2n,C)}]の行列式が1の要素の部分集合が積についてなす群を{SL(n,\mathbb{H})}と表記することにする. すなわち,

{
\begin{align}
SL(n,\mathbb{H})=\{X\in MJ(2n,\mathbb{C})|\det(X)=1\}
\end{align}
}

やや奇妙な表記だが, 2×2行列(SU(2)の行列の実数倍)を四元数と同一視するのと同じこと. とくにn=1のときSU(2), 単位四元数のなす群に同型. これによって四元数行列の問題が複素行列のそれに還元された.

さて, MJ(2n,C)はふたつのn×n複素行列から構成されるから実{4n^2}ベクトル空間をなしている. これに行列式が1になるという条件を課すと一見実部と虚部それぞれに対する拘束条件で2自由度が減りそうだが, MJ(2n,C)の行列式は自動的に実数になるため減る自由度は1である. このことは

{
\begin{gather}
\begin{pmatrix}
0&{\bf 1}_n\\ -{\bf 1}_n&0
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
A&-B\\
B^*&A^*
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
0&{\bf 1}_n\\ -{\bf 1}_n&0
\end{pmatrix} = -\begin{pmatrix}
A&-B\\
B^*&A^*
\end{pmatrix}^*\\
\end{gather}
}

の両辺の行列式をとることでMJ(2n,C)の行列式がその複素共役と一致することから確かめられる. したがってSL(n,H)の次元は{4n^2-1}. n=2のとき15となりSO(1,5)の次元と一致して具合がいい.

 以下専らn=2のみを対象とする. MJ(4,C)のR基底を見よう. 実部と虚部に分解すると,

{
\begin{align}
\begin{pmatrix}
A&-B\\
B^*&A^*
\end{pmatrix} =
\begin{pmatrix}
{\mathfrak Re}(A)&-{\mathfrak Re}(B)\\
{\mathfrak Re}(B)&{\mathfrak Re}(A)
\end{pmatrix} +
\begin{pmatrix}
i{\mathfrak Im}(A)&-i{\mathfrak Im}(B)\\ -i{\mathfrak Im}(B)&-i{\mathfrak Im}(A)
\end{pmatrix}
\end{align}
}

また, Pauli行列を用いて

{
\begin{align}
M(2,\mathbb{R})={\rm Span}_\mathbb{R}\langle \sigma^0, \sigma^1,i\sigma^2,\sigma^3\rangle
\end{align}
}

から,

{
\begin{align}
MJ(4,\mathbb{C})=
{\rm Span}_\mathbb{R}\langle &\sigma^0\otimes\sigma^0,\  \sigma^0\otimes\sigma^1,\ i(\sigma^0\otimes\sigma^2),\ \sigma^0\otimes\sigma^3,
\\&i(\sigma^2 \otimes \sigma^0), \ i(\sigma^2\otimes\sigma^1),\ \sigma^2\otimes\sigma^2,\ i(\sigma^2\otimes \sigma^3)
\\&i(\sigma^3\otimes\sigma^0), \ i(\sigma^3\otimes\sigma^1),\ \sigma^3\otimes \sigma^2,\ i(\sigma^3\otimes\sigma^3)
\\&i(\sigma^1\otimes\sigma^0),\  i(\sigma^1\otimes\sigma^1),\ \sigma^1\otimes\sigma^2,\ i(\sigma^1\otimes\sigma^3)
\rangle
\end{align}
}

Hermite行列が6個と反Hermite行列が10個. 上で6次元"ベクトル"とみなしたい2×2四元数行列を持ち出したが, それに対応するのがこのHermite行列6個で張られる空間({\mathfrak{F}}とする)の元になっている.

{
\begin{align}
\mathfrak{F}&\equiv\{\eta(X)\in MJ(4,\mathbb{C})|X=
\begin{pmatrix}
u&q\\
\bar{q}&v
\end{pmatrix}
\in M(2,\mathbb{H}),
u,v\in\mathbb{R},q\in\mathbb{H}\}\\
&=\{X\in MJ(4,\mathbb{C})|X^\dagger = X\}\\
&=
{\rm Span}_\mathbb{R}\langle \sigma^0\otimes\sigma^0,\  \sigma^0\otimes\sigma^1,\ \ \sigma^0\otimes\sigma^3,\ 
 \sigma^2\otimes\sigma^2,\ \sigma^3\otimes \sigma^2,\ \sigma^1\otimes\sigma^2
\rangle
\end{align}
}

ところでMJ(4,C)の16個の基底, よく見るとClifford代数{C\ell_4(\mathbb{R})}の表現になっている*3. 特にこの事実を以下で活用するわけではないが, 積を計算するとき見通しが良い.括弧積について閉じることが自明になる. 選び方には任意性があるが, 次のようにとるとこのことが確かめられる.

{
\begin{gather}
\Gamma^1= \sigma^1\otimes\sigma^2,\ \Gamma^2= \sigma^2\otimes\sigma^2,\ 
\Gamma^3= \sigma^3\otimes\sigma^2,\ \Gamma^4= \sigma^0\otimes\sigma^1\\
\Gamma^i\Gamma^j+\Gamma^j\Gamma^i=2\delta^{ij}\ \ \ (i,j=1,2,3,4)
\end{gather}
}

この4つに加えて

{
\begin{align}
\Gamma^0 &={\bf 1}_4 = \sigma^0\otimes\sigma^0\\
\Gamma^5 &= \Gamma^1\Gamma^2\Gamma^3\Gamma^4=\sigma^0\otimes\sigma^3
\end{align}
}

とおくと,

{
\begin{align}
\mathfrak{F}=
{\rm Span}_\mathbb{R}\langle \Gamma^0,\ \Gamma^1,\ \Gamma^2,\ \Gamma^3,\ \Gamma^4,\ \Gamma^5
\rangle
\end{align}
}

この{\mathfrak{F}}の元に対してチルダで表す"共役"を次のように定める*4.

{
\begin{align}
X&=X_0\Gamma^0+X_1\Gamma^1+X_2\Gamma^2+X_3\Gamma^3+X_4\Gamma^4+X_5\Gamma^5\\
\rightarrow \tilde{X}&\equiv X_0\Gamma^0-X_1\Gamma^1-X_2\Gamma^2-X_3\Gamma^3-X_4\Gamma^4-X_5\Gamma^5
\end{align}
}

この定義により,

{
\begin{gather}
\Gamma^\mu\tilde{\Gamma}^\nu+\Gamma^\nu\tilde{\Gamma}^\mu=2g^{\mu\nu}{\bf 1}_4,\ \ \ \mu,\nu=0,1,2,3,4,5\\
g^{\mu\nu}={\rm diag}(+,-,-,-,-,-)
\end{gather}
}

となり, {\mathfrak{F}}内積が定められる.

{
\begin{align}
\langle X,Y\rangle\equiv\frac{1}{4}{\rm Tr}(X\tilde{Y})=g^{\mu\nu}X_\mu Y_\nu
\end{align}
}

これがSL(2,H)の行列Dによる変換で不変になってほしい. すなわち{\mathfrak{F}}上の一次変換{f\lbrack D\rbrack}

{
\begin{align}
f\lbrack D\rbrack X\equiv DXD^\dagger,\ \ \ D\in SL(2, \mathbb{H})
\end{align}
}

と定めたとき,

{
\begin{align}
? \langle X,Y\rangle=\langle f\lbrack D\rbrack X,f\lbrack D\rbrack Y\rangle ?
\end{align}
}

となっていてほしい.

これにはまず次のことを示す.

{X'=f\lbrack D\rbrack X}

のとき,

{\tilde{X'}=f\lbrack(D^{-1})^\dagger\rbrack\tilde{X}}

ただしDはSL(2,H)上単位元との連結成分に制限.

(証明)
f, チルダ共役はともに1次変換であるから, {\mathfrak{F}}の各基底に対して示せば十分. そこで{X=\Gamma^\alpha}とする. まず, fは{\mathfrak{F}}上の1次変換だから{X'}は次のように表せる.

{
\begin{align}
X'=f\lbrack D\rbrack \Gamma^\alpha=a^\alpha_{\nu}\Gamma^\nu\ \ \ a^\alpha_{\nu}\in\mathbb{R}
\end{align}
}

行列式をとることで,

{
\begin{align}
K&\equiv g^{\mu\nu}a_\mu^\alpha a_\nu^\alpha\\
K^2&=1
\end{align}
}

が分かる. Kは実数かつ恒等変換(D=1)に対してK=1であり, さらにDの単位元との連結性によってKは不連続な変化が許されないから, 任意のDに対してK=1になる.

これにより{X'}とそのチルダ共役との積は,

{
\begin{align}
X'\tilde{X'}&=a^\alpha_{\mu}\Gamma^\mu a^\alpha_{\nu}\tilde{\Gamma}^\nu\\
&=K {\bf 1}_4\\
&={\bf 1}_4
\end{align}
}

(以下を含め{\alpha}については和をとらない). 一方,

{
\begin{align}
(f\lbrack D\rbrack X)(f\lbrack (D^{-1})^\dagger\rbrack X)
&=D\Gamma^\alpha D^\dagger (D^{-1})^\dagger \Gamma^\alpha D^{-1}\\
&={\bf 1}_4
\end{align}
}

ゆえに, 逆行列の一意性から

{
\begin{align}
\tilde{X'}=f\lbrack(D^{-1})^\dagger\rbrack X
\end{align}
}

これを用いると,

{
\begin{align}
\langle f\lbrack D\rbrack X, f\lbrack D\rbrack Y \rangle
&=\frac{1}{4}{\rm Tr}(DXD^\dagger (D^{-1})^\dagger \tilde{Y} D^{-1})\\
&=\frac{1}{4}{\rm Tr}(X\tilde{Y})\\
&=\langle X, Y \rangle
\end{align}
}

と, Dによる変換で内積が不変であることが示される.

Lorentz計量を保つ一次変換であり, かつ次元が一致するためDは本義Lorentz変換の元{\Lambda}に対応付けられる. 対応関係は2対1である.

これを利用するとLorentz共変な1次の波動方程式を書ける. Lorentz変換{\Lambda}に応じて

{
\begin{align}
\phi &\mapsto \phi'=D(\Lambda) \phi\\
\chi &\mapsto \chi'=(D(\Lambda)^{-1})^\dagger \chi\\
\end{align}
}

と変換する{\mathbb{C}^4}ベクトル{\phi, \chi}を定義する.

これまで考えてきたDirac方程式ではここにもう一クッションあった. つまりたとえば1+3のLorentz群のスピノルに対して"矩形スピノル"なるものを定義してからそれを分解することで左巻き右巻き成分を得るなど. しかし今回はこのベクトルが既に左巻き右巻き成分そのものになっている. 同じく実16成分のMJ(4,C)の元として"スピノル"を導入してからそれを分解することで縦ベクトル型のスピノルを取り出したいところだ. そうすればDirac方程式を四元数だけで表すことも可能になるはずだった. また, Hermite共役との積はHermite行列になり, 自然に"ベクトル"としてカレントが現れるはずだった. それができないことにはかなり悩まされた.
 原因は"チルダ共役"が行列の乗算と可換な操作として表せていないことにある. これまでの記事を見ればわかるように, 複素共役だったり, 余因子行列のHermite共役だったり, チルダ共役に対応するものは行列の積を取る操作と入れ替えることができていた. しかしチルダ共役はそのようには表せていない. この難点の由来についてはまだはっきり理解できていない.
 物理的な意味としては, このことが1+5次元でのMajoranaフェルミオンの非存在に繋がる.

{
\begin{align}
i \partial_\mu \Gamma^\mu \chi&=m\phi\\
i \partial_\mu \tilde{\Gamma}^\mu \phi &= m\chi
\end{align}
}

は正しくLorentz変換に従う:

{
\begin{gather}
i \partial_\mu D \Gamma^\mu D^\dagger (D^{-1})^\dagger \chi=D\phi,\ \ \ 
i \partial_\mu (D^{-1})^\dagger\tilde{\Gamma}^\mu D^{-1} D \chi= (D^{-1})^\dagger\chi\\
i(\Lambda_{\mu'}^\mu \partial_\mu) \Gamma^{\mu'}\chi'=\phi',\ \ \ 
i(\Lambda_{\mu'}^\mu \partial_\mu) \tilde{\Gamma}^{\mu'}\phi'=\chi'
\end{gather}
}

これが1+5次元のDirac方程式である. ふたつを組み合わせれば

{
\begin{align}
(g^{\mu\nu}\partial_\mu\partial_\nu+m^2)\binom{\phi}{\chi}=\binom{0}{0}
\end{align}
}

とKlein-Gordon方程式を得る*5.

ふたつの方程式をまとめるには,

{
\begin{gather}
\gamma^0=\sigma^1\otimes\Gamma^0 =\begin{pmatrix}
0&\Gamma^0\\
\Gamma^0&0
\end{pmatrix},\ \ \ 
\gamma^j=i\sigma^2\otimes\Gamma^j =\begin{pmatrix}
0&\Gamma^j\\ -\Gamma^j&0
\end{pmatrix}\ \ \ (j=1,2,3,4,5)\\
\gamma^\mu\gamma^\nu+\gamma^\nu\gamma^\mu=2g^{\mu\nu}{\bf 1}_8\\
\psi=\binom{\phi}{\chi}
\end{gather}
}

として

{
\begin{align}
(i\partial_\mu\gamma^\mu-m)\psi=0
\end{align}
}

これにより標準的な形式のDirac方程式を得る. {\psi}は座標変換に応じて

{
\begin{gather}
S(\Lambda)\equiv
\begin{pmatrix}
D(\Lambda)&0\\
0&(D(\Lambda)^{-1})^\dagger
\end{pmatrix}\\
\psi\mapsto S(\Lambda)\psi=\psi'
\end{gather}
}

と変換する. {\phi, \chi}はそれぞれ左巻き, 右巻き成分で, Weyl(カイラル)表示のDirac方程式を得ていたことになる. Sはユニタリ行列ではないが,

{
\begin{align}
\gamma^0S^\dagger\gamma^0=
\begin{pmatrix}
D^{-1}&0\\
0&D^\dagger
\end{pmatrix}=S^{-1}
\end{align}
}

であるから,

{
\begin{align}
\psi'^\dagger \gamma^0 &= \psi^\dagger S^\dagger \gamma^0 \\
&=\psi^\dagger \gamma^0 S^{-1}
\end{align}
}

Dirac共役は

{
\begin{align}
\bar{\psi}=\psi^\dagger \gamma^0
\end{align}
}

によって定められる.

 Lie代数も見ておく. SL(2,H)はMJ(4,C)のうち行列式が1のものの集合であった. そのLie代数はMJ(4,C)のうちトレースレスなものがなす部分空間になる. すなわちMJ(4,C)からスカラー行列を除いて,

{
\begin{align}
\mathfrak{sl}(4,\mathbb{H})
&=
\{
X\in MJ(4,\mathbb{C})|{\rm Tr(X)}=0
\}\\
&=MJ(4,\mathbb{C})\backslash {\rm Span}_\mathbb{R}\langle {\bf 1}_4\rangle
\end{align}
}

になる. ただし, ここではLie代数はi倍しない形で数学風に定義する. つまりexpの肩にそのまま乗せたものが対応する群の要素になるように定義する.

このことから,

{
\begin{align}
D=\exp(X)\ \ \ X\in\mathfrak{sl}(4,\mathbb{H})
\end{align}
}

と表せる. したがって,

{
\begin{align}
S=\exp\begin{pmatrix} X&0\\ 0& -X^\dagger\end{pmatrix}
\end{align}
}

expの中身は{\gamma^\mu \gamma^\nu\ \ \ (\mu\neq \nu)}の実線形結合になっている.



参考

Bhupendra C. S. Chauhan, O. P. S. Negi "Quaternion Generalization of Super Poincare Group"
[1508.00536] Estimating Mutual Information by Local Gaussian Approximation

小林俊行『岩波講座 現代数学の基礎 Lie群とLie環 2』(岩波書店, 1999)
"1"との合本版として『リー群と表現論』が出ている.

ディアスポラ」5+1次元宇宙についての考察
http://kuiperbelt.la.coocan.jp/sf/egan/Diaspora/diaspora.html



おわり

 この記事で扱った同型写像の構成法は前の記事で参考にした横田一郎『古典型単純リー群』には載っていなかった. あとがきによると最初の執筆時点では知らず, 約半年後の付記に知り合いの研究者から教わったとある. ただしSL(2,H)という語が出てこないため対応関係についてはっきり理解できていない.

 そのことからも分かるとおり, SO(p,q)はp+qが同じでもほかの場合がすぐには理解できない. 4次元の場合に経験済みだが, やはり今回もSO(6)の場合の議論をそのまま適用しようとすると躓くところが多々ある.

 四元数をヒントにしつつも四元数だけでDirac方程式を書けていないことには未消化の感が残る. SO(4)の場合には四元数だけで書けたことが思い出される. もっと言えば4次元の他の場合もsplit四元数で書くことができたのだった*6.

 既にSU(4)とSpin(6)の同型に八元数, Cayley代数の片鱗が現れているようだが, ひとつ次元を上げてSO(7)に至ると偶然同型こそなくなってしまうものの, 八元数と例外型Lie群の世界になるようなのでそのうち踏み込みたい.

ディアスポラ (ハヤカワ文庫 SF)

ディアスポラ (ハヤカワ文庫 SF)

*1:ちなみにp.385に誤訳がある.「核子の内側にはいったなら、レプトンを内側に引っぱるのは、それより中心に近い一部電荷だけになり、その力は中心からの距離のだいたい五乗に比例します。」五乗に比例するのは内側の電荷のほうで, 原文ではそうなっている.

*2:同様の発想で八元数に置き換えると1+9次元になる...かというと, そううまくはいかない. しかしどうも例外型単純Lie群の息遣いが感じられる.きわめて曖昧な表現だが.

*3:SU(4)の場合に既に4が{2^n=n^2}の解になっている事実がSpin(6)との同型の背景にあったようでこのあたりは精査する必要がある.

*4:この考え方は他のLorentz群の表現を考えるときにも使えそう

*5:毎回これを確認しているのは, 質量が正計量になるべきであるという要請を満たすため.

*6:split quaternionでarXivを検索するといくつか出てくる

モーメント2

 (参考) 特殊な擬態の一例として、〈非蟻〉(non-ant)の錯乱効果が知られている。彼らは光学機器を介した観測ではxxxxx属の蟻と見間違えようがない。しかし裸眼ないしは視力矯正器具のみを通して視認した者は「蟻ではない何か無害なもの」と誤認する。悲劇的な事例の一つに、肉に噛みつく蟻の群れを自分の体毛だと思い込んだ犠牲者が痛みすら感じることなくそのまま

~~~

 (灰白色の粥状物をたたえた槽の中に点々と浮かぶ黒い米粒大の粒子──"胚"は培地そのもの、無生物を親としていた──"泥"である)
──研究チームは海底の泥の中の何が発生に寄与するのか、あるいは個体数を調節しているのか突き止めました。今やウナギ養殖は豆腐作りのようなものですよ。材料を混ぜて固まるのを待てばいい。(ウナギの自然発生説)

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 数万年に渡る彼女の丹念で無意識的な育種は広大な野菜農園を色鮮やかな花畑へと変えていった。美しい白い花を咲かせるかつてのキャベツの葉は固く、爽やかな香りを漂わせる花を冠するニンジンの根は頼りないほどに細い。相葉夕美にとって植物は花であり、その味には興味がなかった。(相場夕美のウワサ② 野菜を育てたこともあるが実より花を優先してしまいうまく育たなかったらしい。)

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 増えすぎたヒトを駆除するために放たれた"超ヒト"により人間はロトカ・ヴォルテラ方程式の参加者になる――

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 "こいつは釘を打つのにもってこいなんだ──こんなふうに" 防寒着に身をくるんだ男は採ったばかりの果実を手にして木の下で調査員に実演してみせた。しかしここは熱帯。間違いない、熱力学違反植物"釘打ちバナナ"だ。放置して繁殖を許せばこの島も環境改変され、まもなく氷に呑まれてしまうだろう。

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 紙需要の急激な高まりに応えるべく製紙業界は羊皮紙用家畜の品種改良を進め、脚が見えなくなるほど幾重にも垂れた皮膚を持つ無毛の羊(※皮膚病に注意)を生み出した。

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 幸運のお守りに用いられるウサギの足の収穫効率を高めるため生み出されたウサギにとって空を蹴る100本の脚は歩行には無用の長物である(刈り取っても再生するため一生のうちにおよそその10倍の足を採ることができる)

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 典型的な第二法則違反動物サーマルキャット(thermal cat)は空気から取り出した余剰エネルギーを再び熱として逃がすためラジエーターの役割を果たす長い脚と耳、比較的細身な胴を持つがこれをアレンの法則の一例であると普通生物学者の前で語ると煙たがられる。

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 鳥インフルエンザによって一度滅んだ世界で生存者たちの作り上げた宗教は鶏肉を禁じたがその理由は文明の発展とともに忘れられていくのだった。

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 当社と提携している献血場で患者から採られた血液はその日のうちに本工場へ届けられ、特許取得の技術で精製された高品質な血砂糖(ちざとう)は生の香りも保持しておりVの菓子職人たちに高く評価されています。

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 厳密Zipf則(出現頻度がn番目に高い英単語の出現頻度はnに反比例)の肯定的な証明により英語は消滅の危機に瀕したが、調和級数の収束に関する規制緩和を認める法案の可決と即時執行によりnull英語(単語のない英語)の形成は阻まれ、言語学者はnull仏語との同一性に悩まされずに済んだ。
(Zipf則ジップの法則 - Wikipedia)

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 太りすぎた白色の無毛のラクダのような生き物の群れが恐慌をきたしてハイウェイの横断を試みたために作られた鉄と肉の山の撤去作業がいつも塩の嵐により難航し塩漬け肉目当ての死肉漁りの"コウモリ"を招き寄せるのは偶然ではなく、それはちょうど狩人だったころのヒトがバイソンの群れを追い詰めて崖から落とすように――

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 「葉っぱの表面に白い線がうねうねと通っていることがあるでしょ。あれは葉の内側の組織をハモグリバエの幼虫が食べ進んだ跡なんですよ。ちょうどそれと同じようなものです。あなたはゆりかごとごはんを幼虫に提供しながら肌の上で入れ墨が伸びていく様子を楽しめるんですよ。羽化して飛び立つまで。(フライ・タトゥー)

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 高収量品種の開発によって〈模範的ヒト〉(爪の垢を薬品として利用)の個体数は回復した。

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 標準的な人口増停止手順では、始めに〈ふたりっ子政策〉ウィルスが散布されます。

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 "吸血紙"は触れた者の指をふちで切り血を吸うと染みを残さずにその特異性質のみを近くのA4用紙に"転移"させるが、距離が長くなるほど多量の血液を要するため、転移距離測定のため運びこまれた軌道実験室で~~(中略)~~の犠牲者を出す結果となり隔離計画は断念され現在も都市に潜伏中。

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 彼らの祖先が編み出したのは火炙りを免れる術でした──加熱に耐える力ではなく。高温で分解する分泌物;"スパイス"は、調理を覚えた腐肉食動物に中間宿主の遺骸:生肉を飲み込ませるための発明です。寄生虫たちは我々の舌を楽しませてきてくれた友。成分物質のみを抽出するやり方には私は反対ですよ。

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 君の仕事は三日に一度この箱を一面ずつ新しい素材に取り替えることだ。中にいる〈広所恐怖症患者〉が出ないようにね。彼は外に出ることが大嫌い……ほんとうに大嫌いだが、意に反して皮膚から箱を溶かす物質を出してしまう。溶解液産生までの順応にかかる時間は五日。一度使った素材は再び使えない。万が一箱の外に出ると……

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 ああ、トライポフォビアのお客様がセンコブラクダ(背中におよそ千個のコブがあるラクダ。コブには水が詰まっていて半透明)の背中を真上から直視してしまったのですね、お気の毒に……

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 「今まで"イヌ"と呼ばれていた動物は異なる二つの系統よりなることが分かりました……以前より頭骨の形状の差異などの解剖学的特徴から指摘されていた説です。今回の分子系統解析はそのさらなる裏付けを与えました。一方はオオカミから、もう一方は……齧歯類から。ええ、収斂進化です。大きな"ネズミ"たちがヒトのそばで暮らすうちに……」

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 一年で唯一嘘をつくことが認められる今日という日の夜、印刷場から読者の手に渡り炎の中に至る一日限りの生を終えた小説たちが各町の焚書場で灰になり、また一年フィクションの存在することが許されない日々が始まる。(エイプリルフール)

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 「何を語っても彼が笑いを絶やさないのは」研究員は説明した。「あらゆる文章をジョークとして解釈するからです。そして恐るべきことにその面白さを損ねずに説明してみせる─『感染』するんですよ」溜息をつきながら「おかげで私は読みかけの小説を諦めることになった。思い出し笑いは苦しいものです」

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 「土にこれを混ぜると巣の強度が上がる」担当者は手の平に載せた灰色のペレットを見せた。そしてそのまま握った手で畑のほうに林立する土の塔を指差しながら「すると巣は野生下より遥かに高く伸びる。シロアリの面積当たり収量も上がる。農学という名のシロアリ用タワーマンションのための建築学だよ」

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 「小惑星の形をよくじゃがいもに喩えますよね。その逆ですよ」男が茎を握って引き抜くとよく育った馬鈴薯が土の中から現れた。顔まで持ち上げて指差しながら「よく見てください。全部同じ形でしょう。それだけでも奇妙です。もっと奇妙なのはこれが全て…イトカワの精巧なミニチュアだということです」

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 〈追跡紙〉tracing paper(表面に匂い分子の受容体が密に埋まっている)を折って作られた「蛾」は立派な尾行役になる。

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 侵略。初めは古本屋の棚だった。『ルリタガネの一生』と題する向こう側のファーブルが書いた本だ。それを読んだ物好きが「観察」を始めた。存在するはずのない虫は彼の発見後至る所で見られるようになった。系統樹は書き換わりつつある……下流から。この後に何がやってくるか?人間だよ。隣の世界の。

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 猫好き大富豪の抱いた理想は猫のための天国、彼がテラフォーミング処理済みの惑星を買い取り放ったのは猫と餌動物たち、しかし時の流れの中で猫は適応放散を繰り返し地表は多種多様な「かつて猫だったもの」の末裔に満ちていく。

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 アニメや漫画などの海水浴回で砂浜の砂を素材にして異常に精巧かつ巨大な建造物(砂の城というやつだ)を短時間で作るキャラクターの能力に目をつけた野心的な事業家が産業利用しようとした結果が、ほら、衛星写真を見ても分かるだろ、海岸線が書き換わっている。ここで起こったこと…いや現在も進行中の事態を語るには……

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 誰かに食べられていたわけではなく跡形もなく消えていたんだ。冷蔵庫の中のプリンは。実験はプリンの種類を変えることから始めた。次に誰かが容器に目をつけた。カップと蓋だけではなく中にプリンを入れた箱も消える。密封された鉛の箱でも。そのあとは人だった。1kgのプリンを食べてから冷蔵庫に入った彼は……

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 新鮮さを楽しみたいといった理由でネタバレに否定的な視聴者は実はかなり多く、このニュース番組終了後にYoutubeにアップされる「明日の予告」(翌日に発生する事件の内容が分かってしまう)を嫌ってそれを見ないようにしている。

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 写真を見たことがあると思う。背中にヒトの耳のようなものが生えたネズミ。作成者の名前からバカンティマウスなんて呼ばれている。 患者の死因を調べるために解剖を行うと喉頭は……耳で塞がれていた。大小様々の耳が内壁に生えていたんだ。会話を盗聴されているという患者の生前の訴えはもしかすると……

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 天気予報によると明日はブレインストーム(脳嵐)だ。網を拡げよう。風に乗ってやってくる脳が地面に打ち付けられて崩れてしまう前にキャッチするんだ。飛んできた脳の由来は気にしなくていい。とにかくそれは再接続すれば優秀な計算資源になるんだ。

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 なぞなぞから答えを奪うために獲得したとしか思えないんだ、彼女の異常な能力は。つまり、"パンはパンでも食べられないパンは?"
 アルミニウム製のフライパンを難なく食べた。鉄板も噛み砕いた。シクロプロパンの麻酔作用も効かない。審判、戦犯、典範……。
問題はこの国もパンだということだ。(大原みちるはパンが好き)

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 扉に挟まれていた黒板消しが頭の上に落ちてくると、まるで文字を消すようにそのままするすると抵抗なく教師の体の前半面を……

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 生前に"光の粉"処置を施すと心停止と同時に全身が微粒子(色・輝度はお好みで)とガスに変化、散逸してまるで映画のようなお別れを演出できると人気を博したが、反応速度を変えれば自爆兵器になることにすぐに気付いた誰かがいた。

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 夢を植物だと考える。夢を食べる獏は草食動物。その一種が農業を発見した。知性があるかどうかは分からない、ハキリアリのようなものかもしれない。かれらが夢の増産に取り組んだ。夜にしか生えないのは不都合だ。
 現在どこの病院も夢から目を覚まさない患者でパンクしそうになっているのは

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 畑でこの芋を育てているあの"カバ"たちは元から家畜だったわけじゃない。野生下でこの植物と共生していたんだ。かれらはヒトが管理しはじめる前から農民だった。しかし祖先は絶滅してしまい残ったのがあの奴隷たちだ。
(農業を営む脊椎動物がヒトの他にいない理由は?)

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 当社が開発した"偽すべからく語"セットをあなたの言語中枢にダウンロードすれば、漢文訓読風の響き(誰にも同じ印象を与えられます──辞書に載っていないにも関わらず!)を持った約1000語を自由自在に使いこなして発言に重々しさを加えることができます。

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 3秒ルール!!と叫びながらたまたま通りがかった人が一気にかき集めると屋上から落ちてきたそれは息を吹き返した。こういうときに救命処置の経験が役に立つ。

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 舌猫(tongue cat)が、細かい棘のびっしりと生えているぬめぬめとしたピンク色の皮膚で体側から飼い主の足を擦ると傷だらけに……

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 「らくらく減量」「原材料名:あなた」「内容量:200g」と表示されたアルミ蒸着フィルムの袋の封をひとつ破るとその人の体重は200g減少し、記録には心筋の喪失に至るまで最大180袋の開封に耐えた例が残されている。

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 (注1) 大豆は乳で子供を育てるが最新の分子系統解析から哺乳類とは別系統の生物であることが明らかになった(Nwplloy, 20P9). これも収斂進化のよい一例となっている.

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 「ペンフィールドホムンクルス。脳に関する本で見たことがあるだろう。大脳皮質の運動野ないし体性感覚野の面積比に従って対応する身体部位を拡大縮小した人体模型。
 報告は受けていた。しかし安置所の実物を見てもなお悪趣味な冗談としか思えなかった。ベッドに横たえられたホムンクルスたち。肥大した頭と拳。改変前後で体重は変わらず、感染は接触を介し……」

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 毛髪の庭、"刈り込み"を行う陸棲タカアシガニたちの色はトリコロール、理容師の象徴。

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 ヒトの顔面の皮膚に痣のように投影される生物たち、たとえば人面犬は顎の周りを縄張りとし群れで人面魚を狩る。

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 歴史の教師が教科書を読み上げるかのような単調な説明をし、数学の教師はクラスの優等生に黒板の前で問題を解かせ、国語の教師は居眠りしている生徒を名指しして続きを音読させようとするという奇妙な異変から自分が漫画の世界に囚われていることに気付いた生徒はまずメインキャラクターを探し始めた。
 フィクション世界から脱出するための方法。メインストーリーに干渉してノンフィクションないし実話を基にした創作ということにするべく、異常な現象が主人公の周りで発生してファンタジー化することを妨害するため不断の監視を強いられる(が接触事象の発生により夢オチ/幻覚作戦を発動させることになり──

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 大きさ・色・模様・匂い・腐敗度・基本的な輪郭等30項目をお好みで選んでいただき(予算に応じた"おまかせ設定"も可能です!)、供物を振り込んでいただければ希望の日時に指定された海岸まで漂着形式で未知生物死骸をお届けします!(昨年度の人気商品は蛍光を発する"分解した群体生物"でした)

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 イセエビに似た節と甲のある尾とインコを思わせる嘴を頭に備えた、全体的にはテナガザルのような姿の動物が両腕を広げた姿にして縄で物干し竿に縛り付けられ日光に晒されている様子がこの部屋から見え、はじめは向かいの住人がベランダで縮んだシャツを干しているのだと誤解してしまった。

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 「233羽の中の1羽。第13段階、それまでなら普通の道具で潰せる。段階進行毎に強化するんだ。たとえば第9段階から食餌が不要になる。1羽だけでも破壊できれば〈フィボナッチ増殖〉は停止、1羽を残して分解が始まる。我々の最大の対処事例は第22段階だったが──おそらくその次で不死になる」(フィボナッチの兎のつがい)



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 ツイート採掘その2。 2月半ばより。 家畜とか品種改良とか明らかにけものフレンズと関連して興味を持って読んだ本の影響が出ており単純さがうかがえる。しかしけものフレンズをリアルタイムで見ては動物園に足を運んでおった春休みはやはりこう……豊かだったな……。

6+0次元Dirac方程式 - Spin(6)とSU(4)の同型から

~あらすじ~
 実験的に発見された光学固体のエネルギー準位の分裂から〈四の法則〉を導いた物理学者カルラ*たち. 彼女たちの課題は輝素の排他性とこの事実を両立させる説明を見つけ出すことだった. 最も単純な〈一の法則〉ではないのはなぜか? 輝素の"偏極"が原因ならなぜ〈五の法則〉ではないのか? 共同研究者パトリジア*, ロモロ*とともに, 回転物理学に整合する幾何学を探すべく, まずカルラ*は六空間の回転を記述する四次特殊ユニタリ行列と六ベクトルの計算規則を描書した...

スピン群の偶然同型*1を利用してDirac方程式を導出するシリーズその4.

過去の記事
{Spin(4,0)\cong SU(2)\times SU(2)}
『エターナル・フレイム』The Eternal Flame
『エターナル・フレイム』-ベクトル-レフトル-ライトル - Shironetsu Blog

{Spin(2,2)\cong SL(2,\mathbb{R})\times SL(2,\mathbb{R})}
Dichronauts
2+2次元Dirac方程式―Dichronautsをよみはじめた - Shironetsu Blog

{Spin(3,1)\cong SL(2,\mathbb{C})}
Our Universe
点付き・点なし - Shironetsu Blog

4次元の場合の3通りを尽くしてしまったので上に飛ぶ. 偶然同型が存在する最大の次元, 6次元.

f:id:shironetsu:20170725225046p:plain:w600

SU(4)とSO(6)
 SU(4)の代数を考える. 一般にN次特殊ユニタリー群の生成元はトレースレスなHermite行列である.

{\begin{align}
\mathfrak{su}(4)=\{D|D=D^\dagger, {\rm Tr}(D)=0\}
\end{align}}

従って次元は4×4-1=15. これはPauli行列と単位行列のKronecker積を使って次のように表せる.

{\begin{align}
\mathfrak{su}(4)=\{\sigma^\mu\otimes\sigma^\nu|\mu,\nu =0,1,2,3,\ \ \ (\mu,\nu)\neq(0,0)\}
\end{align}}

ただしここで

{\begin{align}
\sigma^0=\bf{1}_2=
\left(\begin{array}{cc}
1&0\\
0&1
\end{array}\right),\ \ \ 
\sigma^1=
\left(\begin{array}{cc}
0&1\\
1&0
\end{array}\right),\ \ \ 
\sigma^2=
\left(\begin{array}{cc}
0&-i\\
i&0
\end{array}\right),\ \ \ 
\sigma^3=
\left(\begin{array}{cc}
1&0\\
0&-1
\end{array}\right)
\end{align}}

およびKronecker積のトレースの性質

{\begin{align}
{\rm Tr}(A \otimes B)={\rm Tr}(A){\rm Tr}(B)
\end{align}}

に注意.
この事実からしてすでに性格がいい. これに単位元({\mu=\nu=0})を加えて複素係数の線形結合を取ると{M(4,\mathbb{C})}の基底にもなる.

一方SO(N)の代数は虚数成分の反対称行列で次元はN(N-1)/2. 今考えるSO(6)は15次元. SU(4)と同じである. ここに準同型写像の存在が示唆される.



ベクトル
 SU(4)の元Uが作用して6次元標準内積が保存するような対象を探す. 4×4行列から探すのが適当だろう. しかし4×4行列は実係数にして32次元もある.

{\begin{align}
GL(4,\mathbb{C})=\{X_{\mu\nu}\sigma^\mu\otimes\sigma^\nu|X_{\mu\nu}\in\mathbb{C}\}
\end{align}}

ここから自由度を落としていかなくてはならない.

 さて, Pauli行列(ここでは単位行列も含めてそう呼ぶことにする)はすべてHermiteだが, ひとつだけ虚数成分かつ反対称なものがある. {\sigma^2}だ. さらにKronecker積の転置については次の性質がある.

{
(A\otimes B)^T=A^T\otimes B^T
}

これを踏まえ4×4行列の転置をとると

{\begin{align}
X^T=X_{22}\sigma^2\otimes\sigma^2+\sum_{\mu,\nu\neq 2}X_{\mu,\nu}\sigma^\mu\otimes\sigma^\nu+\sum_{\lambda\neq 2}(-X_{2\lambda}\sigma^2\otimes\sigma^\lambda-X_{\lambda2}\sigma^\lambda\otimes\sigma^2)
\end{align}}

これが反対称なら転置で係数が反転する後ろの2項だけが残る.

{\begin{align}
\mathfrak{A}\equiv\{X\mid X^T=X\}=\left\{\sum_{\lambda=0,1,3}X_{2\lambda}\sigma^2\otimes\sigma^\lambda+X_{\lambda2}\sigma^\lambda\otimes\sigma^2 \mid X_{2\lambda},X_{\lambda2}\in\mathbb{C}\right\}
\end{align}}

複素係数6個, 実係数12個とまだ多いが遠くない.

ここでユニタリ行列が作用する反対称行列間の変換fが

{\begin{gather}
X\in\mathfrak{A}\longmapsto f(U)X=UXU^T\in\mathfrak{A}\\
(f(U)X)^T=UX^TU^T=-UXU^T=-f(U)X\\
f(U_1)f(U_2)=f(U_1U_2)
\end{gather}}

と定義できる. 3つめの式から分かるようにこの変換はSU(4)からの準同型写像を定義している. といってもユニタリ性はここでは使っていない. 実はユニタリ性を入れると次が成り立つ.

\begin{align}
X\in \mathfrak{F}\rightarrow f(U)X\in\mathfrak{F}
\end{align}

ただし以下のように定義.

{\begin{gather}
\mathfrak{F}\equiv\left\{\sum_{\mu=1}^6 X_{\mu}\Gamma^\mu \mid X_\mu\in\mathbb{R}\right\}\\
\Gamma^1=i(\sigma^1\otimes\sigma^2),\ \ \ \Gamma^2=i(\sigma^2\otimes1),\ \ \ \Gamma^3=i(\sigma^3\otimes\sigma^2),\\\
\Gamma^4=\sigma^2\otimes\sigma^1,\ \ \ \Gamma^5=1\otimes\sigma^2,\ \ \ \Gamma^6=\sigma^2\otimes\sigma^3
\end{gather}}

つまり実はfは6次元ベクトル空間{\mathfrak{F}}の要素間の変換なのである. 反対称行列全体がfによって移りあわない2つの部分空間に分離されていることになる.

{\begin{align}
\mathfrak{A}=\mathfrak{F}\oplus i\mathfrak{F}
\end{align}}

あまり厳密ではないが証明は以下のようになる. まずSU(4)の元を指数の形で表す.

{\begin{align}
U=\exp(iD)\in SU(4),\ \ \ D\in\mathfrak{su}(4)
\end{align}}

fによる{\mathfrak{F}}の基底の変換だけ考えればよい.

{\begin{align}
f(U)X&=U\Gamma^\mu U^T\\
&=\exp(iD)\Gamma^\mu\exp(iD^T)\\
&=\sum_{n=0}^\infty \frac{g(iD)^n}{n!}\Gamma^\mu
\end{align}}

ここでgは

{\begin{align}
g(A)X=AX+XA^T
\end{align}}

と定義される. この変換gについて,

{\begin{align}
g(iD)\Gamma^\mu \in \mathfrak{F}
\end{align}}

が示されれば十分だが, 実際これは成立する. {\mathfrak{su}(4)}の基底15個と{\Gamma}6個, 90通りについて計算すると*2これが成り立つことが確認できる.

 確かにそうなるものの力技の感がありいまいち釈然としない. 何か{\mathfrak{F}}{i\mathfrak{F}}を特徴づける量があってfによる変換では移りあえない不連続性がある, という背景がありそうな気がするものの今のところ見つけられていない.

 これを踏まえ{\mathfrak{F}}内積を定義する*3.

{\begin{align}
\langle A,B\rangle=-\frac{1}{4}{\rm Tr}(A^*B),\ \ \ A,B\in\mathfrak{F}
\end{align}}

{\Gamma}を使うと次のように表せる.

{\begin{align}
\langle A_\mu\Gamma^\mu,B_\nu\Gamma^\nu\rangle
&=-\frac{1}{4}A_\mu B_\nu{\rm Tr}(\Gamma^{\mu*}\Gamma^\nu)\\
&=-\frac{1}{4}A_\mu B_\mu{\rm Tr}(-{\bf 1}_2\otimes{\bf 1}_2)\\
&=A_\mu B_\mu
\end{align}}

1行目から2行目への変形は, {\mu=\nu}の積のみが, 単位行列になってトレースに寄与することから.

上添え字と下添え字を混ぜて扱っているが, Euclid計量{(\delta^{\mu\nu})=\rm{diag}(++++++)}を使って表すこともできる;

{\begin{align}
\langle A,B\rangle=\delta^{\mu\nu}A_\mu B_\nu
\end{align}}

この{\mathfrak{F}}内積はfに関して不変になる.

{\begin{align}
\langle f(U)A, f(U)B\rangle&=-\frac{1}{4}{\rm Tr} \lbrack(UAU^T)^*(UBU^T)\rbrack\\
&=-\frac{1}{4}{\rm Tr} (U^*A^*U^\dagger UBU^T)\\
&=-\frac{1}{4}{\rm Tr} (A^*B)\ \ \ (\because U^\dagger U=U^TU^*={\rm 1}_4)\\
&=\langle A, B\rangle
\end{align}}


 かくして{\mathfrak{F}}は6次元Euclid空間と同一視される. {\mathfrak{F}}の要素{X_\mu\Gamma^\mu}の成分{X_\mu}はfによって共変ベクトルとして変換するのである*4

 なお, この節の内容は, 横田一郎『古典型単純リー群』(現代数学社, 2013年(新版))を参考にした.


スピノル
 時空間の回転Oに対応してSU(4)の元U(O)で変換する複素成分4×2行列を考える.

{\begin{align}
\Psi\mapsto \Psi'=U(O)\Psi,\ \ \ O\in SO(6), U\in SU(4)
\end{align}}

これを矩形スピノルと呼んでおこう. その複素共役の変換は上式全体の複素共役をとることで直ちに得られる(以下U(O)の引数は略).

{\begin{align}
\Psi^*\mapsto \Psi'^*=U^*\Psi^*
\end{align}}

こちらは共役矩形スピノルと呼ぶことにする. ところで共変ベクトルの変換は次のようになっていた.

{\begin{align}
V \in \mathfrak{F} \mapsto V' =UVU^T
\end{align}}

その複素共役は,

{\begin{align}
V^* \in \mathfrak{F} \mapsto V'^* =U^*VU^\dagger
\end{align}}

これと矩形スピノルの積をとると, その変換則は共役矩形スピノルのそれと同じになる.

{\begin{align}
V^*\Psi\mapsto V'^*\Psi' = (U^*V^*U^\dagger) (U\Psi)=U^*(V^*\Psi)
\end{align}}

次の微分作用素は共変ベクトルとして変換する.

{\begin{align}
\partial=\partial_\mu \Gamma^\mu
\end{align}}

従って, 次の式はEuclid共変性を備えた微分方程式になっている.

{\begin{align}
\partial^* \Psi = m\Psi^* \sigma^1
\end{align}}

ただし{\partial}複素共役は基底に対して複素共役をとることで定義. これがSO(6)共変の, 6+0次元時空のDirac方程式である. 右辺に右からかけている{\sigma^1}は次の理由から.

まず矩形スピノルから作られる次の量は4×4反対称行列で, 共変ベクトルになっている.

{\begin{gather}
J=i\Psi \sigma^2 \Psi^T\\
J^T=i\Psi(-\sigma^2)\Psi^T=-J
\end{gather}}

ただしここでは虚数成分も持つことに注意. {\mu}の反変成分は次の式から抽出できる.

{\begin{align}
J^\mu = \delta^{\mu\nu}J_\nu=\langle \Gamma^\mu, J\rangle
\end{align}}

これにより,

{\begin{align}
\partial_\mu J^\mu
&=\partial_\mu \langle\Gamma^\mu J\rangle\\
&=-\frac{i}{4}\partial_\mu {\rm Tr}(\Gamma^{\mu*}\Psi\sigma^2\Psi^T)\\
&=-\frac{i}{4} {\rm Tr}\left\lbrack(\partial_\mu\Gamma^{\mu*}\Psi)\sigma^2\Psi^T+\Psi\sigma^2\partial_\mu(\Psi^T\Gamma^{\mu*})\right\rbrack\\
&=-\frac{i}{4} {\rm Tr}\left\lbrack(m\Psi^*\sigma^1)\sigma^2\Psi^T-\Psi\sigma^2(m\sigma^1\Psi^\dagger)\right\lbrack\\
&=-\frac{im}{4}{\rm Tr}(\Psi^*\sigma^3\Psi^T+\Psi\sigma^3\Psi^\dagger)\\
\therefore
\partial_\mu {\rm Re}(J^\mu)&=0
\end{align}}

Trの中身がHermite行列になっていることからJの実部の発散が0になることが言える. では虚部は何かというと擬ベクトルになっている. 質量mが0ならこちらも保存流になる*5

上のDirac方程式全体の複素共役をとると

{\begin{align}
\partial \Psi^*=m\Psi\sigma^1
\end{align}}

両辺に{\partial^*}をかけて,

{\begin{gather}
\partial^*\partial \Psi^*=m\partial^*\Psi\sigma^2=m^2\Psi^* (\sigma^1)^2=m^2\Psi^*\\
\end{gather}}

ここで次の関係

{\begin{align}
\Gamma^{\mu*} \Gamma^{\nu}+\Gamma^{\nu*} \Gamma^{\mu}=-2 \delta^{\mu\nu}\bf{1}_2\otimes\bf{1}_2
\end{align}}

から,

{\begin{align}
\partial^*\partial=\partial_\mu \Gamma^{\mu*}\partial_\nu\Gamma^\nu
=-\delta^{\mu\nu}\partial_\mu\partial_\nu
\end{align}}

よって,

{\begin{align}
(\delta^{\mu\nu}\partial_\mu\partial_\nu+m^2)\Psi=0
\end{align}}

となってKlein-Gordon方程式を再現する.



ガンマ行列

ここで上で定義した{\Gamma}の性質をみる.

{\begin{gather}
A_1=\sigma^1\otimes \sigma^2,\ \ \ A_2=\sigma^2\otimes 1,\ \ \ A_3=\sigma^3\otimes \sigma^2,\\
B_1=\sigma^2\otimes\sigma^1,\ \ \ B_2=1\otimes\sigma^2,\ \ \ B_3=\sigma^2\otimes\sigma^3
\end{gather}}

とすると,

{\begin{gather}
\Gamma^1=iA_1,\ \ \Gamma^2=iA_2,\Gamma^3=iA_3,\ \ \ 
\Gamma^4=B_1,\ \ \Gamma^5=B_2,\Gamma^6=B_3
\end{gather}}

と書ける. A/2,B/2間の交換関係は,

{\begin{align}
\left\lbrack \frac{A_i}{2},\frac{A_j}{2}\right\rbrack = i\epsilon_{ijk}\frac{A_k}{2},\ \ \ 
\left\lbrack \frac{B_i}{2},\frac{B_j}{2}\right\rbrack = i\epsilon_{ijk}\frac{B_k}{2},\ \ \ \left\lbrack \frac{A_i}{2},\frac{B_j}{2}\right\rbrack = 0
\end{align}}

となっており実は{\mathfrak{su}(2)\times\mathfrak{su}(2)}の表現になっている.*6

この点だけ確認して, ガンマ行列を用いたDirac方程式の表示に進む. まず矩形スピノルをふたつの列ベクトルで表す.

{\begin{align}
\Psi=(\phi,\chi),\ \ \ \phi,\chi\in\mathbb{C}^4
\end{align}}

これを用いるとDirac方程式は次の形に書ける.

{\begin{align}
\partial_\mu\Gamma^{*\mu}(\phi,\chi)=m(\chi^*,\phi^*)
\end{align}}

全体の複素共役

{\begin{align}
\partial_\mu\Gamma^{\mu}(\phi^*,\chi^*)=m(\chi,\phi)
\end{align}}

元の式から第1列を, 複素共役から第2列を抜き出すと次の形にまとめて書ける.

{\begin{align}
i\partial_\mu\gamma^\mu\psi=m\psi
\end{align}}

ただし,

{\begin{align}
\gamma^\mu=
\left(\begin{array}{cc}
0&-i\Gamma^\mu\\-i\Gamma^{*\mu}&0
\end{array}\right),\ \ \ 
\psi=
\left(\begin{array}{c}
\phi\\
\chi^*
\end{array}\right)
\end{align}}

晴れて見慣れた形のDirac方程式を召喚することができた. {\phi}は矩形スピノルを, {\chi}は共役矩形スピノルを構成する列ベクトルだから, 8成分ベクトル{\psi}の変換は

{\begin{gather}
\psi\mapsto\phi'=S(O)\psi\\
S(O)=
\left(\begin{array}{cc}
U(O)&0\\
0&U^*(O)
\end{array}\right)
\end{gather}}

に従う.

{\gamma^\mu}たちは8×8行列だが, 具体的には次の形を持つ.

{\begin{align}
\gamma^1=\sigma^1\otimes\sigma^1\otimes \sigma^2,\ \ \ 
\gamma^2&=\sigma^1\otimes\sigma^2\otimes {\bf 1}_2,\ \ \ 
\gamma^3=\sigma^1\otimes\sigma^3\otimes \sigma^2,\\
\gamma^4=\sigma^2\otimes\sigma^2\otimes\sigma^1,\ \ \ 
\gamma^5&=\sigma^2\otimes{\bf 1}_2\otimes\sigma^2,\ \ \ 
\gamma^6=\sigma^2\otimes\sigma^2\otimes\sigma^3
\end{align}}

ガンマ行列と呼ぶ以上Clifford代数の関係式が成り立っていなくてはならないが, 実際それは確かめられる.

{\begin{align}
\left\{\gamma^\mu,\gamma^\nu\right\}=2\delta^{\mu\nu}{\bf 1}_4
\end{align}}

このガンマ行列から再び8成分スピノルの変換行列Sが得られるか確かめる.

{\begin{align}
\sigma^{\mu\nu}=\frac{i}{2}\lbrack\gamma^\mu,\gamma^\nu\rbrack=\left\{
\begin{array}{cc}
0&\mu=\nu\\
i\gamma^\mu\gamma^\nu=-i\gamma^\nu\gamma^\mu&\mu\neq\nu
\end{array}\right.
\end{align}}

と定義すると,

{\begin{align}
\left\lbrack\frac{1}{2}\sigma^{\lambda\mu}, \frac{1}{2}\sigma^{\nu\rho}\right\rbrack
=\frac{i}{2}(\delta^{\lambda\nu}\sigma^{\mu\rho}+\delta^{\mu\rho}\sigma^{\lambda\nu}-\delta^{\lambda\rho}\sigma^{\mu\nu}-\delta^{\mu\nu}\sigma^{\lambda\rho})
\end{align}}

の交換関係が成り立ち, これは{\mathfrak{so}(6)}と同じもの(というか一般に{\mathfrak{so}(N)}).

{\sigma}は具体的には

{\begin{gather}
\sigma^{12}=-{\bf 1}_2\otimes\sigma^3\otimes\sigma^2,\ \ \ 
\sigma^{23}=-{\bf 1}_2\otimes\sigma^1\otimes\sigma^2,\ \ \ 
\sigma^{34}=-{\bf 1}_2\otimes\sigma^2\otimes{\bf 1}_2,\\
\sigma^{45}=-{\bf 1}_2\otimes\sigma^2\otimes\sigma^3,\ \ \ 
\sigma^{56}=-{\bf 1}_2\otimes\sigma^2\otimes\sigma^1,\ \ \ 
\sigma^{64}=-{\bf 1}_2\otimes{\bf 1}_2\otimes\sigma^2_,\\
\sigma^{14}=-\sigma^3\otimes\sigma^3\otimes\sigma^3,\ \ \ 
\sigma^{15}=-\sigma^3\otimes\sigma^1\otimes{\bf 1}_2,\ \ \ 
\sigma^{16}=\sigma^3\otimes\sigma^3\otimes\sigma^1\\
\sigma^{24}=-\sigma^3\otimes{\bf 1}_2\otimes\sigma^1,\ \ \ 
\sigma^{25}=-\sigma^3\otimes\sigma^2\otimes\sigma^2,\ \ \ 
\sigma^{26}=-\sigma^3\otimes{\bf 1}_2\otimes\sigma^3\\
\sigma^{34}=\sigma^3\otimes\sigma^1\otimes\sigma^3,\ \ \ 
\sigma^{35}=-\sigma^3\otimes\sigma^3\otimes{\bf 1}_2,\ \ \ 
\sigma^{36}=-\sigma^3\otimes\sigma^1\otimes\sigma^1
\end{gather}}

この並べ方には意図があり, 上2段は

{
\pm\mbox{(単位行列)}\otimes(A\ {\rm or}\ B)
}

下二段は

{
\pm\sigma^3\otimes(A,B{\mbox を除いた\mathfrak{su}(4)基底})
}

の形になっている. これら指数の肩に乗せると{\psi}の有限の変換行列は

{\begin{align}
S=\exp\left(\frac{i}{2}\omega_{\mu\nu}\sigma^{\mu\nu}\right),\ \ \ \omega_{\mu\nu}\in\mathbb{R}
\end{align}}

で表せるが, 2×2ブロック対角の形では

{\begin{align}
S=\exp\left(
\begin{array}{cc}
iX+iY&0\\
0&iX-iY
\end{array}
\right)
\end{align}}

になっている. ここでXはA,Bの実係数線形結合, YはA,Bを除いた{\mathfrak{su}(4)}基底の実係数線形結合. 成分を見ると(Pauli行列中{\sigma^2}のみが虚数成分をもつことから)Xは虚数成分, Yは実数成分のみを持つことが分かる. すなわち{\mathfrak{su}(4)}は次の形に分解されている.

{\begin{gather}
\mathfrak{su}(4)=\mathfrak{i}\oplus\mathfrak{r}\\
\mathfrak{i}=\{X\in\mathfrak{su}(4) \mid X^*=-X\},\ \ \ 
\mathfrak{r}=\{Y\in\mathfrak{su}(4) \mid Y^*=Y\}
\end{gather}}

したがってSは次のようにも表せる.

{\begin{align}
S&=\exp\left(
\begin{array}{cc}
i(X+Y)&0\\
0&(i(X+Y))^*
\end{array}
\right)\\
&=\exp\left(
\begin{array}{cc}
iZ&0\\
0&(iZ)^*
\end{array}
\right)\\
&=\left(
\begin{array}{cc}
U&0\\
0&U^*
\end{array}
\right)\\
Z&\in\mathfrak{su}(4),\ \ \ U\in SU(4)
\end{align}}

こうしてガンマ行列導入以前の結果が再現された. {SU(4)}{Spin(6)}同型を別経路で示していることにもなる.



カイラリティー
 4次元の3通りの場合で同様の手続きを経るとWeyl表現(カイラル表現)と右巻きスピノル, 左巻きスピノルが自然に現れたのだった. では今回はカイラリティーはどのように現れているのだろうか. これを考えるために6次元ベクトルの行列表示に立ち返る.

{\begin{align}
V=V_\mu\Gamma^\mu,\ \ \ V^\mu\in\mathbb{R}
\end{align}}

5つの基底の符号を変え, 1つだけ変えない変換があればそれは空間反転とみなせる.行列式が(-1)になるためそのような変換はSO(6)の元ではない. ここで{\Gamma}について次の性質を利用する.

{\begin{align}
\Gamma^1\Gamma^{\mu*} (\Gamma^1)^{-1}=\left\{
\begin{array}{cc}
\Gamma^1&\mu=1\\-\Gamma^\mu&\mu\neq 1
\end{array}\right.
\end{align}}

従って次の変換が空間反転になる. 添え字1を時間t, 2から6を空間xに取ったことになる.

{\begin{align}
V\mapsto V'=\Gamma^1V^*({\Gamma^1})^{-1}
\end{align}}

明らかに2回繰り返せば元に戻るため{Z_2}変換でもある. このとき矩形スピノルはどう変換すべきかというと(位相の不定性はとりあえず無視),

{\begin{align}
\Psi\mapsto \Gamma^1\Psi^*
\end{align}}


この変換によりDirac方程式も正しく変換する.

{\begin{align}
\partial_\mu\Gamma^{\mu*}\Psi=m\Psi\sigma^1\mapsto
\partial_\mu(\Gamma^1\Gamma^\mu(\Gamma^1)^{-1})(\Gamma^1\Psi)=m\Gamma^1\Psi^*\sigma^1
\Rightarrow
(\partial_t\Gamma^{t*}-\partial_{\bf x}\Gamma^{\bf x*})\Psi'=m\Psi^*\sigma^1
\end{align}}

ではガンマ行列表示でどうなるかというと,

{\begin{align}
\Psi=\left(\begin{array}{c}\psi_L\\ \psi_R\end{array}\right)
\end{align}}

とすると

{\begin{align}
\psi_L\mapsto i\sigma^2\psi_R^*,\ \ \ \psi_R\mapsto i\sigma^2\psi^*_L
\end{align}}

と移りあっている.

カイラリティーをもっと直接見るには我々の宇宙のバージョンの{\gamma^5}に相当する行列{\gamma^7}を考えればよい.

{\begin{gather}
\gamma^7=(-i)^3\gamma^1\gamma^2\gamma^3\gamma^4\gamma^5\gamma^6
=\sigma^3\otimes{\bf 1}_2\otimes{\bf 1}_2\\
\{\gamma^\mu, \gamma^7\}=0,\ \ \ (\gamma^7)^2=1,\ \ \ \lbrack\sigma^{\mu\nu}, \gamma^7\rbrack=0
\end{gather}}

これにより,

{\begin{gather}
\psi=\psi_++\psi_-\\
\psi_+=\frac{1+\gamma^7}{2}\psi
=\left(\begin{array}{c}\psi_L\\ 0\end{array}\right),\ \ \ 
\psi_-=\frac{1-\gamma^7}{2}\psi
=\left(\begin{array}{c}0\\ \psi_R\end{array}\right)
\end{gather}}

と確かにこの基底ではスピノルの上下がそれぞれ左巻き右巻きに対応していることが分かる.



おわり
 ふたつの方法で表示された保存流の対応関係, カイラルカレント, 他の離散変換, 電磁場との結合等については次の機会にまわす.

 専ら数学しかやっていないので物理的意味について言うと, 物質反物質が各々4成分, 4つのスピン状態に対応することになる.この点は角運動量代数をもっとまじめに計算するべきだろう.

 SO(5)代数等については次の方が詳しく解説されている. イーガン関連でたびたびお世話になっているサイト. やはり『ディアスポラ』に関連して5+1次元Dirac方程式も調べられている.

http://kuiperbelt.la.coocan.jp/sf/egan/Diaspora/dirac/dirac-5D.html


 感想.
 事実としてSU(4)からSO(6)への準同型写像が存在することは知っていたが, こんなにさっぱりしたものだとは思っていなかった. 背景にいつも見え隠れする四元数のありがたみをひしひしと感じる. 上で挙げた参考書籍『古典型単純リー群』のあとがきによると, SO(6)への写像は例外群E6を調べる中で得られたものらしい. Cayley代数を四元数におきかえて得られる...そうなのだがこの点は自分には何のことかまだ分かっていない. Lie群をちゃんと学べば全貌はもっと明らかになるのだろうか. 勉強しなくては.

 4次元同様カイラリティーが自然に現れるのもおもしろい. その導出の道筋としてはSO(4)よりむしろSO(3,1)に近いものを感じた. ふたつの群の直積で書けないことが理由だろう.

ところでarXivで検索してみたらこんな投稿があった.

Quaternion Generalization of Super Poincare Group
[1508.05368] Quaternion Generalization of Super Poincare Group

Spin(1,5)とSL(2,H)同型から5+1次元のPoincare群を調べているらしい. ちゃんと読んでいない.

Poincare. 『ディアスポラDiasporaの5+1次元宇宙U*のヤドカリthe Hermitsたちの星も「ポアンカレ」だったなあ.

 『ディアスポラ』といえばこんな台詞がある

「あなたが見ている点という点は、異なるルールの組なの」ブランカは青いシートの下に手を走らせて、マクロ球のルールを引っぱりだした。
「これはみんな六次元時空。下のは五次元。五次元のほうがすごく薄いのがわかる? でも七次元も薄いの。偶数の次元のほうが、豊かな可能性をもっているのよ」

 (思えばここでブランカがやっていることはOrthogonalでイーガンがやっていることと同じだ)
 次は当然5次元を調べにいくことになる(Spin(5)はSp(4)と同型)が, 「薄い」らしい. なぜだろう. 奇数次元にはカイラリティーが存在しないのでそのあたりに由来があるのだろうか.



おまけ
 今まで気づかずに生きてきたのが不思議なのだが,

{
M(2,\mathbb{C})\cong\mathbb{C}\otimes\mathbb{H}
}

が成立する. 体として同型. これはPauli行列の実係数線形結合がHermite行列, 虚数係数だと反Hermite行列となることから明らか. 複素係数の四元数を2×2行列と同一視できるということ.*7

そこで次の共役を考える.

\[
(a+bi+cj+dk)^T=a+bi-cj+dk
\]

jの符号だけ反転させる変換. 記号Tはjを{i\sigma^2}に対応させると転置行列になることから. 転置ということは

\begin{align}
\lbrack(a+bi+cj+dk)(s+ti+uj+vk)\rbrack^T=(s+ti-uj+vk)(a+bi-cj+dk)
\end{align}

が当然成り立つ.jでいけるならiとkについても同様に成り立つと期待できてこれは実際正しい. iとjとkの係数を同時に反転させるとこれは余因子行列になる.

自分自身と転置の積について

\begin{align}
(qq^T)^T=qq^T
\end{align}

が成り立つが, これはj要素が0になることを示している. つまり8次元が6次元に落ちている. 実係数なら4から3. Kustaanheimo-Stiefel変換でこれを見たことがある. Hopf fibrationというのが関係しているらしい.

(17/08/02)一部修正.

*1:偶然同型についてはこちらを参照 Accidental isomorphisms Indefinite signature Spin group - Wikipedia

*2:といってもPauli行列の積の交換性などを使うと計算は単純

*3:この定義のみからはこれが実数であることは自明ではない. 結局同じことになるが {\begin{align}
\langle A,B\rangle=-\frac{1}{8}{\rm Tr}(A^*B+AB^*)
\end{align}} とすれば自明になる.

*4:SU(4)からSO(6)への全射性についてこの説明では不十分だが, SU(4)がSO(6)の元と二対一に対応しており, この構成法がその写像を実現していることは認めるものとして進める.

*5:このあたりはいずれ書く記事で検証.

*6:やや本筋から逸れる(と現時点では思っている)ので脚注. 特に{\Gamma^1,\Gamma^2,\Gamma^3}の間の積の関係は四元数と同じになっている. このことから{\mathfrak{F}}の元を指数の肩に乗せるとその行列は (単位行列とAの線形結合のユニタリ行列)×(Bの実係数線形結合のHermite行列) の形になる....この事実をどう利用できるのか分からないが一応書いておく.

*7:2017/08/02修正. 一般線形群複素数四元数の直積と同型になるなどと書いており二重に間違えていた. これを書いた後で知ったのだが, 「複素係数の四元数」はbiquaternionというらしい. Biquaternion - Wikipedia

へんなDirac方程式

前の記事

点付き・点なし - Shironetsu Blog

ノーテーション等はこの記事を踏襲.

前回, 2×2行列同士の関係式として表されたDirac方程式として

{
i\partial_\mu \tilde{\sigma}^\mu \Psi = m\Psi^\ddagger\sigma^3
}
(……式(1))

を得た. 再度書いておくと, 右肩に{\ddagger}を付けて表す「ダブルダガー共役」は, GL(2,C)の元に対して「余因子行列のHermite共役」で定義されている. 「正方スピノル」と呼んでいた{\Psi}はその列ベクトルが左手型の2成分スピノルで構成されており, Lorentz変換とともにSL(2,C)の元D(定義は前の記事を参照)によって

{
\Psi\rightarrow D\Psi
}

と変換する. 一方「共役正方スピノル」と呼んでいた{\Psi^\ddagger}はその列ベクトルが右手型の2成分スピノルで,

{
\Psi^\ddagger \rightarrow (D^{-1})^\dagger \Psi^\ddagger
}

と変換する.

さて, 次の事実を使うことでこの方程式を変形する. すなわち, {\sigma^\mu\ (\mu=0,1,2,3)}はGL(2,C)に対して複素ベクトル空間としての基底をなす. このことは, {\sigma^\mu}の実係数線形結合がHermite行列になり, 一方虚数係数だと歪Hermite行列になること, 任意のGL(2,C)の元がHermite行列と反Hermite行列の和に分解できることを考えれば自然に理解できる.

このことは

{
GL(2,\mathbb{C})=\{z_\mu\sigma^\mu|z_\mu\in\mathbb{C}\}
}

と表せる. このように表すと, ダブルダガー共役は次のようになる.

{
(z_\mu\sigma^\mu)^\ddagger=z^*_\mu\tilde{\sigma}^\mu
}

これを使って式(1)を書き換える.

{\begin{align}
\Psi=\varPsi_\mu\sigma^\mu,\ \ \ \Psi^\ddagger=\varPsi^*_\mu\tilde{\sigma}^\mu
\end{align}}

とすると,

{\begin{align}
i\partial_\lambda\tilde{\sigma}^\lambda \varPsi_\mu \sigma^\mu=m\varPsi_\mu^*\tilde{\sigma}^\mu\sigma^3
\end{align}}

ここで

{
\tilde{\sigma}^\lambda\sigma^\mu=\alpha^{\lambda\mu}_\nu\sigma^\nu
}

とする. {\alpha}複素数で, 具体的には

{\begin{gather}
\alpha^{00}_\nu = \delta_{0\nu},\ \ \ \alpha^{0i}_\nu=\delta_{i\nu} \alpha^{i0}_\nu=-\delta_{i\nu},\ \ \ \alpha^{ij}_\nu=-i\epsilon_{ijk}\delta_{k\nu}-\delta^{ij}\delta_{\nu 0}\\
(i,j,k=1,2,3)
\end{gather}}

である(添え字の上下がややいい加減だが...). また,

{\begin{align}
\tilde{\sigma}^\lambda\sigma^\mu+\tilde{\sigma}^\mu\sigma^\lambda=2\eta^{\mu\lambda}\sigma^0
\end{align}}

から,

{
\alpha^{\lambda\mu}_\nu+\alpha^{\nu\lambda}_\nu=2\eta^{\mu\lambda}\delta_{0\nu}
}

が成り立つ. このαを用いると,

{\begin{align}
i\partial_\lambda\alpha^{\lambda\mu}_\nu\varPsi_\mu\sigma^\nu&=m\alpha^{\mu 3}_\nu\varPsi_\mu^*\sigma^\nu\\
\therefore\ \ \ i\partial_\lambda\alpha^{\lambda\mu}_\nu\varPsi_\mu&=m(2\eta^{3\mu }\delta_{0\nu}-\alpha^{3\mu}_\nu)\varPsi_\mu^*
\end{align}}

となる. 行列α, βを

{\begin{align}
(\alpha^\lambda)_{\nu\mu}=\alpha^{\lambda\mu}_\nu,\ \ \ (\beta)_{\nu\mu}=2\eta^{3\mu }\delta_{0\nu}-\alpha^{3\mu}_\nu
\end{align}}

で定め, {\vec{\varPsi}}{\varPsi_{\mu}}を成分にもつ4成分の複素ベクトル(列ベクトル)とすると, 式(1)は

{\begin{align}
i\partial_\lambda\alpha^\lambda\vec{\varPsi}=m\beta\vec{\varPsi}^*
\end{align}}

と表せることになる. これがDirac方程式の別の表現である. 複素共役が顕わに出てくるのがむず痒い. 行列α,βは書き下すと

{\begin{gather}
\alpha^0=
\left(\begin{array}{cccc}
1&0&0&0\\
0&1&0&0\\
0&0&1&0\\
0&0&0&1
\end{array}\right),\ \ \ 
\alpha^1=
\left(\begin{array}{cccc}
0&-1&0&0\\
 -1&0&0&0\\
0&0&0&i\\
0&0&-i&0
\end{array}\right),\\\
\alpha^2=
\left(\begin{array}{cccc}
0&0&-1&0\\
0&0&0&-i\\
 -1&0&0&0\\
0&i&0&0
\end{array}\right),\ \ \ 
\alpha^3=
\left(\begin{array}{cccc}
0&0&0&-1\\
0&0&i&0\\
0&-i&0&0\\
 -1&0&0&0
\end{array}\right),\\\
\beta=
\left(\begin{array}{cccc}
0&0&0&-1\\
0&0&-i&0\\
0&i&0&0\\
1&0&0&0
\end{array}\right)
\end{gather}}

となっており, αはすべてHermiteである. さらに

{\begin{gather}
(\alpha^1)^2=(\alpha^2)^2=(\alpha^3)^2=1\\
\lbrack\alpha^i,\alpha^j\rbrack=-2i\epsilon^{ijk}\alpha^k\\
\end{gather}}

が確かめられる. {(-\alpha^i)}の間に成り立つ関係はPauli行列のそれと同じ. すなわち{(-\alpha^i)}はsu(2)の表現になっている. しかしClifford代数の関係は満たされない.



変換性

正方スピノル{\Psi}は行列Dで変換するのだった. Dも{\sigma}を基底としてその成分を表す.

{\begin{align}
D=D_\mu\tilde{\sigma}^\mu\ \ \ D_\mu\in\mathbb{C}
\end{align}}

後の便宜のためにチルダ付きの基底で定義している. det(D)=1の条件は次のように書ける

{\begin{align}
\det(D){\bf 1}_2&=D\tilde{D}\\
&=D_\mu D_\nu\tilde{\sigma}_\mu\sigma_\nu\\
&=D_\mu D_\nu\frac{1}{2}(\tilde{\sigma}_\mu\sigma_\nu+\tilde{\sigma}_\nu\sigma_\mu)\\
&=\eta^{\mu\nu}D_\mu D_\nu{\bf 1}_2\\
\therefore\ \ \ \eta^{\mu\nu}D_\mu D_\nu&=1
\end{align}}

DはLorentzノルムが1の複素ベクトルだとわかる. 正方スピノルの変換

{\begin{align}
\Psi\rightarrow \Psi'=D\Psi
\end{align}}

に応じて, ベクトル成分は

{\begin{align}
\varPsi_\mu\sigma^\mu\rightarrow \varPsi'_\nu \sigma^\nu=D_\lambda\tilde{\sigma}^\lambda\varPsi_\mu\sigma^\mu
=D_\lambda\alpha^{\lambda\mu}_\nu\varPsi_\mu\sigma^\nu
\end{align}}

と変換する. 4×4行列{D_4}

{\begin{align}
D_4=D_\lambda \alpha^\lambda
\end{align}}

で表すと, これは

{\begin{align}
\vec{\varPsi}\rightarrow \vec{\varPsi'}=D_4\vec{\varPsi}
\end{align}}

と表せる.

共変ベクトルの変換性などから式全体の変換性を見て……いきたいもののすっきりと計算できない(ひたすら4×4行列の積を計算するだけだけど). 特にβが何者なのか納得できていない. 物理的解釈も含め理解できたら続きを書くことにしてここでいったん打ち切る.

点付き・点なし

 以前の記事はこちら.
(1)4+0次元スピノル
『エターナル・フレイム』-ベクトル-レフトル-ライトル - Shironetsu Blog
(2)2+2次元スピノル
2+2次元Dirac方程式―Dichronautsをよみはじめた - Shironetsu Blog

 我々の宇宙のDirac方程式もグレッグ・イーガン『エターナル・フレイム』The Eternal Flame 33章に近いアプローチで導出できることが分かった. van der Waerdenによって導入された, いわゆるdotted/undotted spinor(点付き/点なしスピノル)がこの道筋を辿ると自然に現れる.

 以下, 上に挙げた記事(2)とほぼパラレルに進むためしばらくコピペ+改変.



SL(2,C)

 次の2次Hermite行列を考える(任意の2次Hermite行列はこのように実数(t,x,y,z)で表せる).

{\begin{gather}
X=\left(
\begin{array}{cc}
t+z & x-iy \\
x+iy & t-z
\end{array}
\right)\\
t,x,y,z\in\mathbb{R},\ \ \ 
X^\dagger = X
\end{gather}}

行列式

{
\det(X)=t^2-x^2-y^2-z^2
}

となることに注意. 複素2次特殊線形群SL(2,C); 行列式が1の複素2次正方行列が積についてなす群の任意の元を

{\begin{gather}
D\in SL(2,\mathbb{C})\\
\det(D)=1
\end{gather}}

で表すと, Hermite行列間の次の変換 X→X' は (t,x,y,z)→(t',x',y',z') の一次変換を定義する.

{\begin{gather}
X'=\left(
\begin{array}{cc}
t'+z' & x'-iy' \\
x'+iy' & t'-z'
\end{array}
\right)=DXD^\dagger\\
X'^\dagger=(DXD^\dagger)^\dagger
\end{gather}}

この変換において行列式は不変である. すなわち,

{
\det(X')=\det(D)\det(X)\det(D^\dagger)=\det(X)
}

を満たしている. ゆえにこの一次変換は(t,x,y,z)に対してSO(1,3)の元として作用している. 実際, Dと(-D)がともにひとつのLorentz変換に対応しており, SL(2,C)はSO(1,3)の二重被覆になっている.

 2次Hermite行列は4次元実ベクトル空間をなす. その基底を次のようにとる.

{
\sigma^0=\left(\begin{array}{cc}
1 & 0 \\
0 & 1
\end{array}\right),\ \ \ 
\sigma^1=\left(\begin{array}{cc}
0 & -1 \\
1 & 0
\end{array}\right),\ \ \ 
\sigma^2=\left(\begin{array}{cc}
0 & -i \\
i & 0
\end{array}\right),\ \ \ 
\sigma^3=\left(\begin{array}{cc}
1 & 0 \\
0 & -1
\end{array}\right),\ \ \ 
}

{\sigma^i(i=1,2,3)}はPauli行列そのもの.これを使うと,

{
X=X_\mu \sigma^\mu\ \ \ (\mu=0,1,2,3)
}

と表せる. 計量を

{\eta_{\mu\nu}=\left(\begin{array}{cccc}
1&0&0&0\\
0&-1&0&0\\
0&0&-1&0\\
0&0&0&-1
\end{array}\right)
}

ととる. ただし光速度はc=1にとっている. 2次Hermite行列の(不定値)内積を〈X,Y〉で表して

{
\langle X,Y\rangle=\frac{1}{2}{\rm Tr}(\tilde{X}Y)
}

で定義すると次の関係が成り立つことが確かめられる.

{
\langle X,Y\rangle=\langle Y,X\rangle=\eta^{\mu\nu}X_\mu Y_\nu
}

ただしチルダは余因子行列を表している.

{
A=\left(\begin{array}{cc}
a & b \\
c & d
\end{array}\right)
\rightarrow
\tilde{A}=\left(\begin{array}{cc}
d & -b \\-c & a
\end{array}\right)
}

この内積もやはりLorentz変換に付随するDによる変換で不変である.

{\begin{align}
\langle X',Y'\rangle
&=\langle DX'D^\dagger,DY'D^\dagger\rangle\\
&=\frac{1}{2}{\rm Tr}(\tilde{D^\dagger}\tilde{X}\tilde{D}DY'D^\dagger)\\
&=\frac{1}{2}{\rm Tr}(\tilde{X}Y)\\
&=\langle X,Y\rangle
\end{align}}

Dは行列式が1であるため余因子行列が逆行列に一致することに注意.

{\begin{align}
\tilde{D}=D^{-1}
\end{align}}

これは次の関係からも導かれる.

{
\tilde{\sigma}^{\mu}\sigma^{\nu}+\tilde{\sigma}^{\nu}\sigma^{\mu}=2\eta^{\mu\nu}{\bf 1}_2
}

チルダ(余因子行列)で書いているが, これは普通上付きバーで表記されるものと同じ.ここでは一貫性のためチルダを使い続ける.

{\begin{align}
\tilde{\sigma}^\mu=({\bf 1}_2,-\vec{\sigma})=(\sigma^0,-\sigma^1,-\sigma^2,-\sigma^3)
\end{align}}


ベクトル, スピノル

 座標変換に応じて共変ベクトル(の成分をもつHermite行列)Vが

{\begin{gather}
V\rightarrow V'=DVD^\dagger
\end{gather}}

で変換するとする. これと同時にDで変換する, 複素2次正方行列の形を持つ量

{\begin{gather}
\Psi\rightarrow \Psi'=D\Psi\\
\Psi\in GL(2,\mathbb{C})
\end{gather}}

を考える. {\Psi}は一般の複素2次正方行列のため複素数4つ, 自由度は8になっている. 便宜のためこれを正方スピノルとでも呼んでおこう*1. 正方スピノルとそのHermite共役を右からかけるとHermite行列になるため共変ベクトルが作られることになる.

{\begin{align}
(\Psi\Psi^\dagger)^\dagger=\Psi\Psi^\dagger
\end{align}}

共役正方スピノルを余因子行列のHermite共役(まとめて{\ddagger}で表し, ダブルダガー共役と呼んでおく)で定義する.

{
\Psi^\ddagger=\tilde{\Psi}^\dagger
}
{\begin{gather}
A=\left(\begin{array}{cc}
a & b \\
c & d
\end{array}\right)
\rightarrow
A^\ddagger=\left(\begin{array}{cc}
d^* & -c^* \\ -b^* & a^*
\end{array}\right)\\
(AB)^\ddagger=A^\ddagger B^\ddagger
\end{gather}}

共役正方スピノルはDのダブルダガー共役(Dの逆行列のHermite共役)を左からかけることで変換する.

{\begin{gather}
\Psi^\ddagger\rightarrow \Psi'^\ddagger=D^\ddagger\Psi^\ddagger=(D^{-1})^\dagger \Psi^\ddagger\\
\end{gather}}

共変ベクトルのダブルダガー共役(ベクトルはHermiteなので単に余因子行列に一致)を正方スピノルに左からかけた量は共役正方スピノルと同じ変換性を持つ.

{\begin{align}
V^\ddagger\Psi\rightarrow V'^{\ddagger}\Psi'=(D^{-1})^\dagger V^{\ddagger} \tilde{D}D\Psi=(D^{-1})^\dagger(V^\ddagger \Psi)
\end{align}}

同様に, 共変ベクトルを共役正方スピノルに左からかけた量は正方スピノルとして変換する.

{\begin{align}
V\Psi^\ddagger\rightarrow V'\Psi'^{\ddagger}=D V^{\ddagger} D^\dagger (D^{-1})^\dagger \Psi^\ddagger =D( V\Psi^\dagger)
\end{align}}



Dirac方程式

 次の微分演算子は共変ベクトルとして変換する.

{
\partial=\partial_\mu \sigma^\mu
}

したがって, 次の量は共役正方スピノルになる

{\begin{align}
\partial^\ddagger\Psi=\tilde{\sigma}^\mu\partial_\mu \Psi
\end{align}}

このことから, 次の式はLorentz共変性をもった方程式になっている.

{\begin{align}
\partial^\ddagger \Psi=m\Psi^\ddagger (-i \sigma^3)
\end{align}}
(……式(*)とする. )

ただしmは質量. 実はこれはDirac方程式と等価な方程式である. 右辺に後ろから{(-i \sigma^3)}を掛けるのはやや唐突だが, こうすることでKlein-Gordon方程式が満たされる. このことを見るために, まず全体のダブルダガー共役をとる.

{\begin{align}
\partial \Psi^\ddagger=m\Psi (-i \sigma^3)
\end{align}}
(……式(**)とする)

式(*)の両辺に{\partial^\ddagger}をかけると,

{\begin{gather}
\partial^\ddagger\partial \Psi^\ddagger=m\partial^\ddagger\Psi (-i \sigma^3)
=m^2\Psi^\ddagger(-i \sigma^3)^2=-m^2\Psi^\ddagger\\
\therefore (\square+m^2)\Psi=0\ \ \ (\square = \partial_0^2-\partial_1^2-\partial_2^2-\partial_3^2)
\end{gather}}

を得る. これだけならダブルダガー共役との積が(-1)になる任意の行列によって満たされるが, この選択は正方スピノルとそのHermite共役の積が保存流になるという要請も満たしている*2. 実際,

{\begin{align}
\partial_\mu (\Psi\Psi^\dagger)^\mu&=\partial_\mu \frac{1}{2}{\rm Tr}(\tilde{\sigma}^\mu \Psi\Psi^\dagger)\\
&=\frac{1}{2}{\rm Tr}\left\{(\tilde{\sigma}^\mu\partial_\mu\Psi)\Psi^\dagger+\Psi(\partial_\mu \Psi^\dagger\tilde{\sigma}^\mu)\right\}\\
&=\frac{1}{2}{\rm Tr}\left\{(\tilde{\sigma}^\mu\partial_\mu\Psi)\Psi^\dagger+(\sigma^\mu \partial_\mu \Psi^\ddagger)\tilde{\Psi}\right\}\\
&=\frac{1}{2}{\rm Tr}\left\{(m\Psi^\ddagger (-i \sigma^3))\Psi^\dagger+(m\Psi(-i \sigma^3))\tilde{\Psi}\right\}\\
&=\frac{-im}{2}\left(\det(\Psi^\dagger)+\det(\Psi)\right ){\rm Tr}(\sigma^3)\\
&=0
\end{align}}

ただし後ろからかける行列はこれらふたつの条件を与えてもなお一意には定まらない. この選択は基底を決めることを意味する.

{\Psi}をふたつの列ベクトルを並べたものとする.

{\begin{align}
\Psi=(\xi,\zeta),\ \ \ \xi,\zeta\in \mathbb{C}^2
\end{align}}

{\Psi^\ddagger}も同様にふたつの列ベクトルを並べたものとする*3.

{\begin{align}
\Psi^\ddagger=(\lambda,\chi),\ \ \ \lambda,\chi\in \mathbb{C}^2
\end{align}}

これらの間には次の関係がある.

{\begin{gather}
(\lambda,\chi)=-\epsilon(\xi^*,\zeta^*)\epsilon=\epsilon(\zeta^*,-\xi^*)\\
\epsilon=i\sigma^2=\left(\begin{array}{cc}
0 & 1 \\
 -1 & 0
\end{array}\right)
\end{gather}}

これを使うと式(*)はふたつの式に分解できる.

{\begin{align}
i\partial_\mu \tilde{\sigma}^\mu \xi=m\lambda,\ \ \ i\partial_\mu \tilde{\sigma}^\mu \zeta=-m\chi
\end{align}}
(……式(***)とする)

上の関係を使うと第二式も{\xi,\lambda}だけで書ける.

{\begin{align}
i\partial_\mu \tilde{\sigma}^\mu (-\epsilon \lambda^*)&=-m(-\epsilon\xi^*)\\
i\partial_\mu (\epsilon \tilde{\sigma}^\mu \epsilon) \lambda^*&=m\xi^*\\ -i\partial_\mu (\epsilon \tilde{\sigma}^\mu \epsilon)^* \lambda&=m\xi\\
\therefore i\partial_\mu \sigma^\mu \lambda&=m\xi
\end{align}}

ここで

{
(\epsilon\tilde{\sigma}\epsilon)^*=-\sigma^\mu
}

を用いた. この式は式(**)の第1列をとることからも直ちに導かれる. 再度まとめて書くと

{\begin{align}
i\partial_\mu \tilde{\sigma}^\mu \xi=m\lambda,\ \ \ 
i\partial_\mu \sigma^\mu \lambda=m\xi
\end{align}}

が式(*)と等価な式として得られる. もちろん式(**)とも等価である. さらに{\xi, \lambda}を縦に並べることで次のようにまとめて書くことができる.

{\begin{align}
\left(\begin{array}{cc}
0 & i\partial_\mu \sigma^\mu \\
i\partial_\mu \tilde{\sigma}^\mu & 0
\end{array}\right)
\left(\begin{array}{c}
\xi\\
\lambda
\end{array}\right)
=
m\left(\begin{array}{c}
\xi\\
\lambda
\end{array}\right)
\end{align}}

ここで

{\begin{align}
\psi
=
\left(\begin{array}{c}
\xi\\
\lambda
\end{array}\right),\ \ \ 
\gamma^\mu
=
\left(\begin{array}{cc}
0 & \sigma^\mu \\
\tilde{\sigma}^\mu & 0
\end{array}\right)
\end{align}}

とおけば

{\begin{align}
(i\partial_\mu\gamma^\mu-m)\psi=0
\end{align}}

となって見慣れたDirac方程式の形になる. {\gamma^\mu}はWeyl表現(カイラル表現)のガンマ行列になっている. {\xi}は左手型スピノルで{\lambda}は右手型スピノルだったということになる.

 さて, {\xi}は正方スピノルを, {\lambda}は共役正方スピノルを構成する縦ベクトルであった. そのため座標変換に応じて

{\begin{align}
\xi\rightarrow \xi'=D\xi,\ \ \ \lambda\rightarrow\lambda'=(D^{-1})^\dagger\lambda
\end{align}}

と変換する. この変換性を見ればわかるように, {\xi}が点なしスピノル, {\lambda}が点付きスピノルに対応している. これに応じて, {\psi}

{\begin{gather}
\psi\rightarrow \psi'=S\psi\\
S=\left(\begin{array}{cc}
D & 0 \\
0 & (D^{-1})^\dagger
\end{array}\right)
\end{gather}}

と変換する.



Majorana方程式

 正方スピノル{\Psi}が同じ列ベクトルからなる場合を考える. すなわち{\xi=\zeta}. 「同じ列ベクトルからなる」という性質は座標変換で不変であることに注意. このとき式(***)はふたつの同値な式になる.

{\begin{align}
i\partial_\mu \tilde{\sigma}^\mu \xi=m\epsilon\xi^*
\end{align}}

これをMajorana方程式というらしい. もちろんLorentz共変な相対論的波動方程式である.



おわり

 点付き・点なしスピノルは窪田高弘『物理のためのリー群とリー代数』(サイエンス社, 2008年)を介して知った. この本ではローレンツ群とSL(2,C)の準同型について述べたあと天下り的に点付き・点なしスピノルが導入されていたため, 未消化の感が残ってしまっていた. この記事で「正方スピノル」と呼んだものを分解することで自然に現れるためおそらくこういった背景はあるはず. もしこれについて書かれたものがあれば紹介していただけるとありがたいです(とか言う前にSpringerから出ているvan der Waerdenの原著にあたるべきだ). もっと自然なのはLorentzスカラーの変分をとる方法のはずなのでこれはまた別の機会に書いておきたい.

 ところで右手と左手のスピノルの変換性を見ればわかるように, 一方を変えずにもう一方だけ変わる変換は不可能である. しかし4+0及び2+2次元では独立に変化することができる. 3+1では普遍被覆群がSL(2,C)である一方, 4+0と2+2は2つの同じ群(SO(4)はSU(2), SO(2,2)はSL(2,R))の直積になっていることが直接の理由のはずだが, このあたりの物理的な意味はいずれ調べておきたい. あと量子化もそのうち…….

*1:正式な, というか一般的に使われる呼び名があればぜひ教えてください.

*2:これ以外の行列を選んだ場合, 間にダブルダガー共役が自分自身に一致する行列を挟んでかける必要がある. どれをとろうと物理的意味は変わらない.

*3:この表記を使うとカレントは {\begin{align}
\Psi\Psi^\dagger&=\xi\xi^\dagger+\zeta\zeta^\dagger\\
&=\xi\xi^\dagger-\epsilon\lambda^*\lambda^T\epsilon\\
&=\xi\xi^\dagger+\widetilde{(\lambda\lambda^\dagger)^T}
\end{align}} と表せる. 左手成分と右手成分に分離できるということ.

非相対論的2+2次元水素原子 - Dichronautsをよんだ

 いきなりタイトルに関係ない話だが, Hot Rock(Oceanic所収)を読んだ. 『白熱光』Incandescence, 「グローリー」Glory, 「鰐乗り」Riding the Crocodileと, Amalgam/Aloof〈融合世界/孤高世界〉の世界観を共有する唯一未訳の, そして発表順では最後の短編.

 これがもう本当よかった. 大好きな要素がいっぱい詰まっている.

 (あらすじ)
 Azarが故郷世界Hanuzの友人や家族に別れを告げガンマ線に乗って1500光年の, 主観的には一瞬の旅を経て到着したのは自由浮遊惑星Tallulahを周る探査機Mologhat. 5回対称の生物の子孫Shelmaとともにダニのような探査機に転送され, 太陽もなく恒星間空間を漂うこの惑星が地殻下の未知の熱源によって維持する生態系を目の当たりにする. 地表に繁茂するのは"地熱発電"で糖を合成する樹木, 有機的な熱電対を持つ低木など奇妙な植物たち. 動物たちが泳ぐ海の中, 2人は知性をもった"トカゲ"に出会い, この惑星の辿った歴史に触れていく…….

 光合成ならぬ熱合成を行う植物!分量はそれほど多くないとはいえ, さらっとこれを描くイーガンの筆致に目がハートになった. ディアスポラの「重い同位体」の星スウィフト探査のエッセンスを感じる. トカゲとの交流は5+1次元マクロ球のポアンカレで出会ったヤドカリのそれにも通じる. こういうのが好き...Speculative Biology的な...

 〈融合世界〉の他の作品とのかかわりとしては, 異なるレプリケーターを由来とする生物たちが出てくることで, 『白熱光』のなかでちょいちょい触れられていたパンスペルミア観がよりはっきりストーリーに現れてきている点が興味深い.
 
 本題.

 2週間ほど前にDichronautsを読み終えた. 紙版が先日出たそうだがなんとかそれより前に電書版で読み切った. ハードカバー版も表紙CGが洗練されている点などコレクション欲をピリピリと感じないでもないものの, 電書版のほうが圧倒的に安いのでこれから読むという方にも電書版はおすすめです*1.

  読み終えて感じたのはその素朴さ(「素朴」という語を曖昧に使いすぎる). 徹底した2+1次元空間視点の奇妙さを除けばストーリーはかなりオールドファッション. カタストロフィーの扱いなども『白熱光』や直交三部作を思いながら読むと──

 イーガンらしくないといえばそんな気もするが, 共生関係に対してしっかり進化の視点を与えるところ, 主にTheoの誘導に従って堅実に思考過程を明らかにしながら進むところなどはやっぱりイーガン. 伏線もけっこう気持ちよく束ねられる. それとイーガンの趣味っぽいなあと感じたのは終盤の『万物理論』や『エターナル・フレイム』を思い出させるSethのある行動で…(伏)

 そしてやはり逆転世界だった. そう来るか~~. このあたりや重力を舞台づくりに活用する部分は小林泰三を思い出した.

 崖下りの工夫とかAxis lizardやSiderとWalker達を隔てるのは何かとか有意義な対象がいくつもあるような気はしつつもネタバレをしたくないという気持ちが強すぎるので*2感想はそこそこに2+1次元でストーリーに関係ない遊びをやる. Dirac方程式, Pauli方程式に続いて水素原子のSchrodinger方程式を考えたい.

前の記事
2+2次元Dirac方程式―Dichronautsをよみはじめた - Shironetsu Blog
2+2次元Dirac方程式と確率解釈 ― Dichronautsよんでる - Shironetsu Blog



古典論

 作中Chapter2でいきなり重力の話が出てくる. この世界ではSimeonという科学者がPoisson方程式に相当するものを発見しているらしい.

{(\partial_{x}^2+\partial_{y}^2-\partial_u^2)\phi(x,y,u)=4\pi G\rho(x,y,u)}

彼らの世界は無限の広がりと質量を持つためポテンシャルが有限になることは自明ではないが, 有限の密度を持ち双曲面上に均一に広がる質量に対しては有限のポテンシャルと引力が得られることが示される.

SethとTheoが追ったであろう計算の結果はこのページで公開されている.
www.gregegan.net


いま, {x^2+y^2-u^2=0}円錐上に外側内側とも厚さRで均一な密度ρが載っているとする. すなわち,

{\begin{align}
D&=x^2+y^2-u^2\\
\rho(x,y,u) &= \left\{\begin{array}{cc}
\rho&|D|\leq R^2\\
0&|D|\geq R^2
\end{array}\right.
\end{align}}

 このとき
{\begin{align}
\phi(x,y,u)&=\left\{\begin{array}{cc}
\frac{2}{3}\pi G\rho D&|D|\leq R^2\\
{\rm sgn}(D)2\pi G\rho R^2\left(1-\frac{2R}{3\sqrt{|D|}}\right)&|D|\geq R^2
\end{array}\right.
\end{align}}
と表される. ただしsgn(x)でxの符号を表す. 勾配gradが{(\partial_x,\partial_y,-\partial_u)}になっていることに注意すると引力は中心方向を向くことが分かる.

 さて, このポテンシャル下で"Kepler運動"は可能だろうか. Dichronautsの表紙にすでに太陽が世界を回っている図が描かれているが, これは安定だろうか.

 簡単のため, Dが正の領域をout-cone, Dが負の領域をin-coneと呼ぶことにして, 内部領域を無視するために{4πρR^3/3=M}として

{\begin{align}
\phi(x,y,u)&=\left\{
\begin{array}{cc}-GM\left(\frac{1}{r}-\frac{3}{2R}\right)&D\geq R\ \ \ ({\rm out-cone})\\
GM\left(\frac{1}{r}-\frac{3}{2R}\right)&D\leq R\ \ \ ({\rm in-cone})
\end{array}
\right.\\
r&=\sqrt{|D|}
\end{align}}

を考えることにする.しばらく内部は無視(R→0にしてもいいが発散する定数項を含むのはちょっと嫌).

 これを使うと古典論のLagrangianは

{\begin{align}
L=\frac{m}{2}\left(\dot{x}^2+\dot{y}^2-\dot{u}^2\right)-m\phi(x,y,u)
\end{align}}

となる. 結論だけ言うと, in-coneには安定軌道がなく, out-coneでは負エネルギーで安定軌道が存在する. u座標0でxy平面で円軌道を描く解に対して摂動を与えてみると直感的*3.

 古典論でKepler運動が可能なことが分かった. ということは量子力学でも多分近い結果が得られるだろうと期待して計算しよう.



Hamiltonian
 静電ポテンシャルを考えるため{4\pi G\rightarrow -1/\varepsilon_0,\ M\rightarrow Q},と置き換える.

{\begin{align}
\phi(x,y,u)&={\rm sgn}(D)\frac{Q}{4\pi\varepsilon_0 r}
\end{align}}

 定数項3/2Rを無視するため接続条件など満たされないがエネルギーには定数分の差として寄与するのみなのでしばらくこれで構わない. これを使うと, エネルギー固有値Eの状態のSchrodinger方程式とそのHamilitonianは

{\begin{gather}
H\psi=E\psi\\
H=-\frac{\hbar^2}{2m}(\partial_x^2+\partial_y^2-\partial_u^2)-e\phi(x,y,u)
\end{gather}}

となる.

 3次元空間の計量を
{\eta_{ij}dx^idx^j=dx^2+dy^2-du^2}
で定める. すなわち{\eta_{ij}={\rm diag}(++-)}
2+1次元なのでLorentz計量そのものではないが, 一般の計量と区別する意味で記号ηを使う.

 out-cone領域の点は次の極座標で表せる.
{\begin{align}
x=r\cosh\theta\cos\varphi,\ \ \ 
y=r\cosh\theta\sin\varphi,\ \ \ 
u=r\sinh\theta
\end{align}}

{x^2+y^2-u^2=r^2}に注意. 微分を計算すると,

{\begin{align}
\left(\begin{array}{c}
dx\\
dy\\
du
\end{array}\right)
=
\left(\begin{array}{ccc}
\cosh\theta\cos\varphi&r\sinh\theta\cos\varphi&-r\cosh\theta\sin\varphi\\
\cosh\theta\sin\varphi&r\sinh\theta\sin\varphi&r\cosh\theta\cos\varphi\\
\sinh\theta&r\cosh\theta&0
\end{array}\right)
\left(\begin{array}{c}
dr\\
d\theta\\
d\varphi
\end{array}\right)
\end{align}}

ここから,

{\begin{align}
\left(\frac{\partial(x,y,u)}{\partial(r,\theta,\varphi)}\right)^T
\left(\begin{array}{ccc}
1&0&0\\
0&1&0\\
0&0&-1
\end{array}\right)
\left(\frac{\partial(x,y,u)}{\partial(r,\theta,\varphi)}\right)
=
\left(\begin{array}{ccc}
1&0&0\\
0&-r^2&0\\
0&0&r^2\cosh^2\theta
\end{array}\right)
\Bigl(\equiv (g_{ij})_{(i,j=r,\theta,\varphi)}\Bigr)
\end{align}}

計量は次のように変換されている.

{dx^2+dy^2-du^2=dr^2-r^2d\theta^2+r^2\cosh^2\theta d\varphi^2}

ここからout-coneのLaplacianを求められる.

{\begin{align}
\triangle&=\partial_x^2+\partial_y^2-\partial_u^2\\
&=\frac{1}{\sqrt{-\det(g)}}\partial_i\sqrt{-\det(g)}g^{ij}\partial_j\\
&=\frac{1}{r^2}\partial_rr^2\partial_r+\frac{1}{r^2}\left(\frac{-1}{\cosh\theta}\partial_\theta\cosh\theta\partial_\theta+\frac{1}{\cosh^2\theta}\partial_\varphi^2\right)\\
&=\partial_r^2+\frac{2}{r}\partial_r+\frac{1}{r^2}\left(-\partial_\theta^2-\frac{\sinh\theta}{\cosh\theta}\partial_\theta+\frac{1}{\cosh^2\theta}\partial_\varphi^2\right)
\end{align}}

さらに, 右辺にかかっている変換行列の逆行列を求めると,

{\begin{align}
\left(\frac{\partial(r,\theta,\varphi)}{\partial(x,y,u)}\right)
&=
\left(\frac{\partial(x,y,u)}{\partial(r,\theta,\varphi)}\right)^{-1}\\
&=
\left(\begin{array}{ccc}
1&0&0\\
0&-1/r^2&0\\
0&0&1/r^2\cosh^2\theta
\end{array}\right)
\left(\frac{\partial(x,y,u)}{\partial(r,\theta,\varphi)}\right)^T
\left(\begin{array}{ccc}
1&0&0\\
0&1&0\\
0&0&-1
\end{array}\right)\\
&=
\left(\begin{array}{ccc}
\cosh\theta\cos\varphi&\cosh\theta\sin\varphi&-\sinh\theta\\-\sinh\theta\cos\varphi/r&-\sinh\theta\sin\varphi/r&\cosh\theta/r\\-\sin\varphi/(r\cosh\theta)&\cos\varphi/(r\cosh\theta)&0
\end{array}\right)
\end{align}}

ここまで準備して2+1次元の角運動量の代数を調べにいく.



角運動量
 角運動量は次のように定義される.

{\begin{align}
\ell^i=\epsilon^{ijk}\eta_{jl}x^lp_k
\end{align}}

慣れ親しんだEuclid計量の場合と違って添え字の上下に重要な意味がある. 具体的に書き下すと,

{\ell^x=yp_u+up_y,\ \ \ \ell^y=-up_x-xp_u,\ \ \ \ell^u=xp_y-yp_x}

 これら3つともHermitie演算子なのは3+0次元のときと同様. {\ell^u}がu軸周りの回転の生成子となっているのも3+0次元と同じだが,{\ell^x,\ell^y}の形は異なっている. そこで位置の固有状態をとる関数に対しその作用を見てみる. なお運動量演算子は普段と同じく{p_i=-i\partial_i}である({\hbar=1}にとっている). 微小量{\epsilon}に対して, {\ell^x}の作用を計算すると,

{\begin{align}
e^{i\epsilon\ell^x}f(x,y,u)&\simeq\left(1+i\epsilon\ell^x\right)f(x,y,u)\\
&=f(x,y,u)+\epsilon\bigl(y\partial_uf(x,y,u)+u\partial_yf(x,y,u)\bigr)\\
&\simeq f(x,y+\epsilon u, u+\epsilon y)
\end{align}}

1次の範囲で

{x^2+(y+\epsilon u)^2-(u+\epsilon y)^2\simeq x^2+y^2-u^2}

が成り立っていることから, r 一定の双曲面上のx軸周りの"回転"になっていることが分かる*4. uを時間と見ればy方向への速度{\epsilon}(光速度c=1として)のLorentz boostに対応する. 同様に{\ell^y}もy軸周りの回転の生成子になっている.

これらの間の交換関係は,

{
\begin{align}
  \lbrack\ell^i,\ell^a\rbrack&=\lbrack\epsilon^{ijk}\eta_{jl}x^lp_k,\epsilon^{abc}\eta_{bd}x^dp_c\rbrack\\
&=\epsilon^{ijk}\eta_{jl}\epsilon^{abc}\eta_{bd}(x^lp_kx^dp_c-x^dp_cx^lp_k)\\
&=\epsilon^{ijk}\eta_{jl}\epsilon^{abc}\eta_{bd}\left(x^l(x^dp_k-i\delta^d_k)p_c-x^d(x^lp_c-i\delta^l_c)p_k\right)\\
&=-i\epsilon^{ijk}\eta_{jl}\epsilon^{abc}\eta_{bd}(\delta^d_kx^lp_c-\delta^l_cx^dp_k)
\end{align}
}

ここで

{\begin{align}
\epsilon^{ijk}\eta_{jl}\epsilon^{abc}\eta_{bd}\delta^d_k
&=\epsilon^{ijk}\eta_{jl}\epsilon^{abc}\eta_{kb}\\
&=\eta^{i\alpha}(\epsilon^{\beta jk}\eta_{\beta\alpha}\eta_{jl}\eta_{kb})\epsilon^{abc}\\
&=\det(\eta)\epsilon_{\alpha l b}\eta^{i\alpha}\epsilon^{abc}\\
&=-\eta^{i\alpha}(\delta^a_l\delta^c_{\alpha}-\delta^a_{\alpha}\delta^c_l)\\
&=\eta^{ia}\delta^c_l-\eta^{ic}\delta^a_l
\end{align}}

よって

{\begin{align}
\lbrack\ell^i,\ell^a\rbrack=-i(x^i\eta^{ac}p_c-x^a\eta^{ic}p_c)
\end{align}}

を得る. 具体的には

{\begin{align}
\lbrack\ell^x,\ell^y\rbrack=-i\ell^u,\ \ \ \lbrack\ell^y,\ell^u\rbrack=i\ell^x,\ \ \ \lbrack\ell^u,\ell^x\rbrack=i\ell^y
\end{align}}

これを用いて表現空間を{\ell_u}固有値で分解していく. 昇降演算子はやはり互いにHermite共役となる{\ell^\pm=\ell^x\pm i\ell^y}で定義され,

{\begin{align}
\lbrack\ell^u, \ell^\pm\rbrack=\pm\ell^\pm,\ \ \ \lbrack\ell^+,\ell^-\rbrack=-2\ell^u
\end{align}}

{\ell^i}と交換する全角運動量{\vec{\ell}^2=(\ell^x)^2+(\ell^y)^2-(\ell^u)^2}であることは上の交換関係から直ちに確かめられる. そこで{\ell^u}固有値と全角運動量の規格化された同時固有状態{|m,\lambda\rangle}をとり, それぞれラベル通りに固有値をm, λとすると次の関係から

{\begin{align}
\vec{\ell}^2&=\ell^{-}\ell^{+}-(\ell^u)^2-\ell^u=\ell^{+}\ell^{-}-(\ell^u)^2+\ell^u
\end{align}}

{\begin{align}|\ell^{+}|m,\lambda\rangle|^2=\lambda+m^2+m,\ \ \ |\ell^{-}|m,\lambda\rangle|^2=\lambda+m^2-m
\end{align}}

が導かれる.

 代数的な関係のみからここまで来たが, SO(3)の場合とちがって全角運動量の固有空間が有限次元に制限されないことからいろいろ厄介な問題が起こる. そこでいま必要な一葉双曲面上の関数を表現空間とする表現だけを考えるため微分演算子に書き換える.

{\begin{gather}
\ell^x=-i\left(\sin\varphi\partial_\theta+\tanh\theta\cos\varphi\partial_\varphi\right),\ \ \ 
\ell^y=i\left(\cos\varphi\partial_\theta-\tanh\theta\sin\varphi\partial_\varphi\right),\ \ \
\ell^u=-i\partial_\varphi\\
\vec{\ell}^2=-(\partial_\theta^2+\tanh\theta\partial_\theta)+\frac{1}{\cosh^2\theta}\partial_\varphi^2
\end{gather}}

{\ell^u}の規格化された固有値関数は{e^{im\varphi}/\sqrt{2\pi}}で,一価性から固有値{(m=0,\pm 1,\pm 2,\dots)}と整数に制限される.

今解くべきSchodinger方程式のHamiltonianに対して, 明らかに

{\lbrack H,\ell^i\rbrack=\lbrack H,\vec{\ell}^2\rbrack=0}

が満たされている. すると, 角運動量固有状態に対しては, 動径方向関数R(r)について

{\begin{align}
\left(-\frac{\hbar^2}{2m}\left(\frac{d^2}{dr^2}+\frac{2}{r}\frac{d}{dr}+\frac{\lambda}{r^2}\right)-\frac{\kappa}{r}\right)R(r)=ER(r)
\end{align}}

が成り立つ. ただし

{\begin{align}
\int_0^\infty|R(r)|^2r^2dr=1
\end{align}}

の規格化条件を課す. {\kappa'=2m\kappa/\hbar^2,\ \ \ \epsilon=2mE/\hbar^2}とすると,

{\begin{align}
\left(\frac{d^2}{dr^2}+\frac{2}{r}\frac{d}{dr}+\frac{\lambda}{r^2}+\frac{\kappa'}{r}+\epsilon\right)R(r)=0
\end{align}}

と書き換えられる. r→∞での振る舞いは, 0に収束するべきことから

{R(r)\rightarrow e^{-\sqrt{-\epsilon}r}}

(の定数倍)へ漸近する必要があり, εは負値に制限される. {\rho=2\sqrt{-\epsilon}r,\ \kappa''=\kappa'/2\sqrt{-\epsilon}}の置き換えにくわえ, {\lambda=-\nu(\nu+1)}を満たす複素数{\nu\ ({\rm Re}(\nu)\geq-1/2}を取る)を導入して

{R(r)=e^{-\rho/2}\rho^\nu f(\rho)}

とすると, fの満たす方程式は

{\left(\frac{d^2}{d\rho^2}+\left(\frac{2\nu+2}{\rho}-1\right)\frac{d}{d\rho}+\frac{\kappa''-\nu-1}{\rho}\right)f(\rho)=0}

と合流型超幾何微分方程式(Kummerの微分方程式)に帰着する. {\alpha=\nu+1-\kappa'',\ \gamma=2\nu+2}とすると, その解は,

(i)α-γが整数のとき 対数発散する独立な解を除いて, 超幾何関数

{\begin{align}
F(\alpha;\gamma;\rho)=\sum_{k=0}^\infty\frac{(\alpha)_k\rho^k}{(\gamma)_k k!}
\end{align}}

の定数倍. ただし{(x)_n}はPochhammer記号で, {(x)_k=x(x+1)(x+2)\dots(x+k-1)}. 和が途切れないならば, 十分大きなNに対してn>N部分和は{e^\rho-}(多項式)に漸近し, 規格化条件が満たされない. 従って
{\begin{align}
\alpha+k_{\rm max}=\nu+1-\kappa''+k_{\max}=0
\end{align}}
を満たす非負整数{k_{max}}が存在する. また,α-γが整数であるという条件も課しているため, νは-1/2以上の半整数に制限される. さらに,動径方向関数全体で
{\begin{align}
R(r)\propto e^{-\rho/2}\rho^\nu\sum_{k=0}^{k_{\rm max}}\frac{(-k_{\rm max})_k\rho^k}{(2\nu+2)_k k!}
\end{align}}
となるため, ρ=0で発散しないために結局νは0以上の半整数にならねばならない.

(ii)α-γが整数でないとき
{F(\alpha,\gamma,\rho),\ \ \ \rho^{1-\gamma}F(\alpha-\gamma+1;2-\gamma;\rho)}
の2つの独立な解を持つ. 後者は発散するため不適. (i)と同様に前者の解に対して{k_{max}}が存在するためにνは実数に制限され, 収束性から非負である.

結局(i)(ii)からλは非正でなくてはならない. 動径方向関数に関する考察からはここまでしか言えない. λは0以下の任意の実数値をとることが許される*5.

 再び角運動量の表現に立ち返る. 全角運動量はλ≦0で, ある0より大きい整数の{\ell^u}固有値mを持つ状態から初めて降演算子によって固有値0の状態が作られるとする.このとき,

{\begin{align}|\ell^{+}|0,\lambda\rangle|^2=\lambda,\ \ \ |\ell^{-}|0,\lambda\rangle|^2=\lambda
\end{align}}

これが可能なのはλ=0のときのみだが, そのとき{\ell^{x}|0,0\rangle=\ell^{y}|0,0\rangle=0}となり, これは0でしかありえない. 従って0より大きい整数mを固有値としてもつ状態が存在するなら, 降演算子をかけ続けると正の固有値を持つ状態で消える. *6すなわちある{m_{\rm min}\geq1}が存在して
{\begin{gather}|\ell^{-}|m_{\rm min},\lambda\rangle|^2=\lambda+m_{\rm min}^2-m_{\rm min}=0\\
\therefore\lambda=-(m_{\rm min}-1)m_{\rm min},\ \ \ \nu=m_{\rm min}-1
\end{gather}}

 同様に0より小さい整数mの固有状態が存在するためにはある{m_{\rm max}\leq -1}に対して,
{\begin{gather}|\ell^{+}|m_{\rm max},\lambda\rangle|^2=\lambda+m_{\rm max}^2+m_{\rm max}=0\\
\therefore\lambda=-(-m_{\rm max}-1)(-m_{\rm max}),\ \ \ \nu=-m_{\rm max}-1
\end{gather}}

 これによりνは非負整数値をとることになる. そこでこれを改めてlとおく. そして全角運動量固有状態に関するラベルをλからこのlに取り替える. 結局, 状態空間は

{\begin{align}|m,l\rangle\ \ \ (|m|>l \geq 0)\\
\end{align}}

で張られることが分かる. 全角運動量の固有空間は無限次元ということになる. これに伴いエネルギー固有状態も無限に縮退する.*7

 これらを構成するためには,

{\begin{align}
\ell^{-}|l+1,l\rangle&=0,\ \ \ \ell^{+}|-l-1,l\rangle=0\\|m+1,l\rangle&=\frac{\ell^{+}|m,l\rangle}{\sqrt{(m-l)(m+l+1)}}\ \ \ (m>l)\\|\!-\!(m'\!+\!1),l\rangle&=\frac{\ell^{-}|-m',l\rangle}{\sqrt{(m'-l)(m'+l+1)}}\ \ \ (m'=-m>l)
\end{align}}

の関係を使って, m=±(l+1)状態に対して昇降演算子を繰り返し作用させればよく,

{\begin{align}|\pm\!(l\!+\!k\!+\!1),l\rangle=\sqrt{\frac{(2l+1)!}{n!(2l+k+1)!}}(\ell^{\pm})^k|\pm\!(l\!+\!1),l\rangle\ \ \ (n\geq 0)
\end{align}}

を得る.



一葉双曲面調和関数?
 規格化された一葉双曲面上の関数としてこれを実現していく. {\ell^u}固有関数は{e^{im\varphi}/\sqrt{2\pi}}であることを知っているので,
{\begin{align}|m,l\rangle\rightarrow \frac{1}{\sqrt{2\pi}}f^m(\theta)e^{im\varphi}\equiv\varUpsilon^{l}_m(\theta,\varphi)
\end{align}}

とおける*8. このことから, まず,

{\begin{align}
\ell^{\pm}=e^{\pm i\varphi}(\mp\partial_\theta-i\tanh \theta\partial_\varphi)
\end{align}}

で消える状態;m=±(l+1)に対応する関数が簡単に導かれる.

{\begin{gather}
(\mp\partial_\theta-i\tanh\theta(\pm i(l+1)))f^{\pm(l+1)}(\theta)=0\\
\frac{d}{d\theta}f^{\pm(l+1)}(\theta)=(l+1)\tanh\theta f^{\pm(l+1)}(\theta)\\
\therefore f^{\pm(l+1)}(\theta)=C_l(\cosh\theta)^{-(l+1)}
\end{gather}}

積分定数C_lは規格化条件から決められる*9.

{\begin{gather}
\int_{-\infty}^\infty |f^m(\theta)|^2 \cosh\theta d\theta=1\\
\frac{1}{|C_l|^2}=\int_{-\infty}^\infty   \frac{d\theta}{(\cosh\theta)^{2l+1}}=\frac{(2l\!-\!1)!!\pi}{(2l)!!}\\
\therefore|C_l|=\sqrt{\frac{(2l)!!}{(2l\!-\!1)!!\pi}}
\end{gather}}

位相の自由度が残るがClは正実数にとることにする. よって,

{\begin{align}
\varUpsilon^l_{\pm(l+1)}(\theta,\varphi)=\frac{1}{\pi}\sqrt{\frac{(2l)!!}{2(2l\!-\!1)!!}}\frac{e^{\pm i(l+1)\varphi}}{(\cosh\theta)^{l+1}}
\end{align}}

これに昇降演算子をかけることですべての状態が得られる. fへの昇降演算子の作用を考えると,

{\begin{align}
\ell^{\pm}f^m(\theta)&=\mp\left(\frac{d}{d\theta}\mp m\tanh\theta\right)f^m(\theta)\\
&=\mp(\cosh\theta)^{\pm m}\left(\frac{1}{(\cosh\theta)^{\pm m}}\frac{d}{d\theta}+\frac{\mp m\sinh\theta}{\cosh\theta^{\pm m+1}}\right)f^m(\theta)\\
&=\mp(\cosh\theta)^{\pm m}\frac{d}{d\theta}\left(\frac{1}{(\cosh\theta)^{\pm m}}f^m(\theta)\right)
\end{align}}

となるから, これを繰り返すと,

{\begin{align}
(\ell^\pm)^{k}f^{\pm(l+1)}(\theta)=(\mp)^{k}(\cosh\theta)^{l+k+1}\left(\frac{1}{\cosh\theta}\frac{d}{d\theta}\right)^{k} \frac{1}{(\cosh\theta)^{l+1}}f^{\pm(l+1)}(\theta)
\end{align}}

を得る. 規格化定数をかけることで

{\begin{align}
f^{l+k+1}(\theta)&=\sqrt{\frac{(2l+1)!}{n!(2l+k+1)!}}(\ell^\pm)^{k}f^{\pm(l+1)}(\theta)\\
&=(\mp)^k\sqrt{\frac{(2l+1)\lbrack(2l)!!\rbrack^2}{k!(2l+k+1)!\pi}}(\cosh\theta)^{ l+k+1}\left(\frac{1}{\cos\theta}\frac{d}{d\theta}\right)^k\frac{1}{(\cosh\theta)^{2l+2}}
\end{align}}

となる. {s=\sinh\theta}とおけば, 左辺は

{\begin{align}
\varPi_k^l(s)\equiv(\mp)^k\sqrt{\frac{(2l+1)\lbrack(2l)!!\rbrack^2}{k!(2l+k+1)!\pi}}(1+s^2)^{(l+k+1)/2}\frac{d^{k}}{ds^{k}} \frac{1}{(1+s^2)^{l+1}}
\end{align}}

と表せる.
これをsの関数とみなして{\varPi^l_n(s)}とすると, 導出の過程から次の直交関係が成り立つことが分かる.

{\begin{align}
\int_{-\infty}^\infty \varPi^l_k(s)\varPi^l_{k'}(s)ds=\delta_{kk'}
\end{align}}

結局,規格化された固有関数は全体で

{\begin{align}
\varUpsilon^l_{\pm(l+k)}(\theta,\varphi)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}\varPi^l_k(\sinh\theta)e^{\pm i(l+k)\varphi}\ \ \ (l\geq 0,\ n\geq1)
\end{align}}
*10

 lが整数に限られることが言えているので動径成分は3+0次元バージョンの水素原子のそれと一致する. これと角度成分をかければ固有状態が得られる. すなわち,

{\begin{gather}
\psi_{nl}(r,\theta,\varphi)=R_{nl}(\rho)\varUpsilon^l_{\pm(l+k)}(\theta,\varphi)\\
n\geq 1, \ \ \ 0\leq l \leq n-1, \ \ \ k\geq 1
\end{gather}}

ただし,

{\begin{align}
a_B&=\frac{\hbar^2}{m\kappa},\ \ \ \rho=\frac{2r}{na_B}\\
R_{nl}(r)&=A_{nl}e^{-\rho/2}\rho^lL_{n+l}^{2l+1}(\rho)\\
A_{nl}&=\frac{2}{n^2}a_B^{-3/2}\sqrt{\frac{(n\!-\!l-\!1)!}{\lbrack(n+l)!\rbrack^3}}
\end{align}}
LはLaguerre陪多項式Laguerre polynomials - Wikipedia

エネルギー固有値

{\begin{align}
E_n=-\frac{\kappa}{2n^2a_B}
\end{align}}

 しかしこの解は空間の全領域を覆っていない. in-cone領域との接続を考える必要がある.



接続条件
 in-coneの解を考えよう. Out-coneと同様に極座標で計算することができる.
{\begin{align}
x=r\sinh\theta\cos\varphi,\ \ \ y=r\sinh\theta\sin\varphi,\ \ \ u=r\cosh\theta
\end{align}}
ただしθ≧0. この制限によりu≧0になるため, "北側"半分が表されている. 途中計算を省くとLaplacianは
{\begin{align}
\triangle=-\frac{1}{r^2}\partial_rr^2\partial_r+\frac{1}{r^2}\left(\frac{1}{\sinh\theta}\partial_\theta\sinh\theta\partial_\theta+\frac{1}{\sinh^2\theta}\partial_\varphi^2\right)
\end{align}}

となる. 中心力ポテンシャル下ではやはり全角運動量が保存し, out-coneと同様の, ただし符号が反転することに注意した動径方向の収束性に関する考察から全角運動量は非負の値をとることが分かる. ところが角度部分の固有関数はθ=0で発散する. このことはm≧1に対して

{\begin{align}
\left(\frac{1}{\sinh\theta}\partial_\theta\sinh\theta\partial_\theta+\frac{1}{\sinh^2\theta}\partial_\varphi^2\right)\frac{e^{im\varphi}}{\sinh^m\varphi}
=m(m-1)\frac{e^{im\varphi}}{\sinh^m\varphi}
\end{align}}

から{e^{im\varphi}/\sinh^m\varphi}(と定数の線形結合)が正の角運動量の固有関数となるが, 原点周りで積分が発散する(体積要素はsinhθdθdφ)ことにも現れている.

 したがって, in-coneで有限の確率密度を持つ定常状態は存在できない.

 これを踏まえout-cone解に戻る. Laguerre陪多項式が0次の項を持つことに注意すると, l≧1ではr=0で確率密度と一次の変化率が0に落ちる. in-coneで0になるときこれとの接続条件が満たされる. つまりin-coneに侵入しない解である.

 ところがl=0;全角運動量0の状態はr=0でも有限の確率密度を持つためin-coneでも有限の確率密度を持つ必要がある(このことは1s電子が原子核中心で有限の存在確率を持つことと比較できる). ゆえに全領域を考えるとこの状態は固有状態にならないことになる.

 中心"粒子"のchargeの密度が有限なら, 調和振動子hermonic oscillator的なポテンシャルを持つヌル円錐null-cone近傍を超えてin-coneに"流れ込む"ことが考えられるため, l≧1状態に対しても寿命lifetimeが付くことになりそうだが, 厳密解としてはl=0を除いて定常状態が存在できると言える.

 結局修正された解は以下のようになる.

{\begin{gather}
\psi_{nl}(r,\theta,\varphi)=\left\{
\begin{array}{cc}
0 & (x^2+y^2-u^2<0)\\
R_{nl}(\rho)\varUpsilon^l_{\pm(l+k)}(\theta,\varphi) & (x^2+y^2-u^2\geq 0)
\end{array}
\right. \\
(n\geq2, \ \ \ 1\leq l \leq n-1, \ \ \ k\geq 1)
\end{gather}}

l=0が除かれることに伴ってn=1も消えた. 基底状態は主量子数n=2, 方位量子数l=1, 磁気量子数は2,3,4,…の無限に縮退した状態になる.

 無限の縮退. 我々の宇宙の水素原子が{n^2}重に有限の縮退をするのと対照的だ. 動径成分は両者で一致しているため, これは角度成分からの寄与. SO(3)のコンパクト性とSO(2,1)の非コンパクト性の違いが現れている. きわめて雑な見方をすれば, SO(3)は軌道を傾かせ続けると元に戻ってくるのに対して, SO(2,1)はu軸方向に"無限に傾く"ことができるという違い.

 {\ell^u}固有値が大きくなるほど, その確率密度は中心からdark coneに沿って"離れて"(x,y,u座標の絶対値が大きくなるという意味で)いくことになる. ここで求めた解は理想的な仮定(無限のcharge, coneの完璧な回転対称性)を敷いているので問題ないが, これらを取り払っていったときにはこのことが重要になってきそう. ひょっとすると化学結合に関係したり.

 グラフィカルにこの解を見たいところだが疲れてしまった. それに加えてこの解がどれくらい妥当か*11, もし使えるなら彼らの宇宙で化学はどういったものになるか,解の構造はどうなっているか*12 スピン軌道相互作用, 負の確率密度......等考えるべきことはたくさんあるがまた次の機会.

Dichronauts (English Edition)

Dichronauts (English Edition)

*1:2017/7/8時点でamazon.co.jpの価格はkindle版が499円, ハードカバーは3075円(国内はやや遅れて7/11発売のよう). くわえて電書版が実に3カ月も先行していたので時代だ.

*2:ふたつだけ気になること[ネタバレ][SPOILER]The problem of unpredictability, which Max Tegmark regards as a difficulty of existance of SASs(Self-Aware Substructures) in a universe with 2 or more timedimensions exists in the Dichronauts universe as in the Orthogonal universe. The Southites might be threatened by "hurtlers": meteors without upper limit of velocity along the north-south axis, while residents on the surface of the hyperboloid are protected by the crust./ The word 'sidle' last appears in Chapter 13, just the halfway point of the full text. Descending the chasm, Surveyors confronted with strange geometry, but they were freed from 'the hip-swivelling nonsense'(Chapter 4).

*3:u方向の速度が負の運動エネルギーを持つことと距離を縮める効果を持つため結果的にu方向にもxy平面と同じような均衡が生まれる, という関係は重要. Darkcone領域に音波が伝わることはあまり自明ではないが, 少なくとも連成振動子はこれによって3+0次元と同じように働くことができる. つまりこの点で縦波の伝搬に困難はないはず.

*4:前の記事から既にクオーテーション付きの"回転"をいい加減に使っているが意味は通じると思う.

*5:ここの議論にやや不安が残る. 3+0次元では先に球面調和関数で展開してしまえるので動径方向を考える前に全角運動量が離散値をとることが言えるが2+1次元ではおそらくそれは不可能.

*6:mを整数と仮定しなくても, 昇降演算子によって{\ell^u}固有値を0に近づけていくと絶対値が1以下になったときその状態は消えなくてはならなくなる. なぜなら{\lambda+m^2\pm m}が負値をとるから.

*7:ところで前の記事で見た通りSO(2,1)に対応するスピン群はSL(2,R)でこれはもちろん有限次元の表現空間を持ちその元がスピノルなのだった. どこが違うかというとxyまわりの回転の生成子{\sigma^u}が反Hermite行列になっており, それに伴い有限次元, unitarityを持たない表現が実現されているのだった.

*8:関係ないが球面調和関数のYの由来って何だろう.

*9:結局うまくいくがこの積分が収束することは少なくともここまでの計算からは自明ではない. たとえば1+1次元での全角運動量の固有関数は明らかに規格化できない. そしてより重要なのは, in-coneで同様の手順を踏むとcoshsinhに変わり規格化できなくなることである.

*10:SL(2,C)が{x^2+y^2-u^2-t^2=1}の曲面と同相になることから調和解析の知識を使えばもっと見通しよく基底が得られると思っている……が数学は難しかった. いずれやりたい……。

*11:たとえば中心のchargeを有限に抑えたときどう変わるかといった問題, 微細構造定数のスケールへの依存性など.

*12:イーガンHPに公開されている短編In the Ruinsは逆2乗力下の運動の4次元対称性について登場人物とともにレクチャーを受けるという奇妙な作品になっている. たぶんこれと同じように対称性からもっと代数的に解が得られると思う. www.gregegan.net

2+2次元Dirac方程式と確率解釈 ― Dichronautsよんでる

 グレッグ・イーガンDichronautsをよんでいます. やっとあらすじにある暗黒断崖が出てきた. ElenaとIrinaの間の軋轢, Sleepwalkerの騒ぎなどからSider-Walker間の必ずしもうまくいくとは限らない緊張をはらんだ関係が最初のほうで既に明かされていたが, Thantonという都市でSethとTheoはもっと不気味な実例と出会うことになった. このあたりが本書の含むある種政治的なテーマだろうか. ヒト世界には対応物がないけど.

 しばしば感じられるのは, 基本的にSiderのほうが自制があって賢明で, のみならず彼ら独自の「言語」を持っているためホストのWalkerは彼らに従属しているかのようであること. 両者の一見対等な知能はパラサイト側の誘発で獲得されたものなのかも. 『地球の長い午後』を思い出したり.

Dichronauts (English Edition)

Dichronauts (English Edition)

 さて前の記事で「ディラック表現から『非相対論近似』をすることも可能だがそこから特に言えることがあるわけでもない.」と言っていた.
2+2次元Dirac方程式―Dichronautsをよみはじめた - Shironetsu Blog
 ひどい浅慮だ. 実は2+1次元空間のスピノルに関するSchrödinger - Pauli方程式相当の近似式を導くと奇妙なことが明らかになる.

 前の記事で述べた通り, 相対論的カレントの時間成分は2+2次元(と4+0次元)においては3+1次元と異なり正負の値をとりうる. 2+2次元ではこれに加えて, 非相対論近似でもなおスピンの効果を含めると確率が正負の値になる. これは4+0次元では起こらなかった. というのも, 4+0と3+1ではいずれも空間3次元に関しては等価でそのスピンは回転に対してSU(2)で変換して, それが作るスカラーは標準Hermite内積によるノルムになるため.

 翻って2+1次元空間のスピノルはSL(2,R)で変換するためそれが作るスカラーは正定値にはならない. UpとDown(NorthとSouth?)が時間変化で入れ替わるならスカラーの大きさも正負に振れ, それは"確率"が正負に切り替わることを意味する.

 ここに確率解釈の困難が現れる……と思う. これを知る前, 素朴にSchrödinger方程式で直交曲線座標で「水素原子」を解く方法を考えていた*1が, カレントの時間成分と波動関数の絶対値がちゃんと対応するか気になって計算するとこの問題に突き当たった.

 これらの事実を以下で確認していく.



Dirac表現

 前の記事で扱ったのはカイラル表現(Weyl表現)のみだった. ユニタリ変換でガンマ行列をDirac表現に変換する. 目的は{\gamma^t}の対角化である.

 再度カイラル表現のガンマ行列を書いておく. ただし下添え字WでDirac表現と区別する.

{
 \gamma^t_W=\sigma_1\otimes{\bf 1}_2,\ \ \ \gamma^u_W=(i\sigma_2)\otimes(i\sigma_3),\ \ \ 
 \gamma^x_W=i\sigma_2\otimes\sigma_1,\ \ \ \gamma^y_W=i\sigma_2\otimes\sigma_2
}

 計算は省くが({\sigma_1}を対角化するだけ), 以下のユニタリ行列Uを使う.

{
 U=\frac{1}{\sqrt{2}}({\bf 1}_2+i\sigma_2)\otimes {\bf 1}_2,\ \ \ U^{-1}=U^\dagger=\frac{1}{\sqrt{2}}({\bf 1}_2-i\sigma_2)\otimes {\bf 1}_2
}

これによって,
{
\begin{gather}
 \gamma_D^\mu=U\gamma^\mu_WU^\dagger \\
 \gamma_D^t=\sigma_3\otimes{\bf 1}_2,\ \ \ \gamma^u_D=(i\sigma_2)\otimes(i\sigma_3), \ \ \ \gamma_D^x=i\sigma_2\otimes\sigma_1,\ \ \  \gamma_D^y=i\sigma_2\otimes\sigma_2
\end{gather}
}

Dirac表現に移る. 同時にスピノルは

{
\varPsi_D=U\varPsi_W=\frac{1}{\sqrt{2}}\left(\begin{array}{c}
\psi_L+\psi_R\\
 -\psi_L+\psi_R
\end{array}\right)
}
と変換されている.



平面波解

 Dirac表現を使って平面波解を考える. 以下Dirac表現のみを使うため下添え字Dは省略.

{
\varPsi = e^{-ik_\mu x^\mu}\varPsi_0
}

ただし{\varPsi_0}は位置に依存しない定数. これをDirac方程式に代入すると,

{
(k_\mu\gamma^\mu-m)\varPsi_0=0
}

ここで

{
\sigma^x=\sigma_1,\ \ \ \sigma^y=\sigma_2,\ \ \ \sigma^u=i\sigma_3\\
}

と定義する. これらはClifford代数の関係式に従う. すなわち

{
\begin{gather}
\{\sigma^i,\sigma^j\}=-2g^{ij}{\bf 1}_2\\
(g^{ij})={\rm diag}(-,-,+)={\rm diag}(g^{xx},g^{yy},g^{uu})
\end{gather}
}

また, 交換関係は

{
  \lbrack \sigma^i,\sigma^j \rbrack =2\epsilon^{ijk}g_{kl}\sigma^l
}

と表せる. {\epsilon^{ijk}}は添え字{(ijk)}{(xyu)}の偶置換のとき+1,奇置換のとき-1, それ以外のとき0. Pauli行列の場合との違いに注意.

話を戻し, さらに{\varPsi_0}を上下2成分ずつ{\varphi,\chi}に分割すると次のように書ける.

{\begin{gather}
\left(\begin{array}{cc}
k_t-m&k_i\sigma^i\\
 -k_i\sigma^i&-k_t-m
\end{array}\right)
\left(\begin{array}{c}
\varphi\\
\chi
\end{array}\right)
=
\left(\begin{array}{c}
0\\
0
\end{array}\right)\\
\varphi=\frac{-k_i\sigma^i}{k_t-m}\chi,\ \ \ \chi=\frac{-k_i\sigma^i}{k_t+m}\varphi
\end{gather}
}

ただし空間成分{i=(x,y,u)}に渡って和をとる. これを使うと,

{
\varphi=\frac{k_x^2+k_y^2-k_u^2}{k_t^2-m^2}\varphi
}

から,

{
k_t^2+k_u^2-k_x^2-k_y^2=m^2
}

が満たされる必要があることが分かる.{k_t=E,\ k_i=p_i}と改めて書くと,

{
E=\pm\sqrt{m^2+p_x^2+p_y^2-p_u^2}
}

これが満たされているとき, 解は上の関係で結ばれる任意の{\varphi,\chi}を用いて

{
\begin{align}
\varPsi=\left(\begin{array}{c}
\varphi \\
\frac{-p_i\sigma^i}{E+m}\varphi
\end{array}\right)
 =\left(\begin{array}{c}
\frac{-p_i\sigma^i}{E-m}\chi \\
\chi
\end{array}\right)
\end{align}
}

と表される. 運動量の大きさ{p_x^2+p_y^2-p_u^2}が十分小さいとき{E\sim \pm m}である. 正のとき上2成分が卓越して正エネルギー解:粒子, 負のとき下2成分が卓越して負エネルギー解:反粒子と解釈できる.



電磁相互作用

 ベクトルポテンシャルAが存在するとき, 方程式は

{
(i\partial_\mu\gamma^\mu-eA_\mu\gamma^\mu-m)\varPsi=0
}

と書きかわる*2. 再び上下2成分ずつ{\varphi,\chi}を用いて(ただし今度は位置に依存)

{
\begin{align}
\varPsi=e^{-imt}\left(\begin{array}{c}
\varphi\\
\chi
\end{array}\right)
\end{align}
}

と書く. これを用いると,

{
\begin{gather}
(i\partial_t-eA_t)\varphi+(i\partial_i-eA_i)\sigma^i\chi=0\\
 -(i\partial_i-eA_i)\sigma^i\varphi-(i\partial_t-eA_t)\chi-2m\chi=0
\end{gather}
}

第2式を使って

{
\begin{align}
(i\partial_t-eA_t)\varphi
 &=\frac{1}{2m}(i\partial_i-eA_i)(i\partial_j-eA_j)\sigma^i\sigma^j\varphi+\frac{1}{2m}(i\partial_i-eA_i)\sigma^i(i\partial_t-eA_t)\chi\\
 &=\frac{1}{2m}(i\partial_i-eA_i)(i\partial_j-eA_j)\sigma^i\sigma^j\varphi+\frac{1}{2m}\left\{(i\partial_t-eA_t)(i\partial_i-eA_i)-ie(\partial_iA_t-\partial_tA_i)\right\}\sigma^i\chi\\
 &=\frac{1}{2m}(i\partial_i-eA_i)(i\partial_j-eA_j)\sigma^i\sigma^j\varphi
 -\frac{1}{2m}(i\partial_t-eA_t)^2\varphi-\frac{ie}{2m}(\partial_iA_t-\partial_tA_i)\sigma^i\chi
\end{align}
}

ここまで展開したが, 反粒子成分は小さく, また, 十分低速で時間部分の演算子が2回かかる項は無視できるとする. これにより後ろ2項は落ちて,

{
\begin{align}
(i\partial_t-eA_t)\varphi&=\frac{1}{2m}\left(-g^{ij}(i\partial_i-eA_i)(i\partial_j-eA_j)+\epsilon^{ijk}g_{kl}\sigma^l(-ie\partial_iA_j)\right)\varphi\\
 &=\frac{1}{2m}\left(-g^{ij}(i\partial_i-eA_i)(i\partial_j-eA_j)
 -\frac{ie}{2}g_{kl}\epsilon^{ijk}(\partial_iA_j-\partial_jA_i)\sigma^l
\right)\varphi
\end{align}
}

{A_t=-\phi,\ \pi_i=-(i\partial_i-eA_i),\ B^k=\epsilon^{ijk}\partial_iA_j}と表記すると*3,

{
\begin{align}
i\partial_t\varphi&=\left(-\frac{\pi_i\pi^i}{2m}-e\phi-\frac{ie}{2m}B_i\sigma^i\right)\varphi
\end{align}
}

を得る.これが求めるべきものだった. 2+1次元のSchrödinger - Pauli方程式である. 形を見ればわかる通り, 右辺第3項によって{\varphi}の上下の成分が時間変化で混ざる.

 と簡単に書いたがHamiltonianがHermiteになっていないことにすぐ気付く. というのも{\sigma^x,\ \sigma^y}がHermiteなのにそれらに虚数単位がかかっているため. また, そのせいでxy軸方向の磁場がかかっている系で{\varphi}の成分が発散してしまう.



確率

 そもそも, 確率とみなしたい{|\psi|^2}が座標系に依存するのだ. {\psi}が2+1次元のスピノルであるためこれは当然のことではある.

 Dirac共役がHermite共役そのものではなく右から{\gamma^t}を掛けなくてはならなかったように, 2+1次元での共役スピノルはHermite共役に{-i\sigma^u=\sigma_3}を右からかけなくてはならない*4. こうすることで共役と元のスピノルの積は座標変換に対する不変性が保たれる.

 これを成分で見ると,

{
\begin{gather}
\varphi=\left(\begin{array}{c}
\alpha\\
\beta
\end{array}\right)\\
\overline{\varphi}=\varphi^\dagger\sigma_3\\
\overline{\varphi}\varphi=|\alpha|^2-|\beta|^2
\end{gather}
}

から, ちょうどアップスピンの大きさの2乗からダウンスピンの大きさの2乗を引いた形になることが分かる*5.

 これは2+2次元カレントの時間成分とも近似的に一致している. 前の記事で導入した{\eta}は, Dirac表現でも

{
\eta_D=i\gamma_D^x\gamma_D^y={\bf 1}_2\otimes\sigma_3
}

であり, カレントの時間成分は

{
\varPsi_D^\dagger \eta_D\gamma^t\varPsi=\varphi^\dagger\sigma_3\varphi-\chi^\dagger\sigma_3\chi\simeq\varphi^\dagger\sigma_3\varphi
}

と同じ形になる.



まとめ

 2+2次元においてもDirac表現を用いたDirac方程式の解から粒子, 反粒子とみなせる解が導かれる. これをもとに, 低エネルギーの非相対論極限として2+1次元のSchrödinger - Pauli方程式が得られるが, そのHamilitonianはHermiteになっていない. そもそも2+1次元の2成分スピノルのノルムの2乗は座標不変な値ではなく, 正しく得られるスカラーは正定値にならない. よって2成分スピノルを考える限り非相対論的極限でもなお確率解釈は正当化されない.

 ただ, Orthogonal宇宙で反粒子状態をオミットすることで確率解釈が可能になるように, たとえばスピンがアップダウンに振れないなら, 単純にスカラー波動関数を考えるだけで済むようになって確率密度の正定置性は保たれるかも……どういう状況だろう?軸方向に強い磁場がかかっていてスピンの向きが揃っているとか?

 イーガン自身明らかに, 我々の宇宙の物理法則をわずかな変更を加えただけでそのまま適用したときに生じる問題を認識していて, あえて気にしないことにしておもしろい幾何学的帰結にだけ集中することにしているはず. そのために物語の本筋に関わらない深く突っ込んだ計算は公開していないのだろう. しかしイーガンの辿ったはずの道を再現してみるのも楽しい. Dichronautsを読むのには関係なくても.



参考
 以前『エターナル・フレイム』の計算をした時にも参考にさせていただいたページ.

「4+0次元時空間のディラック方程式について」
http://kuiperbelt.la.coocan.jp/sf/egan/orthogonal/dirac-orthogonal.html

*1:「球対称」;中心からの距離が一定の双曲面上で値が同じ波動関数は明らかに規格化できない. 「球殻」;ふたつの双曲面に挟まれた領域の体積が無限大になるため. ひょっとするとCoulomb散乱の問題で使うタイプの座標変換なら……と考えてみたものの, 規格化の問題で依然として混乱. 結局解決していない.

*2:電荷は(-e). 古典論でのHamiltonianの置き換えを援用するというのもやや正当化するのがめんどくさそう(というか2+2次元の古典論について検討していない)なので, 単に共変性を保つ最も簡単な変更と考えればいいはず. あるいはLagrangian経由か.

*3:この定義によって2+1次元回転のもとでBは擬ベクトルとしてふるまう.

*4:座標変換に応じてスピンを変化させるスピン群の行列との関係について述べる必要がある. Hermite共役に右からかければ逆行列になるような行列は何か, という問題になるが, だいたい3+1次元でDirac共役を考えた場合と並行なので略.

*5:ちなみに4+0次元でのカレントの時間成分は|粒子|^2-|反粒子|^2と書ける. Orthogonal宇宙で確率解釈が正当化できるのは粒子の状態が卓越するときこれが正の値をとるから, ということだろうか.