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6+0次元Dirac方程式 - Spin(6)とSU(4)の同型から

~あらすじ~
 実験的に発見された光学固体のエネルギー準位の分裂から〈四の法則〉を導いた物理学者カルラ*たち. 彼女たちの課題は輝素の排他性とこの事実を両立させる説明を見つけ出すことだった. 最も単純な〈一の法則〉ではないのはなぜか? 輝素の"偏極"が原因ならなぜ〈五の法則〉ではないのか? 共同研究者パトリジア*, ロモロ*とともに, 回転物理学に整合する幾何学を探すべく, まずカルラ*は六空間の回転を記述する四次特殊ユニタリ行列と六ベクトルの計算規則を描書した...

スピン群の偶然同型*1を利用してDirac方程式を導出するシリーズその4.

過去の記事
{Spin(4,0)\cong SU(2)\times SU(2)}
『エターナル・フレイム』The Eternal Flame
『エターナル・フレイム』-ベクトル-レフトル-ライトル - Shironetsu Blog

{Spin(2,2)\cong SL(2,\mathbb{R})\times SL(2,\mathbb{R})}
Dichronauts
2+2次元Dirac方程式―Dichronautsをよみはじめた - Shironetsu Blog

{Spin(3,1)\cong SL(2,\mathbb{C})}
Our Universe
点付き・点なし - Shironetsu Blog

4次元の場合の3通りを尽くしてしまったので上に飛ぶ. 偶然同型が存在する最大の次元, 6次元.

f:id:shironetsu:20170725225046p:plain:w600

SU(4)とSO(6)
 SU(4)の代数を考える. 一般にN次特殊ユニタリー群の生成元はトレースレスなHermite行列である.

{\begin{align}
\mathfrak{su}(4)=\{D|D=D^\dagger, {\rm Tr}(D)=0\}
\end{align}}

従って次元は4×4-1=15. これはPauli行列と単位行列のKronecker積を使って次のように表せる.

{\begin{align}
\mathfrak{su}(4)=\{\sigma^\mu\otimes\sigma^\nu|\mu,\nu =0,1,2,3,\ \ \ (\mu,\nu)\neq(0,0)\}
\end{align}}

ただしここで

{\begin{align}
\sigma^0=\bf{1}_2=
\left(\begin{array}{cc}
1&0\\
0&1
\end{array}\right),\ \ \ 
\sigma^1=
\left(\begin{array}{cc}
0&1\\
1&0
\end{array}\right),\ \ \ 
\sigma^2=
\left(\begin{array}{cc}
0&-i\\
i&0
\end{array}\right),\ \ \ 
\sigma^3=
\left(\begin{array}{cc}
1&0\\
0&-1
\end{array}\right)
\end{align}}

およびKronecker積のトレースの性質

{\begin{align}
{\rm Tr}(A \otimes B)={\rm Tr}(A){\rm Tr}(B)
\end{align}}

に注意.
この事実からしてすでに性格がいい. これに単位元({\mu=\nu=0})を加えて複素係数の線形結合を取ると{M(4,\mathbb{C})}の基底にもなる.

一方SO(N)の代数は虚数成分の反対称行列で次元はN(N-1)/2. 今考えるSO(6)は15次元. SU(4)と同じである. ここに準同型写像の存在が示唆される.



ベクトル
 SU(4)の元Uが作用して6次元標準内積が保存するような対象を探す. 4×4行列から探すのが適当だろう. しかし4×4行列は実係数にして32次元もある.

{\begin{align}
GL(4,\mathbb{C})=\{X_{\mu\nu}\sigma^\mu\otimes\sigma^\nu|X_{\mu\nu}\in\mathbb{C}\}
\end{align}}

ここから自由度を落としていかなくてはならない.

 さて, Pauli行列(ここでは単位行列も含めてそう呼ぶことにする)はすべてHermiteだが, ひとつだけ虚数成分かつ反対称なものがある. {\sigma^2}だ. さらにKronecker積の転置については次の性質がある.

{
(A\otimes B)^T=A^T\otimes B^T
}

これを踏まえ4×4行列の転置をとると

{\begin{align}
X^T=X_{22}\sigma^2\otimes\sigma^2+\sum_{\mu,\nu\neq 2}X_{\mu,\nu}\sigma^\mu\otimes\sigma^\nu+\sum_{\lambda\neq 2}(-X_{2\lambda}\sigma^2\otimes\sigma^\lambda-X_{\lambda2}\sigma^\lambda\otimes\sigma^2)
\end{align}}

これが反対称なら転置で係数が反転する後ろの2項だけが残る.

{\begin{align}
\mathfrak{A}\equiv\{X\mid X^T=X\}=\left\{\sum_{\lambda=0,1,3}X_{2\lambda}\sigma^2\otimes\sigma^\lambda+X_{\lambda2}\sigma^\lambda\otimes\sigma^2 \mid X_{2\lambda},X_{\lambda2}\in\mathbb{C}\right\}
\end{align}}

複素係数6個, 実係数12個とまだ多いが遠くない.

ここでユニタリ行列が作用する反対称行列間の変換fが

{\begin{gather}
X\in\mathfrak{A}\longmapsto f(U)X=UXU^T\in\mathfrak{A}\\
(f(U)X)^T=UX^TU^T=-UXU^T=-f(U)X\\
f(U_1)f(U_2)=f(U_1U_2)
\end{gather}}

と定義できる. 3つめの式から分かるようにこの変換はSU(4)からの準同型写像を定義している. といってもユニタリ性はここでは使っていない. 実はユニタリ性を入れると次が成り立つ.

\begin{align}
X\in \mathfrak{F}\rightarrow f(U)X\in\mathfrak{F}
\end{align}

ただし以下のように定義.

{\begin{gather}
\mathfrak{F}\equiv\left\{\sum_{\mu=1}^6 X_{\mu}\Gamma^\mu \mid X_\mu\in\mathbb{R}\right\}\\
\Gamma^1=i(\sigma^1\otimes\sigma^2),\ \ \ \Gamma^2=i(\sigma^2\otimes1),\ \ \ \Gamma^3=i(\sigma^3\otimes\sigma^2),\\\
\Gamma^4=\sigma^2\otimes\sigma^1,\ \ \ \Gamma^5=1\otimes\sigma^2,\ \ \ \Gamma^6=\sigma^2\otimes\sigma^3
\end{gather}}

つまり実はfは6次元ベクトル空間{\mathfrak{F}}の要素間の変換なのである. 反対称行列全体がfによって移りあわない2つの部分空間に分離されていることになる.

{\begin{align}
\mathfrak{A}=\mathfrak{F}\oplus i\mathfrak{F}
\end{align}}

あまり厳密ではないが証明は以下のようになる. まずSU(4)の元を指数の形で表す.

{\begin{align}
U=\exp(iD)\in SU(4),\ \ \ D\in\mathfrak{su}(4)
\end{align}}

fによる{\mathfrak{F}}の基底の変換だけ考えればよい.

{\begin{align}
f(U)X&=U\Gamma^\mu U^T\\
&=\exp(iD)\Gamma^\mu\exp(iD^T)\\
&=\sum_{n=0}^\infty \frac{g(iD)^n}{n!}\Gamma^\mu
\end{align}}

ここでgは

{\begin{align}
g(A)X=AX+XA^T
\end{align}}

と定義される. この変換gについて,

{\begin{align}
g(iD)\Gamma^\mu \in \mathfrak{F}
\end{align}}

が示されれば十分だが, 実際これは成立する. {\mathfrak{su}(4)}の基底15個と{\Gamma}6個, 90通りについて計算すると*2これが成り立つことが確認できる.

 確かにそうなるものの力技の感がありいまいち釈然としない. 何か{\mathfrak{F}}{i\mathfrak{F}}を特徴づける量があってfによる変換では移りあえない不連続性がある, という背景がありそうな気がするものの今のところ見つけられていない.

 これを踏まえ{\mathfrak{F}}内積を定義する*3.

{\begin{align}
\langle A,B\rangle=-\frac{1}{4}{\rm Tr}(A^*B),\ \ \ A,B\in\mathfrak{F}
\end{align}}

{\Gamma}を使うと次のように表せる.

{\begin{align}
\langle A_\mu\Gamma^\mu,B_\nu\Gamma^\nu\rangle
&=-\frac{1}{4}A_\mu B_\nu{\rm Tr}(\Gamma^{\mu*}\Gamma^\nu)\\
&=-\frac{1}{4}A_\mu B_\mu{\rm Tr}(-{\bf 1}_2\otimes{\bf 1}_2)\\
&=A_\mu B_\mu
\end{align}}

1行目から2行目への変形は, {\mu=\nu}の積のみが, 単位行列になってトレースに寄与することから.

上添え字と下添え字を混ぜて扱っているが, Euclid計量{(\delta^{\mu\nu})=\rm{diag}(++++++)}を使って表すこともできる;

{\begin{align}
\langle A,B\rangle=\delta^{\mu\nu}A_\mu B_\nu
\end{align}}

この{\mathfrak{F}}内積はfに関して不変になる.

{\begin{align}
\langle f(U)A, f(U)B\rangle&=-\frac{1}{4}{\rm Tr} \lbrack(UAU^T)^*(UBU^T)\rbrack\\
&=-\frac{1}{4}{\rm Tr} (U^*A^*U^\dagger UBU^T)\\
&=-\frac{1}{4}{\rm Tr} (A^*B)\ \ \ (\because U^\dagger U=U^TU^*={\rm 1}_4)\\
&=\langle A, B\rangle
\end{align}}


 かくして{\mathfrak{F}}は6次元Euclid空間と同一視される. {\mathfrak{F}}の要素{X_\mu\Gamma^\mu}の成分{X_\mu}はfによって共変ベクトルとして変換するのである*4

 なお, この節の内容は, 横田一郎『古典型単純リー群』(現代数学社, 2013年(新版))を参考にした.


スピノル
 時空間の回転Oに対応してSU(4)の元U(O)で変換する複素成分4×2行列を考える.

{\begin{align}
\Psi\mapsto \Psi'=U(O)\Psi,\ \ \ O\in SO(6), U\in SU(4)
\end{align}}

これを矩形スピノルと呼んでおこう. その複素共役の変換は上式全体の複素共役をとることで直ちに得られる(以下U(O)の引数は略).

{\begin{align}
\Psi^*\mapsto \Psi'^*=U^*\Psi^*
\end{align}}

こちらは共役矩形スピノルと呼ぶことにする. ところで共変ベクトルの変換は次のようになっていた.

{\begin{align}
V \in \mathfrak{F} \mapsto V' =UVU^T
\end{align}}

その複素共役は,

{\begin{align}
V^* \in \mathfrak{F} \mapsto V'^* =U^*VU^\dagger
\end{align}}

これと矩形スピノルの積をとると, その変換則は共役矩形スピノルのそれと同じになる.

{\begin{align}
V^*\Psi\mapsto V'^*\Psi' = (U^*V^*U^\dagger) (U\Psi)=U^*(V^*\Psi)
\end{align}}

次の微分作用素は共変ベクトルとして変換する.

{\begin{align}
\partial=\partial_\mu \Gamma^\mu
\end{align}}

従って, 次の式はEuclid共変性を備えた微分方程式になっている.

{\begin{align}
\partial^* \Psi = m\Psi^* \sigma^1
\end{align}}

ただし{\partial}複素共役は基底に対して複素共役をとることで定義. これがSO(6)共変の, 6+0次元時空のDirac方程式である. 右辺に右からかけている{\sigma^1}は次の理由から.

まず矩形スピノルから作られる次の量は4×4反対称行列で, 共変ベクトルになっている.

{\begin{gather}
J=i\Psi \sigma^2 \Psi^T\\
J^T=i\Psi(-\sigma^2)\Psi^T=-J
\end{gather}}

ただしここでは虚数成分も持つことに注意. {\mu}の反変成分は次の式から抽出できる.

{\begin{align}
J^\mu = \delta^{\mu\nu}J_\nu=\langle \Gamma^\mu, J\rangle
\end{align}}

これにより,

{\begin{align}
\partial_\mu J^\mu
&=\partial_\mu \langle\Gamma^\mu J\rangle\\
&=-\frac{i}{4}\partial_\mu {\rm Tr}(\Gamma^{\mu*}\Psi\sigma^2\Psi^T)\\
&=-\frac{i}{4} {\rm Tr}\left\lbrack(\partial_\mu\Gamma^{\mu*}\Psi)\sigma^2\Psi^T+\Psi\sigma^2\partial_\mu(\Psi^T\Gamma^{\mu*})\right\rbrack\\
&=-\frac{i}{4} {\rm Tr}\left\lbrack(m\Psi^*\sigma^1)\sigma^2\Psi^T-\Psi\sigma^2(m\sigma^1\Psi^\dagger)\right\lbrack\\
&=-\frac{im}{4}{\rm Tr}(\Psi^*\sigma^3\Psi^T+\Psi\sigma^3\Psi^\dagger)\\
\therefore
\partial_\mu {\rm Re}(J^\mu)&=0
\end{align}}

Trの中身がHermite行列になっていることからJの実部の発散が0になることが言える. では虚部は何かというと擬ベクトルになっている. 質量mが0ならこちらも保存流になる*5

上のDirac方程式全体の複素共役をとると

{\begin{align}
\partial \Psi^*=m\Psi\sigma^1
\end{align}}

両辺に{\partial^*}をかけて,

{\begin{gather}
\partial^*\partial \Psi^*=m\partial^*\Psi\sigma^2=m^2\Psi^* (\sigma^1)^2=m^2\Psi^*\\
\end{gather}}

ここで次の関係

{\begin{align}
\Gamma^{\mu*} \Gamma^{\nu}+\Gamma^{\nu*} \Gamma^{\mu}=-2 \delta^{\mu\nu}\bf{1}_2\otimes\bf{1}_2
\end{align}}

から,

{\begin{align}
\partial^*\partial=\partial_\mu \Gamma^{\mu*}\partial_\nu\Gamma^\nu
=-\delta^{\mu\nu}\partial_\mu\partial_\nu
\end{align}}

よって,

{\begin{align}
(\delta^{\mu\nu}\partial_\mu\partial_\nu+m^2)\Psi=0
\end{align}}

となってKlein-Gordon方程式を再現する.



ガンマ行列

ここで上で定義した{\Gamma}の性質をみる.

{\begin{gather}
A_1=\sigma^1\otimes \sigma^2,\ \ \ A_2=\sigma^2\otimes 1,\ \ \ A_3=\sigma^3\otimes \sigma^2,\\
B_1=\sigma^2\otimes\sigma^1,\ \ \ B_2=1\otimes\sigma^2,\ \ \ B_3=\sigma^2\otimes\sigma^3
\end{gather}}

とすると,

{\begin{gather}
\Gamma^1=iA_1,\ \ \Gamma^2=iA_2,\Gamma^3=iA_3,\ \ \ 
\Gamma^4=B_1,\ \ \Gamma^5=B_2,\Gamma^6=B_3
\end{gather}}

と書ける. A/2,B/2間の交換関係は,

{\begin{align}
\left\lbrack \frac{A_i}{2},\frac{A_j}{2}\right\rbrack = i\epsilon_{ijk}\frac{A_k}{2},\ \ \ 
\left\lbrack \frac{B_i}{2},\frac{B_j}{2}\right\rbrack = i\epsilon_{ijk}\frac{B_k}{2},\ \ \ \left\lbrack \frac{A_i}{2},\frac{B_j}{2}\right\rbrack = 0
\end{align}}

となっており実は{\mathfrak{su}(2)\times\mathfrak{su}(2)}の表現になっている.*6

この点だけ確認して, ガンマ行列を用いたDirac方程式の表示に進む. まず矩形スピノルをふたつの列ベクトルで表す.

{\begin{align}
\Psi=(\phi,\chi),\ \ \ \phi,\chi\in\mathbb{C}^4
\end{align}}

これを用いるとDirac方程式は次の形に書ける.

{\begin{align}
\partial_\mu\Gamma^{*\mu}(\phi,\chi)=m(\chi^*,\phi^*)
\end{align}}

全体の複素共役

{\begin{align}
\partial_\mu\Gamma^{\mu}(\phi^*,\chi^*)=m(\chi,\phi)
\end{align}}

元の式から第1列を, 複素共役から第2列を抜き出すと次の形にまとめて書ける.

{\begin{align}
i\partial_\mu\gamma^\mu\psi=m\psi
\end{align}}

ただし,

{\begin{align}
\gamma^\mu=
\left(\begin{array}{cc}
0&-i\Gamma^\mu\\-i\Gamma^{*\mu}&0
\end{array}\right),\ \ \ 
\psi=
\left(\begin{array}{c}
\phi\\
\chi^*
\end{array}\right)
\end{align}}

晴れて見慣れた形のDirac方程式を召喚することができた. {\phi}は矩形スピノルを, {\chi}は共役矩形スピノルを構成する列ベクトルだから, 8成分ベクトル{\psi}の変換は

{\begin{gather}
\psi\mapsto\phi'=S(O)\psi\\
S(O)=
\left(\begin{array}{cc}
U(O)&0\\
0&U^*(O)
\end{array}\right)
\end{gather}}

に従う.

{\gamma^\mu}たちは8×8行列だが, 具体的には次の形を持つ.

{\begin{align}
\gamma^1=\sigma^1\otimes\sigma^1\otimes \sigma^2,\ \ \ 
\gamma^2&=\sigma^1\otimes\sigma^2\otimes {\bf 1}_2,\ \ \ 
\gamma^3=\sigma^1\otimes\sigma^3\otimes \sigma^2,\\
\gamma^4=\sigma^2\otimes\sigma^2\otimes\sigma^1,\ \ \ 
\gamma^5&=\sigma^2\otimes{\bf 1}_2\otimes\sigma^2,\ \ \ 
\gamma^6=\sigma^2\otimes\sigma^2\otimes\sigma^3
\end{align}}

ガンマ行列と呼ぶ以上Clifford代数の関係式が成り立っていなくてはならないが, 実際それは確かめられる.

{\begin{align}
\left\{\gamma^\mu,\gamma^\nu\right\}=2\delta^{\mu\nu}{\bf 1}_4
\end{align}}

このガンマ行列から再び8成分スピノルの変換行列Sが得られるか確かめる.

{\begin{align}
\sigma^{\mu\nu}=\frac{i}{2}\lbrack\gamma^\mu,\gamma^\nu\rbrack=\left\{
\begin{array}{cc}
0&\mu=\nu\\
i\gamma^\mu\gamma^\nu=-i\gamma^\nu\gamma^\mu&\mu\neq\nu
\end{array}\right.
\end{align}}

と定義すると,

{\begin{align}
\left\lbrack\frac{1}{2}\sigma^{\lambda\mu}, \frac{1}{2}\sigma^{\nu\rho}\right\rbrack
=\frac{i}{2}(\delta^{\lambda\nu}\sigma^{\mu\rho}+\delta^{\mu\rho}\sigma^{\lambda\nu}-\delta^{\lambda\rho}\sigma^{\mu\nu}-\delta^{\mu\nu}\sigma^{\lambda\rho})
\end{align}}

の交換関係が成り立ち, これは{\mathfrak{so}(6)}と同じもの(というか一般に{\mathfrak{so}(N)}).

{\sigma}は具体的には

{\begin{gather}
\sigma^{12}=-{\bf 1}_2\otimes\sigma^3\otimes\sigma^2,\ \ \ 
\sigma^{23}=-{\bf 1}_2\otimes\sigma^1\otimes\sigma^2,\ \ \ 
\sigma^{34}=-{\bf 1}_2\otimes\sigma^2\otimes{\bf 1}_2,\\
\sigma^{45}=-{\bf 1}_2\otimes\sigma^2\otimes\sigma^3,\ \ \ 
\sigma^{56}=-{\bf 1}_2\otimes\sigma^2\otimes\sigma^1,\ \ \ 
\sigma^{64}=-{\bf 1}_2\otimes{\bf 1}_2\otimes\sigma^2_,\\
\sigma^{14}=-\sigma^3\otimes\sigma^3\otimes\sigma^3,\ \ \ 
\sigma^{15}=-\sigma^3\otimes\sigma^1\otimes{\bf 1}_2,\ \ \ 
\sigma^{16}=\sigma^3\otimes\sigma^3\otimes\sigma^1\\
\sigma^{24}=-\sigma^3\otimes{\bf 1}_2\otimes\sigma^1,\ \ \ 
\sigma^{25}=-\sigma^3\otimes\sigma^2\otimes\sigma^2,\ \ \ 
\sigma^{26}=-\sigma^3\otimes{\bf 1}_2\otimes\sigma^3\\
\sigma^{34}=\sigma^3\otimes\sigma^1\otimes\sigma^3,\ \ \ 
\sigma^{35}=-\sigma^3\otimes\sigma^3\otimes{\bf 1}_2,\ \ \ 
\sigma^{36}=-\sigma^3\otimes\sigma^1\otimes\sigma^1
\end{gather}}

この並べ方には意図があり, 上2段は

{
\pm\mbox{(単位行列)}\otimes(A\ {\rm or}\ B)
}

下二段は

{
\pm\sigma^3\otimes(A,B{\mbox を除いた\mathfrak{su}(4)基底})
}

の形になっている. これら指数の肩に乗せると{\psi}の有限の変換行列は

{\begin{align}
S=\exp\left(\frac{i}{2}\omega_{\mu\nu}\sigma^{\mu\nu}\right),\ \ \ \omega_{\mu\nu}\in\mathbb{R}
\end{align}}

で表せるが, 2×2ブロック対角の形では

{\begin{align}
S=\exp\left(
\begin{array}{cc}
iX+iY&0\\
0&iX-iY
\end{array}
\right)
\end{align}}

になっている. ここでXはA,Bの実係数線形結合, YはA,Bを除いた{\mathfrak{su}(4)}基底の実係数線形結合. 成分を見ると(Pauli行列中{\sigma^2}のみが虚数成分をもつことから)Xは虚数成分, Yは実数成分のみを持つことが分かる. すなわち{\mathfrak{su}(4)}は次の形に分解されている.

{\begin{gather}
\mathfrak{su}(4)=\mathfrak{i}\oplus\mathfrak{r}\\
\mathfrak{i}=\{X\in\mathfrak{su}(4) \mid X^*=-X\},\ \ \ 
\mathfrak{r}=\{Y\in\mathfrak{su}(4) \mid Y^*=Y\}
\end{gather}}

したがってSは次のようにも表せる.

{\begin{align}
S&=\exp\left(
\begin{array}{cc}
i(X+Y)&0\\
0&(i(X+Y))^*
\end{array}
\right)\\
&=\exp\left(
\begin{array}{cc}
iZ&0\\
0&(iZ)^*
\end{array}
\right)\\
&=\left(
\begin{array}{cc}
U&0\\
0&U^*
\end{array}
\right)\\
Z&\in\mathfrak{su}(4),\ \ \ U\in SU(4)
\end{align}}

こうしてガンマ行列導入以前の結果が再現された. {SU(4)}{Spin(6)}同型を別経路で示していることにもなる.



カイラリティー
 4次元の3通りの場合で同様の手続きを経るとWeyl表現(カイラル表現)と右巻きスピノル, 左巻きスピノルが自然に現れたのだった. では今回はカイラリティーはどのように現れているのだろうか. これを考えるために6次元ベクトルの行列表示に立ち返る.

{\begin{align}
V=V_\mu\Gamma^\mu,\ \ \ V^\mu\in\mathbb{R}
\end{align}}

5つの基底の符号を変え, 1つだけ変えない変換があればそれは空間反転とみなせる.行列式が(-1)になるためそのような変換はSO(6)の元ではない. ここで{\Gamma}について次の性質を利用する.

{\begin{align}
\Gamma^1\Gamma^{\mu*} (\Gamma^1)^{-1}=\left\{
\begin{array}{cc}
\Gamma^1&\mu=1\\-\Gamma^\mu&\mu\neq 1
\end{array}\right.
\end{align}}

従って次の変換が空間反転になる. 添え字1を時間t, 2から6を空間xに取ったことになる.

{\begin{align}
V\mapsto V'=\Gamma^1V^*({\Gamma^1})^{-1}
\end{align}}

明らかに2回繰り返せば元に戻るため{Z_2}変換でもある. このとき矩形スピノルはどう変換すべきかというと(位相の不定性はとりあえず無視),

{\begin{align}
\Psi\mapsto \Gamma^1\Psi^*
\end{align}}


この変換によりDirac方程式も正しく変換する.

{\begin{align}
\partial_\mu\Gamma^{\mu*}\Psi=m\Psi\sigma^1\mapsto
\partial_\mu(\Gamma^1\Gamma^\mu(\Gamma^1)^{-1})(\Gamma^1\Psi)=m\Gamma^1\Psi^*\sigma^1
\Rightarrow
(\partial_t\Gamma^{t*}-\partial_{\bf x}\Gamma^{\bf x*})\Psi'=m\Psi^*\sigma^1
\end{align}}

ではガンマ行列表示でどうなるかというと,

{\begin{align}
\Psi=\left(\begin{array}{c}\psi_L\\ \psi_R\end{array}\right)
\end{align}}

とすると

{\begin{align}
\psi_L\mapsto i\sigma^2\psi_R^*,\ \ \ \psi_R\mapsto i\sigma^2\psi^*_L
\end{align}}

と移りあっている.

カイラリティーをもっと直接見るには我々の宇宙のバージョンの{\gamma^5}に相当する行列{\gamma^7}を考えればよい.

{\begin{gather}
\gamma^7=(-i)^3\gamma^1\gamma^2\gamma^3\gamma^4\gamma^5\gamma^6
=\sigma^3\otimes{\bf 1}_2\otimes{\bf 1}_2\\
\{\gamma^\mu, \gamma^7\}=0,\ \ \ (\gamma^7)^2=1,\ \ \ \lbrack\sigma^{\mu\nu}, \gamma^7\rbrack=0
\end{gather}}

これにより,

{\begin{gather}
\psi=\psi_++\psi_-\\
\psi_+=\frac{1+\gamma^7}{2}\psi
=\left(\begin{array}{c}\psi_L\\ 0\end{array}\right),\ \ \ 
\psi_-=\frac{1-\gamma^7}{2}\psi
=\left(\begin{array}{c}0\\ \psi_R\end{array}\right)
\end{gather}}

と確かにこの基底ではスピノルの上下がそれぞれ左巻き右巻きに対応していることが分かる.



おわり
 ふたつの方法で表示された保存流の対応関係, カイラルカレント, 他の離散変換, 電磁場との結合等については次の機会にまわす.

 専ら数学しかやっていないので物理的意味について言うと, 物質反物質が各々4成分, 4つのスピン状態に対応することになる.この点は角運動量代数をもっとまじめに計算するべきだろう.

 SO(5)代数等については次の方が詳しく解説されている. イーガン関連でたびたびお世話になっているサイト. やはり『ディアスポラ』に関連して5+1次元Dirac方程式も調べられている.

http://kuiperbelt.la.coocan.jp/sf/egan/Diaspora/dirac/dirac-5D.html


 感想.
 事実としてSU(4)からSO(6)への準同型写像が存在することは知っていたが, こんなにさっぱりしたものだとは思っていなかった. 背景にいつも見え隠れする四元数のありがたみをひしひしと感じる. 上で挙げた参考書籍『古典型単純リー群』のあとがきによると, SO(6)への写像は例外群E6を調べる中で得られたものらしい. Cayley代数を四元数におきかえて得られる...そうなのだがこの点は自分には何のことかまだ分かっていない. Lie群をちゃんと学べば全貌はもっと明らかになるのだろうか. 勉強しなくては.

 4次元同様カイラリティーが自然に現れるのもおもしろい. その導出の道筋としてはSO(4)よりむしろSO(3,1)に近いものを感じた. ふたつの群の直積で書けないことが理由だろう.

ところでarXivで検索してみたらこんな投稿があった.

Quaternion Generalization of Super Poincare Group
[1508.05368] Quaternion Generalization of Super Poincare Group

Spin(1,5)とSL(2,H)同型から5+1次元のPoincare群を調べているらしい. ちゃんと読んでいない.

Poincare. 『ディアスポラDiasporaの5+1次元宇宙U*のヤドカリthe Hermitsたちの星も「ポアンカレ」だったなあ.

 『ディアスポラ』といえばこんな台詞がある

「あなたが見ている点という点は、異なるルールの組なの」ブランカは青いシートの下に手を走らせて、マクロ球のルールを引っぱりだした。
「これはみんな六次元時空。下のは五次元。五次元のほうがすごく薄いのがわかる? でも七次元も薄いの。偶数の次元のほうが、豊かな可能性をもっているのよ」

 (思えばここでブランカがやっていることはOrthogonalでイーガンがやっていることと同じだ)
 次は当然5次元を調べにいくことになる(Spin(5)はSp(4)と同型)が, 「薄い」らしい. なぜだろう. 奇数次元にはカイラリティーが存在しないのでそのあたりに由来があるのだろうか.



おまけ
 今まで気づかずに生きてきたのが不思議なのだが,

{
M(2,\mathbb{C})\cong\mathbb{C}\otimes\mathbb{H}
}

が成立する. 体として同型. これはPauli行列の実係数線形結合がHermite行列, 虚数係数だと反Hermite行列となることから明らか. 複素係数の四元数を2×2行列と同一視できるということ.*7

そこで次の共役を考える.

\[
(a+bi+cj+dk)^T=a+bi-cj+dk
\]

jの符号だけ反転させる変換. 記号Tはjを{i\sigma^2}に対応させると転置行列になることから. 転置ということは

\begin{align}
\lbrack(a+bi+cj+dk)(s+ti+uj+vk)\rbrack^T=(s+ti-uj+vk)(a+bi-cj+dk)
\end{align}

が当然成り立つ.jでいけるならiとkについても同様に成り立つと期待できてこれは実際正しい. iとjとkの係数を同時に反転させるとこれは余因子行列になる.

自分自身と転置の積について

\begin{align}
(qq^T)^T=qq^T
\end{align}

が成り立つが, これはj要素が0になることを示している. つまり8次元が6次元に落ちている. 実係数なら4から3. Kustaanheimo-Stiefel変換でこれを見たことがある. Hopf fibrationというのが関係しているらしい.

(17/08/02)一部修正.

*1:偶然同型についてはこちらを参照 Accidental isomorphisms Indefinite signature Spin group - Wikipedia

*2:といってもPauli行列の積の交換性などを使うと計算は単純

*3:この定義のみからはこれが実数であることは自明ではない. 結局同じことになるが {\begin{align}
\langle A,B\rangle=-\frac{1}{8}{\rm Tr}(A^*B+AB^*)
\end{align}} とすれば自明になる.

*4:SU(4)からSO(6)への全射性についてこの説明では不十分だが, SU(4)がSO(6)の元と二対一に対応しており, この構成法がその写像を実現していることは認めるものとして進める.

*5:このあたりはいずれ書く記事で検証.

*6:やや本筋から逸れる(と現時点では思っている)ので脚注. 特に{\Gamma^1,\Gamma^2,\Gamma^3}の間の積の関係は四元数と同じになっている. このことから{\mathfrak{F}}の元を指数の肩に乗せるとその行列は (単位行列とAの線形結合のユニタリ行列)×(Bの実係数線形結合のHermite行列) の形になる....この事実をどう利用できるのか分からないが一応書いておく.

*7:2017/08/02修正. 一般線形群複素数四元数の直積と同型になるなどと書いており二重に間違えていた. これを書いた後で知ったのだが, 「複素係数の四元数」はbiquaternionというらしい. Biquaternion - Wikipedia

へんなDirac方程式

前の記事

点付き・点なし - Shironetsu Blog

ノーテーション等はこの記事を踏襲.

前回, 2×2行列同士の関係式として表されたDirac方程式として

{
i\partial_\mu \tilde{\sigma}^\mu \Psi = m\Psi^\ddagger\sigma^3
}
(……式(1))

を得た. 再度書いておくと, 右肩に{\ddagger}を付けて表す「ダブルダガー共役」は, GL(2,C)の元に対して「余因子行列のHermite共役」で定義されている. 「正方スピノル」と呼んでいた{\Psi}はその列ベクトルが左手型の2成分スピノルで構成されており, Lorentz変換とともにSL(2,C)の元D(定義は前の記事を参照)によって

{
\Psi\rightarrow D\Psi
}

と変換する. 一方「共役正方スピノル」と呼んでいた{\Psi^\ddagger}はその列ベクトルが右手型の2成分スピノルで,

{
\Psi^\ddagger \rightarrow (D^{-1})^\dagger \Psi^\ddagger
}

と変換する.

さて, 次の事実を使うことでこの方程式を変形する. すなわち, {\sigma^\mu\ (\mu=0,1,2,3)}はGL(2,C)に対して複素ベクトル空間としての基底をなす. このことは, {\sigma^\mu}の実係数線形結合がHermite行列になり, 一方虚数係数だと歪Hermite行列になること, 任意のGL(2,C)の元がHermite行列と反Hermite行列の和に分解できることを考えれば自然に理解できる.

このことは

{
GL(2,\mathbb{C})=\{z_\mu\sigma^\mu|z_\mu\in\mathbb{C}\}
}

と表せる. このように表すと, ダブルダガー共役は次のようになる.

{
(z_\mu\sigma^\mu)^\ddagger=z^*_\mu\tilde{\sigma}^\mu
}

これを使って式(1)を書き換える.

{\begin{align}
\Psi=\varPsi_\mu\sigma^\mu,\ \ \ \Psi^\ddagger=\varPsi^*_\mu\tilde{\sigma}^\mu
\end{align}}

とすると,

{\begin{align}
i\partial_\lambda\tilde{\sigma}^\lambda \varPsi_\mu \sigma^\mu=m\varPsi_\mu^*\tilde{\sigma}^\mu\sigma^3
\end{align}}

ここで

{
\tilde{\sigma}^\lambda\sigma^\mu=\alpha^{\lambda\mu}_\nu\sigma^\nu
}

とする. {\alpha}複素数で, 具体的には

{\begin{gather}
\alpha^{00}_\nu = \delta_{0\nu},\ \ \ \alpha^{0i}_\nu=\delta_{i\nu} \alpha^{i0}_\nu=-\delta_{i\nu},\ \ \ \alpha^{ij}_\nu=-i\epsilon_{ijk}\delta_{k\nu}-\delta^{ij}\delta_{\nu 0}\\
(i,j,k=1,2,3)
\end{gather}}

である(添え字の上下がややいい加減だが...). また,

{\begin{align}
\tilde{\sigma}^\lambda\sigma^\mu+\tilde{\sigma}^\mu\sigma^\lambda=2\eta^{\mu\lambda}\sigma^0
\end{align}}

から,

{
\alpha^{\lambda\mu}_\nu+\alpha^{\nu\lambda}_\nu=2\eta^{\mu\lambda}\delta_{0\nu}
}

が成り立つ. このαを用いると,

{\begin{align}
i\partial_\lambda\alpha^{\lambda\mu}_\nu\varPsi_\mu\sigma^\nu&=m\alpha^{\mu 3}_\nu\varPsi_\mu^*\sigma^\nu\\
\therefore\ \ \ i\partial_\lambda\alpha^{\lambda\mu}_\nu\varPsi_\mu&=m(2\eta^{3\mu }\delta_{0\nu}-\alpha^{3\mu}_\nu)\varPsi_\mu^*
\end{align}}

となる. 行列α, βを

{\begin{align}
(\alpha^\lambda)_{\nu\mu}=\alpha^{\lambda\mu}_\nu,\ \ \ (\beta)_{\nu\mu}=2\eta^{3\mu }\delta_{0\nu}-\alpha^{3\mu}_\nu
\end{align}}

で定め, {\vec{\varPsi}}{\varPsi_{\mu}}を成分にもつ4成分の複素ベクトル(列ベクトル)とすると, 式(1)は

{\begin{align}
i\partial_\lambda\alpha^\lambda\vec{\varPsi}=m\beta\vec{\varPsi}^*
\end{align}}

と表せることになる. これがDirac方程式の別の表現である. 複素共役が顕わに出てくるのがむず痒い. 行列α,βは書き下すと

{\begin{gather}
\alpha^0=
\left(\begin{array}{cccc}
1&0&0&0\\
0&1&0&0\\
0&0&1&0\\
0&0&0&1
\end{array}\right),\ \ \ 
\alpha^1=
\left(\begin{array}{cccc}
0&-1&0&0\\
 -1&0&0&0\\
0&0&0&i\\
0&0&-i&0
\end{array}\right),\\\
\alpha^2=
\left(\begin{array}{cccc}
0&0&-1&0\\
0&0&0&-i\\
 -1&0&0&0\\
0&i&0&0
\end{array}\right),\ \ \ 
\alpha^3=
\left(\begin{array}{cccc}
0&0&0&-1\\
0&0&i&0\\
0&-i&0&0\\
 -1&0&0&0
\end{array}\right),\\\
\beta=
\left(\begin{array}{cccc}
0&0&0&-1\\
0&0&-i&0\\
0&i&0&0\\
1&0&0&0
\end{array}\right)
\end{gather}}

となっており, αはすべてHermiteである. さらに

{\begin{gather}
(\alpha^1)^2=(\alpha^2)^2=(\alpha^3)^2=1\\
\lbrack\alpha^i,\alpha^j\rbrack=-2i\epsilon^{ijk}\alpha^k\\
\end{gather}}

が確かめられる. {(-\alpha^i)}の間に成り立つ関係はPauli行列のそれと同じ. すなわち{(-\alpha^i)}はsu(2)の表現になっている. しかしClifford代数の関係は満たされない.



変換性

正方スピノル{\Psi}は行列Dで変換するのだった. Dも{\sigma}を基底としてその成分を表す.

{\begin{align}
D=D_\mu\tilde{\sigma}^\mu\ \ \ D_\mu\in\mathbb{C}
\end{align}}

後の便宜のためにチルダ付きの基底で定義している. det(D)=1の条件は次のように書ける

{\begin{align}
\det(D){\bf 1}_2&=D\tilde{D}\\
&=D_\mu D_\nu\tilde{\sigma}_\mu\sigma_\nu\\
&=D_\mu D_\nu\frac{1}{2}(\tilde{\sigma}_\mu\sigma_\nu+\tilde{\sigma}_\nu\sigma_\mu)\\
&=\eta^{\mu\nu}D_\mu D_\nu{\bf 1}_2\\
\therefore\ \ \ \eta^{\mu\nu}D_\mu D_\nu&=1
\end{align}}

DはLorentzノルムが1の複素ベクトルだとわかる. 正方スピノルの変換

{\begin{align}
\Psi\rightarrow \Psi'=D\Psi
\end{align}}

に応じて, ベクトル成分は

{\begin{align}
\varPsi_\mu\sigma^\mu\rightarrow \varPsi'_\nu \sigma^\nu=D_\lambda\tilde{\sigma}^\lambda\varPsi_\mu\sigma^\mu
=D_\lambda\alpha^{\lambda\mu}_\nu\varPsi_\mu\sigma^\nu
\end{align}}

と変換する. 4×4行列{D_4}

{\begin{align}
D_4=D_\lambda \alpha^\lambda
\end{align}}

で表すと, これは

{\begin{align}
\vec{\varPsi}\rightarrow \vec{\varPsi'}=D_4\vec{\varPsi}
\end{align}}

と表せる.

共変ベクトルの変換性などから式全体の変換性を見て……いきたいもののすっきりと計算できない(ひたすら4×4行列の積を計算するだけだけど). 特にβが何者なのか納得できていない. 物理的解釈も含め理解できたら続きを書くことにしてここでいったん打ち切る.

点付き・点なし

 以前の記事はこちら.
(1)4+0次元スピノル
『エターナル・フレイム』-ベクトル-レフトル-ライトル - Shironetsu Blog
(2)2+2次元スピノル
2+2次元Dirac方程式―Dichronautsをよみはじめた - Shironetsu Blog

 我々の宇宙のDirac方程式もグレッグ・イーガン『エターナル・フレイム』The Eternal Flame 33章に近いアプローチで導出できることが分かった. van der Waerdenによって導入された, いわゆるdotted/undotted spinor(点付き/点なしスピノル)がこの道筋を辿ると自然に現れる.

 以下, 上に挙げた記事(2)とほぼパラレルに進むためしばらくコピペ+改変.



SL(2,C)

 次の2次Hermite行列を考える(任意の2次Hermite行列はこのように実数(t,x,y,z)で表せる).

{\begin{gather}
X=\left(
\begin{array}{cc}
t+z & x-iy \\
x+iy & t-z
\end{array}
\right)\\
t,x,y,z\in\mathbb{R},\ \ \ 
X^\dagger = X
\end{gather}}

行列式

{
\det(X)=t^2-x^2-y^2-z^2
}

となることに注意. 複素2次特殊線形群SL(2,C); 行列式が1の複素2次正方行列が積についてなす群の任意の元を

{\begin{gather}
D\in SL(2,\mathbb{C})\\
\det(D)=1
\end{gather}}

で表すと, Hermite行列間の次の変換 X→X' は (t,x,y,z)→(t',x',y',z') の一次変換を定義する.

{\begin{gather}
X'=\left(
\begin{array}{cc}
t'+z' & x'-iy' \\
x'+iy' & t'-z'
\end{array}
\right)=DXD^\dagger\\
X'^\dagger=(DXD^\dagger)^\dagger
\end{gather}}

この変換において行列式は不変である. すなわち,

{
\det(X')=\det(D)\det(X)\det(D^\dagger)=\det(X)
}

を満たしている. ゆえにこの一次変換は(t,x,y,z)に対してSO(1,3)の元として作用している. 実際, Dと(-D)がともにひとつのLorentz変換に対応しており, SL(2,C)はSO(1,3)の二重被覆になっている.

 2次Hermite行列は4次元実ベクトル空間をなす. その基底を次のようにとる.

{
\sigma^0=\left(\begin{array}{cc}
1 & 0 \\
0 & 1
\end{array}\right),\ \ \ 
\sigma^1=\left(\begin{array}{cc}
0 & -1 \\
1 & 0
\end{array}\right),\ \ \ 
\sigma^2=\left(\begin{array}{cc}
0 & -i \\
i & 0
\end{array}\right),\ \ \ 
\sigma^3=\left(\begin{array}{cc}
1 & 0 \\
0 & -1
\end{array}\right),\ \ \ 
}

{\sigma^i(i=1,2,3)}はPauli行列そのもの.これを使うと,

{
X=X_\mu \sigma^\mu\ \ \ (\mu=0,1,2,3)
}

と表せる. 計量を

{\eta_{\mu\nu}=\left(\begin{array}{cccc}
1&0&0&0\\
0&-1&0&0\\
0&0&-1&0\\
0&0&0&-1
\end{array}\right)
}

ととる. ただし光速度はc=1にとっている. 2次Hermite行列の(不定値)内積を〈X,Y〉で表して

{
\langle X,Y\rangle=\frac{1}{2}{\rm Tr}(\tilde{X}Y)
}

で定義すると次の関係が成り立つことが確かめられる.

{
\langle X,Y\rangle=\langle Y,X\rangle=\eta^{\mu\nu}X_\mu Y_\nu
}

ただしチルダは余因子行列を表している.

{
A=\left(\begin{array}{cc}
a & b \\
c & d
\end{array}\right)
\rightarrow
\tilde{A}=\left(\begin{array}{cc}
d & -b \\-c & a
\end{array}\right)
}

この内積もやはりLorentz変換に付随するDによる変換で不変である.

{\begin{align}
\langle X',Y'\rangle
&=\langle DX'D^\dagger,DY'D^\dagger\rangle\\
&=\frac{1}{2}{\rm Tr}(\tilde{D^\dagger}\tilde{X}\tilde{D}DY'D^\dagger)\\
&=\frac{1}{2}{\rm Tr}(\tilde{X}Y)\\
&=\langle X,Y\rangle
\end{align}}

Dは行列式が1であるため余因子行列が逆行列に一致することに注意.

{\begin{align}
\tilde{D}=D^{-1}
\end{align}}

これは次の関係からも導かれる.

{
\tilde{\sigma}^{\mu}\sigma^{\nu}+\tilde{\sigma}^{\nu}\sigma^{\mu}=2\eta^{\mu\nu}{\bf 1}_2
}

チルダ(余因子行列)で書いているが, これは普通上付きバーで表記されるものと同じ.ここでは一貫性のためチルダを使い続ける.

{\begin{align}
\tilde{\sigma}^\mu=({\bf 1}_2,-\vec{\sigma})=(\sigma^0,-\sigma^1,-\sigma^2,-\sigma^3)
\end{align}}


ベクトル, スピノル

 座標変換に応じて共変ベクトル(の成分をもつHermite行列)Vが

{\begin{gather}
V\rightarrow V'=DVD^\dagger
\end{gather}}

で変換するとする. これと同時にDで変換する, 複素2次正方行列の形を持つ量

{\begin{gather}
\Psi\rightarrow \Psi'=D\Psi\\
\Psi\in GL(2,\mathbb{C})
\end{gather}}

を考える. {\Psi}は一般の複素2次正方行列のため複素数4つ, 自由度は8になっている. 便宜のためこれを正方スピノルとでも呼んでおこう*1. 正方スピノルとそのHermite共役を右からかけるとHermite行列になるため共変ベクトルが作られることになる.

{\begin{align}
(\Psi\Psi^\dagger)^\dagger=\Psi\Psi^\dagger
\end{align}}

共役正方スピノルを余因子行列のHermite共役(まとめて{\ddagger}で表し, ダブルダガー共役と呼んでおく)で定義する.

{
\Psi^\ddagger=\tilde{\Psi}^\dagger
}
{\begin{gather}
A=\left(\begin{array}{cc}
a & b \\
c & d
\end{array}\right)
\rightarrow
A^\ddagger=\left(\begin{array}{cc}
d^* & -c^* \\ -b^* & a^*
\end{array}\right)\\
(AB)^\ddagger=A^\ddagger B^\ddagger
\end{gather}}

共役正方スピノルはDのダブルダガー共役(Dの逆行列のHermite共役)を左からかけることで変換する.

{\begin{gather}
\Psi^\ddagger\rightarrow \Psi'^\ddagger=D^\ddagger\Psi^\ddagger=(D^{-1})^\dagger \Psi^\ddagger\\
\end{gather}}

共変ベクトルのダブルダガー共役(ベクトルはHermiteなので単に余因子行列に一致)を正方スピノルに左からかけた量は共役正方スピノルと同じ変換性を持つ.

{\begin{align}
V^\ddagger\Psi\rightarrow V'^{\ddagger}\Psi'=(D^{-1})^\dagger V^{\ddagger} \tilde{D}D\Psi=(D^{-1})^\dagger(V^\ddagger \Psi)
\end{align}}

同様に, 共変ベクトルを共役正方スピノルに左からかけた量は正方スピノルとして変換する.

{\begin{align}
V\Psi^\ddagger\rightarrow V'\Psi'^{\ddagger}=D V^{\ddagger} D^\dagger (D^{-1})^\dagger \Psi^\ddagger =D( V\Psi^\dagger)
\end{align}}



Dirac方程式

 次の微分演算子は共変ベクトルとして変換する.

{
\partial=\partial_\mu \sigma^\mu
}

したがって, 次の量は共役正方スピノルになる

{\begin{align}
\partial^\ddagger\Psi=\tilde{\sigma}^\mu\partial_\mu \Psi
\end{align}}

このことから, 次の式はLorentz共変性をもった方程式になっている.

{\begin{align}
\partial^\ddagger \Psi=m\Psi^\ddagger (-i \sigma^3)
\end{align}}
(……式(*)とする. )

ただしmは質量. 実はこれはDirac方程式と等価な方程式である. 右辺に後ろから{(-i \sigma^3)}を掛けるのはやや唐突だが, こうすることでKlein-Gordon方程式が満たされる. このことを見るために, まず全体のダブルダガー共役をとる.

{\begin{align}
\partial \Psi^\ddagger=m\Psi (-i \sigma^3)
\end{align}}
(……式(**)とする)

式(*)の両辺に{\partial^\ddagger}をかけると,

{\begin{gather}
\partial^\ddagger\partial \Psi^\ddagger=m\partial^\ddagger\Psi (-i \sigma^3)
=m^2\Psi^\ddagger(-i \sigma^3)^2=-m^2\Psi^\ddagger\\
\therefore (\square+m^2)\Psi=0\ \ \ (\square = \partial_0^2-\partial_1^2-\partial_2^2-\partial_3^2)
\end{gather}}

を得る. これだけならダブルダガー共役との積が(-1)になる任意の行列によって満たされるが, この選択は正方スピノルとそのHermite共役の積が保存流になるという要請も満たしている*2. 実際,

{\begin{align}
\partial_\mu (\Psi\Psi^\dagger)^\mu&=\partial_\mu \frac{1}{2}{\rm Tr}(\tilde{\sigma}^\mu \Psi\Psi^\dagger)\\
&=\frac{1}{2}{\rm Tr}\left\{(\tilde{\sigma}^\mu\partial_\mu\Psi)\Psi^\dagger+\Psi(\partial_\mu \Psi^\dagger\tilde{\sigma}^\mu)\right\}\\
&=\frac{1}{2}{\rm Tr}\left\{(\tilde{\sigma}^\mu\partial_\mu\Psi)\Psi^\dagger+(\sigma^\mu \partial_\mu \Psi^\ddagger)\tilde{\Psi}\right\}\\
&=\frac{1}{2}{\rm Tr}\left\{(m\Psi^\ddagger (-i \sigma^3))\Psi^\dagger+(m\Psi(-i \sigma^3))\tilde{\Psi}\right\}\\
&=\frac{-im}{2}\left(\det(\Psi^\dagger)+\det(\Psi)\right ){\rm Tr}(\sigma^3)\\
&=0
\end{align}}

ただし後ろからかける行列はこれらふたつの条件を与えてもなお一意には定まらない. この選択は基底を決めることを意味する.

{\Psi}をふたつの列ベクトルを並べたものとする.

{\begin{align}
\Psi=(\xi,\zeta),\ \ \ \xi,\zeta\in \mathbb{C}^2
\end{align}}

{\Psi^\ddagger}も同様にふたつの列ベクトルを並べたものとする*3.

{\begin{align}
\Psi^\ddagger=(\lambda,\chi),\ \ \ \lambda,\chi\in \mathbb{C}^2
\end{align}}

これらの間には次の関係がある.

{\begin{gather}
(\lambda,\chi)=-\epsilon(\xi^*,\zeta^*)\epsilon=\epsilon(\zeta^*,-\xi^*)\\
\epsilon=i\sigma^2=\left(\begin{array}{cc}
0 & 1 \\
 -1 & 0
\end{array}\right)
\end{gather}}

これを使うと式(*)はふたつの式に分解できる.

{\begin{align}
i\partial_\mu \tilde{\sigma}^\mu \xi=m\lambda,\ \ \ i\partial_\mu \tilde{\sigma}^\mu \zeta=-m\chi
\end{align}}
(……式(***)とする)

上の関係を使うと第二式も{\xi,\lambda}だけで書ける.

{\begin{align}
i\partial_\mu \tilde{\sigma}^\mu (-\epsilon \lambda^*)&=-m(-\epsilon\xi^*)\\
i\partial_\mu (\epsilon \tilde{\sigma}^\mu \epsilon) \lambda^*&=m\xi^*\\ -i\partial_\mu (\epsilon \tilde{\sigma}^\mu \epsilon)^* \lambda&=m\xi\\
\therefore i\partial_\mu \sigma^\mu \lambda&=m\xi
\end{align}}

ここで

{
(\epsilon\tilde{\sigma}\epsilon)^*=-\sigma^\mu
}

を用いた. この式は式(**)の第1列をとることからも直ちに導かれる. 再度まとめて書くと

{\begin{align}
i\partial_\mu \tilde{\sigma}^\mu \xi=m\lambda,\ \ \ 
i\partial_\mu \sigma^\mu \lambda=m\xi
\end{align}}

が式(*)と等価な式として得られる. もちろん式(**)とも等価である. さらに{\xi, \lambda}を縦に並べることで次のようにまとめて書くことができる.

{\begin{align}
\left(\begin{array}{cc}
0 & i\partial_\mu \sigma^\mu \\
i\partial_\mu \tilde{\sigma}^\mu & 0
\end{array}\right)
\left(\begin{array}{c}
\xi\\
\lambda
\end{array}\right)
=
m\left(\begin{array}{c}
\xi\\
\lambda
\end{array}\right)
\end{align}}

ここで

{\begin{align}
\psi
=
\left(\begin{array}{c}
\xi\\
\lambda
\end{array}\right),\ \ \ 
\gamma^\mu
=
\left(\begin{array}{cc}
0 & \sigma^\mu \\
\tilde{\sigma}^\mu & 0
\end{array}\right)
\end{align}}

とおけば

{\begin{align}
(i\partial_\mu\gamma^\mu-m)\psi=0
\end{align}}

となって見慣れたDirac方程式の形になる. {\gamma^\mu}はWeyl表現(カイラル表現)のガンマ行列になっている. {\xi}は左手型スピノルで{\lambda}は右手型スピノルだったということになる.

 さて, {\xi}は正方スピノルを, {\lambda}は共役正方スピノルを構成する縦ベクトルであった. そのため座標変換に応じて

{\begin{align}
\xi\rightarrow \xi'=D\xi,\ \ \ \lambda\rightarrow\lambda'=(D^{-1})^\dagger\lambda
\end{align}}

と変換する. この変換性を見ればわかるように, {\xi}が点なしスピノル, {\lambda}が点付きスピノルに対応している. これに応じて, {\psi}

{\begin{gather}
\psi\rightarrow \psi'=S\psi\\
S=\left(\begin{array}{cc}
D & 0 \\
0 & (D^{-1})^\dagger
\end{array}\right)
\end{gather}}

と変換する.



Majorana方程式

 正方スピノル{\Psi}が同じ列ベクトルからなる場合を考える. すなわち{\xi=\zeta}. 「同じ列ベクトルからなる」という性質は座標変換で不変であることに注意. このとき式(***)はふたつの同値な式になる.

{\begin{align}
i\partial_\mu \tilde{\sigma}^\mu \xi=m\epsilon\xi^*
\end{align}}

これをMajorana方程式というらしい. もちろんLorentz共変な相対論的波動方程式である.



おわり

 点付き・点なしスピノルは窪田高弘『物理のためのリー群とリー代数』(サイエンス社, 2008年)を介して知った. この本ではローレンツ群とSL(2,C)の準同型について述べたあと天下り的に点付き・点なしスピノルが導入されていたため, 未消化の感が残ってしまっていた. この記事で「正方スピノル」と呼んだものを分解することで自然に現れるためおそらくこういった背景はあるはず. もしこれについて書かれたものがあれば紹介していただけるとありがたいです(とか言う前にSpringerから出ているvan der Waerdenの原著にあたるべきだ). もっと自然なのはLorentzスカラーの変分をとる方法のはずなのでこれはまた別の機会に書いておきたい.

 ところで右手と左手のスピノルの変換性を見ればわかるように, 一方を変えずにもう一方だけ変わる変換は不可能である. しかし4+0及び2+2次元では独立に変化することができる. 3+1では普遍被覆群がSL(2,C)である一方, 4+0と2+2は2つの同じ群(SO(4)はSU(2), SO(2,2)はSL(2,R))の直積になっていることが直接の理由のはずだが, このあたりの物理的な意味はいずれ調べておきたい. あと量子化もそのうち…….

*1:正式な, というか一般的に使われる呼び名があればぜひ教えてください.

*2:これ以外の行列を選んだ場合, 間にダブルダガー共役が自分自身に一致する行列を挟んでかける必要がある. どれをとろうと物理的意味は変わらない.

*3:この表記を使うとカレントは {\begin{align}
\Psi\Psi^\dagger&=\xi\xi^\dagger+\zeta\zeta^\dagger\\
&=\xi\xi^\dagger-\epsilon\lambda^*\lambda^T\epsilon\\
&=\xi\xi^\dagger+\widetilde{(\lambda\lambda^\dagger)^T}
\end{align}} と表せる. 左手成分と右手成分に分離できるということ.

非相対論的2+2次元水素原子 - Dichronautsをよんだ

 いきなりタイトルに関係ない話だが, Hot Rock(Oceanic所収)を読んだ. 『白熱光』Incandescence, 「グローリー」Glory, 「鰐乗り」Riding the Crocodileと, Amalgam/Aloof〈融合世界/孤高世界〉の世界観を共有する唯一未訳の, そして発表順では最後の短編.

 これがもう本当よかった. 大好きな要素がいっぱい詰まっている.

 (あらすじ)
 Azarが故郷世界Hanuzの友人や家族に別れを告げガンマ線に乗って1500光年の, 主観的には一瞬の旅を経て到着したのは自由浮遊惑星Tallulahを周る探査機Mologhat. 5回対称の生物の子孫Shelmaとともにダニのような探査機に転送され, 太陽もなく恒星間空間を漂うこの惑星が地殻下の未知の熱源によって維持する生態系を目の当たりにする. 地表に繁茂するのは"地熱発電"で糖を合成する樹木, 有機的な熱電対を持つ低木など奇妙な植物たち. 動物たちが泳ぐ海の中, 2人は知性をもった"トカゲ"に出会い, この惑星の辿った歴史に触れていく…….

 光合成ならぬ熱合成を行う植物!分量はそれほど多くないとはいえ, さらっとこれを描くイーガンの筆致に目がハートになった. ディアスポラの「重い同位体」の星スウィフト探査のエッセンスを感じる. トカゲとの交流は5+1次元マクロ球のポアンカレで出会ったヤドカリのそれにも通じる. こういうのが好き...Speculative Biology的な...

 〈融合世界〉の他の作品とのかかわりとしては, 異なるレプリケーターを由来とする生物たちが出てくることで, 『白熱光』のなかでちょいちょい触れられていたパンスペルミア観がよりはっきりストーリーに現れてきている点が興味深い.
 
 本題.

 2週間ほど前にDichronautsを読み終えた. 紙版が先日出たそうだがなんとかそれより前に電書版で読み切った. ハードカバー版も表紙CGが洗練されている点などコレクション欲をピリピリと感じないでもないものの, 電書版のほうが圧倒的に安いのでこれから読むという方にも電書版はおすすめです*1.

  読み終えて感じたのはその素朴さ(「素朴」という語を曖昧に使いすぎる). 徹底した2+1次元空間視点の奇妙さを除けばストーリーはかなりオールドファッション. カタストロフィーの扱いなども『白熱光』や直交三部作を思いながら読むと──

 イーガンらしくないといえばそんな気もするが, 共生関係に対してしっかり進化の視点を与えるところ, 主にTheoの誘導に従って堅実に思考過程を明らかにしながら進むところなどはやっぱりイーガン. 伏線もけっこう気持ちよく束ねられる. それとイーガンの趣味っぽいなあと感じたのは終盤の『万物理論』や『エターナル・フレイム』を思い出させるSethのある行動で…(伏)

 そしてやはり逆転世界だった. そう来るか~~. このあたりや重力を舞台づくりに活用する部分は小林泰三を思い出した.

 崖下りの工夫とかAxis lizardやSiderとWalker達を隔てるのは何かとか有意義な対象がいくつもあるような気はしつつもネタバレをしたくないという気持ちが強すぎるので*2感想はそこそこに2+1次元でストーリーに関係ない遊びをやる. Dirac方程式, Pauli方程式に続いて水素原子のSchrodinger方程式を考えたい.

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2+2次元Dirac方程式―Dichronautsをよみはじめた - Shironetsu Blog
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古典論

 作中Chapter2でいきなり重力の話が出てくる. この世界ではSimeonという科学者がPoisson方程式に相当するものを発見しているらしい.

{(\partial_{x}^2+\partial_{y}^2-\partial_u^2)\phi(x,y,u)=4\pi G\rho(x,y,u)}

彼らの世界は無限の広がりと質量を持つためポテンシャルが有限になることは自明ではないが, 有限の密度を持ち双曲面上に均一に広がる質量に対しては有限のポテンシャルと引力が得られることが示される.

SethとTheoが追ったであろう計算の結果はこのページで公開されている.
www.gregegan.net


いま, {x^2+y^2-u^2=0}円錐上に外側内側とも厚さRで均一な密度ρが載っているとする. すなわち,

{\begin{align}
D&=x^2+y^2-u^2\\
\rho(x,y,u) &= \left\{\begin{array}{cc}
\rho&|D|\leq R^2\\
0&|D|\geq R^2
\end{array}\right.
\end{align}}

 このとき
{\begin{align}
\phi(x,y,u)&=\left\{\begin{array}{cc}
\frac{2}{3}\pi G\rho D&|D|\leq R^2\\
{\rm sgn}(D)2\pi G\rho R^2\left(1-\frac{2R}{3\sqrt{|D|}}\right)&|D|\geq R^2
\end{array}\right.
\end{align}}
と表される. ただしsgn(x)でxの符号を表す. 勾配gradが{(\partial_x,\partial_y,-\partial_u)}になっていることに注意すると引力は中心方向を向くことが分かる.

 さて, このポテンシャル下で"Kepler運動"は可能だろうか. Dichronautsの表紙にすでに太陽が世界を回っている図が描かれているが, これは安定だろうか.

 簡単のため, Dが正の領域をout-cone, Dが負の領域をin-coneと呼ぶことにして, 内部領域を無視するために{4πρR^3/3=M}として

{\begin{align}
\phi(x,y,u)&=\left\{
\begin{array}{cc}-GM\left(\frac{1}{r}-\frac{3}{2R}\right)&D\geq R\ \ \ ({\rm out-cone})\\
GM\left(\frac{1}{r}-\frac{3}{2R}\right)&D\leq R\ \ \ ({\rm in-cone})
\end{array}
\right.\\
r&=\sqrt{|D|}
\end{align}}

を考えることにする.しばらく内部は無視(R→0にしてもいいが発散する定数項を含むのはちょっと嫌).

 これを使うと古典論のLagrangianは

{\begin{align}
L=\frac{m}{2}\left(\dot{x}^2+\dot{y}^2-\dot{u}^2\right)-m\phi(x,y,u)
\end{align}}

となる. 結論だけ言うと, in-coneには安定軌道がなく, out-coneでは負エネルギーで安定軌道が存在する. u座標0でxy平面で円軌道を描く解に対して摂動を与えてみると直感的*3.

 古典論でKepler運動が可能なことが分かった. ということは量子力学でも多分近い結果が得られるだろうと期待して計算しよう.



Hamiltonian
 静電ポテンシャルを考えるため{4\pi G\rightarrow -1/\varepsilon_0,\ M\rightarrow Q},と置き換える.

{\begin{align}
\phi(x,y,u)&={\rm sgn}(D)\frac{Q}{4\pi\varepsilon_0 r}
\end{align}}

 定数項3/2Rを無視するため接続条件など満たされないがエネルギーには定数分の差として寄与するのみなのでしばらくこれで構わない. これを使うと, エネルギー固有値Eの状態のSchrodinger方程式とそのHamilitonianは

{\begin{gather}
H\psi=E\psi\\
H=-\frac{\hbar^2}{2m}(\partial_x^2+\partial_y^2-\partial_u^2)-e\phi(x,y,u)
\end{gather}}

となる.

 3次元空間の計量を
{\eta_{ij}dx^idx^j=dx^2+dy^2-du^2}
で定める. すなわち{\eta_{ij}={\rm diag}(++-)}
2+1次元なのでLorentz計量そのものではないが, 一般の計量と区別する意味で記号ηを使う.

 out-cone領域の点は次の極座標で表せる.
{\begin{align}
x=r\cosh\theta\cos\varphi,\ \ \ 
y=r\cosh\theta\sin\varphi,\ \ \ 
u=r\sinh\theta
\end{align}}

{x^2+y^2-u^2=r^2}に注意. 微分を計算すると,

{\begin{align}
\left(\begin{array}{c}
dx\\
dy\\
du
\end{array}\right)
=
\left(\begin{array}{ccc}
\cosh\theta\cos\varphi&r\sinh\theta\cos\varphi&-r\cosh\theta\sin\varphi\\
\cosh\theta\sin\varphi&r\sinh\theta\sin\varphi&r\cosh\theta\cos\varphi\\
\sinh\theta&r\cosh\theta&0
\end{array}\right)
\left(\begin{array}{c}
dr\\
d\theta\\
d\varphi
\end{array}\right)
\end{align}}

ここから,

{\begin{align}
\left(\frac{\partial(x,y,u)}{\partial(r,\theta,\varphi)}\right)^T
\left(\begin{array}{ccc}
1&0&0\\
0&1&0\\
0&0&-1
\end{array}\right)
\left(\frac{\partial(x,y,u)}{\partial(r,\theta,\varphi)}\right)
=
\left(\begin{array}{ccc}
1&0&0\\
0&-r^2&0\\
0&0&r^2\cosh^2\theta
\end{array}\right)
\Bigl(\equiv (g_{ij})_{(i,j=r,\theta,\varphi)}\Bigr)
\end{align}}

計量は次のように変換されている.

{dx^2+dy^2-du^2=dr^2-r^2d\theta^2+r^2\cosh^2\theta d\varphi^2}

ここからout-coneのLaplacianを求められる.

{\begin{align}
\triangle&=\partial_x^2+\partial_y^2-\partial_u^2\\
&=\frac{1}{\sqrt{-\det(g)}}\partial_i\sqrt{-\det(g)}g^{ij}\partial_j\\
&=\frac{1}{r^2}\partial_rr^2\partial_r+\frac{1}{r^2}\left(\frac{-1}{\cosh\theta}\partial_\theta\cosh\theta\partial_\theta+\frac{1}{\cosh^2\theta}\partial_\varphi^2\right)\\
&=\partial_r^2+\frac{2}{r}\partial_r+\frac{1}{r^2}\left(-\partial_\theta^2-\frac{\sinh\theta}{\cosh\theta}\partial_\theta+\frac{1}{\cosh^2\theta}\partial_\varphi^2\right)
\end{align}}

さらに, 右辺にかかっている変換行列の逆行列を求めると,

{\begin{align}
\left(\frac{\partial(r,\theta,\varphi)}{\partial(x,y,u)}\right)
&=
\left(\frac{\partial(x,y,u)}{\partial(r,\theta,\varphi)}\right)^{-1}\\
&=
\left(\begin{array}{ccc}
1&0&0\\
0&-1/r^2&0\\
0&0&1/r^2\cosh^2\theta
\end{array}\right)
\left(\frac{\partial(x,y,u)}{\partial(r,\theta,\varphi)}\right)^T
\left(\begin{array}{ccc}
1&0&0\\
0&1&0\\
0&0&-1
\end{array}\right)\\
&=
\left(\begin{array}{ccc}
\cosh\theta\cos\varphi&\cosh\theta\sin\varphi&-\sinh\theta\\-\sinh\theta\cos\varphi/r&-\sinh\theta\sin\varphi/r&\cosh\theta/r\\-\sin\varphi/(r\cosh\theta)&\cos\varphi/(r\cosh\theta)&0
\end{array}\right)
\end{align}}

ここまで準備して2+1次元の角運動量の代数を調べにいく.



角運動量
 角運動量は次のように定義される.

{\begin{align}
\ell^i=\epsilon^{ijk}\eta_{jl}x^lp_k
\end{align}}

慣れ親しんだEuclid計量の場合と違って添え字の上下に重要な意味がある. 具体的に書き下すと,

{\ell^x=yp_u+up_y,\ \ \ \ell^y=-up_x-xp_u,\ \ \ \ell^u=xp_y-yp_x}

 これら3つともHermitie演算子なのは3+0次元のときと同様. {\ell^u}がu軸周りの回転の生成子となっているのも3+0次元と同じだが,{\ell^x,\ell^y}の形は異なっている. そこで位置の固有状態をとる関数に対しその作用を見てみる. なお運動量演算子は普段と同じく{p_i=-i\partial_i}である({\hbar=1}にとっている). 微小量{\epsilon}に対して, {\ell^x}の作用を計算すると,

{\begin{align}
e^{i\epsilon\ell^x}f(x,y,u)&\simeq\left(1+i\epsilon\ell^x\right)f(x,y,u)\\
&=f(x,y,u)+\epsilon\bigl(y\partial_uf(x,y,u)+u\partial_yf(x,y,u)\bigr)\\
&\simeq f(x,y+\epsilon u, u+\epsilon y)
\end{align}}

1次の範囲で

{x^2+(y+\epsilon u)^2-(u+\epsilon y)^2\simeq x^2+y^2-u^2}

が成り立っていることから, r 一定の双曲面上のx軸周りの"回転"になっていることが分かる*4. uを時間と見ればy方向への速度{\epsilon}(光速度c=1として)のLorentz boostに対応する. 同様に{\ell^y}もy軸周りの回転の生成子になっている.

これらの間の交換関係は,

{
\begin{align}
  \lbrack\ell^i,\ell^a\rbrack&=\lbrack\epsilon^{ijk}\eta_{jl}x^lp_k,\epsilon^{abc}\eta_{bd}x^dp_c\rbrack\\
&=\epsilon^{ijk}\eta_{jl}\epsilon^{abc}\eta_{bd}(x^lp_kx^dp_c-x^dp_cx^lp_k)\\
&=\epsilon^{ijk}\eta_{jl}\epsilon^{abc}\eta_{bd}\left(x^l(x^dp_k-i\delta^d_k)p_c-x^d(x^lp_c-i\delta^l_c)p_k\right)\\
&=-i\epsilon^{ijk}\eta_{jl}\epsilon^{abc}\eta_{bd}(\delta^d_kx^lp_c-\delta^l_cx^dp_k)
\end{align}
}

ここで

{\begin{align}
\epsilon^{ijk}\eta_{jl}\epsilon^{abc}\eta_{bd}\delta^d_k
&=\epsilon^{ijk}\eta_{jl}\epsilon^{abc}\eta_{kb}\\
&=\eta^{i\alpha}(\epsilon^{\beta jk}\eta_{\beta\alpha}\eta_{jl}\eta_{kb})\epsilon^{abc}\\
&=\det(\eta)\epsilon_{\alpha l b}\eta^{i\alpha}\epsilon^{abc}\\
&=-\eta^{i\alpha}(\delta^a_l\delta^c_{\alpha}-\delta^a_{\alpha}\delta^c_l)\\
&=\eta^{ia}\delta^c_l-\eta^{ic}\delta^a_l
\end{align}}

よって

{\begin{align}
\lbrack\ell^i,\ell^a\rbrack=-i(x^i\eta^{ac}p_c-x^a\eta^{ic}p_c)
\end{align}}

を得る. 具体的には

{\begin{align}
\lbrack\ell^x,\ell^y\rbrack=-i\ell^u,\ \ \ \lbrack\ell^y,\ell^u\rbrack=i\ell^x,\ \ \ \lbrack\ell^u,\ell^x\rbrack=i\ell^y
\end{align}}

これを用いて表現空間を{\ell_u}固有値で分解していく. 昇降演算子はやはり互いにHermite共役となる{\ell^\pm=\ell^x\pm i\ell^y}で定義され,

{\begin{align}
\lbrack\ell^u, \ell^\pm\rbrack=\pm\ell^\pm,\ \ \ \lbrack\ell^+,\ell^-\rbrack=-2\ell^u
\end{align}}

{\ell^i}と交換する全角運動量{\vec{\ell}^2=(\ell^x)^2+(\ell^y)^2-(\ell^u)^2}であることは上の交換関係から直ちに確かめられる. そこで{\ell^u}固有値と全角運動量の規格化された同時固有状態{|m,\lambda\rangle}をとり, それぞれラベル通りに固有値をm, λとすると次の関係から

{\begin{align}
\vec{\ell}^2&=\ell^{-}\ell^{+}-(\ell^u)^2-\ell^u=\ell^{+}\ell^{-}-(\ell^u)^2+\ell^u
\end{align}}

{\begin{align}|\ell^{+}|m,\lambda\rangle|^2=\lambda+m^2+m,\ \ \ |\ell^{-}|m,\lambda\rangle|^2=\lambda+m^2-m
\end{align}}

が導かれる.

 代数的な関係のみからここまで来たが, SO(3)の場合とちがって全角運動量の固有空間が有限次元に制限されないことからいろいろ厄介な問題が起こる. そこでいま必要な一葉双曲面上の関数を表現空間とする表現だけを考えるため微分演算子に書き換える.

{\begin{gather}
\ell^x=-i\left(\sin\varphi\partial_\theta+\tanh\theta\cos\varphi\partial_\varphi\right),\ \ \ 
\ell^y=i\left(\cos\varphi\partial_\theta-\tanh\theta\sin\varphi\partial_\varphi\right),\ \ \
\ell^u=-i\partial_\varphi\\
\vec{\ell}^2=-(\partial_\theta^2+\tanh\theta\partial_\theta)+\frac{1}{\cosh^2\theta}\partial_\varphi^2
\end{gather}}

{\ell^u}の規格化された固有値関数は{e^{im\varphi}/\sqrt{2\pi}}で,一価性から固有値{(m=0,\pm 1,\pm 2,\dots)}と整数に制限される.

今解くべきSchodinger方程式のHamiltonianに対して, 明らかに

{\lbrack H,\ell^i\rbrack=\lbrack H,\vec{\ell}^2\rbrack=0}

が満たされている. すると, 角運動量固有状態に対しては, 動径方向関数R(r)について

{\begin{align}
\left(-\frac{\hbar^2}{2m}\left(\frac{d^2}{dr^2}+\frac{2}{r}\frac{d}{dr}+\frac{\lambda}{r^2}\right)-\frac{\kappa}{r}\right)R(r)=ER(r)
\end{align}}

が成り立つ. ただし

{\begin{align}
\int_0^\infty|R(r)|^2r^2dr=1
\end{align}}

の規格化条件を課す. {\kappa'=2m\kappa/\hbar^2,\ \ \ \epsilon=2mE/\hbar^2}とすると,

{\begin{align}
\left(\frac{d^2}{dr^2}+\frac{2}{r}\frac{d}{dr}+\frac{\lambda}{r^2}+\frac{\kappa'}{r}+\epsilon\right)R(r)=0
\end{align}}

と書き換えられる. r→∞での振る舞いは, 0に収束するべきことから

{R(r)\rightarrow e^{-\sqrt{-\epsilon}r}}

(の定数倍)へ漸近する必要があり, εは負値に制限される. {\rho=2\sqrt{-\epsilon}r,\ \kappa''=\kappa'/2\sqrt{-\epsilon}}の置き換えにくわえ, {\lambda=-\nu(\nu+1)}を満たす複素数{\nu\ ({\rm Re}(\nu)\geq-1/2}を取る)を導入して

{R(r)=e^{-\rho/2}\rho^\nu f(\rho)}

とすると, fの満たす方程式は

{\left(\frac{d^2}{d\rho^2}+\left(\frac{2\nu+2}{\rho}-1\right)\frac{d}{d\rho}+\frac{\kappa''-\nu-1}{\rho}\right)f(\rho)=0}

と合流型超幾何微分方程式(Kummerの微分方程式)に帰着する. {\alpha=\nu+1-\kappa'',\ \gamma=2\nu+2}とすると, その解は,

(i)α-γが整数のとき 対数発散する独立な解を除いて, 超幾何関数

{\begin{align}
F(\alpha;\gamma;\rho)=\sum_{k=0}^\infty\frac{(\alpha)_k\rho^k}{(\gamma)_k k!}
\end{align}}

の定数倍. ただし{(x)_n}はPochhammer記号で, {(x)_k=x(x+1)(x+2)\dots(x+k-1)}. 和が途切れないならば, 十分大きなNに対してn>N部分和は{e^\rho-}(多項式)に漸近し, 規格化条件が満たされない. 従って
{\begin{align}
\alpha+k_{\rm max}=\nu+1-\kappa''+k_{\max}=0
\end{align}}
を満たす非負整数{k_{max}}が存在する. また,α-γが整数であるという条件も課しているため, νは-1/2以上の半整数に制限される. さらに,動径方向関数全体で
{\begin{align}
R(r)\propto e^{-\rho/2}\rho^\nu\sum_{k=0}^{k_{\rm max}}\frac{(-k_{\rm max})_k\rho^k}{(2\nu+2)_k k!}
\end{align}}
となるため, ρ=0で発散しないために結局νは0以上の半整数にならねばならない.

(ii)α-γが整数でないとき
{F(\alpha,\gamma,\rho),\ \ \ \rho^{1-\gamma}F(\alpha-\gamma+1;2-\gamma;\rho)}
の2つの独立な解を持つ. 後者は発散するため不適. (i)と同様に前者の解に対して{k_{max}}が存在するためにνは実数に制限され, 収束性から非負である.

結局(i)(ii)からλは非正でなくてはならない. 動径方向関数に関する考察からはここまでしか言えない. λは0以下の任意の実数値をとることが許される*5.

 再び角運動量の表現に立ち返る. 全角運動量はλ≦0で, ある0より大きい整数の{\ell^u}固有値mを持つ状態から初めて降演算子によって固有値0の状態が作られるとする.このとき,

{\begin{align}|\ell^{+}|0,\lambda\rangle|^2=\lambda,\ \ \ |\ell^{-}|0,\lambda\rangle|^2=\lambda
\end{align}}

これが可能なのはλ=0のときのみだが, そのとき{\ell^{x}|0,0\rangle=\ell^{y}|0,0\rangle=0}となり, これは0でしかありえない. 従って0より大きい整数mを固有値としてもつ状態が存在するなら, 降演算子をかけ続けると正の固有値を持つ状態で消える. *6すなわちある{m_{\rm min}\geq1}が存在して
{\begin{gather}|\ell^{-}|m_{\rm min},\lambda\rangle|^2=\lambda+m_{\rm min}^2-m_{\rm min}=0\\
\therefore\lambda=-(m_{\rm min}-1)m_{\rm min},\ \ \ \nu=m_{\rm min}-1
\end{gather}}

 同様に0より小さい整数mの固有状態が存在するためにはある{m_{\rm max}\leq -1}に対して,
{\begin{gather}|\ell^{+}|m_{\rm max},\lambda\rangle|^2=\lambda+m_{\rm max}^2+m_{\rm max}=0\\
\therefore\lambda=-(-m_{\rm max}-1)(-m_{\rm max}),\ \ \ \nu=-m_{\rm max}-1
\end{gather}}

 これによりνは非負整数値をとることになる. そこでこれを改めてlとおく. そして全角運動量固有状態に関するラベルをλからこのlに取り替える. 結局, 状態空間は

{\begin{align}|m,l\rangle\ \ \ (|m|>l \geq 0)\\
\end{align}}

で張られることが分かる. 全角運動量の固有空間は無限次元ということになる. これに伴いエネルギー固有状態も無限に縮退する.*7

 これらを構成するためには,

{\begin{align}
\ell^{-}|l+1,l\rangle&=0,\ \ \ \ell^{+}|-l-1,l\rangle=0\\|m+1,l\rangle&=\frac{\ell^{+}|m,l\rangle}{\sqrt{(m-l)(m+l+1)}}\ \ \ (m>l)\\|\!-\!(m'\!+\!1),l\rangle&=\frac{\ell^{-}|-m',l\rangle}{\sqrt{(m'-l)(m'+l+1)}}\ \ \ (m'=-m>l)
\end{align}}

の関係を使って, m=±(l+1)状態に対して昇降演算子を繰り返し作用させればよく,

{\begin{align}|\pm\!(l\!+\!k\!+\!1),l\rangle=\sqrt{\frac{(2l+1)!}{n!(2l+k+1)!}}(\ell^{\pm})^k|\pm\!(l\!+\!1),l\rangle\ \ \ (n\geq 0)
\end{align}}

を得る.



一葉双曲面調和関数?
 規格化された一葉双曲面上の関数としてこれを実現していく. {\ell^u}固有関数は{e^{im\varphi}/\sqrt{2\pi}}であることを知っているので,
{\begin{align}|m,l\rangle\rightarrow \frac{1}{\sqrt{2\pi}}f^m(\theta)e^{im\varphi}\equiv\varUpsilon^{l}_m(\theta,\varphi)
\end{align}}

とおける*8. このことから, まず,

{\begin{align}
\ell^{\pm}=e^{\pm i\varphi}(\mp\partial_\theta-i\tanh \theta\partial_\varphi)
\end{align}}

で消える状態;m=±(l+1)に対応する関数が簡単に導かれる.

{\begin{gather}
(\mp\partial_\theta-i\tanh\theta(\pm i(l+1)))f^{\pm(l+1)}(\theta)=0\\
\frac{d}{d\theta}f^{\pm(l+1)}(\theta)=(l+1)\tanh\theta f^{\pm(l+1)}(\theta)\\
\therefore f^{\pm(l+1)}(\theta)=C_l(\cosh\theta)^{-(l+1)}
\end{gather}}

積分定数C_lは規格化条件から決められる*9.

{\begin{gather}
\int_{-\infty}^\infty |f^m(\theta)|^2 \cosh\theta d\theta=1\\
\frac{1}{|C_l|^2}=\int_{-\infty}^\infty   \frac{d\theta}{(\cosh\theta)^{2l+1}}=\frac{(2l\!-\!1)!!\pi}{(2l)!!}\\
\therefore|C_l|=\sqrt{\frac{(2l)!!}{(2l\!-\!1)!!\pi}}
\end{gather}}

位相の自由度が残るがClは正実数にとることにする. よって,

{\begin{align}
\varUpsilon^l_{\pm(l+1)}(\theta,\varphi)=\frac{1}{\pi}\sqrt{\frac{(2l)!!}{2(2l\!-\!1)!!}}\frac{e^{\pm i(l+1)\varphi}}{(\cosh\theta)^{l+1}}
\end{align}}

これに昇降演算子をかけることですべての状態が得られる. fへの昇降演算子の作用を考えると,

{\begin{align}
\ell^{\pm}f^m(\theta)&=\mp\left(\frac{d}{d\theta}\mp m\tanh\theta\right)f^m(\theta)\\
&=\mp(\cosh\theta)^{\pm m}\left(\frac{1}{(\cosh\theta)^{\pm m}}\frac{d}{d\theta}+\frac{\mp m\sinh\theta}{\cosh\theta^{\pm m+1}}\right)f^m(\theta)\\
&=\mp(\cosh\theta)^{\pm m}\frac{d}{d\theta}\left(\frac{1}{(\cosh\theta)^{\pm m}}f^m(\theta)\right)
\end{align}}

となるから, これを繰り返すと,

{\begin{align}
(\ell^\pm)^{k}f^{\pm(l+1)}(\theta)=(\mp)^{k}(\cosh\theta)^{l+k+1}\left(\frac{1}{\cosh\theta}\frac{d}{d\theta}\right)^{k} \frac{1}{(\cosh\theta)^{l+1}}f^{\pm(l+1)}(\theta)
\end{align}}

を得る. 規格化定数をかけることで

{\begin{align}
f^{l+k+1}(\theta)&=\sqrt{\frac{(2l+1)!}{n!(2l+k+1)!}}(\ell^\pm)^{k}f^{\pm(l+1)}(\theta)\\
&=(\mp)^k\sqrt{\frac{(2l+1)\lbrack(2l)!!\rbrack^2}{k!(2l+k+1)!\pi}}(\cosh\theta)^{ l+k+1}\left(\frac{1}{\cos\theta}\frac{d}{d\theta}\right)^k\frac{1}{(\cosh\theta)^{2l+2}}
\end{align}}

となる. {s=\sinh\theta}とおけば, 左辺は

{\begin{align}
\varPi_k^l(s)\equiv(\mp)^k\sqrt{\frac{(2l+1)\lbrack(2l)!!\rbrack^2}{k!(2l+k+1)!\pi}}(1+s^2)^{(l+k+1)/2}\frac{d^{k}}{ds^{k}} \frac{1}{(1+s^2)^{l+1}}
\end{align}}

と表せる.
これをsの関数とみなして{\varPi^l_n(s)}とすると, 導出の過程から次の直交関係が成り立つことが分かる.

{\begin{align}
\int_{-\infty}^\infty \varPi^l_k(s)\varPi^l_{k'}(s)ds=\delta_{kk'}
\end{align}}

結局,規格化された固有関数は全体で

{\begin{align}
\varUpsilon^l_{\pm(l+k)}(\theta,\varphi)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}\varPi^l_k(\sinh\theta)e^{\pm i(l+k)\varphi}\ \ \ (l\geq 0,\ n\geq1)
\end{align}}
*10

 lが整数に限られることが言えているので動径成分は3+0次元バージョンの水素原子のそれと一致する. これと角度成分をかければ固有状態が得られる. すなわち,

{\begin{gather}
\psi_{nl}(r,\theta,\varphi)=R_{nl}(\rho)\varUpsilon^l_{\pm(l+k)}(\theta,\varphi)\\
n\geq 1, \ \ \ 0\leq l \leq n-1, \ \ \ k\geq 1
\end{gather}}

ただし,

{\begin{align}
a_B&=\frac{\hbar^2}{m\kappa},\ \ \ \rho=\frac{2r}{na_B}\\
R_{nl}(r)&=A_{nl}e^{-\rho/2}\rho^lL_{n+l}^{2l+1}(\rho)\\
A_{nl}&=\frac{2}{n^2}a_B^{-3/2}\sqrt{\frac{(n\!-\!l-\!1)!}{\lbrack(n+l)!\rbrack^3}}
\end{align}}
LはLaguerre陪多項式Laguerre polynomials - Wikipedia

エネルギー固有値

{\begin{align}
E_n=-\frac{\kappa}{2n^2a_B}
\end{align}}

 しかしこの解は空間の全領域を覆っていない. in-cone領域との接続を考える必要がある.



接続条件
 in-coneの解を考えよう. Out-coneと同様に極座標で計算することができる.
{\begin{align}
x=r\sinh\theta\cos\varphi,\ \ \ y=r\sinh\theta\sin\varphi,\ \ \ u=r\cosh\theta
\end{align}}
ただしθ≧0. この制限によりu≧0になるため, "北側"半分が表されている. 途中計算を省くとLaplacianは
{\begin{align}
\triangle=-\frac{1}{r^2}\partial_rr^2\partial_r+\frac{1}{r^2}\left(\frac{1}{\sinh\theta}\partial_\theta\sinh\theta\partial_\theta+\frac{1}{\sinh^2\theta}\partial_\varphi^2\right)
\end{align}}

となる. 中心力ポテンシャル下ではやはり全角運動量が保存し, out-coneと同様の, ただし符号が反転することに注意した動径方向の収束性に関する考察から全角運動量は非負の値をとることが分かる. ところが角度部分の固有関数はθ=0で発散する. このことはm≧1に対して

{\begin{align}
\left(\frac{1}{\sinh\theta}\partial_\theta\sinh\theta\partial_\theta+\frac{1}{\sinh^2\theta}\partial_\varphi^2\right)\frac{e^{im\varphi}}{\sinh^m\varphi}
=m(m-1)\frac{e^{im\varphi}}{\sinh^m\varphi}
\end{align}}

から{e^{im\varphi}/\sinh^m\varphi}(と定数の線形結合)が正の角運動量の固有関数となるが, 原点周りで積分が発散する(体積要素はsinhθdθdφ)ことにも現れている.

 したがって, in-coneで有限の確率密度を持つ定常状態は存在できない.

 これを踏まえout-cone解に戻る. Laguerre陪多項式が0次の項を持つことに注意すると, l≧1ではr=0で確率密度と一次の変化率が0に落ちる. in-coneで0になるときこれとの接続条件が満たされる. つまりin-coneに侵入しない解である.

 ところがl=0;全角運動量0の状態はr=0でも有限の確率密度を持つためin-coneでも有限の確率密度を持つ必要がある(このことは1s電子が原子核中心で有限の存在確率を持つことと比較できる). ゆえに全領域を考えるとこの状態は固有状態にならないことになる.

 中心"粒子"のchargeの密度が有限なら, 調和振動子hermonic oscillator的なポテンシャルを持つヌル円錐null-cone近傍を超えてin-coneに"流れ込む"ことが考えられるため, l≧1状態に対しても寿命lifetimeが付くことになりそうだが, 厳密解としてはl=0を除いて定常状態が存在できると言える.

 結局修正された解は以下のようになる.

{\begin{gather}
\psi_{nl}(r,\theta,\varphi)=\left\{
\begin{array}{cc}
0 & (x^2+y^2-u^2<0)\\
R_{nl}(\rho)\varUpsilon^l_{\pm(l+k)}(\theta,\varphi) & (x^2+y^2-u^2\geq 0)
\end{array}
\right. \\
(n\geq2, \ \ \ 1\leq l \leq n-1, \ \ \ k\geq 1)
\end{gather}}

l=0が除かれることに伴ってn=1も消えた. 基底状態は主量子数n=2, 方位量子数l=1, 磁気量子数は2,3,4,…の無限に縮退した状態になる.

 無限の縮退. 我々の宇宙の水素原子が{n^2}重に有限の縮退をするのと対照的だ. 動径成分は両者で一致しているため, これは角度成分からの寄与. SO(3)のコンパクト性とSO(2,1)の非コンパクト性の違いが現れている. きわめて雑な見方をすれば, SO(3)は軌道を傾かせ続けると元に戻ってくるのに対して, SO(2,1)はu軸方向に"無限に傾く"ことができるという違い.

 {\ell^u}固有値が大きくなるほど, その確率密度は中心からdark coneに沿って"離れて"(x,y,u座標の絶対値が大きくなるという意味で)いくことになる. ここで求めた解は理想的な仮定(無限のcharge, coneの完璧な回転対称性)を敷いているので問題ないが, これらを取り払っていったときにはこのことが重要になってきそう. ひょっとすると化学結合に関係したり.

 グラフィカルにこの解を見たいところだが疲れてしまった. それに加えてこの解がどれくらい妥当か*11, もし使えるなら彼らの宇宙で化学はどういったものになるか,解の構造はどうなっているか*12 スピン軌道相互作用, 負の確率密度......等考えるべきことはたくさんあるがまた次の機会.

Dichronauts (English Edition)

Dichronauts (English Edition)

*1:2017/7/8時点でamazon.co.jpの価格はkindle版が499円, ハードカバーは3075円(国内はやや遅れて7/11発売のよう). くわえて電書版が実に3カ月も先行していたので時代だ.

*2:ふたつだけ気になること[ネタバレ][SPOILER]The problem of unpredictability, which Max Tegmark regards as a difficulty of existance of SASs(Self-Aware Substructures) in a universe with 2 or more timedimensions exists in the Dichronauts universe as in the Orthogonal universe. The Southites might be threatened by "hurtlers": meteors without upper limit of velocity along the north-south axis, while residents on the surface of the hyperboloid are protected by the crust./ The word 'sidle' last appears in Chapter 13, just the halfway point of the full text. Descending the chasm, Surveyors confronted with strange geometry, but they were freed from 'the hip-swivelling nonsense'(Chapter 4).

*3:u方向の速度が負の運動エネルギーを持つことと距離を縮める効果を持つため結果的にu方向にもxy平面と同じような均衡が生まれる, という関係は重要. Darkcone領域に音波が伝わることはあまり自明ではないが, 少なくとも連成振動子はこれによって3+0次元と同じように働くことができる. つまりこの点で縦波の伝搬に困難はないはず.

*4:前の記事から既にクオーテーション付きの"回転"をいい加減に使っているが意味は通じると思う.

*5:ここの議論にやや不安が残る. 3+0次元では先に球面調和関数で展開してしまえるので動径方向を考える前に全角運動量が離散値をとることが言えるが2+1次元ではおそらくそれは不可能.

*6:mを整数と仮定しなくても, 昇降演算子によって{\ell^u}固有値を0に近づけていくと絶対値が1以下になったときその状態は消えなくてはならなくなる. なぜなら{\lambda+m^2\pm m}が負値をとるから.

*7:ところで前の記事で見た通りSO(2,1)に対応するスピン群はSL(2,R)でこれはもちろん有限次元の表現空間を持ちその元がスピノルなのだった. どこが違うかというとxyまわりの回転の生成子{\sigma^u}が反Hermite行列になっており, それに伴い有限次元, unitarityを持たない表現が実現されているのだった.

*8:関係ないが球面調和関数のYの由来って何だろう.

*9:結局うまくいくがこの積分が収束することは少なくともここまでの計算からは自明ではない. たとえば1+1次元での全角運動量の固有関数は明らかに規格化できない. そしてより重要なのは, in-coneで同様の手順を踏むとcoshsinhに変わり規格化できなくなることである.

*10:SL(2,C)が{x^2+y^2-u^2-t^2=1}の曲面と同相になることから調和解析の知識を使えばもっと見通しよく基底が得られると思っている……が数学は難しかった. いずれやりたい……。

*11:たとえば中心のchargeを有限に抑えたときどう変わるかといった問題, 微細構造定数のスケールへの依存性など.

*12:イーガンHPに公開されている短編In the Ruinsは逆2乗力下の運動の4次元対称性について登場人物とともにレクチャーを受けるという奇妙な作品になっている. たぶんこれと同じように対称性からもっと代数的に解が得られると思う. www.gregegan.net

2+2次元Dirac方程式と確率解釈 ― Dichronautsよんでる

 グレッグ・イーガンDichronautsをよんでいます. やっとあらすじにある暗黒断崖が出てきた. ElenaとIrinaの間の軋轢, Sleepwalkerの騒ぎなどからSider-Walker間の必ずしもうまくいくとは限らない緊張をはらんだ関係が最初のほうで既に明かされていたが, Thantonという都市でSethとTheoはもっと不気味な実例と出会うことになった. このあたりが本書の含むある種政治的なテーマだろうか. ヒト世界には対応物がないけど.

 しばしば感じられるのは, 基本的にSiderのほうが自制があって賢明で, のみならず彼ら独自の「言語」を持っているためホストのWalkerは彼らに従属しているかのようであること. 両者の一見対等な知能はパラサイト側の誘発で獲得されたものなのかも. 『地球の長い午後』を思い出したり.

Dichronauts (English Edition)

Dichronauts (English Edition)

 さて前の記事で「ディラック表現から『非相対論近似』をすることも可能だがそこから特に言えることがあるわけでもない.」と言っていた.
2+2次元Dirac方程式―Dichronautsをよみはじめた - Shironetsu Blog
 ひどい浅慮だ. 実は2+1次元空間のスピノルに関するSchrödinger - Pauli方程式相当の近似式を導くと奇妙なことが明らかになる.

 前の記事で述べた通り, 相対論的カレントの時間成分は2+2次元(と4+0次元)においては3+1次元と異なり正負の値をとりうる. 2+2次元ではこれに加えて, 非相対論近似でもなおスピンの効果を含めると確率が正負の値になる. これは4+0次元では起こらなかった. というのも, 4+0と3+1ではいずれも空間3次元に関しては等価でそのスピンは回転に対してSU(2)で変換して, それが作るスカラーは標準Hermite内積によるノルムになるため.

 翻って2+1次元空間のスピノルはSL(2,R)で変換するためそれが作るスカラーは正定値にはならない. UpとDown(NorthとSouth?)が時間変化で入れ替わるならスカラーの大きさも正負に振れ, それは"確率"が正負に切り替わることを意味する.

 ここに確率解釈の困難が現れる……と思う. これを知る前, 素朴にSchrödinger方程式で直交曲線座標で「水素原子」を解く方法を考えていた*1が, カレントの時間成分と波動関数の絶対値がちゃんと対応するか気になって計算するとこの問題に突き当たった.

 これらの事実を以下で確認していく.



Dirac表現

 前の記事で扱ったのはカイラル表現(Weyl表現)のみだった. ユニタリ変換でガンマ行列をDirac表現に変換する. 目的は{\gamma^t}の対角化である.

 再度カイラル表現のガンマ行列を書いておく. ただし下添え字WでDirac表現と区別する.

{
 \gamma^t_W=\sigma_1\otimes{\bf 1}_2,\ \ \ \gamma^u_W=(i\sigma_2)\otimes(i\sigma_3),\ \ \ 
 \gamma^x_W=i\sigma_2\otimes\sigma_1,\ \ \ \gamma^y_W=i\sigma_2\otimes\sigma_2
}

 計算は省くが({\sigma_1}を対角化するだけ), 以下のユニタリ行列Uを使う.

{
 U=\frac{1}{\sqrt{2}}({\bf 1}_2+i\sigma_2)\otimes {\bf 1}_2,\ \ \ U^{-1}=U^\dagger=\frac{1}{\sqrt{2}}({\bf 1}_2-i\sigma_2)\otimes {\bf 1}_2
}

これによって,
{
\begin{gather}
 \gamma_D^\mu=U\gamma^\mu_WU^\dagger \\
 \gamma_D^t=\sigma_3\otimes{\bf 1}_2,\ \ \ \gamma^u_D=(i\sigma_2)\otimes(i\sigma_3), \ \ \ \gamma_D^x=i\sigma_2\otimes\sigma_1,\ \ \  \gamma_D^y=i\sigma_2\otimes\sigma_2
\end{gather}
}

Dirac表現に移る. 同時にスピノルは

{
\varPsi_D=U\varPsi_W=\frac{1}{\sqrt{2}}\left(\begin{array}{c}
\psi_L+\psi_R\\
 -\psi_L+\psi_R
\end{array}\right)
}
と変換されている.



平面波解

 Dirac表現を使って平面波解を考える. 以下Dirac表現のみを使うため下添え字Dは省略.

{
\varPsi = e^{-ik_\mu x^\mu}\varPsi_0
}

ただし{\varPsi_0}は位置に依存しない定数. これをDirac方程式に代入すると,

{
(k_\mu\gamma^\mu-m)\varPsi_0=0
}

ここで

{
\sigma^x=\sigma_1,\ \ \ \sigma^y=\sigma_2,\ \ \ \sigma^u=i\sigma_3\\
}

と定義する. これらはClifford代数の関係式に従う. すなわち

{
\begin{gather}
\{\sigma^i,\sigma^j\}=-2g^{ij}{\bf 1}_2\\
(g^{ij})={\rm diag}(-,-,+)={\rm diag}(g^{xx},g^{yy},g^{uu})
\end{gather}
}

また, 交換関係は

{
  \lbrack \sigma^i,\sigma^j \rbrack =2\epsilon^{ijk}g_{kl}\sigma^l
}

と表せる. {\epsilon^{ijk}}は添え字{(ijk)}{(xyu)}の偶置換のとき+1,奇置換のとき-1, それ以外のとき0. Pauli行列の場合との違いに注意.

話を戻し, さらに{\varPsi_0}を上下2成分ずつ{\varphi,\chi}に分割すると次のように書ける.

{\begin{gather}
\left(\begin{array}{cc}
k_t-m&k_i\sigma^i\\
 -k_i\sigma^i&-k_t-m
\end{array}\right)
\left(\begin{array}{c}
\varphi\\
\chi
\end{array}\right)
=
\left(\begin{array}{c}
0\\
0
\end{array}\right)\\
\varphi=\frac{-k_i\sigma^i}{k_t-m}\chi,\ \ \ \chi=\frac{-k_i\sigma^i}{k_t+m}\varphi
\end{gather}
}

ただし空間成分{i=(x,y,u)}に渡って和をとる. これを使うと,

{
\varphi=\frac{k_x^2+k_y^2-k_u^2}{k_t^2-m^2}\varphi
}

から,

{
k_t^2+k_u^2-k_x^2-k_y^2=m^2
}

が満たされる必要があることが分かる.{k_t=E,\ k_i=p_i}と改めて書くと,

{
E=\pm\sqrt{m^2+p_x^2+p_y^2-p_u^2}
}

これが満たされているとき, 解は上の関係で結ばれる任意の{\varphi,\chi}を用いて

{
\begin{align}
\varPsi=\left(\begin{array}{c}
\varphi \\
\frac{-p_i\sigma^i}{E+m}\varphi
\end{array}\right)
 =\left(\begin{array}{c}
\frac{-p_i\sigma^i}{E-m}\chi \\
\chi
\end{array}\right)
\end{align}
}

と表される. 運動量の大きさ{p_x^2+p_y^2-p_u^2}が十分小さいとき{E\sim \pm m}である. 正のとき上2成分が卓越して正エネルギー解:粒子, 負のとき下2成分が卓越して負エネルギー解:反粒子と解釈できる.



電磁相互作用

 ベクトルポテンシャルAが存在するとき, 方程式は

{
(i\partial_\mu\gamma^\mu-eA_\mu\gamma^\mu-m)\varPsi=0
}

と書きかわる*2. 再び上下2成分ずつ{\varphi,\chi}を用いて(ただし今度は位置に依存)

{
\begin{align}
\varPsi=e^{-imt}\left(\begin{array}{c}
\varphi\\
\chi
\end{array}\right)
\end{align}
}

と書く. これを用いると,

{
\begin{gather}
(i\partial_t-eA_t)\varphi+(i\partial_i-eA_i)\sigma^i\chi=0\\
 -(i\partial_i-eA_i)\sigma^i\varphi-(i\partial_t-eA_t)\chi-2m\chi=0
\end{gather}
}

第2式を使って

{
\begin{align}
(i\partial_t-eA_t)\varphi
 &=\frac{1}{2m}(i\partial_i-eA_i)(i\partial_j-eA_j)\sigma^i\sigma^j\varphi+\frac{1}{2m}(i\partial_i-eA_i)\sigma^i(i\partial_t-eA_t)\chi\\
 &=\frac{1}{2m}(i\partial_i-eA_i)(i\partial_j-eA_j)\sigma^i\sigma^j\varphi+\frac{1}{2m}\left\{(i\partial_t-eA_t)(i\partial_i-eA_i)-ie(\partial_iA_t-\partial_tA_i)\right\}\sigma^i\chi\\
 &=\frac{1}{2m}(i\partial_i-eA_i)(i\partial_j-eA_j)\sigma^i\sigma^j\varphi
 -\frac{1}{2m}(i\partial_t-eA_t)^2\varphi-\frac{ie}{2m}(\partial_iA_t-\partial_tA_i)\sigma^i\chi
\end{align}
}

ここまで展開したが, 反粒子成分は小さく, また, 十分低速で時間部分の演算子が2回かかる項は無視できるとする. これにより後ろ2項は落ちて,

{
\begin{align}
(i\partial_t-eA_t)\varphi&=\frac{1}{2m}\left(-g^{ij}(i\partial_i-eA_i)(i\partial_j-eA_j)+\epsilon^{ijk}g_{kl}\sigma^l(-ie\partial_iA_j)\right)\varphi\\
 &=\frac{1}{2m}\left(-g^{ij}(i\partial_i-eA_i)(i\partial_j-eA_j)
 -\frac{ie}{2}g_{kl}\epsilon^{ijk}(\partial_iA_j-\partial_jA_i)\sigma^l
\right)\varphi
\end{align}
}

{A_t=-\phi,\ \pi_i=-(i\partial_i-eA_i),\ B^k=\epsilon^{ijk}\partial_iA_j}と表記すると*3,

{
\begin{align}
i\partial_t\varphi&=\left(-\frac{\pi_i\pi^i}{2m}-e\phi-\frac{ie}{2m}B_i\sigma^i\right)\varphi
\end{align}
}

を得る.これが求めるべきものだった. 2+1次元のSchrödinger - Pauli方程式である. 形を見ればわかる通り, 右辺第3項によって{\varphi}の上下の成分が時間変化で混ざる.

 と簡単に書いたがHamiltonianがHermiteになっていないことにすぐ気付く. というのも{\sigma^x,\ \sigma^y}がHermiteなのにそれらに虚数単位がかかっているため. また, そのせいでxy軸方向の磁場がかかっている系で{\varphi}の成分が発散してしまう.



確率

 そもそも, 確率とみなしたい{|\psi|^2}が座標系に依存するのだ. {\psi}が2+1次元のスピノルであるためこれは当然のことではある.

 Dirac共役がHermite共役そのものではなく右から{\gamma^t}を掛けなくてはならなかったように, 2+1次元での共役スピノルはHermite共役に{-i\sigma^u=\sigma_3}を右からかけなくてはならない*4. こうすることで共役と元のスピノルの積は座標変換に対する不変性が保たれる.

 これを成分で見ると,

{
\begin{gather}
\varphi=\left(\begin{array}{c}
\alpha\\
\beta
\end{array}\right)\\
\overline{\varphi}=\varphi^\dagger\sigma_3\\
\overline{\varphi}\varphi=|\alpha|^2-|\beta|^2
\end{gather}
}

から, ちょうどアップスピンの大きさの2乗からダウンスピンの大きさの2乗を引いた形になることが分かる*5.

 これは2+2次元カレントの時間成分とも近似的に一致している. 前の記事で導入した{\eta}は, Dirac表現でも

{
\eta_D=i\gamma_D^x\gamma_D^y={\bf 1}_2\otimes\sigma_3
}

であり, カレントの時間成分は

{
\varPsi_D^\dagger \eta_D\gamma^t\varPsi=\varphi^\dagger\sigma_3\varphi-\chi^\dagger\sigma_3\chi\simeq\varphi^\dagger\sigma_3\varphi
}

と同じ形になる.



まとめ

 2+2次元においてもDirac表現を用いたDirac方程式の解から粒子, 反粒子とみなせる解が導かれる. これをもとに, 低エネルギーの非相対論極限として2+1次元のSchrödinger - Pauli方程式が得られるが, そのHamilitonianはHermiteになっていない. そもそも2+1次元の2成分スピノルのノルムの2乗は座標不変な値ではなく, 正しく得られるスカラーは正定値にならない. よって2成分スピノルを考える限り非相対論的極限でもなお確率解釈は正当化されない.

 ただ, Orthogonal宇宙で反粒子状態をオミットすることで確率解釈が可能になるように, たとえばスピンがアップダウンに振れないなら, 単純にスカラー波動関数を考えるだけで済むようになって確率密度の正定置性は保たれるかも……どういう状況だろう?軸方向に強い磁場がかかっていてスピンの向きが揃っているとか?

 イーガン自身明らかに, 我々の宇宙の物理法則をわずかな変更を加えただけでそのまま適用したときに生じる問題を認識していて, あえて気にしないことにしておもしろい幾何学的帰結にだけ集中することにしているはず. そのために物語の本筋に関わらない深く突っ込んだ計算は公開していないのだろう. しかしイーガンの辿ったはずの道を再現してみるのも楽しい. Dichronautsを読むのには関係なくても.



参考
 以前『エターナル・フレイム』の計算をした時にも参考にさせていただいたページ.

「4+0次元時空間のディラック方程式について」
http://kuiperbelt.la.coocan.jp/sf/egan/orthogonal/dirac-orthogonal.html

*1:「球対称」;中心からの距離が一定の双曲面上で値が同じ波動関数は明らかに規格化できない. 「球殻」;ふたつの双曲面に挟まれた領域の体積が無限大になるため. ひょっとするとCoulomb散乱の問題で使うタイプの座標変換なら……と考えてみたものの, 規格化の問題で依然として混乱. 結局解決していない.

*2:電荷は(-e). 古典論でのHamiltonianの置き換えを援用するというのもやや正当化するのがめんどくさそう(というか2+2次元の古典論について検討していない)なので, 単に共変性を保つ最も簡単な変更と考えればいいはず. あるいはLagrangian経由か.

*3:この定義によって2+1次元回転のもとでBは擬ベクトルとしてふるまう.

*4:座標変換に応じてスピンを変化させるスピン群の行列との関係について述べる必要がある. Hermite共役に右からかければ逆行列になるような行列は何か, という問題になるが, だいたい3+1次元でDirac共役を考えた場合と並行なので略.

*5:ちなみに4+0次元でのカレントの時間成分は|粒子|^2-|反粒子|^2と書ける. Orthogonal宇宙で確率解釈が正当化できるのは粒子の状態が卓越するときこれが正の値をとるから, ということだろうか.

2+2次元Dirac方程式―Dichronautsをよみはじめた

 グレッグ・イーガン『白熱光』がハヤカワ文庫SFから出版されましたね. もちろん入手したものの既に読んでいた作品だったようだ. そういうわけで今年3月末に電子書籍先行で出版された最新長編Dichronautsを読み始めた. Kindle本棚に並べたのは発売日だったのに積んでいたのだ. 罪深い.

Dichronauts (English Edition)

Dichronauts (English Edition)

 あらすじを読むとハードSF版『逆転世界』ではないかと疑われる本作, まだほんの序盤しか読んでいないが楽しさと同時に, 正気が奪われそうになるのを感じる. (つい最近も『アロウズ・オブ・タイム』の惑星エシリオでそんなことを言っていた気がするが)数学的な設定が簡単かつ映る風景の根幹をなしているなだけに常に悩まされ続けるのだ.

 舞台は2+2次元の宇宙, つまりdiag(+,+,-,-)の計量をもつ宇宙. そのうちの3次元; 世界線に直交する部分空間が同時刻の「空間」として認識されている. そして登場人物たちの暮らす「世界」は一葉双曲面の上に広がる地表. ある意味ここで『逆転世界』とつながる――が, 住人たちの認識はおそらくまったく異なる. 双曲面の広がりは(理想的には)無限だが, 普通のユークリッド空間の球に相当する曲面になるため. すなわち「回転」に対して不変な図形になっている.

 主人公SethとTheoは共生関係にある知的生命. この世界では, 歩行を担当する"Walker"の頭蓋の中で"Sider"が血液の供給を受けながら生きており, どちらもともに人類相当の知能を備えていて"inspeak"(「内話」?)によって二者だけの会話ができるようになっている. SethがWalkerでTheoがSider. Siderの役割はWalkerからは見ることのできない領域の内部――"dark cone"――に何があるかを教えることにある.

 2つの「普通の」空間次元と1つの時間的な次元から成るこの3次元空間, 地表に立つと上下と東西方向; Siderにとっての前後が「普通の」空間次元で, 「軸」と称される南北方向が時間的次元になっている. ここで単純な数学的関係から, ヌル測地線を辿る光*1は「軸」の周りの円錐の内部"dark cone"(「暗黒円錐」?)からは届かないことが分かる. つまり南北方向は電磁波で知覚できない. Walkerにとってのこの困難を解決するのが上で既に触れたSiderの役割ということになる*2.

 ……といったことはイーガン自身が簡潔に解説しているが一応ここまでの理解をまとめておきたかった.

www.gregegan.net

 さてこのDichronauts, Orthogonalを再びやるわけではないらしい(単語検索するとたとえば"equation"はほとんど出てこない――が読み切っていないので何が起こるのかまだ知らない). イーガンのDichronauts解説ページ内にも重力ポテンシャル論以外には数式のある物理的考察はほとんど公開されていない.

 しかし気になってしまうのがSO(2,2)バージョンのDirac方程式. 『エターナル・フレイム』第33章をやりたい, また「幾何学をたどっていくとすべてがうまくおさまるんですね」って言いたい. やろう.



回転

 イーガンに倣ってtで時間, x,yで通常の空間次元, uで時間様の「軸」方向空間次元を表すことにする.

 次の実2次正方行列を考える.

{
X=\left(
\begin{array}{cc}
t+y & x-u \\
x+u & t-y
\end{array}
\right)
}

行列式

{
\det(X)=t^2+u^2-x^2-y^2
}

となることに注意. 実2次特殊線形群SL(2,R); 行列式が1の実2次正方行列が積についてなす群の任意の2つの元を

{
D_L,\ D_R\in SL(2,\mathbb{R})
}

で表すと, 次の変換 X→X' は (t,u,x,y)→(t',u',x',y') の一次変換を定義する.

{
X'=\left(
\begin{array}{cc}
t'+y' & x'-u' \\
x'+u' & t'-y'
\end{array}
\right)=D_LX\tilde{D}_R
}

ただしチルダ~は余因子行列を意味している. いまの場合{D_R}行列式=1なので単に逆行列に等しい.

{
A=\left(\begin{array}{cc}
a & b \\
c & d
\end{array}\right)
\rightarrow
\tilde{A}=\left(\begin{array}{cc}
d & -b \\
 -c & a
\end{array}\right)
}

この変換において行列式は不変である. すなわち,

{
\det(X')=\det(D_L)\det(X)\det(\tilde{D}_R)=\det(X)
}

を満たしている. ゆえにこの一次変換は(t,u,x,y)に対してSO(2,2)の元として作用している. 詳しく調べるとSO(2,2)の元とSL(2,R)×SL(2,R)の元は1対2に対応している. このことはSL(2,R)×SL(2,R)の中心正規部分群N={(1,1),(-1,-1)}によって

{
SO(2,2)\cong SL(2,\mathbb{R})\times SL(2,\mathbb{R})/N
}

と表せる*3.

 この関係が重要で, 『エターナル・フレイム』ではSO(4)とSU(2)×SU(2)間の準同型, SU(2)と単位四元数群の間の同型から輝素波の方程式が導かれたのだった. SO(3,1)はSL(2,C)が不変被覆群となるため点付きスピノル・点なしスピノルなどを導入して多少煩雑になるが*4,SO(2,2)ではパトリジアたちと同様の手順で共変性を持ったスピノルの方程式が導かれる.

 実2次正方行列は4次元実ベクトル空間をなす. その基底を次のようにとる.

{
e^t=\left(\begin{array}{cc}
1 & 0 \\
0 & 1
\end{array}\right),\ \ \ 
e^u=\left(\begin{array}{cc}
0 & -1 \\
1 & 0
\end{array}\right),\ \ \ 
e^x=\left(\begin{array}{cc}
0 & 1 \\
1 & 0
\end{array}\right),\ \ \ 
e^y=\left(\begin{array}{cc}
1 & 0 \\
0 & -1
\end{array}\right),\ \ \ 
}

これを使うと,

{
X=X_\mu e^\mu\ \ \ (\mu=t,u,x,y)
}

と表せる. 2+2計量を改めて

{
g_{\mu\nu}dx^\mu dx^\nu=dt^2+du^2-dx^2-dy^2
}

ととる. ただし光速度はc=1にとっている*5. 実2次正方行列の(不定値)内積を〈X,Y〉で表して

{
\langle X,Y\rangle=\frac{1}{2}{\rm Tr}(\tilde{X}Y)
}

で定義すると次の関係が成り立つことが確かめられる.

{
\langle X,Y\rangle=\langle Y,X\rangle=g^{\mu\nu}X_\mu Y_\nu
}

すなわち,

{
{\rm Tr}(\tilde{e^\mu}e^\nu)=2g^{\mu\nu}
}

これは次の関係からも導かれる.

{
\tilde{e}^{\mu}e^{\nu}+\tilde{e}^{\nu}e^{\mu}=2g^{\mu\nu}{\bf 1}_2
}

 だいたいここまでがカルラが胸にベクトル乗法を描書した部分に対応する. といっても基底間の積すべてを表にする必要はないだろう. {e^t}だけがその余因子行列と一致し, 他の3つは符号が反転することに注意.



ベクトル, レフトル, ライトル

 座標変換に従ってベクトルの共変ベクトル成分*6

{
X \rightarrow X'=D_LX\tilde{D}_R\ \ \ D_L,D_R\in SL(2,\mathbb{R})
}

と変換するとき, 次のように変換する2つの量を定義する.

{
\psi_L \rightarrow \psi_L' = D_L\psi_L,\ \ \ \psi_R \rightarrow \psi_R' = D_R\psi_R
}

パトリジアに倣って{\psi_L}をレフトル, {\psi_R}をライトルと呼ぼう. これらの量は回転と独立に右から行列を掛けることができる(位相に対応する). 次の形のベクトルとの積をとると, ライトルがレフトルへ, レフトルがライトルへと互いに変換される.

{
\begin{align}
X\psi_R \rightarrow X'\psi_R = D_LX\tilde{D}_RD_R\psi_R = D_L(X\psi_R) \\
\tilde{X}\psi_L \rightarrow \tilde{X}'\psi_L = D_R\tilde{X}\tilde{D}_LD_L\psi_L = D_R(\tilde{X}\psi_L)
\end{align}
}

次の微分演算子は共変ベクトルとして変換される.

{
\partial=\partial_\mu e^{\mu}
}

また,

{
\tilde{\partial}\partial=\partial\tilde{\partial}=g^{\mu\nu}\partial_{\mu}\partial_{\nu}{\bf 1}_2
}

が成り立つ. レフトル・ライトル各成分がKlein-Goldon方程式にあたる方程式

{
(g^{\mu\nu}\partial_{\mu}\partial_{\nu} +m^2)\psi_R=(g^{\mu\nu}\partial_{\mu}\partial_{\nu} +m^2)\psi_L=0
}

に従うための一次の連立方程式は, 質量をmとして

{
\begin{align}
\partial\psi_R e^u&=m\psi_L\\
\tilde{\partial}\psi_L e^u&=m\psi_R
\end{align}
}

をとればよい*7. これが2+2次元における自由場のDirac方程式である. この式から, {\psi_L}が左巻きスピノル, {\psi_R}が右巻きスピノルに対応することが分かる*8.

 ちょっと面白いのは実数成分の行列のみで書けていること(それを言えばどんな虚数でも2×2行列に置き換えられるが). 何か意味はあるだろうか.

 上の2式を次のように変形する.

{
\begin{gather}
\partial_{\mu} e^{\mu} \psi_{R}=-m\psi_Le^u\ \ \ 
\partial_{\mu} \tilde{e}^{\mu} \psi_L=-m\psi_Re^u\\
(\partial_{\mu} \tilde{\psi}_{R}\tilde{e^{\mu}})\psi_L=(me^u\tilde{\psi}_{L})\psi_L\ \ \ 
\tilde{\psi}_{R}\partial_{\mu} \tilde{e}^{\mu} \psi_L=-m\tilde{\psi}_{R}\psi_Re^u \\
\frac{1}{2}\partial_{\mu}{\rm Tr}(\tilde{e}^{\mu}\psi_{L}\tilde{\psi}_{R})=0 \\
\therefore \partial_\mu (\psi_{L}\tilde{\psi}_{R})^\mu = 0
\end{gather}
}

{\psi_L\tilde{\psi}_R}の成分は共変ベクトルとして変換する*9. したがってこの式はカレントの保存則を示している. ただし3+1次元のそれと違って時間成分が正値にならない. 実は同様の問題は4+0次元, Orthogonal宇宙でも発生していた.

 歴史的経緯について詳しいところはほとんど知らないのだが, Dirac方程式はKlein-Gordon方程式で問題になった負の確率密度を解消した点に強みがあったはず. 結局確立解釈は使わなくなるとはいえ, これはどう解釈するべきか.

 考えてみれば4+0と2+2で時間成分の正値性が保証されないのは当然で, 座標変換でベクトルの時間成分を正負に振ることができるからである. 一方3+1次元では正値をとっている時間成分を負にするには光円錐を超えてspace-likeな領域を超える必要があるため不可能. これは連続変換で反粒子と粒子が入れ替わらないことも内含する……はず. この問題は変換群の連結性に関わるはずだが, 不勉強にして数学的に正確に述べるための言葉を持っていない.

 思い出してみると, <孤絶>乗員たちが直交クラスターの星に追いついて「ネレオの矢」をそれらと揃え, そのうえ着陸することさえ可能だったのも反物質が物質へと連続的に変換できるためだった. Dichronauts宇宙でも似たようなことが可能ということになるはずだが……それはどういう意味になるのだろう?

 ちょっとこのあたりの議論はあやふや. QFTをちゃんとやってからまたいずれ……. ラグランジアンもこの行列形式で書けるのだが, 相互作用なども含めまた今度.



ガンマ行列

 ガンマ行列を用いた見慣れた表示との対応関係を調べる.

2+2次元
 レフトルまたはライトル{\psi}を次の2成分複素ベクトルと同一視する. なお行列形式との区別のため上矢印を付ける.

{
\psi=\psi_t e^t+\psi_u e^u +\psi_x e^x + \psi_y e^y
\ \leftrightarrow\ 
\left(\begin{array}{c}
\psi_t+\psi_{u} i\\
\psi_x+\psi_{y} i
\end{array}\right)\equiv\vec{\psi}
}

iは虚数単位. 成分を丹念に計算すると, 左から{e^u}を掛ける操作, 右から{e^\mu (\mu=t,u,x,y)}を掛ける操作はそれぞれ次の対応関係を持つことが分かる.

{
\begin{gather}
\psi e^u\ \leftrightarrow\ i\vec{\psi},\\
e^t\psi \ \leftrightarrow\ {\bf 1}_2\vec{\psi},\ \ \ 
e^u\psi \ \leftrightarrow\ i\sigma_3\vec{\psi},\\
e^x\psi \ \leftrightarrow\ \sigma_1\vec{\psi},\ \ \ 
e^y\psi \ \leftrightarrow\ \sigma_2\vec{\psi}
\end{gather}
}

ただしσはPauli行列

{
\sigma_1=\left(\begin{array}{cc}
0 & 1 \\
1 & 0
\end{array}\right),\ \ \ 
\sigma_2=\left(\begin{array}{cc}
0 & -i \\
i & 0
\end{array}\right),\ \ \ 
\sigma_3=\left(\begin{array}{cc}
1 & 0 \\
0 & -1
\end{array}\right)
}

これらの関係から, Dirac方程式を4成分複素ベクトル形式に書き換えられる.

{
(i\partial_\mu\gamma^\mu-m)\varPsi=0
}

ただし,

{
\varPsi=\left(\begin{array}{c}
\vec{\psi_L}\\
\vec{\psi_R}
\end{array}\right)
=\left(\begin{array}{c}
\varPsi_1\\
\varPsi_2\\
\varPsi_3\\
\varPsi_4
\end{array}\right)
,\ \ \ \varPsi_i \in \mathbb{C}\ \ \ (i=1,2,3,4)
}

ガンマ行列は次のようになっている.

{
\gamma^t=\sigma_1\otimes{\bf 1}_2,\ \ \ \gamma^u=(i\sigma_2)\otimes(i\sigma_3),\ \ \ 
\gamma^x=(i\sigma_2)\otimes\sigma_1,\ \ \ \gamma^y=(i\sigma_2)\otimes\sigma_2
}

これらはClifford代数の関係式を満たしている.

{
\{\gamma^\mu,\gamma^\nu\}=\gamma^\mu\gamma^\nu+\gamma^\nu\gamma^\mu=2g^{\mu\nu}{\bf 1}_4
}

これはまさしく見慣れた形のDirac方程式で, 特にいまカイラル表現(Weil表現)をとっている.

 これらガンマ行列のHermite共役は,

{
\gamma^{t\dagger}=\gamma^{t},\ \ \ \gamma^{u\dagger}=\gamma^{u},\ \ \ 
\gamma^{x\dagger}=-\gamma^{x},\ \ \ \gamma^{y\dagger}=-\gamma^{y}
}

と時間次元についてHermite, 空間次元について反Hermiteとなっている. そのため, 随伴スピノルは

{
\overline{\varPsi}=\varPsi^{\dagger}\eta
}

をとることになる. ただしηは次で定義される.

{
\eta=i\gamma^x\gamma^y,\ \ \ \eta^\dagger=\eta
}

カイラル表現では

{
\eta = {\bf 1}_2\otimes\sigma_3
}

これを使うと, カレントの時間成分は

{
\overline{\varPsi}\gamma^t\varPsi=(\varPsi_1^*\varPsi_3+\varPsi_3^*\varPsi_1)-
(\varPsi_2^*\varPsi_4+\varPsi_4^*\varPsi_2)
}

と再び正負の値をとることが分かる.

ついでに4+0と3+1のカイラル表現も見ておこう.


4+0次元

{
\{\gamma^\mu, \gamma^\nu\}=\delta^{\mu\nu}
}

これを満たすのは,

{
\gamma^t=\sigma_1\otimes{\bf 1}_2,\ \ \ \gamma^x=\sigma_2\otimes\sigma_1,\ \ \ \gamma^y=\sigma_2\otimes\sigma_2,\ \ \ \gamma^x=\sigma_2\otimes\sigma_3,\ \ \ 
}

これらはすべてHermiteで, 随伴スピノルは単にHermite共役. カレントの時間成分は

{
\overline{\varPsi}\gamma^t\varPsi
=\vec{\psi}_L^\dagger\vec{\psi}_R+\vec{\psi}_R^\dagger\vec{\psi}_L
}

となって正負の値をとる.


3+1次元

{
\{\gamma^\mu, \gamma^\nu\}=\eta^{\mu\nu}(={\rm diag}(+,-,-,-))
}

これを満たすのは,

{
\gamma^t=\sigma_1\otimes{\bf 1}_2,\ \ \ \gamma^x=\sigma_2\otimes(i\sigma_1),\ \ \ \gamma^y=\sigma_2\otimes(i\sigma_2),\ \ \ \gamma^x=\sigma_2\otimes(i\sigma_3),\ \ \ 
}

{\gamma^t}のみHermiteで, 他3つが反Hermite. 随伴スピノルは

{
\overline{\varPsi}=\varPsi^\dagger\gamma^t
}

で, カレントの時間成分は

{
\overline{\varPsi}\gamma^t\varPsi
=|\vec{\psi}_L|^2+|\vec{\psi}_R|^2
}

と正定符号をとる.



まとめ

 直交群SO(2,2)が実2次特殊線形群SL(2,R)ふたつの直積からの準同型写像を持つことを利用して2+2次元のDirac方程式を導いた. 『エターナル・フレイム』33章でカルラ, パトリジア, ロモロたちがSO(4)共変のDirac方程式, 「輝素波」の「回転物理学」に適合した方程式を発見する際に取ったのと同様のアプローチである. 特にこの方法では自然にカイラリティーが現れる.

 カレントの時間成分, 「確率密度」の正値性の有無は粒子-反粒子間の連続変換の有無とおそらく関わっておりいずれきちんとやりたい. 他の次元との比較も.

 意外にきれいにまとまった. しかし物理的な考察がほとんど無い. ディラック表現から「非相対論近似」をすることも可能だがそこから特に言えることがあるわけでもない. 2+2次元世界は想像するのがまだまだ難しすぎる. おとなしく読み進めます.

*1:ということはOrthogonal宇宙と違ってフォトンはゼロ質量なのだろう, たぶん.

*2:反響定位で空間を把握しているという解釈でいいのだろうか…「音」の伝わり方が理解できていない

*3:とくに使わない事実として,{D_L=D_R}なら{t=t'}になる. これはトレースをとることで直ちに確かめられる.このことからSL(2,R)とSO(1,2)が準同型であることが分かる.

*4:やや怪しい発言である

*5:速度とは何か……。ニュートン力学の段階から既にこの問題で困る.

*6:紛らわしいが, 原点まわりの回転という座標変換のような表式で導入したのに対して便宜のためこちらは共変ベクトル成分の変換としている

*7:左辺に{e^u}を右からかけているが, 掛けて-1になる2つの行列を各辺にかけても等価な方程式が得られる. {e^u}を選んだことは基底の取り方を規定しており, またパリティ変換がレフトルとライトルとの単に入れ替えになるといったメリットがある.

*8:『エターナル・フレイム』p.332でカルラがパリティ対称性に言及していることに今更気付いた.「でも、わたしがもっと気になっているのは、回転の左側ベクトルを右側ベクトルとは違う形で扱っていること。このふたつのベクトルの役割を入れ替えるには、単に系を鏡に映して見ればいい。鏡に映したら、物理が違って見えるべき? そのような証拠をいままで見たことってある?」 彼らの宇宙でパリティ対称性の破れは発見されるだろうか.

*9:上で左から{e^u}をかける以外の方法について述べたが, その場合レフトルとライトルの間に適当な行列を挟む必要がある

アニメ「けものフレンズ」の系統樹・覚え書き

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 けものフレンズのアニメに登場する動物たちで系統樹を描いた。誰が誰に近いかなど見るとおもしろいとおもう。「ネコ目」(食肉目)はとりわけ多く出てきたが、こういう関係になっている。シロサイがヘラジカよりライオンに近かったりPPPメンバーの分岐順序などもおもしろい。
 主に参考にしたのは長谷川政美『新図説 動物の起源と進化―書き換えられた系統樹』(八坂書房、2011年)とWikipediaWikipediaは様々な学説が反映されて統一されていないがなるべく色々比較した。(とはいえ素人が本とネットで調べただけなので正確さを欠いていれば指摘してくださるとありがたいです)

 内容について説明すると、まず(1)は哺乳綱の詳細を除く全体図。(2)は哺乳綱の中身。(3)(4)はそれぞれ種数の多い食肉目とクジラ偶蹄目のみ取り出したもの。3叉に分かれている部分は順序がはっきりしなかった。
 オレンジ色の字は作中で文字とともに名前などが紹介された種。つまりこういうのが出たフレンズ。
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順番にメモしたので載せておこう。なおネコ目は食肉目、ネズミ目は齧歯目、ウマ目は奇蹄目とも呼ばれているもの。そもそもこれの意味を理解する目的で系統樹上の位置を確認していったのが系統樹を作成した当初の動機だった。


 1話「さばんなちほー」
ネコ目ネコ科ネコ属 サーバル Serval Cat
偶蹄目カバ科カバ属 カバ Hippopotamus

 2話「じゃんぐるちほー」
ネコ目ネコ科オセロット属 オセロット Ocelot
ウマ目バク科バク属 マレーバク Malayan tapir
ネコ目マダガスカルマングース科フォッサ属 フォッサ Fossa
ゾウ目ゾウ科アジアゾウ属 インドゾウ Indian Elephant
偶蹄目シカ科アクシスジカ属 アクシスジカ Axis dear
有隣目コブラ科キングコブラ属 キングコブラ King cobra
有毛目オオアリクイ科コアリクイ属 ミナミコアリクイ Southern tamandua
キジ目キジ科クジャク属 クジャク Peafowl
フクロネコフクロネコタスマニアデビル属 タスマニアデビル Tasmanian devil
有隣目アガマ科エリマキトカゲ属 エリマキトカゲ Frilled lizard
偶蹄目キリン科オカピ属 オカピ Okapi
ネコ目イタチ科ツメナシカワウソ属 コツメカワウソ Small-clawed otter
ネコ目ネコ科ヒョウ属 ジャガーJaguar

 3話「こうざん」
ペリカン目トキ科トキ属 トキ Japanese crested ibis
クジラ偶蹄目ラクダ科ビクーニャ属 アルパカ・スリ Alpaca suri
コウノトリ目トキ科シロトキ属 ショウジョウトキ Scarlet ibis

 4話「さばくちほー」
ネコ目ネコ科ネコ属 スナネコ Sand cat
未確認生物 ツチノコ Tsuchinoko

 5話「こはん」
ネズミ目ビーバー科ビーバー属 アメリカビーバー American beaver
ネズミ目リス科プレーリードッグ属 オグロプレーリードッグ Black-tailed prairie dog

 6話「へいげん」
クジラ偶蹄目ウシ科ウシ属 オーロックス Aurochs 
クジラ偶蹄目ウシ科オリックス属 アラビアオリックス Arabian oryx
ネコ目ネコ科ヒョウ属 ライオン Lion
被甲目アルマジロ科オオアルマジロ属 オオアルマジロ Giant armadillo
クジラ偶蹄目シカ科ヘラジカ属 ヘラジカ Moose
ネズミ目ヤマアラシヤマアラシ属 アフリカタテガミヤマアラシ African porcupine
ウマ目サイ科シロサイ属シロサイ White rhinoceros
ペリカンハシビロコウハシビロコウハシビロコウ Shoebill
有隣目カメレオン科フサエカメレオン属パンサーカメレオン Panther chameleon
ネコ目クマ科クマ属ニホンツキノワグマ Japanese black bear

 7話「じゃぱりとしょかん」
フクロウ目フクロウ科コノハズク属 アフリカオオコノハズク Northern white-faced owl
フクロウ目フクロウ科ワシミミズク属 ワシミミズク Eurasian eagle owl

 8話「ぺぱぷらいぶ」
ネコ目ネコ科オセロット属マーゲイMargay
ペンギン目ペンギン科マカロニペンギン属 ロイヤルペンギン Royal penguin
ペンギン目ペンギン科マカロニペンギン属 イワトビペンギン Rockhopper penguin
ペンギン目ペンギン科アデリーペンギン属 ジェンツーペンギン Gentoo penguin
ペンギン目ペンギン科フンボルトペンギン属 フンボルトペンギン Humboldt penguin
ペンギン目ペンギン科コウテイペンギン属 コウテイペンギン Emperor penguin

 9話「ゆきやまちほー」
ネコ目イヌ科キツネ属 ギンギツネ Silver fox
ネコ目イヌ科キツネ属 キタキツネ Ezo red fox
ネズミ目カピバラカピバラ属 カピバラ Capybara

 10話「ろっじ」
キツツキ目キツツキ科ハシボソキツツキ属 アリツカゲラ Campo flicker
ネコ目イヌ科イヌ属 タイリクオオカミ Gray wolf
クジラ偶蹄目キリン科キリン属 アミメキリン Reticulated giraffe

 11話「せるりあん
サル目オナガザル科シシバナザル属 キンシコウ Golden snub-nosed monkey
ネコ目クマ科クマ属 ヒグマ Brown bear
ネコ目イヌ科リカオン属 リカオン African wild dog
ネコ目アライグマ科アライグマ属 アライグマ Common raccoon
ネコ目イヌ科キツネ属 フェネック Fennec



一方、黒字はそういうのはなかったり会話の中に出たりした種。それぞれ話数は次の通り。

  • 1話「さばんなちほー」……サバンナシマウマ・トムソンガゼル・ナマケモノ

 かの有名なサバンナシマウマさん。サーバルさんは「シマウマちゃん」としか言っていないがあのフレンズはサバンナシマウマさんというのが定説(?)。
 ナマケモノは「あなたもしかしてナマケモノのフレンズ?」から。けものフレンズアプリ版にも「ナマケモノ」という名前のフレンズがいるがプロフィールによると正確にはフタユビナマケモノ。そもそもナマケモノには絶滅した地上性の大型ナマケモノから派生した2つの系統(フタユビナマケモノ科・ミユビナマケモノ科)があってそれぞれ独立に樹上性に移行したようで、「ナマケモノ」は亜目レベルでの総称になっている。

  • 5話「こはん」……エナガ・ツカツクリ・ニワシドリ・カヤネズミ 

 ビーバーを乗せたあとボスがバス車内から紹介するときに巣が映される。カヤネズミはややあやしい。鳥類かも? そしてその次の巣が分からない。枝と葉を寄せ集めて作った巣のようだが……。
(2017-04-21追記)
 Twitter上でこの記事を読んでくださった@bluetittitさんからこの巣についてオランウータンのものではないかとのアドバイスをいただいた。検索してその画像を見ると、確かに彼らが寝床とする巣の作り方が作中で映ったものに近い。ちなみに巣を作ることは霊長目としては極めて珍しいことらしい。かばんさんが家についてビーバーさんと意気投合する場面が続くのはなかなか意味深。
 オランウータンを系統樹上に加えるならヒトのすぐ隣になる。ヒト科なので。さらに「オランウータン」と呼ばれるのはオランウータン属の現生2種、ボルネオオランウータンスマトラオランウータン。種名でないものは括弧でくくることにしているのでオランウータンもそうすることになる。なお、けものフレンズアプリ版にはボルネオオランウータンさんがいてCV.木村珠莉さんらしい。

  • 6話「へいげん」……ヒト

 あのざわつきを味わわせてくれたハシビロコウさんの発言から。たぶんホモ・サピエンスを意味しているとはいえ「ヒト」というと生物学的にはHomo属の絶滅種を含む。そのため括弧付き。

  • 1~6話OP……ヨーロッパビーバー

 厳密に言うとヨーロッパビーバーが出たとは言いにくいが、OPの「手をつないで大冒険」のところで丸太に手をかけているフレンズの姿はヨーロッパビーバーのそれである。公式のけもフレ図鑑参照。
 そもそもアニメ版のアメリカビーバーさんはアプリ版のアメリカビーバーさんとヨーロッパビーバーさんのハイブリッドのようなデザインに変わっているのでそのあたりの事情が影響しているかも。

  • 7話「じゃぱりとしょかん」……ラクダ

 迷路のクイズから。ラクダも属レベルでの総称になる。

 PPPの初回イベントに来ていた観客たち。この中にはアニメ配信サイトCrunchrollのマスコットキャラHimeも混ざっていた。

 動物の遺物とサンドスターが反応して生まれたフレンズの例としてマーゲイが口にしたのがジャイアントペンギン。放送後の吉崎観音先生のイラストにも描かれていた。

 ヤギはアミメキリンさんの「あなたは……ヤギね!」から。カラカルはボスの映す先代サーバルさんの言葉から。コミック版のカラカルさんを見ると泣いてしまう。

  • 12話「ゆうえんち」…アードウルフ・マイルカ

 アードウルフは1話からか。2人とも声はあるのにフレンズの姿を見せていない。

覚え書き
 作るときに気になった点などいくつか列挙。

  • サーバルの属名は「ネコ属」(Felis)とされているが公式サイトの「けもフレ図鑑」ではLeptailurus servalとされており一貫性がない。カラカル属とする説もあるらしい。Leptailurus属はサーバル1種を含み、由来についてはこういう話があったが定まった和訳がないためそのままにしておいた。

"Etymology Genus Leptailurus From two Greek words; leptaleos meaning "fine or delicate" and aiolos meaning "quick moving" (Brown 1956)"
ielc.libguides.com

  • 白文字紹介ではカバ・アクシスジカ・オカピは「偶蹄目」となっていたがアルパカ・スリ以降は「クジラ偶蹄目」になっている。クジラ類がカバに近いという発見により旧来の「偶蹄目」は側系統群(単一の祖先から分化した種の一部が欠けている分類群)となってしまったため改められ現在は「クジラ偶蹄目」が正式な分類になる。ブルーレイで修正されたらしいが哀れな第3版待ち群のため未確認。
  • そういう理由でマイルカが一番近いのはカバ。
  • 「オーストラリアデビル」(Australian devil?)は検索した限りではあまり用例が見られない。オーストラリア本島に生息していたタスマニアデビルの系統が化石として2種発見されていて、便宜的に「オーストラリアデビル」と呼んでいるのかもしれない。
  • アルパカ・スリは分類階級としては品種になると思われる。アプリ版にはアルパカ・ワカイヤさんもいる。両者は毛並みに違いがあり、スリがさらさらでワカイヤはもこもこらしい。
  • イワビーとプリンセスは同じマカロニペンギン属なので靴がピンクで目が赤で黄色い冠羽があるしそういえば性格もどこか通じるところがあってよいですねと思いながら8話を見よう。
  • アードウルフはイヌ科よりネコ科に近い。これは何度も言いたくなるやつだ。天王寺動物園にもハイエナがいたが展示パネルでネコに近いことが強調されていた記憶がある。一方ズーラシアではリカオンがハイエナの仲間ではないことが書かれていた。写真を撮っていたらある家族が「ハイエナの仲間かな?」と語りあいながらリカオンゾーンに近づいてきてお手本のような反応だと感心してしまった。
  • 「イワハイラックス」はケープハイラックス、あるいはロックハイラックスと同じ。動物園だと「ケープハイラックス」だった。このネズミのような獣が齧歯目ではなくゾウに近いというのもおもしろい。アフリカ獣上目はハイラックスやゾウのほか、ジュゴンやツチブタ、ハネジネズミ(ネズミではない)など「珍獣」と称される種を多く含む。
  • ナマケモノがサルよりアリクイに近いというのも誤解されがちのよう。「異節上目」は従来アリクイやナマケモノの他にセンザンコウなども含む「貧歯目」だったが、センザンコウは食肉目や奇蹄目に近いと判明したため貧歯目は廃止されたらしい。
  • アニメには両生類が出てこないためすべてのフレンズを含む最小の分類群は羊膜類(有羊膜類)になる? ようまくフレンズ。



(2017-04-23修正)
 けもフレ系統樹(3);食肉目(ネコ目)の系統についてまずい誤りをおかしてしまっていた。イヌ科がクマ科よりネコ科に近縁になるように線を引いてしまっていたのだ。イヌはアライグマよりネコに近いのかと誤解させてしまった方がいたらごめんなさい。既に画像は差し替えたが、実際にはこのようにネコ亜目とイヌ亜目は姉妹群の関係で、イヌ亜目はさらにイヌ科のみを含むイヌ下目とクマ科やイタチ科などを含むクマ下目とに分岐する。
 作成時に紙に下書きした図には正しく描かれていたので異なるソースの参照が原因ではないはず……。改めて調べても食肉目の系統についてイヌがネコよりクマに近いという点はほとんど一定していた。