モーメント3
既知理論の分析から「設計者の思想とユーモアのセンスを理解した」と主張する宇宙のシミュレーション仮説の過激な信奉者の一派が、仮説の強力な証拠になりうる「イースター・エッグ」を起動するため、自然には起こりえない複雑な手順で粒子を衝突させる巨大な装置を作り上げたが…。
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〈世界の淵〉を遡上して力尽き浜辺に打ち上げられたリヴァイアサン(外海を原産地とする大型海獣の総称)は「寄生虫の宝箱」と呼ばれ、漂着イベントごとに膨大な数に及ぶ新種の命名に関しては宿主・寄生部位等を符号化した体系的な命名法が提唱されている。
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皇帝の命を受け発見された全ての恒星に固有の文字を制定する造文局は、単一の変光星ではなく連星系であることが判明した結果、廃字となる一つの文字と同時に新たに追加される二つを公表した。
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開戦の兆しが見えた頃、海中油田の所有者達は鯨油採取のために品種改良された鯨の増産体制に移るとともに、かれらをただ燃料源として利用するだけではなく兵器――生体魚雷――に転用する方法を化学者に求めたが、研究の成果はあらゆる生体に"着火"するための汎用的な技術――人間爆弾の原型――であった。
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ちょうど虫が琥珀の中に閉じ込められるように、木目の中にパターンとして固定された「かれら」は材木として切り出され空気中に露出すると再活性化することがあり、天井裏や柱から住人を見つめている。
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今日も〈木目〉との接触のため相貌失認の担当外交官3名が〈木造建築物〉第11号に派遣された。
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サッカーは9対11で行うべき──最新のスポーツAIは驚きの結論を導いた。「公平性とはZ_2対称性そのものではありません。鍵は野球とサッカーの双対性にありました。」 翻訳者はそう話す。同AIは同時にクリケットは11対589で行うべきだとも主張しており、未知の競技「双対クリケット」の存在を予想している。
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蜜壺人(ミツツボヒト)カーストは平常時には余剰栄養源の備蓄役としてヒトコロニーを支えるが、「戦争」を意味する化学的シグナルを受け取ると溜め込んだ栄養を爆発性の物質に転換し自爆兵となる。
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生物農薬と表裏一体であった寄生蜂のアグリウェポン(農業兵器)化技術は、まずカカオTheobroma cacaoがその授粉を依存するForcipomyia属のヌカカを標的としチョコレートを滅ぼしたことによってその威力を世界に宣伝した。
(注釈)現実に、カカオが受粉するための唯一の方法は蚊の一種による花粉の媒介である。ミツバチのように家畜化されていないため、この状況の不安定性が指摘されて久しい。
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高収率GM農作物とセット販売される各種の昆虫や共生細菌のネットワークは農園という局所的生態系にきわめて強固な安定性を与えるようオーダーメイドで慎重にデザインされていたが、競合企業による兵器化された寄生蜂を用いたテロリズムのターゲットになるまでそう長くはかからなかった。
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〈復古主義的生物工学者〉たちの作成したゲノム編集ナノ粒子によってなされた日本中のソメイヨシノへの"日時計遺伝子"挿入手術より以前、桜前線は緯線と完璧に平行に走るものではなかった。
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TWITTERの最新のアップデートでは従来の"RT"(リツイート), "LIKE"(お気に入り)にくわえて"IGNITE"(炎上)ボタン(炎に包まれる人型のアイコン。十分集まると対象の肉体は発火する)が実装されたが、着火点に必要な人数に関しては基準が不透明で、今後の更新での改善が期待されている。
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通報のあった図書館の本は駆虫隊〈白菊〉(その名は除虫菊に由来)の到着時には既に九割以上が文字化けを起こしていた。「やられた」──〈紙製書籍絶滅主義の紙魚〉は紙面上の文字情報を食べた後、圧縮された情報を内包した結晶を排泄する。強制的な電子化である。
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花粉症問題の最終的解決のためいくつもの風媒花が"絶滅"させられた──"虫媒花化(entomophilization)"手術の実行は完全不妊化に難色を示した活動家を中心とする市民たちの意向を受けたものとされているが、実情は生物工学者たちが生態系への多大なリスクを孕んだ実験を行うために利用した口実に過ぎない。
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〈造園師〉──21世紀の花粉症患者団体にその起源を持つ──は、遠い過去に自分たちが風媒花を深く憎むようになった原因を忘れてもなお、植物とポリネーター(花粉媒介者)の蜜月関係を早期に実現させるべく、行く先々のハビタブル惑星上の進化に介入し続けていた……
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あまりにも人(ただし羽を持つ)に似た花、示唆される専属の花粉媒介者〈妖精〉の存在、彼らはどこに隠れているのか……
(注釈)ある種のランはハチにそっくりな形をした花をつける。交尾を目的に訪れたハチに花粉を運ばせるためである。
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"筏アリ"の分化は社会性というよりむしろ多細胞制の再発見である──"幹細胞"に相当する幼虫は未知のシグナル伝達経路によって巣の維持に最適なカーストに割り振られる──高度に専門化した"建材"カーストは骨格や循環器、比較的"伝統的な"形態の有翅の女王・雄蟻は配偶子に喩えられるだろう──
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温泉地や地下深部でアイス・ナイン全球凍結による大量絶滅を免れた高温耐性の微生物たちは、突如死の星となった地球を再び生命で満たすべく、高度に発達させた"不凍タンパク質"によってまずは海洋を"溶かす"ことに取り掛かった──
(注釈)「アイス・ナイン」はカート・ヴォネガット『猫のゆりかご』に登場する物質。通常の水分子からなるが、「相転移」の結果常温で凝固するようになり、しかも接触した通常の液体の水に「感染」する。つまり液体の水にアイス・ナインの欠片を落とすと全てこの新しいタイプの氷に変化させてしまう。
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ダヴ・デリバリーサービスでは商品の鳩肉が"自力で"注文者のもとまで飛んでいくが、現在は解体後に残るGPSモジュールを郵送で返却する必要があり、使い捨て可能な安価な生体部品で代用するための研究開発が進んでいる。
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「立つ鳥跡を濁さず」「来た時よりも美しく」を徹底的に実行する鳥がおり、新たにできた営巣地の周辺住民たちは鳥たちの不法占拠が続く間にやむをえず立ち退きを受け入れる。
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「一瞬だけ犬の形に見える」物体の配置(角度の加減で立て看板の脚が犬のそれに見えるように)にどんどん距離を詰められ、牙が見えた(ような気がした)ときにはあなたは既にその日の食事になっている。
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単系統だと思われていた「イヌ」が解剖学的知見の蓄積と分子系統解析によって2系統からなることが分かり、「最初のイヌ」に親しんだ初期の人類の目を欺いて生活に侵入してきた動物が「2番目のイヌ」だと判明し、「ネコ」と名付けられた日。
(注釈)ライ麦はもともと「雑草」だったが、小麦畑で紛れて「進化」した結果(括弧つきだが正真正銘の進化である)、現在の食用に耐える実を付けるようになった。もちろん現実のネコの由来とは反している。
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「被食者としての健全な文化」を希求する復古主義的エコテロリストが住宅地に放った、兵器化された大型ネコ科獣(高度な認知的迷彩能力を有する)は児童を中心に目覚しい成果を挙げ、我が国では肉食テングの絶滅以後空席となっていた「子攫い」の生態学的地位は再び占有された。
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黒い塊がぽろぽろとこぼれタールに濡れる口から宛先の住人へメッセージを伝え終えるとBCC人間は玄関口で崩れて炭の山を作り家主は慣れた調子で箒を取り出し遺灰掃除に取りかかる。
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新製品〈貴族化ブルーハワイ〉…このシロップをかけたカキ氷を食べるとあなたの血液にはカブトガニ(Tachypleus)由来のヘモシアニンを含む血球が即時に導入され全身の血液が青く染まります。舌を青く染めるだけでは物足りない方におすすめ。
(注釈)貴族を意味する"blue blood"という語がある。日光に当たらず肌がいつも白く、静脈が見えることから。
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〈事典〉には非停止性しりとり(現在は発話機能の強化を受けた参加者が専用に合成される長大な化合物の名称を下限速度で口述することで制御下にある)の過去の参加者が誤って「ん」に達したことで生成された約一万の事物が収録されており、〈ん狩り〉のチームは日夜その全ての動向に目を光らせている。
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光の強度を検出する桿体細胞は視野の中心より外側で密なため、まっすぐ見ない方が夜空の星はよく見える。〈煙猿〉から逃げるときはこのことを思い出せ。奴らは視野の隅でしかその姿を捉えられない。
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twilogを見ながら「そういうやつ」を集めた(一部改変)記事。2017年8月から。2年経った割には少なかった。なお「モーメント」はtweetをまとめることができるtwitter公式の機能である。